2020年3月14日 ホワイトデーはお返しの日
2020年3月14日
衣玖「ルー! 今日も記念日が悲鳴をあげて……っ」
なんだかここ数日毎日このテンションである。そう、今日はホワイトデー。今日もまたお菓子の詰まった日。解放者が登場するにはうってつけの日であった、のだが。
留音「あーごめんごめん、今はちょっとそういうのアレな。ちょっと今日は忙しいんだよ。はーいそがしいそがし」
衣玖「……そんな事言わないで! 今日も記念日がピンチなのよっ?」
解放者ごっこしようよ。みたいな感じでシリアステンションを続ける衣玖だったが。
留音「っとにもう今日はさ……あぁそうだ、衣玖にもあったんだよ。あれ、なかったっけ? まぁいいや、これな」
そう言って留音は衣玖に小包を一つ渡した。衣玖はテンションをやや控えめにしてそれを受け取った。
衣玖「……なにこれ?」
留音「ホワイトデーだよ。はぁ、あと何人に返せばいいんだ……?」
衣玖「何人くらいからもらったの?」
留音「わからん。街で会った後輩やら店の子やらからももらってるし。毎年毎年大変なんだよ……くぅ……」
留音はバッグに大量のお菓子を詰め終わり、これからみんなにそれを返しに行くようだ。
衣玖「パイ、マシュマロに飴……取り揃えたわね。でも今日みたいな日を解放すれば良いんじゃないの?」
留音「いや、だってもらったもんだしちゃんと返しておきたいし。せっかくだからさ」
衣玖「あぁそう……私はルーの用意してないんだけど……」
留音「あたしの分の? あぁいいよいいよ、食べるのも大変だし、って一緒に作ったんだったな。それに返すのはあたしの自己満だ」
衣玖「律儀ね……いってらっしゃい」
というわけで留音はホワイトデーの返礼に旅立っていった。なかなかにマメで律儀なのだ。実はまだバレンタインに貰った分のお菓子を全て食べきっていない。
尚、真凛とあの子は買い物がてら大量のお返しを貰っており、西香はお返し(最低で3倍したもの)の回収の旅に出ている。
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ミニーズ宅。呼び鈴が鳴らされ、聖美らが覗くとそこには留音がいた。おっすと挨拶する留音にイリスが「勝負に来たか留音!」なんて反応している。
留音「ほら、ホワイトデーのお返しに来たぞ。ついでだけど」
そう言って三人にちょいちょいちょいと小包を渡した。
聖美「わーっ、ありがとう~! 実は私達も用意してたんだけど……」
イリス「この国の文化だと言うから仕方なくね!」
アンジー「でも荷物いっぱいだ。それ全部お返し用?」
留音「そう。毎年大変なんだよ、ありがたいけどさぁ」
聖美「留音ちゃんかっこいいからね。私達の分は後で皆の家に渡しに行くから、今はこれだけ受け取っておくねっ」
イリス「ふん……仕方ないから食べてあげるわよ」
留音「んじゃ、あたしは返礼の旅に出るから。またなー」
もりもりのバッグを手に、留音はどこかへと消えていった。これから商店街を回ったり、見知った友人、後輩などにホワイトデーのお返しをしに行くようだ。
アンジー「大変だね~……。っと、それとは別にボクもみんなにお返しがあるんだぁ」
部屋に戻る三人。アンジーはゴソゴソとバッグを漁りながら言った。
聖美「え? 別にいいのに。みんなで作って、みんなで食べるものだもん」
アンジー「うん。でもほら、お菓子のやり取りだけでしょ? 記念日的にはお花もいいんだってあったから」
バッグから取り出したのは可愛らしい長くて小さな小瓶だった。密封された中にはカラフルな花が詰められている。
聖美「可愛いねーっ。なぁにこれ?」
アンジー「ハーバリウムっていうんだ。オイル漬けにしたお花」
イリス「素敵ね。でもアンジー、あたしたちは何も用意してないのよ。アンジーだけこんなに用意してもらっちゃって……なんだか悪いわ」
アンジー「いいのいいの。ボクは3倍返し~」
何故なら男の娘だから。アンジーも律儀だ。
聖美「3倍返しって、アンジーちゃんってたまに男の子みたいだよねっ」
アンジー「えへ♡」
イリス「……お返しか。でもこの手のものだったら即席でなんとかなるかも。そうね、デザインは凝れないけど……」
そう言ってイリスは目を瞑り、空中を撫でるように手を動かした。すると空中で何か繊維のような物が出来上がっていく。その一部が先程のハーバリウムに巻き付くと、蓋の辺りにリボンのように巻き付いた。色はグレーでやや質素だ。
イリス「色素が無いわね。仕方ない」
続いてイリスは自分の服の赤い部分に意識を集中し、それを移し替えるようにその繊維に移行させる。リボンはピンク色を帯びていった。続いて空中にある繊維はより固くなっていき、それもピンクを帯びたながら形を長細いものに変えていく。
イリス「はいアンジー。お返し。ヘアピンだけど、魔法で作ったヘアピンよ」
空気から作り出したカーボンのヘアピンだ。普通じゃ作れない一品物である。
アンジー「わ、わー! いいの?」
イリス「素敵なお花を貰ったからね。髪留めにでも使って」
アンジー「ありがとー! かわいいー!」
ふふんと満足そうなイリスに、聖美はすこしキョロキョロしている。
聖美「どうしよう……私も何か……」
イリスがお返しをしたのですこし焦っているようだ。イリスは相談すべきだったかとすこし反省していると。
聖美「あっ! じゃあ秘蔵のアレでも渡そうっかな……」
聖美は机の引き出しの鍵のかかった棚を開けると、その中から「どれどれ」となにかを探し、そこから数枚の紙を取り出し、再び鍵を閉めた。
聖美「はい! 五人少女ちゃんたちのチェキ!」
置かれたのは五人少女たちの写真そのものである。しかも全てカメラに目線が向いていない。
アンジー「聖美ちゃん……?」
イリス「いつの間に撮ってたの、聖美」
聖美「うーん、忘れちゃった。でも相手を知ることで私達の戦い方も見えてくるのかなって、参考になればいいなーって撮っといたの。コレお返しでも良い?」
良いかと聞かれたら悪いのだが、アンジーはイリスの様子を伺って黙っていた。
イリス「む、留音のもあるのね」
聖美「うん、体幹のバランスとかも見られるよ。じゃあイリスちゃんには留音ちゃんの写真あげるね」
アンジー的には明らかに盗撮なのだが、聖美の言葉は至って自然だった。本当に「正しい身体の作り方の参考に」と言わんばかりである。
イリス「え、い、いらないけど……仕方ない……」
アンジーは「そこで受け取っちゃうんだ……」と考えたが。
アンジー「あの、あの子の写真もあるの……?」
聖美「あぁー……撮りたかったんだけどね、どうしても光輪や虹が写り込んじゃってちゃんと撮れないんだぁ……ごめんねアンジーちゃん」
その代わりに前にズズっと出されたのが。
聖美「ほら、西香ちゃんの写真はあるよ。とっても可愛いでしょ? お姫様みたいに撮れたんだ。これアンジーちゃんにあげるね」
優雅にティーカップを口に運ぶ、あまりにも美少女な西香が写っている。喋らないと本当に可愛らしいのである。
アンジー「あっ……ありがとう……?」
これでいいのだろうか。今日はお返しが飛び交うホワイトデー。




