2020年1月19日 空気清浄機の日
2020年1月19日
イリス「さて……今日もヤツらのところにカチコミに行くわよ」
聖美「うん! 私もみんなに今日の日めくりがしやすいモノ探してきたし!」
アンジー「あの、それ何持ってるの……?」
聖美「これっ? 今日はイチジクの日でしょ? だからイチジクかn」
アンジー「駄目だよ!? 絶対駄目!!」
イリス「んん?? なにその」
アンジー「見ないでいいから!」
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イリス「オラオラオラ五人少女共!! 今日こそ成敗しに来たわよ!!」
留音「あぁ、いらっしゃい」
西香「ふん……」
留音「おい、あたしが言ってんのはそういうところだからな?」
西香「知りませんわよ。勝手に来たのはあっちじゃありませんか」
留音「だからさ~! お前そういう言い方! もうホント信じらんねぇ!」
西香「うるさいうるさいうるさいですわ! がさつなくせに口うるさいったらありゃしない! 脳筋ゴリラのくせに!」
本気で喧嘩している。そんな空気だった。
イリス「ちょっ……えっ、なにこれ……ちょっと、どうなってんのよ……?」
イリスはあたふたして呟くのだが、留音も西香もお互いにそっぽ向いて答えようとしない。ここまで険悪な空気を、イリスは味わったことがない。
イリス「ちょっと……今日は正直、あんたらに馬鹿やってもらおうと思って来たのに……なんでこんな……」
イリスは更に、背後の二人にも視線を向けた。背後の二人、聖美とアンジーの事である。
聖美「……」
アンジー「……」
こっちの二人もなんだかよそよそしい。聖美のほうが距離をとって、アンジーがどう声をかけるべきか考えあぐねてそわそわしているような雰囲気が窺える。
留音「なんだよ、何かあったのか?」
イリス「いや、あたしもよくわからないんだけど……突然険悪になっちゃって……」
聖美「だって、アンジーちゃんがあれも駄目、これも駄目って……」
西香「わかりますわよ、変顔さん。鬱陶しいんですのよね、人がやろうとしてることを遮ってくるおバカって」
西香は留音を横目で見ながら言った。
アンジー「だ、だって……その人のためにも駄目って教えてあげないといけないこともあるし……」
留音「あたしはそんなんじゃないけど、こいつは常識がなさすぎるからな。お前だぞ西香」
聖美「私この前だって我慢したもん。その前も……その結果一度死んでるんだよ? なのにまた駄目って……やらなかったらまた死んじゃうかも知れないんだよっ?!」
アンジー「そんな事無いし絶対駄目だって! いくら今日がその、アレの日だって……デリケートなんだから……っ」
留音「お前らはいいよなぁ、まともな議論ができて。こいつとじゃ話になんねぇの」
西香「はぁっ? 議論もなにも、留音さんがわたくしに干渉しなければこうならないんですけど?!」
留音「おめーが変なこと言うの直せばいいだろうが!」
聖美「みんな日めくり大使なんだよ!? 今日がイチジクの日だって教えてあげればやってくれるよ! このイチジクかんty」
アンジー「だから駄目だってばぁ!」
聖美「なんでっ!! プレゼントしたいだけなのにっ」
アンジー「なんでじゃないよぉっ!」
イリス「うぅっ……二人共それくらいに……あいつらの内部分裂は望むところだけど、二人がそんな風になったらあたしどうしたらいいのか……」
場は混沌に支配されている。
しかしその混沌を統べるものがこの家にはいた。正直何人かいるが、今日は衣玖ちゃん回である。
衣玖「お困りね」
イリス「えっ……衣玖……なにその装置は……」
衣玖「空気が悪くてお困りね。かくいう私もお困りよ。だから作ってきたわ。てってれー、空気清浄機~……あ重い」
衣玖は装置を掲げようとしたが頭の上に持っていこうとして腕の負担を予測し、すぐにそれを床に置く。楕円形で40センチほどの箱のような装置だ。
衣玖「これは空気清浄機に着想を得て開発した空気正常機よ。ほら、人同士がギスギス感を空気悪いとか言うでしょ。そういうのを正常化するヤツ。わざわざギャグかまさないでも作れるんだけどね、たまにはおちゃめなところを見せようと思って」
イリス「なんとなくわかったわ。これによってこのギスギスが改善されるのね?」
衣玖「そうよ。はいスイッチオン」
ゴォォォー。空気正常化中……空気は正常化した。
イリス「色々早くない?」
衣玖「シンプルで早くてわかりやすい。それこそ天才が起こす奇跡なの」
辺りにマイナスイオンを超えたロマン粒子が拡散され、喧嘩をしていた人たちのギスギスに入り込んでいく。
アンジー「ごめんね聖美ちゃん……でもやっぱりボク……女の子が女の子に○腸するのを嬉々として要求していくのって駄目だと思うんだ……美少女って多分そういう事しないかなって……」
聖美「……うん。私もちょっと言い過ぎた……そうだよね、美少女の世界なのに……私が見つけた記念日がちょっと悪かったかなって……アンジーちゃんは私がそういう事言わないようにしてくれただけなのにね……」
イリス「二人共……よかった……」
どうやらミニーズは和解を始めたようだ。衣玖も満足そうにうなずいて、次は西香と留音の方に目を向けた。
西香「わたくしだって……好きで言ってるんじゃありませんものっ……みなさんでわたくしを除け者にして……もっと構って欲しいのに……っ」
留音「……西香……?」
西香「一番のお姉さんだって思うから甘えてるのに、留音さんは他の子ばっかり構って……わたくしだってあなたに甘えたいんですのっ!」
留音「そうだったのか……ごめんな、気づいてやれなくて。じゃあ結婚しよう」
西香「その言葉を待ってましたわぁ!!」
イリス「なにこれ」
衣玖「……なるほど。説明するわね。正常というのはつまり変化が無い状態ということよ。今の状態はそれに戻ったということ」
イリス「その説明でいいの? あいつら結婚したがってる状態が正常だって事?」
衣玖「補足するわ。常に変化し続ける私達において、正常な状態とは一体何だったかを考えてほしいの。それはもうさっぱり誰にもわからないわ。でも何にでも始まりはあったことだけは確かよ。始まった瞬間は、恐らくブレるラインの中心点に一番近い場所にあったはず」
イリス「あんたらは今プラス3にもマイナス10兆にもなるけど、始まった瞬間は0に近い地点にいた、という認識でいいのね?」
衣玖「そうよ。そして正常とは0の事。"変わったところがない"という意味でね。そしてこのシリーズが始まった最初期の話……そう、日めくりが始まるよりもずっと昔の話で、西香とルーは一度結婚しようとした。つまりそれこそがこいつらにとっての"0"。戻るべき"正常"となってしまったのよ」
イリス「意味がわからない」
衣玖「大誤算だったわね……常に変化を続ける私達にとって、正常化というのは悪手そのものだったということか」
聖美「(キラキラキラキラキラ)」
アンジー「聖美ちゃんがすごく楽しそうに二人を観察してる」
留音「おー西香! お前はあたしが守る!」
西香「あぁ留音さぁん!」
衣玖「懐かしいな……この後私が全員屠ったのよね……私のドクロ城を馬鹿にしたから……」
空気正常化によってギスギスは解消されたのだった。今日はいい空気の日。人とギスったなと思ったら、とりあえず結婚しようって言ってみるといい。