黒猫 第一話
一人の物書きが書いたつたない物語ですが、どうぞ。
「少し悲しい」をテーマに書いたつもりです。
ズズッ。
静かな店内に熱々のコーヒーを啜る音が響く。行儀が悪いのは重々承知しているのだが、猫舌な上に元々コーヒーがそんなに好きではない私は少しずつしか飲めないのだ。幸い店内には私以外、否私たち以外いない。少しは大目に見てくれてもいいだろう。テーブルの上には真っ白に磨かれたカップに入ったコーヒーと、こじゃれたケーキ皿に乗ったミルクレープ。
「僕はモンブランの方が好きなんだが。」
私は声の主に、テーブルを挟んだ向こう側のいすに座った黒猫に目を向けた。実際に喋った訳ではない。私には彼の言葉が分かる、それだけ。
「あげるなんて言ってないよ?」
ズズッ。
私はまたコーヒーを啜った。
私は小さい頃から動物と意志の疎通ができた。いつからかは分からない。気が付いたら、隣の家の犬と会話をするのが日課になっていた。初めは誰でもできるのだと思っていた。幼稚園の私は動物との楽しい会話をよく親に話したものだ。小学校にあがり他人にはできないことだと理解し、自分だけの特技だと誇りに思った。中学校に入り特技を理解してくれる人は減り、仲良くなった人にだけ教えた。高校に入り、例え仲のよい友人にも信じてもらえないことを理解した。大学に入り、職に就き、私はこのことを誰かに言うことをやめた。それでも会話は楽しくて、私は人目を逃れて会話を楽しんだ。
「なんだい。折角話の通じる人間だと思ったのに、随分とケチなもんだ。」
「私の優雅なティータイムに割り込んでくるような猫にあげるケーキはないわ。」
この黒猫に会ったのは一週間ほど前。私がこのカフェでモンブランを食べていると、ひょいと椅子に乗っかり図々しくも半分寄越せと言ってきたのだ。今まであったことがないほど口の減らない、生意気な猫だった。私がこのカフェを見つけたのが二週間ほど前、料理のおいしさに惚れ、今では毎日のように来ている。猫は私が動物と話せると分かった途端に次々と話しかけてきた。それからと言うもの、私の姿を見つける度に椅子に座り長い話をしてくるのだ。
大体、猫ってケーキ食べても大丈夫だっただろうか。犬用ケーキと言う物が別にあるくらいなのだから、食べない方がいいのではないだろうか。
「あぁ、ケーキだったら別に食べても害はないよ。僕は此処の常連なんだ。オーナーが優しくてね、よくミルクとモンブランを出してくれる。まぁ、人用のものだから僕が食べられるだけかもしれないけどね。」
最近の猫は心を読むこともできるのだろうか。動物は人の心情に敏感な面があるのは確かだ。しかし、ここまで正確に考えを指摘されたのは初めてだ。いや、それとも今までの動物達が口にしなかっただけだろうか。
「時に君、ティータイムにしては些か早すぎないかい?どちらかと言えば、まだブランチだと思うが…」
あまり心地の良くない可能性に冷や汗をかいていると黒猫がまた話しかけてきた。まあ、随分と口の回る猫だ。それに、何故私がこんな変な時間にお茶をしないといけなくなったのが自分の胸に前足を当てて考えてほしい。
「いちいち細かい猫ね。モンブランか欲しいならいつものようにオーナーに貰ってくればいいじゃない。」
見せつけるようミルクレープをひとくち口へ入れると、猫はため息を吐きやれやれとでも言うように首を振った。
「君、知らないのかい。此処のオーナーはこの前倒れたんだよ。キッドマン今頃は病院だろうね。見舞いに行きたいのは山々だが、流石に病院に猫は入れない。それに、生憎僕は病院の臭いが好きではないんだ。」
「それは、ごめんなさい。無神経だったわ。…病院は何処だか分かっているの?」
親切心で言ったつもりだったのだが、猫は呆れたような顔をした。いや、表情の変化はよく分からないのだけど、なんとなく。
「君は馬鹿かい?この街は大きい割に病院が少ない。入院できる病院といったらセントリア病院しかないだろう。」
私はこの街に越してきたばかりなのだ。知らなくてもしょうがないではないか、と言おうかと思ったが病院の情報くらい知っている方が当然かと言葉を飲み込んだ。猫は続ける。
「それに、見ず知らずの人が急に訪ねてどうするんだい?いつもの黒猫から見舞いの品を預かりました。とでも言うつもりかい。そんなことをしたら今度は君が入院する番だ。」
それはそうかもしれないが、それでもいいと思った。
「オーナーの名前は?私が行ってあげる。」
生意気な猫は生意気な顔をしてればいい。泣きそうな顔は似合わない。
まあ、猫の表情なんてやっぱり分からないけど。
連続投稿ですので、ぜひ続きもお読みください。




