番外編 アジトのお正月
1月3日の更新です。
昨日の更新分を読まなくても、
話が繋がる様にはしてありますので、安心して(?)お読み頂ければ嬉しいです。
本日も宜しくお願い致します。
《チャッチャッチャッ》
《ザクザクザク》
《ジューー》
昨日に引き続き、朝早くから台所に立っている。
昨日と違うのは…。
「なぁ、その【モチ】っての、美味いんだろ?まだかぁ?どれがモチ何だ?なぁ、なぁ~?」
「焦ると言う事は、それだけ利から遠ざかる事でありますぞ?焦らず、じっくり待つのであります」
このアジトの台所は、アットホームな居酒屋に良くある、対面式の台所になっている。んだけど…。
その、カウンターの様になっている座席に、このアジトの住人が2人、座っていた。
モチモチうるさいのが、狼族の獣人の男子で
アトラ・ポット。
あるあるうるさいのが【職業:学者】のアルベルト・コランダムね。
え?紹介が雑?僕、今忙しいから後でね?
モチモチうるさい方は、何処かのウサギを彷彿とさせる中身をしているので、時々チョップしたくなる。
「いてっ!何すんだよ!」
って言うか、した。
「作業中に騒ぐからでしょ?……さて、と。粗方下準備は終わったから、早速やりますか☆」
「何を?」
「餅つき♪」
「ん?」
「モチ、ツキとは?」
分かっていない2人に向かって、僕はニッコリと微笑んだ。
◇◆◇◆◇◆
《side:裕翔》
「ユート殿。お疲れ様でした」
「いえ、近衛騎士団長殿こそ…」
本当なら昨日のうちに皆の所へ帰れる筈だった俺は、【金をやるんだから分かってるよな?】と言う…いや、言葉に出してはいないか…。
えっと、目が全てを語っていたがめつい宰相と、ドケチ大臣に捕まって、今さっきまで行われていた【新年の義】と言う名の民への挨拶と、王族も出席する宴会に巻き込まれていた。
ヘロヘロになりつつやっと解放されてみれば、昼を疾うに過ぎていて、もう少ししたら空が夕焼けに染まるであろう時間になっていた。
今、俺の隣で声をかけてくれたのは、同じ様に疲れた顔をした、この国の近衛騎士団長。
歳の割りに刻まれた皺と白髪の多さから、彼が抱えている苦労の跡が伺える。
「長い間お引き留めしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。転移門のご用意は既に済んでいますので、宜しければお使いください」
「ありがとうございます。ありがたく、使わせて頂きます」
未だに俺達がこのふざけた国を見捨てられない理由が、彼だ。
全ての国を馬鹿にした様な外交しか出来ない宰相やその他の大臣達の中で、人一倍苦労しながらこの国を支えている彼を、見捨てる事等出来なかったのだ。
って言うか、たぶん他の国の重鎮達もそうなんだと思う。
「ユート殿、此方の転移門をお使いください。既に彼の地へと繋げてあります」
話しながら歩けば、この国唯一の転移門へとすぐに着いた。
今や他の国や地域では、庶民でもわりかし簡単に使える転移門…テレポート装置が、唯一此処にしかない理由も外交が上手くいっていない証拠だ。
とは、前に団長殿から教えてもらった話だ。…本当に大丈夫か?この国…。
「ありがとうございます、近衛騎士団長殿。お身体、ご自愛くださいね?」
「ははは、勇者殿にそう言って頂けるとは…。光栄の極みですな。ユート殿もお元気で。御武運、御祈り申し上げます」
「ありがとうございます。必ずまた生きて、貴方に会いに参りますよ」
ちょっとおどけて返せば、彼も苦笑気味ながら笑ってくれる。
俺は、手を振ってくれる近衛騎士団長に笑顔を返しながら、彼の苦労が少しでも軽くなる事を祈りつつ、見える景色が変わっていく様を見ていた。
《シュンッ》
「おや?新年からご利用のお客様はユート様でしたか。お疲れ様でした」
「あっ、どうも。ありがとうございます」
顔馴染みのテレポート装置番の人に挨拶を返しながら、外へ出る。
案の定、赤くなり始めた空を見上げながら、俺は1つため息を吐いた。
どうしても主人公の影が薄くなる…何故でせう?
明日もまたこの時間に更新させて頂きますので、宜しくお願い致します。