2020年4月3日 仮面のバイク乗り登場の日
2020年4月3日
衣玖「みんな聞いて!! 私改造人間になったわ!」
みんなの住む家で。衣玖は興奮したようにそう言いながらリビングに飛び込んできた。
真凛「改造人間……? どういうことですか?」
衣玖「見てて……へーん、しん!!」
衣玖は真っ直ぐに両腕を伸ばし、ぐるりと回して不思議なポーズを取ると、腹部に装着したベルトのバックルが不思議な色に輝きだし即座に不思議な衣装を身にまとった。
留音「何やってんの?」
衣玖「変身するようになったの!! すごいでしょ!」
バイクに乗ったらとても似合いそうな、虫っぽいマスクと衣装を身にまとい、腰に手を当てて自分を大きく見せようとしている衣玖(136センチ)
真凛「はぁ……何か発明したんですかぁ?」
衣玖「違うのよ。実はさっき悪の秘密結社に捕まっちゃってね。私のIQがほしかったらしいんだけど、脳改造のすんでのところで逃げることに成功したの」
留音「大変だったなぁ~」
衣玖「そうなのよ! それでなんとか逃げる途中、もうピンチ! ってところでね、このベルトが輝いて変身しちゃったのよー!」
真凛「楽しそうですね~」
衣玖は頭だけ変身を解き、楽しそうな表情を作っている。
衣玖「だって変身ヒーローよ! これから日めくりの中で悪の秘密結社との戦いが始まっていくわけね……うーん楽しみっ……」
留音「(魔法少女か美少女戦士の方がいいなぁー……)」
と、そんなところでバタバタと音を立てながら西香が帰ってきたらしい。リビングの扉を開くなり騒がしく叫んだ。
西香「皆さん大変ですわ! 何か黒い変態たちがこの家を取り囲んでいます!!」
衣玖「……出たわね、秘密結社ジョーカー!」
衣玖は一度変身を解き、玄関から靴を履いて出ていった。
「キー! キー!」
怪人2号 ツナマヨマン「如月 衣玖……こんなところに逃げ込んでいたのかぁ……どこへ逃げても無駄だぞ、お前の身体には既にチップが埋め込まれている。我々ジョーカーから逃げ切る事はできないのだぁ!」
衣玖「くっ! ならばかかってくるが良い! ジョーカー! 私が全て倒してやるわ!」
その頃、家の中では真凛は食器を洗い、留音は頭の後ろで手を組みながらぼんやりそのやり取りを見ていた。西香は電話で「もしもし警察ですか?」なんて通報している。
ツナマヨマン「よし……行け、戦闘員共!!」
「キー! キー!」
衣玖「へーん、しん!! とーう!」
さっき変身したままでよかったじゃん。留音は無粋な事を思いつつも、しかしそれでは浪漫が無いことも知っている。
そして身長136センチ(角の部分を合わせれば全長140センチ)の仮面イクが多数の大人を前に不思議なポーズで相対する。戦闘員は容赦なく襲いかかるが、衣玖は駄々っ子パンチとサッカーボールキックで一人ずつ成敗する。衣玖の攻撃は当たるとかなり痛いらしいのはスーツのおかげだろう。
留音「おー頑張ってる頑張ってる」
留音は「頑張れ~」と応援しているのだが、真凛は食器洗いの手を止めて不安そうに入り乱れて戦う外の連中を見ていた。なんせ衣玖の攻撃に大の大人が軽くふっとばされたりしているのだ。もし窓なんかに当たったら……と内心ハラハラしているらしい。
衣玖「フッ! ハッ! 食らえ! とう!!」
掛け声だけは立派だが炸裂するのは手をがむしゃらに振り回す駄々っ子パンチである
ツナマヨマン「おのれぇ……マヨネーズビーム!!!」
戦闘員がやられていくのに焦れたツナマヨマンが不意打ちの攻撃を放つ。それを衣玖は激しいカメラワークを伴うジャンプで回避をした。これがテレビだったら数メートルは飛んだように見えるだろうが、実際はうさぎ程度のジャンプなのだ。
それを見ていた真凛が「えっ! マヨネーズ!?」と、いよいよキッチンを離れると、窓を開けて怪人にコンタクトを取ろうと歩み寄った。
真凛「あのぅ、怪人さん、あなたマヨネーズの怪人なんですかぁ?」
ツナマヨマン「そうだ。俺は130円もするお高いツナマヨおにぎりのビニールに付着した油分から作られた怪人だぁ!」
留音「怪人ってそういうところから発生するのか~……」
衣玖「真凛! 危険よ! 下がりなさい!」
しかし衣玖の忠告を聞かない真凛は、少しワクワクしたように「マヨネーズたくさん出せるんですかぁっ?!」と訊ねている。
ツナマヨマン「そのとおり。俺はお高いツナマヨおにぎりに使われているお高くないマヨネーズをいくらでも生成する能力を持っている……こんなふうになぁ!!(ビュッ!!)」
マヨネーズは真凛をめがけて発射された! しかし真凛はそれを避けた。窓から入り込んだマヨネーズは、そのままフローリングの床に付着した! これはやばい。誰もがそう思った。西香はまだ電話している。「ですから! 本当にマヨネーズの怪人が現れて黒い変態の集団をッ……」
真凛「……」
部屋を汚されたのだ。これはもう終わったと誰もが思った。だが。
真凛「そう! それを待ってました~☆ あのマヨネーズ生産マンさん、実はちょっとマヨネーズを撒いてほしいところがあって……!」
ツナマヨマン「な、なぁにぃ……!?」
留音「なんか予想と違う展開なんだけど……突然何言ってんだ真凛……?」
真凛「あのですね! 実はマヨネーズってフローリングのシミ汚れに最適なんです! でも試すのはちょっと気が引けて……でも丁度いい人が出てきてくれたので、やってみたいなーって!」
衣玖「掃除したかったのね……」
ツナマヨマン「むむむ……俺を舐めるんじゃない! 食らえマヨビームショットガン!!」
しかしツナマヨマンは真凛の期待を裏切り、更なるマヨビームを繰り出してきたのだ。しかもちょちょぎれの、どこに飛ぶかわからない「びょボッ!!」という感じのマヨの出方である。つまり避けようがないのだ。真凛は顔に、服に、マヨネーズをかけられてしまった。
真凛「ちょッ……」
留音「(あ……)」
衣玖「あっ」
ツナマヨマン「どうだ!! しつこい油汚れだぞ! 服についたらしみるぞぉ!!」
この後の展開は真凛が破壊の能力で即座にツナマヨマンを世から抹消し、戦闘員全て完全に戦意喪失させるサイコパス展開が繰り広げられた。そして決着後。
真凛「わたしもね? どうしても衣玖さんが戦いたいっていうなら、それは尊重したいと思います。でもそれだったら最初から留音さんに頼んじゃえばいいじゃないですか」
説教モードである。
衣玖「で、でも、たまには私も戦う事したいなって……せっかく改造人間なったから……」
真凛「それもおかしな話です。自分で改造したほうがもっと強くなりますよね? だいたい衣玖さん、変身する意味あります? そりゃあ多少は強くなってるのは見ましたけど」
衣玖「でも、こうやってポーズ決めるのがかっこいいし……」
真凛「でも自分の作った道具で戦ったほうがいいんじゃないですか?そうですよね?」
衣玖「それだと戦いが二秒とかで終わっちゃう……」
真凛「うーん……でもあんまりふざけてると、わたしもちょっと世界のほうが先に終わらせたくなっちゃう可能性もありますし。今日みたいにお洋服が汚れたりすると」
衣玖「そっかぁ……」
留音「(静かに何度かうなずく)」
真凛「こういう事が無ければ良いんですよ? わたしだって衣玖さんの楽しいことを奪いたいわけじゃないですから」
衣玖「うん……わかったぁ……考えとく……」
今日は仮面のライダーが初登場した日。




