2020年3月8日 雅の日
2020年3月8日
地球外からの侵略者、襲来。地球の平和は今まさに脅かされている。
第一陣に立ったのはミニーズだった。イリスは特大の魔法を持ってその巨大な何かに戦いを挑む。しかしどんな大魔法を持ってしても、その巨大な侵略者はすこしの衝撃すら受ける事無く侵略を続けた。
イリス「どうして……隕石落としまで決めたって言うのに……」
あまりにも強大な人類の敵。手も足も顔も無い。ただ全てを食い尽くすかのごとく、地球の地図を変えていく。
ミニーズの戦闘員はイリス一人だけである。聖美が変顔を作ろうと、顔の概念のないそれはただの一瞬だって笑うことなどありえない。アンジーなど道端の石ころどころか、砂の礫も同然である。だがアンジーだけが「まるでブラックホールだ」と、その敵の正体に核心を突いていた。
ブラックホールの小さな化身、ダークシャドウ。それこそその何かの個体名である。その体そのものがシュヴァルツシルト面となっており、触れた全てを極限圧縮し吸い付くすのだ。
それに対抗出来るのはそう、五人少女だけである。彼女たちは自宅のリビングにて、真面目な表情で作戦会議を行っていた。
留音「やるしかないんだな……」
留音は真剣な面持ちで一同を、特に提案者の衣玖を見て言った。
衣玖「えぇ。日めくりのために」
問いかけに深く頷く衣玖。彼女も覚悟を決めたような表情である。
西香「わたくしは関係ありませんわね。いつものことですから」
真凛「でも難しそうですよね……雅って」
彼女たちはそう、こんな時にも関わらず今日の日めくりを実行しようとしていたのである。
留音「なー、あたしは自信ないよ雅なんて。やんごとなき、みたいなことなんだろ?」
西香「まぁそうでしょうね。ガサツな留音さんには難しいでしょう。でもわたくしが近くに居てよかったですわ。わたくしを参考になさればいいのです」
衣玖「私達最近可愛い日めくりやってないでしょ。ここらで一発お上品で清楚なところを見せおかなきゃ。雅の日なんてもってこいなのよ。タダでさえ3の付く記念日ばかりでミニーズの負担が大きくなっちゃうんだから」
真凛「雅、雅……うんと、がんばりますえ~……?」
西香「は? なんですのその喋り方」
真凛「だ、だってぇ! 雅ってなんだかわからないんですもん~! 京都っぽいのかなって……」
同時に外では阿鼻叫喚の図が広がっている。ミニーズは避難活動を手伝うので精一杯だ。だが五人少女の家では。
留音「あぁ~京都かぁ。あたい、あて……いや、京都弁知らなかった。おほほほ、お恥ずかしいったらありゃしない……ですの!」
衣玖「ですの?」
留音「そうですの! これってお嬢様っぽい喋り方ですの? ……巻き髪してる良家のお嬢様っぽい喋り方ですの!」
衣玖「うーん……雅ではない気がするけど……」
留音「でも普段よりお上品な感じがしますの!」
西香「まぁ普段よりはマシなのではないでしょうか。とはいえですわ。普段から上品で物腰の柔らかいわたくしこそ、まさに雅な美少女なのですけどね」
真凛「衣玖はんは何や雅やかな事はしないんどす?」
衣玖「西香じゃないけど、こればかりは自信あるからね。一番雅なのは私」
留音「あいやーッめずらしいですの! 衣玖がそんなに自信満々になるなんてっすの!」
真凛「留音はん、なんや口調が定まっとりまへんなぁ」
西香「見苦しいですわね。それで衣玖さんは自信がおありのようですが」
衣玖「まぁ見せてあげるわ、私がどれだけ雅なのかを。だってほら、見て外。あれ、ブラックホールの化身、ダークシャドウ」
真凛「何やけったいなのが見えとりますなぁ」
留音「ぶっ飛ばっすの!?」
西香「ぶふっ……なんですの、ばっすのって……」
衣玖「あんなのがいても私は焦らないしね。雅というのは心の余裕も含まれているから」
その間に街はどんどん虚空へと飲み込まれてしまっている。
衣玖「ほら、大変。街がどんどん壊れていってる。でも動じないわよ。雅だから」
留音「それはもはや心が死んでる感じになんじゃないんですますの?!」
衣玖「大丈夫。奥ゆかしい上に細かな気遣いも出来るから壊れた街とかも匿名で一瞬にして復元していくの。雅でしょ」
衣玖は既に照射して物を作れる3Dプリンタ機能を持ったドローンを大量に発進させて街の復元に当てている。超高層ビルも2秒で元通りだ。
真凛「雅やろかぁ……? はようダークシャドウはん消したほうがええんとちゃいます?」
衣玖「確かに。こうやって助言を受け入れるのは柔軟な思考の持ち主ということ。やっぱり私が一番雅ね。はい、反物質対消滅ビーム照射、さよならダークシャドウ。それで今回は誰が一番雅だったかという選考に移っていきたいところなんだけど」
留音「いやーもう今回はあたし無理だったよ。他の人に譲る」
真凛「私は結構頑張ったと思うんですけどぉ……京都弁出来たかなぁ。雅でしたよねぇ?」
西香「普通に考えてわたくしでしょう。雅さというのは見た目の美しさもありますから。おちびでちんちくりんの衣玖さんとわたくしを御覧なさいな。ほら、やっぱりわたくしですわ」
衣玖「そうね。じゃあ西香に譲るしかなさそう。はい譲った奥ゆかしい。雅ポイント上昇」
留音「うーむ、これは今までに無い戦いになりそうだ」
真凛「正直に言うと、衣玖さんがこれほどまでに雅さを武器に戦えるとは思いませんでしたよぉ」
衣玖「ちなみに、雅さは日本の概念。私は西香よりも和装が似合うわよ」
留音「ちっこいもんな……」
留音は衣玖の胸部をちらりと見やりながら言った。
西香「そこは確かにと衣玖さんの子供の身体つきを肯定してあげましょう。しかしわたくしの優雅な気品、この上品な口調からも、まさに雅の体現者であるのは間違いありませんわ」
衣玖「あら、それだったら私も上品でしょ。気取らない、毅然として芯の通った言葉」
留音「大変な戦いだぞこれは。あたしにもどっちが勝つか見えてこない」
真凛「ここはもうダントツ一番雅なあの子にジャッジしてもらうしかありませんかねぇ~」
あの子「;;(∩´~`∩);;」
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アンジー「消えた……勝ったんだ……すごいよイリスちゃん! あんな怪物を倒してしまうなんて!」
イリス「……わからない。守護霊の召喚魔法も結局飲み込まれるだけだったのに……どうして消えたの……?」
聖美「わからなくてもいいよ! 世界に平和が戻ったんだもん! きっとイリスちゃんの魔法がじわじわ効いてて……私達、五人少女ちゃんたちがいなくても勝ったんだよっ!」
イリス「うん……でも、どうも手応えが無くて。最後に一瞬、まばゆい閃光が一瞬見えたような気がしたの。それと同時にあのバケモノの体が霧散したように見えた……あれはなんだったのかしら……」
アンジー「なんでもいいよ。とにかく勝てたんだもん……大変な戦いだったね……」
ミニーズ大勝利。その上知らぬ間に街は復元され、シュバルツシルトに取り込まれた人間たちも圧縮から解放されて元通りになっていく。何もかも元に戻っていく世界に人々は悪い夢でも見ていたかのような気分を味わうのだった。
そしてまた人々は日常に戻っていく。その裏では雅なる者を決める大きな戦いが巻き起こっている事も知らずに。




