33 エピローグ
元輝17年7月3日、皇太子エルアクス・ロナール・フレイガルドは帝都を占領したヴァルカニア軍を打ち破り、帝都の支配を回復した。
皇太子は帝都に戻り、住民たちの熱い歓迎を受けた。解放を祝うパレードは帝都中の住民が見に集まったという。
「ほら、笑顔笑顔」
エルアクスは、馬車に並んで座るアリステアに対して笑顔を促した。
アリステアは笑顔を作り沿道の人々に手を振った。
「なんで私が……」
アリステアは、否、アリステアのフリをさせられているレイナは、エルアクスに聞こえるように不満を漏らした。
「影武者になるのも安全を守る大事な仕事だよ、がんばれ」
「ううー」
レイナは笑顔を貼り付けて手を振り続けた。
(とはいえ、まさかアリステアが公務をさぼってデートとはね。変われば変わるものだな)
エルアクスは内心面白がっていた。
(だが油断は出来ない。帝都奪還がアリステアの功績によるものであることは既に噂になっている。これが軍事的名声に留まっているうちはいいが、それ以上にならないよう警戒しなければ)
同時にそうも考えている。
それ故にパレードはエルアクスとアリステアが並んで参加し、その間に隔意がないことを表現してみせねばならなかったのだ。
エルアクスもアリステアも、帝位についてどうするか考えは一致している。しかしそれが変わらざるを得なくならないように、エルアクスは細心の注意を払っていた。
この時、本物のアリステアは、そのパレードを町娘に変装して街中で見ていた。
「アリー、この串焼き美味しいよ!」
フレイがその隣で、つい先ほど屋台で買った肉の串焼きをほおばっていた。
「そうか」
アリステアの手には動物の角を使ったカップがあり、中にはワインが入っていた。
「ほらアリーも食べなよ、ほらほら」
フレイが能天気に串焼きを勧めてくる。
その眼前の人混みの向こう側で、神龍騎士団の男たちが行進していた。
「いいよ私は。というか今日は押しが強いな」
「そりゃあ、せっかくのデートだからね。しかもアリーから誘ってくれたなんて!」
「……私は今ちょっと後悔しているところだ」
犬の散歩くらいのつもりだったのに、犬の散歩よりよほど大変だ。
「そんなこと言わずに、楽しもうよ! ほら!」
アリステアは小さなため息を一つついてから、フレイの差し出す串焼きを受け取った。
肉をほおばると、塩コショウがよく効いた、しっかりした肉の味がした。
「うん、これはたしかに美味いな」
手元のワインによく合う肉だった。アリステアは満足げに口の端を上げた。
「なんっで!」
だん、とイゼルが机を強くたたいた。
「どぉしてあんなに頑張った私ではなくてあのクソポンコツ食い気バカとなんてデートに行ってるんですか!?」
イゼルは酔っていた。
それに付き合わされているのは、フライツたち神龍都市の職人であった。
「私リフト作り頑張りましたよね!? 活躍しましたよね!? なんでですか!?」
「さ、さぁ……」
職人たちにとっては完全に事故である。鷹梟大佐は危険な雰囲気を感じ取ってかなり前に逃げ出した。
「なんで、イゼル婚約してくれとかデートしてくれとかないんですかぁー!!」
イゼルはぐーっと杯の酒を飲み干した。
「嬢ちゃん」
「なんですか!?」
「うちのかみさんによると、恋というのは勝ち取るものらしいぞ。嬢ちゃんから攻めてったらどうだ?」
「……そのアイデアいただきます」
そう言ってイゼルは杯を差し出した。おかわりの要求であった。
第1章 了




