2020年3月23日 不眠の日 ~まだ寝かせないよ~ アンジー編
2020年3月23日
眠れない。持て余したあなたは駄目だ駄目だと思いつつもスマホに手を伸ばす。
スマホは眠れない夜にして禁断のアイテムである。まず間違いなく眠気が覚めてしまう。光で頭が刺激されるし、面白い情報を見つけたら釘付けになってしまうし、動画を見だしたらまとめて時間が取られてしまう。
だから先に決めておこう、ほんの10分だけだ……それだけ見たら眠る努力を再開しよう。あなたはそう決めてスマホを開く。
巡回しているサイトを覗いて3分。SNSを覗いて7分。明日の天気は? 気温は? そのタイミングでメッセージが届いた。
あなたはブラウジングの最中に出た通知に反応して即座にタップを行う。誰だかわからない相手からのメッセージを開き、すぐに「既読」をつけてしまった。
誰からの、なんというメッセージだったのか。あなたは名前とメッセージを確認した。
アンジー『ねむれなーい』
はぁ。あなたは小さなため息をついた。友人からのとりとめのない一言だ。こんなの放置して明日の返事でもいい気がするが、既読をつけた以上何か返しておかなければならない気もする。
あなたはなんて返そうか考えあぐねていると。
アンジー『あ、起きてた。眠れないの?』
先に既読表示に気づかれてしまったらしい。仕方ない、もう寝る予定だったがどうにもまだ眠れる気がしないし、ここは友人と話すのもいいか、なんて考えた。
だからあなたはそのまま、『眠れる気がしない』と返した。
このスマホの向こうにいるのはアンジー。あなたの友達で小柄な男の子だ。学校では一緒にいる時間が長い。元気が良くてみんなから可愛がられているタイプの子である。
そんな彼、アンジーの秘密をあなただけは知っている。
実は彼、とんでもない女装スキルを持っているのだ。並の女の子よりもずっと可愛いし、小さい背丈、男とは思えない可憐な声で変装時にそれが女装だと騙されない人間はいないだろう。
アンジー『ボクも眠れないんだぁ。眠れるまでお話しよー』
……アンジーはこういうところも可愛がられるポイントなのかもしれない。だがあなたは特に話題がない。そのまま『話題が無い』というような事を伝えると、少しだけ間をおいてメッセージが届く。……画像ファイルだった。
あなたのスマホがその画像を読み込む間の短い時間にアンジーから文字も届く。『可愛い?』
そこで表示された画像は、アンジーが指先まで隠れる袖の長いパジャマで控えめにピースをして首を傾げている画像だった。とても可愛らしい、いわゆるあざとい写真なのだが、中身は男である。あなたは無意識に何かを抑えつけるような気持ちを覚えた。
アンジー『コメントちょうだいよぉ』
あなたは『あざとい』とだけ返した。それからまた少し間が空いて、今度もまたメッセージと画像が届く。
アンジー『きゃるるん♡』
次に届いたのは長い髪の女の子が人差し指をぷくっと小さく膨らませた頬に優しく押し当てている画像だ。あざとすぎる。彼は男の子なのだが、ウィッグまでつけるといよいよ彼が本当に男なのか自信が無くなってくる。
アンジー『もう~! コメントはぁー?』
あなたは『寝る気あるのか』というような事を返した。
アンジー『そうじゃないでしょっ。そんなんじゃモテないぞぉ♡』
おちょくられている気がした。もういい、放っておいて寝よう。あなたはスマホを置いて目を瞑る。
目を閉じてからもう5分か10分は経っただろうか、なんて考えるくらい意識して目を開けなかったのだが、実際はほんの1分程度で気になってスマホを片目で確認すると、メッセージの通知が点滅していた。
仕方ない。あなたは観念して再びメッセージを確認すると、やっぱりアンジーから画像が届いている。
アンジー『新しいお洋服☆ 春用だよ~♡』
スカート姿の全身を、大きな鏡を使って写していたのだ。トップスはオフショルダーで大胆に肩を出して、可愛いスカートは膝上まで。そこから下は目を奪われる白くて細い足が伸びている。あなたは知らず、生唾を飲み込んだ。
アンジー『可愛いでしょー?』
あなたは震える手で、なんと返したら良いのかわからずだったが『あざとすぎる』という言葉に続いて、『他の男に』まで入力していた文章を急いで消した。アンジーは男友達だ。いくら一緒にいる時間が長いとは言え、何を書こうとしてるんだか。
結局『あざとすぎる』という一文を送る。すると今度はもっと短いスパンで新しい画像が届いた。
そこにはオフショルダーをもっと下にずらし、そのひらひらのスカートを下着が写りそうなギリギリの高さまで持ち上げて写っているアンジーの画像が届いたのだ。
アンジー『どう? ときめいた?』
正直、あなたはかなりときめいた。もう眠るどころじゃない。『眠るどころか目が覚めた』とそのままメッセージにした。
するとアンジーから電話がかかってきたのだ。やっほー、と夜が遅いからなのか家族を気遣うような、やや控えめな音量で喋り始めた。
アンジー『えへー、もしかして興奮しちゃったー? じゃあ今度この姿でデートしてあげるね♡』
女の子の声でそう言われるとどう反応して良いのかわからない。それから二人で眠れない時間を過ごしたが、アンジーはそろそろ眠くなってきたと言って電話を切った。もう寝たかった時間から2時間は過ぎている。
不眠の日、男の相手で眠れなくなるなど勘弁してほしいものだ。だが不思議な充実感に包まれていた。




