怠惰に過ごすために 2
早朝。と言うに早すぎる時間。
冷たい山水で顔を洗うも眠たそうな顔を隠せないままあくびをする青山さんとは別に早朝から朝食を用意してくれた飯田さんは昨夜のご飯の残りでおにぎりを握って車の中で食べることにすると言った。青山さんの眠たそうな顔をみれば納得するも味噌汁だけは作ってすすって体を温めていた。
これから車で三時間の旅となりそのまま仕事に突入というバイタリティには頭が下がる思いだ。青山さんは夜から仕事だと言って帰ったらも一眠りすると言う。空腹での移動は辛いだろうからと青山さんは寝ぼけながらもキノコ類とジャガイモの味噌汁を時間をかけてゆっくり食べる。勿論その間に飯田さんは畑でいくつもの野菜をもいでお土産にともって帰る準備をしていた。鹿のもも肉を手に持ち今日の賄いで出すつもりだとニコニコしていう。俺もその賄いに参加したい。口に出さなくても顔に出ていたのだろう。飯田さんはにっこりと笑い
「次回の時に作りますね」
料理できる男はモテると言うが納得するしかない気配りに俺は是非お願いしますと頭を下げる卑しい男だった。
荷物を車に詰め込んでいつもの通りの挨拶を交わせば久しぶりにしんと静まった静寂が耳に痛い。
日の出前なので鳥の鳴き声もなく、獣の気配もない久しぶりの一人きりという静けさは慣れたものだと思うも家の中に戻り、少し寒い室内に飯田さんがさっきまで使っていた竃に火を熾して暖をとる。
七月も終わりだと言うのに寒いなと思うのは昨日までが賑やかで、人の温もりが家の中を暖めてくれた証だろう。台所はすぐに暖まり、せっかくなのでそのまま食事を済ます。その頃には当たりも明るくなり、竃の火を落として畑へと赴くのだった。
昨日暇を持て余した烏骨鶏をかまいたい大工さんが廃材を持ち出して烏骨鶏の運動用のサークルを作ってくれた。高校生達に作らせたものからレベルアップして一本のヤマツツジを囲むように、そして水路脇の雑草達を取り囲んだサークルは小屋の壁を利用したかなりの広範囲を確保してあった。ただし、当たり前のように通路にしていた道が塞がれる結果に人間が不便を強いられることになったがそれ以上に烏骨鶏は不便を強いられていると烏骨鶏の人は皆さんに説得し、生まれ烏骨鶏の雛一羽を奥様に説得して連れて帰るのだった。
「オスだったらメスと交換するので連れてきてください」
「住宅街に住んでいるのでその時は是非ともお願いします」
申し訳ないと奥様は頭を下げてくれた。
「雪ちゃん男の子でも女の子でもずっと一緒だからね」
既につけられた名前に俺も奥さんも沈黙したが、まだひなの烏骨鶏は寒さに弱いものの下界に降りれば大丈夫だろうしむしろ熱い方が体力の消耗があるのでなるべく涼しい所で過ごすようにお願いしておいた。後食用でなければ獣医さんにかかるようにと奥様にお願いして連れていってくれたあの家族は子供が恵まれない家庭だと言うので存分に可愛がってもらえればと溺愛は想像できる環境をすこしだけほほえましくおもうのだった。
そんなサークルに烏骨鶏達を放牧する。久しぶりの囲いの狭い囲いの生活出はない様子に出ようかどうしようかと顔を出しては引っ込めたりするチキンぶりに悶えてしまう。だけど登り出した太陽を見て雄鶏達が一羽、また一羽とすがたをあらわして
「こっ、こけっ……」
まさかの不発。ここのところ勢い良い遠吠えをさせてあげれなかったのがよくなかったのか鳴き方を忘れたのか知らないが気持ち良い朝の一発が出ない。
そんな合間にも一羽出たことで勇気をもらったチキン達がまた一羽と小屋から出れば後はそれに続けと我先に外へと飛び出すのだった。
地面を突いて小石を拾い上げたり砂場も耕してくれていったので軽く地面をほじくれば姿を現した虫達に一斉に群がる。突いては振り回し、ちぎれて飛び散った部分に群がって奪い合い……
ちょっとしたホラーだよなとちぎれた破片が柵を飛び越えてくる前に俺は畑へと逃げるのだった。
高校生の世話をしている合間に成長しすぎた野菜を収穫しながら畑の状態を確認する。昨日一昨日で大量に消費した痕跡に苦笑。飯田さんは勿論小山さんも山口さんも料理に取り掛かる直前に野菜を取りに行っていた。畑にない野菜は台所の一角に山積みされていたりもしたが基本は畑にある野菜は取りに行くと言う、高山地帯なので酸素も薄く戻ってくる頃には息を切らしてすごい顔でハアハアと座り込むのだった。
標高千二百メートルを舐めるな。
株ごと抜いて凹っている場所を慣らし育ちすぎた作物は鳥の餌となり、食べごろだけはきれいなカゴに入れて俺のご飯となる。
さて、そろそろ内田さんが来る頃だからと畑から上がれば内田さんから着信があったようだ。慌ててかければ
「吉野の、悪いが急遽仕事が入って行けなくなった」
そんな連絡。
「いえ急遽ならそちらにいってください。明日も休みなのでそちらを優先してください」
「いや、ほんとすまない」
申し訳なさそうな声は浩太さんに変わる。
「綾人君すまない」
「いえ、突然なら仕方ありませんよ」
とは言え雪もなければ豪雨もなく、何が急に壊れる要素があるんだかと考えてみるも
「上島の親父が昨日の工事の様子を見てあれなら自分で直せると思ったらしく屋根に上がったら踏み抜いたんだとよ」
「う、上島さん大丈夫ですか?」
「ああ、彼奴なら屋根踏み抜いてそのまま二階の部屋に着地したよ。かすり傷もないさ。夫婦の部屋だったから奥さんそりゃあ怒ってな。思い切って屋根を張り替える事になったが知り合いの奴らはみんな仕事抱えてるから取り敢えず補修を済ませて職人が空いたら作業開始だ。まあ、うちの仕事は足場組む会社と連絡をして屋根職人にスケジュール調整の連絡して最初と最後のチェックをするだけだから、雪が降る前に終わると良いな」
ここは低い場所でも標高千百メートルはある場所だ。バアちゃん曰く二メートルは積もったとは言っていたが、それに近いぐらいは積もる事はバス通学で見てきたつもりだ。
「じゃあ次は土曜日に」
「ほんと申し訳ない」
「烏骨鶏達を運動させてますよ」
「はははっ、じゃあまた土曜に」
「上島さんにもお大事にって」
「はい。では」
そう言って通話が終了。
昨日はあれだけ人が溢れかえったのに今日はたった一人になった。
烏骨鶏の柵を取り払えば自由だと言わんばかりに大脱走。元気なもんだと見送れば何かおいしいものなーい?そんな顔で見上げる奴らの仕方がないなあと真っ二つに切っただけのきゅうりやズッキーニ、発育不良の西瓜を転がせば逃げ出した側から戻ってくる烏骨鶏の現金さに笑い声をあげるのだった。
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