表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/4

一緒に飛び立つ、この日のために。

 堂本千景のカバンから大きなポーチが転がった。

 

 

「こないだ、新作買ったんですよ~~」


 

 小さな顔の頬が朱に染まった。嬉しいと輝いて見える。

 

 

「これが今年で終わりかと思うと寂しいです~~」


 

 カチャカチャ、と嬉々として、取り出されていく化粧品たち。


 

「あと、ウィッグも衝動買いしちゃったものをご用意したのです~~」


 

 小動物のように、コロコロと表情が変わる堂本。見ていても飽きない。


 

「何? 人の後輩をいやらしい視線で見てるの? スケベですね」


 

 高松が乱暴に、新垣の前髪にピンを刺した。


 

「ぃったい! 文ちゃ~~ん~~。痛いよぉ」


 

 座っている新垣が、面と面向かって腰を下ろしている高松を上目づかいで見上げた。


 

「! な、何ですか! 気色悪いからぁ」


 

 高松の能面だった顔が、少し歪む。

 次いで、おでこを思いっきり手で叩いた。


 

「いっだぁ~~! 何で、文ちゃんって不機嫌なの! もぅ~~」

 

 

 涙目で訴える新垣を無視し、さくさくと高松が進めていく。毎回、こうやって局面を逃れて来た。この事実を知っているのは、写真部の面々と幼馴染みの本田伊代。


 

 そう――《女装》だ。


 

 小柄な新垣は、服装やメイク一つで、女の子そのもの。今回もこれで、追って渦巻く校内を潜り抜ける。

 恰好はジャージ。疑われることはない。


 

(……でも、毎回心臓に悪いんだよなぁ)



 ◆


 

「ねぇ。先輩」


 

 写真部から出て、ゆっくりと、それでいて歩幅を広げ玄関へと向かう。


 

「部ちょ……本田さん、はどうしていますか」

「伊代? 最近さらに写真に熱心で、何か公募ガイドから大賞応募見たら送って、賞を取ったりしてるみたいよ?」

「へぇ。そうなんですか」

「最近、会ってないなぁ」


 

 パタパタ、通路を歩み進んでいく。


 

 その中「おぉ~~い! 新垣ぃ!!」と自身を呼ぶ声が通路に木霊する。


 

「みんな叫んでて五月蠅いね。先輩」


 

 悪戯っぽい笑顔で聞く高松を、新垣はジト目で睨み付ける。



 ***

 


 どんな困難だってさ、君とならやれそうなんだ

 掴んだ、その手を決して

 離したりしないで欲しいんだ

 君と生きていたいんだ



 ***

 

 

 依然として、桃色の青春が流れている。

 

「……桃色の青春、か」

「あたし、これ嫌いなんですよ」

「ははは。高松は桃色の君に幸あれ! の方が好きそうだよね」

「先輩は分かるんですね」



「分かるさ! ……ぁ」



 新垣の声が小さく裏返る。



「げ」


 

 高松に至っては露骨に、表情を曇らせた。その人物は、二人の存在に気付いたのか「やぁ!」と手を振った。

 

 三上朝昼(アヒル)副生徒会長。高松が大嫌いな男。


 

「げ、とはなんだね。高松さん」

 

「吐き気ですよ。吐き気!」


 

 三上は、腕を組みちらりと女装の新垣を見た。


 

「で。君のお姫様は? 騎士様」

「知らないし」

「愛しのお姫様がいなくなったら、困るの騎士様のはずなのに? 可笑しな話だよ」


 

 かぁ! 高松の顔から蒸気が噴き出る。しかし、迅速に新垣の耳を塞いでいた。

 

「何なんだよ! 副生徒会長様よぉ‼」

 

「別にぃ、ただね……掴んだその手は放して欲しいんだ、よね」


 

 桃色の青春の歌詞を三上は引用する。


 

「それは何の話だよ?副生徒会長さんよぉ」


 

 高松も言葉汚く聞き返す。


 

「君は、彼の騎士にはなれない。この先もずっと、ね」

「ぅっさい!」

「昔から、彼の傍にいた彼女こそが騎士なんだ」

「ぅっさい! ぅっさいんだよっ! ガアガア泣きやがって!」


 

 高松は新垣の腕を引っ張ると、三上の肩に身体をぶつけ、立ち去っていく。

 

 通りすがり新垣は三上の顔を見た、そこには泣きそうな表情があって、新垣の視線に気付いたのか、にこやかに唇に人差し指を添えた。


 

『これは秘密だよ?』

『うん』と新垣も頷く。


 強く腕を握られ「痛いよ、文ちゃん」と新垣もやんわりと伝えた。


 

「あ! す、すいません……」

「あんなに毛嫌いしなくたっていいんじゃないのかなぁ」

「せ、先輩?」

「そんなに悪い……やつじゃ――」


 

 その言葉に、高松の身体がふるふると震えた。


 

「あたしはあんなやつ好きになんかならないもん! ずっとずっと! だってあたしはッッ」

 


 たんたん、トントン。

 


「! 次から次と! 誰だよッッーーぁ……部ちょ……本田、さん」

 

「いよぅ! えんらい騒ぎじよないか? うけるんですけど~~」


 

 高松と新垣の表情が曇る。


 

「さ。かくれんぼはお終い。ね? お姫様?」


 

 身長は新垣より頭一個分高く、肩まで伸ばした明るい赤茶の髪を耳もとにかけている。


 

「ありがとね、あとはうちが引き取るとるわ」

「ダメ! ダメですっ! い、今まで放っておいて何ですか! 何なんだ!!」


「放ってなんかない。最高の写真を撮るために腕を磨いてたんだ」


 きりっと言い返す本田に、笑顔はない。

 

 真剣そのもの。


 

「だから。その手を離しなさい、文」

 

「ぅ……ずるいよ。ずるいよ……幼馴染みってだけで、先輩をかっさらっていくなんてぇ……ふぇ」

 

 高松と本田の言い争いのなか、オタオタするほかない新垣。

 

 そして、主導権はーー本田のものとなった。バタバタ! 高松は走り去ってしまう。


 

「文、ちゃん……ありがとう」

「さ。お姫様、手を」

「……伊代、ったく」

「正を撮っていいのは、うちなんよ」

「待たせ……やがって――」

「……大人になろう。みんなも、正もな」


 

 依然として廊下に木霊する声。すこしダミ声になっている。


 

「社会に出たら、どんな我儘も通らないの。でも、どんな困難だってさ」

「……君とならやれそうなんだ」

「だから、その手を」


 

 本田と新垣ははにかんだ笑顔で向かいあった。

 そして、ごく自然の口づけ。


 

「「離さないで」」



 

 ***


 

「ははは! ウケるわ!」

「……みんな死んだ、いや、疲労困ぱいて顔だ、な」

「愛されてたんだよ。お前さんは」


 

 通路の教室前で座る二人。

 今日が卒業式。


 本田の進路は専門学校。

 

 だが、新垣は進路は決まっていなかった。


 

「ね。正」

「? 何?」

「……うちさ、料理、洗濯、家事ダメなんだよね」

「? うん、絶望的ってのは承知していますが? 何か?」

「料理学校行って、う、……うちのために……ご飯、作ってよ。その他も」


 

 新垣は、顔を赤く染めた。本田も同様に返事は返さなかった、が。それも悪くない、と新垣は微笑んだ。

 


「はい! 卒業生並びなぁ~~」


 

 伊丹の声とともに二人は立ち上がった。

 


「さ。この小鳥箱から巣立とうなぁ」

 

「うん」


       ――了――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ