番外編 続々・アジトのお正月
1月5日の更新です。
本日の更新分で、番外編はおしまいとなります。
続き……と言いますか、新章としまして、10日から新しく物語を投稿させて頂きますので、そちらも宜しくお願い致します☆
全く。ちょっと目を離すと、ルドルフと同じ様な事を仕出かすから目も離せないよ。
「痛いだろ?」
「痛い様に叩いたんだから、痛くなきゃ困るよ」
呆れ顔の僕の前には、涙目のアトラ。
彼は、ちゃっかりカウンターの前に座って、僕の動きを見ながら文句を垂れていた。
何で僕が台所に居るかと言えば、あんまり亜栖実さんとアトラばっかり餅を食べてしまうので、他の人達の口に朝から何も入っていなかったから。
その為、急遽何か作りに台所へ来る事になったんだ。
……何か視線を感じるなぁ。
「言っとくけど、アトラの分は無いからね?」
「ちぇっ」
全く、少し多目にと思って買った、60㎏の餅米がまさか無くなるとは思わなかったよ…。
しかも食べたの2人だよ!?僕でさえ味見した分しか食べられないとか、誰が想像するんだい?
今、宇美彦が追加分の餅米を買いに行ってくれたから、その間に皆のご飯を作ってるんだけど…。
まさかお正月からこんなに忙しなく料理を作る事になるとはねぇ。
あれ?口調がオカン化
してきた気がする…。
…………今更か。
「じゃあ、ご飯が出来た事を皆さんに伝えてきてくれたら、アトラにもご飯あげるよ」
「ほんとだな!?絶対だぞ!?」
「はいはい」
ブツブツ言いながら、僕がチョップした部位を擦っていたアトラにそう提案すれば、パッと明るく駆け出していった。
厳禁なやっちゃ…。
《「アトラはね?両親を魔王軍に殺されてしまったんだ。だからか、ちっとも笑わない子なんだ」》
不意に裕翔さんの言葉が思い出される。
これは、僕がこのクランに入ったその日に、裕翔さんから聞かされた話しだけど、僕は笑ってないアトラを見た事がないんだよなぁ…
。
僕の前でだけ無理矢理笑ってるんだとしたら申し訳無いけど…。
「シエロ!皆のとこ呼んできたぜ!?だから、ご飯!ご飯!!」
そう言いながら、トップスピードで戻ってきたアトラの顔は、僕と顔どうしがくっつきそうな位近い。ってか、風圧がヤバかった。
この角度からじゃ見えないけど、たぶん尻尾は千切れそうな程振られているに違いない。ってのが想像出来る。
うん。別に、無理矢理笑っている訳では無さそうだ。
「はいはい。ちゃんと出してあげるから、席に座って良い子に待っててね?」
「はーい♪」
僕よりも背が高いアトラのその様子に安心したのか、不覚にも笑みがこぼれてしまった僕でした。
◇◆◇◆◇◆
《side:裕翔》
やっ、やっと帰って来れた…。
シエロ君に《「行ってらっしゃい」》と言う言葉と共に、お弁当を貰ってから早4日。
ようやく俺達がアジトに使っている、赤レンガの建物が見えてきたところで、強ばっていた体から力が抜ける。
「ふぅ……ん?」
《アハハハハ》
今日何度目かのため息を吐いた直後、アジトの中から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
?
何となくその空気を壊したくなくて、俺はそっと声のした中庭の方を覗き混んでみた。
「それ、よいしょー!」
《バツン》
「はいよー!」
《チャッチャ》
「うりゃ」
《ドスン》
そこには、杵を力強く臼に向けて降り下ろす宇美彦さんと、それにタイミングを合わせて手際よく臼の中の餅?を返すシエロ君の姿があった。
「あはは、すげぇー!さっきのアルベルトのおっさんと全然違うじゃん!!」
「アトラ、慣れていないのですから仕方が無いではありませんか!」
ケラケラと楽しそうに笑っていたのは、アトラ?
それに、拗ねたようにアトラと話しているのはアルベルトさん?
無表情だった少年と、眉間に皺を深く刻んだ表情がデフォルトのアルベルトさんが、楽しそうに話している?
「あっ、裕翔さん。お帰りなさい」
「ん?おぉ、裕翔!お疲れさん!」
あまりの変わりように、ポカンとしていると、笑いの中心に居た2人から声をかけられた。
「あっ、あぁ…。たっ、ただいま、です」
「あはは、何だそれ!?勇者様が変なの!!」
「あっ、あっ、あはは。ただいま~」
笑顔のアトラと笑顔の皆に出迎えられて、俺は楽しげな皆の中心へと入っていった。
この数日、大変な目にばかりあっていたけれど、この仲間達となら、これからも楽しいお正月を迎えられそうだ。
勿論。お正月だけではなく、これからの魔王軍との戦いにおいても、ね。
おしまい
◇◆◇◆◇◆
「此処までなら、とっっっても良い感じの雰囲気でおしまいになったんだけどねぇ?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
僕の前には、土下座をした亜栖実さんと、その格好を真似しているアトラの姿があった。
何故このポーズで2人が僕に謝罪しているかと言えば…。
「まぁまぁ、シエロ君が作ってくれたおせち、美味しく食べさせてもらったよ?ちゃんと俺、食べられたよ?」
「いーえ!裕翔さんが食べられたのは、雑煮と僕が作ったかまぼこ、それに伊達巻だけです!その他に作った物は、貴方の口に入る前に無くなっています!!流石に反省しなさい!!!」
「「本当にごめんなさい!!」」
アジト中に僕の怒気を含んだ声と、2人の泣き声混じりの謝罪の声が響き渡った。
もう、毎度の事ながら、何でこんなに最後まで締まらないんだろうね!?
終わりだよ!!
此処までお読み頂きまして、真に有り難う御座いました。
それではまた、10日の日にお会い出来たら幸いです。本当に有り難う御座いました。