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光と影、二つの魂  作者: そら
第四章 竜と、二つの影
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第七話 セリア編 決定的な記録

セリアは一晩かけて調査記録を突き合わせた。


騎士団の詰め所の窓から夜明けの光が差し込んでいる。


アルスが南方に出発した夜——王都北郊で、古竜と思われる魔力の反応が確認された。


三か所の観測所がそれぞれ「計測器の針が振り切れた」と報告していた。


複数の村民が「夜の空に白い光が見えた」と証言していた。


その光の規模は——「夜が一瞬昼になった」と表現する者もいた。


そして——翌朝、アルスが集落でかばうような所作をしていたことを医療班の一人が記録していた。


「右手を少し、かばうような動きがあった」と。


傷は見えなかった。


しかし——もし傷があり、治した後の微妙な動作の癖として残っていたなら。


セリアは手帳を開き新しいページに書いた。


「竜との戦闘があった夜——翌朝アルスが右手をかばうような所作をしていた」


「傷は回復魔法で治して見えないが、動作の癖として残る」


「第一章の暗殺者迎撃の翌日にも、同様の痕跡あり(記録あり)」


「行動の一致:計14回確認済み(今回の竜の件を含む)」


ペンを止めた。


窓の外で、王都の朝が始まっていた。


商人が荷車を引いている。


子供が走っている。


衛兵が交代している。


いつも通りの朝だ。


しかしセリアの手帳の中では、一つの事実が完成に近づいていた。


手帳を閉じた。


確信の数字を書き換えた。


「八割」を消して——「九割」と書いた。


あと一つ。


あと一つだけ、決定的なものが揃えば——問いただすことができる。


いや、「問いただす」という言葉は正しくない。


この男は——敵ではない。


二つの顔を持ちながら同じ方向を向いている。


七賢院を証拠で断罪しようとしている。


民を守ろうとしている。


右手に傷を残しながら昼も夜も動き続けている。


「協力を求める」という形で会いに行く。


セリアはそう決めた。


椅子から立ち上がり、窓を開けた。


朝の風が入ってくる。


もう少しだ、とセリアは思った。


あと一つだけ揃えば——謎の答えが出る。


そしてその答えが出た時、自分はこの男の隣に立つ。


敵としてではなく、同じ目標を持つ者として。


手帳を鞄に入れ、セリアは詰め所を出た。


今日も仕事がある。


証拠を積む仕事が。


廊下を歩きながら、セリアは手帳の最後のページを思い返した。


「九割」という数字。


残りの「一割」は何か。


それを埋める出来事は——近いうちに来る。


セリアにはそう確信していた。


セリアは手帳を閉じてからもう一度開いた。


最後のページに書いた「九割」という数字を、じっと見た。


残りの「一割」は何か。


それは——「確認」だ。


状況証拠がいくら積み重なっても、直接的な確認なしにはセリアは動けない。


調査官として、それが自分の信念だった。


しかし——「確認」とは何か。


問いただして、アルスが認めること。


あるいは——否定できない事実をアルスの目の前で提示すること。


そのどちらかだ。


セリアは手帳に書いた。


「次のステップ:アルス様に直接会い、協力を求める。告発ではなく、連携の提案として」


書いてから少し止まった。


「連携の提案」という言葉の重みを噛みしめた。


亡者を追跡する任務を持ちながら——亡者(の昼の人格)と連携する。


騎士団の上司に報告すれば問題になるかもしれない。


しかし——七賢院を断罪するためにはそれしかない。


セリアは手帳を閉じた。


目的は何か。


七賢院の断罪だ。


亡者の逮捕ではない。


目的のために正しい手段を選ぶ——それが調査官の仕事だ。


セリアは立ち上がった。


今日、聖枢機卿が王都に帰還する予定だ。


明日か明後日——会いに行く。


「……準備しよう」


セリアは独り言を言って詰め所を出た。


詰め所を出てから、セリアは少し遠回りをした。


王都の外壁沿いの道を歩く。


昨夜、北郊で白い光が見えた。


複数の目撃者が「計測器が振り切れた」と証言した。


同じ夜、聖枢機卿は南方にいた。


どちらも一人の人間がやったとすれば——体は確かに一つだが、意識は別々に動いている。


調査官としてその事実をどう扱うか。


セリアは考えながら歩いた。


通常の捜査対象なら——精神の問題として別の判断が入るかもしれない。


しかしアルス・ヴェインは——どう見ても正常だ。


昼の枢機卿は、王宮の毒を解毒し、孤児院を守り、七賢院の工作を封じた。


判断は正確で、感情は安定していて行動は一貫している。


夜の亡者は——裏社会の網を作り、証拠を積み上げ、七賢院の工作員を潰した。


こちらも、判断は正確で行動は一貫している。


「異常」ではない。


「特殊」なのだ。


セリアはその結論に至った。


この人間を、通常の捜査の対象として扱うことは——適切ではない。


協力者として扱うことが——正しい。


「……決まりだ」


セリアは独り言を言った。


明日、会いに行く。


詰め所への帰り道、セリアは空を見た。


夜明けの光が、東から差してきている。


昨夜、北で何かが起きた。


今朝、南から聖枢機卿が帰ってくる。


二つの出来事が一人の人間の中でつながっている。


その確信が——今朝は揺らがない。


「九割」という数字が「十割」に変わる日が近い。


その日が来たら——会いに行く。


セリアは歩みを速めた。


今日も仕事がある。


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