表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/414

2020年3月8日 雅の日

2020年3月8日


 地球外からの侵略者、襲来。地球の平和は今まさに脅かされている。


 第一陣に立ったのはミニーズだった。イリスは特大の魔法を持ってその巨大な何かに戦いを挑む。しかしどんな大魔法を持ってしても、その巨大な侵略者はすこしの衝撃すら受ける事無く侵略を続けた。


イリス「どうして……隕石(メテオ)落としまで決めたって言うのに……」


 あまりにも強大な人類の敵。手も足も顔も無い。ただ全てを食い尽くすかのごとく、地球の地図を変えていく。


 ミニーズの戦闘員はイリス一人だけである。聖美(きよみ)が変顔を作ろうと、顔の概念のないそれはただの一瞬だって笑うことなどありえない。アンジーなど道端の石ころどころか、砂の礫も同然である。だがアンジーだけが「まるでブラックホールだ」と、その敵の正体に核心を突いていた。


 ブラックホールの小さな化身、ダークシャドウ。それこそその何かの個体名である。その体そのものがシュヴァルツシルト面となっており、触れた全てを極限圧縮し吸い付くすのだ。


 それに対抗出来るのはそう、五人少女だけである。彼女たちは自宅のリビングにて、真面目な表情で作戦会議を行っていた。


留音(るね)「やるしかないんだな……」


 留音(るね)は真剣な面持ちで一同を、特に提案者の衣玖(いく)を見て言った。


衣玖(いく)「えぇ。日めくりのために」

 

 問いかけに深く頷く衣玖(いく)。彼女も覚悟を決めたような表情である。


西香(さいか)「わたくしは関係ありませんわね。いつものことですから」


真凛(まりん)「でも難しそうですよね……雅って」


 彼女たちはそう、こんな時にも関わらず今日の日めくりを実行しようとしていたのである。


留音(るね)「なー、あたしは自信ないよ雅なんて。やんごとなき、みたいなことなんだろ?」


西香(さいか)「まぁそうでしょうね。ガサツな留音(るね)さんには難しいでしょう。でもわたくしが近くに居てよかったですわ。わたくしを参考になさればいいのです」


衣玖(いく)「私達最近可愛い日めくりやってないでしょ。ここらで一発お上品で清楚なところを見せおかなきゃ。雅の日なんてもってこいなのよ。タダでさえ3の付く記念日ばかりでミニーズの負担が大きくなっちゃうんだから」


真凛(まりん)「雅、雅……うんと、がんばりますえ~……?」


西香(さいか)「は? なんですのその喋り方」


真凛(まりん)「だ、だってぇ! 雅ってなんだかわからないんですもん~! 京都っぽいのかなって……」


 同時に外では阿鼻叫喚の図が広がっている。ミニーズは避難活動を手伝うので精一杯だ。だが五人少女の家では。


留音(るね)「あぁ~京都かぁ。あたい、あて……いや、京都弁知らなかった。おほほほ、お恥ずかしいったらありゃしない……ですの!」


衣玖(いく)「ですの?」


留音(るね)「そうですの! これってお嬢様っぽい喋り方ですの? ……巻き髪してる良家のお嬢様っぽい喋り方ですの!」


衣玖(いく)「うーん……雅ではない気がするけど……」


留音(るね)「でも普段よりお上品な感じがしますの!」


西香(さいか)「まぁ普段よりはマシなのではないでしょうか。とはいえですわ。普段から上品で物腰の柔らかいわたくしこそ、まさに雅な美少女なのですけどね」


真凛(まりん)衣玖(いく)はんは何や雅やかな事はしないんどす?」


衣玖(いく)西香(さいか)じゃないけど、こればかりは自信あるからね。一番雅なのは私」


留音(るね)「あいやーッめずらしいですの! 衣玖(いく)がそんなに自信満々になるなんてっすの!」


真凛(まりん)留音(るね)はん、なんや口調が定まっとりまへんなぁ」


西香(さいか)「見苦しいですわね。それで衣玖(いく)さんは自信がおありのようですが」


衣玖(いく)「まぁ見せてあげるわ、私がどれだけ雅なのかを。だってほら、見て外。あれ、ブラックホールの化身、ダークシャドウ」


真凛(まりん)「何やけったいなのが見えとりますなぁ」


留音(るね)「ぶっ飛ばっすの!?」


西香(さいか)「ぶふっ……なんですの、ばっすのって……」


衣玖(いく)「あんなのがいても私は焦らないしね。雅というのは心の余裕も含まれているから」


 その間に街はどんどん虚空へと飲み込まれてしまっている。


衣玖(いく)「ほら、大変。街がどんどん壊れていってる。でも動じないわよ。雅だから」


留音(るね)「それはもはや心が死んでる感じになんじゃないんですますの?!」


衣玖(いく)「大丈夫。奥ゆかしい上に細かな気遣いも出来るから壊れた街とかも匿名で一瞬にして復元していくの。雅でしょ」


 衣玖(いく)は既に照射して物を作れる3Dプリンタ機能を持ったドローンを大量に発進させて街の復元に当てている。超高層ビルも2秒で元通りだ。


真凛(まりん)「雅やろかぁ……? はようダークシャドウはん消したほうがええんとちゃいます?」


衣玖(いく)「確かに。こうやって助言を受け入れるのは柔軟な思考の持ち主ということ。やっぱり私が一番雅ね。はい、反物質対消滅ビーム照射、さよならダークシャドウ。それで今回は誰が一番雅だったかという選考に移っていきたいところなんだけど」


留音(るね)「いやーもう今回はあたし無理だったよ。他の人に譲る」


真凛(まりん)「私は結構頑張ったと思うんですけどぉ……京都弁出来たかなぁ。雅でしたよねぇ?」


西香(さいか)「普通に考えてわたくしでしょう。雅さというのは見た目の美しさもありますから。おちびでちんちくりんの衣玖(いく)さんとわたくしを御覧なさいな。ほら、やっぱりわたくしですわ」


衣玖(いく)「そうね。じゃあ西香(さいか)に譲るしかなさそう。はい譲った奥ゆかしい。雅ポイント上昇」


留音(るね)「うーむ、これは今までに無い戦いになりそうだ」


真凛(まりん)「正直に言うと、衣玖(いく)さんがこれほどまでに雅さを武器に戦えるとは思いませんでしたよぉ」


衣玖(いく)「ちなみに、雅さは日本の概念。私は西香(さいか)よりも和装が似合うわよ」


留音(るね)「ちっこいもんな……」


 留音(るね)衣玖(いく)の胸部をちらりと見やりながら言った。


西香(さいか)「そこは確かにと衣玖(いく)さんの子供の身体つきを肯定してあげましょう。しかしわたくしの優雅な気品、この上品な口調からも、まさに雅の体現者であるのは間違いありませんわ」


衣玖(いく)「あら、それだったら私も上品でしょ。気取らない、毅然として芯の通った言葉」


留音(るね)「大変な戦いだぞこれは。あたしにもどっちが勝つか見えてこない」


真凛(まりん)「ここはもうダントツ一番雅なあの子にジャッジしてもらうしかありませんかねぇ~」


あの子「;;(∩´~`∩);;」


――――――――――


アンジー「消えた……勝ったんだ……すごいよイリスちゃん! あんな怪物を倒してしまうなんて!」


イリス「……わからない。守護霊の召喚魔法も結局飲み込まれるだけだったのに……どうして消えたの……?」


聖美(きよみ)「わからなくてもいいよ! 世界に平和が戻ったんだもん! きっとイリスちゃんの魔法がじわじわ効いてて……私達、五人少女ちゃんたちがいなくても勝ったんだよっ!」


イリス「うん……でも、どうも手応えが無くて。最後に一瞬、まばゆい閃光が一瞬見えたような気がしたの。それと同時にあのバケモノの体が霧散したように見えた……あれはなんだったのかしら……」


アンジー「なんでもいいよ。とにかく勝てたんだもん……大変な戦いだったね……」


 ミニーズ大勝利。その上知らぬ間に街は復元され、シュバルツシルトに取り込まれた人間たちも圧縮から解放されて元通りになっていく。何もかも元に戻っていく世界に人々は悪い夢でも見ていたかのような気分を味わうのだった。


 そしてまた人々は日常に戻っていく。その裏では雅なる者を決める大きな戦いが巻き起こっている事も知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  あんなに引っ張ったダークシャドウを、別の話題の台詞中の一行でさよならしてしまうとは、衣玖ちゃんすごい。おおふじさんの構成力すごい。 [一言]  今回は京都弁をがんばる真凛ちゃんが可愛かっ…
[一言] うん。イリスちゃん、頑張ったよ。 もともと五人少女は規格外だし。 一番大変なのは、衣玖ちゃんと西香ちゃんのどっちが雅か決めなければならない、あの子。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ