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光と影、二つの魂  作者: そら
第三章 鏡の前で
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第十話 七賢院編 追い詰められた密謀

七賢院しちけんいんの会議室はいつも薄暗い。


窓がない。

空気の流れがない。

外の光も音も届かない石造りの密室。


賢者一番が上座に座り、賢者二番、三番、四番が向かいに並んでいた。

残り三人——五番、六番、七番——は今夜は呼んでいない。

この場で話す内容は幹部だけが知ればいい。


白髪の老人——賢者一番が杯を机に置いた。

その音が静かな室内に響いた。


「整理しよう」


抑えた声だった。

しかし、声の奥に滲む苛立ちはこの男にしては珍しいものだった。


「先月から、こちらの動きが何度も潰されている」


賢者一番は指を折った。


「一つ。偽情報工作——枢機卿への『亡者があなたを狙っている』という工作。見抜かれた。いや、見抜かれたのみならず、逆に証拠として利用されている可能性がある。我々がどの経路で偽情報を流したか、追跡されている形跡がある」


沈黙。


「二つ。王宮内の情報拠点。六か所のうち三か所が、この一か月で機能を失った。工作員が消えた。死体もない。亡者に制圧されたと見て間違いない」


「三つ。影糸の工作員リスト」


賢者四番が、わずかに目を細めた。

影糸は自分の管轄だ。


「漏れている可能性がある。ドゥルスです」


賢者二番が静かに言った。


「子供の暗殺命令を拒否して逃げた男。先月から行方が掴めていない。彼が亡者のもとに転じたとすれば——影糸の暗号体系、工作員の名前と配置、王宮内の接触ルート、全てが流出していることになる」


「なぜ気づかなかった」


賢者一番の声が低くなった。


「……申し訳ありません。あの男が亡者のもとに行くとは予測できませんでした。逃亡者は通常、国外に出るか、身を隠すかです。組織に敵対する側に転じるとは——」


「甘い」


賢者一番は遮った。


「ドゥルスは優秀な男だった。だから危険だ。優秀な者が離反した時、その損害は最大になる」


会議室に重い沈黙が落ちた。


賢者四番が口を開いた。


「影糸の再編が必要です。現在の暗号体系は廃止し、新しいものに切り替えます。工作員の配置も全面的に見直す。ただし——時間がかかります。最短でも一か月」


「一か月、待てるか」


「……厳しいと思います。今の状態で影糸を使い続ければ、残りの工作員も次々に洗い出される」


「では動かすな」


賢者一番は言った。


「影糸は一時停止。その間は、我々が直接動く」


賢者三番が慎重に言った。


「もう一点、ご報告があります。南方の竜ですが——計画通りに動いています」


「詳しく」


「古竜の移動経路を誘導した通り、北上を始めています。王都への接近は——早ければ数日以内かと」


賢者一番の目がわずかに動いた。


「竜が王都に迫れば、枢機卿も亡者も竜の対処に集中せざるを得ない。その隙に——」


「しかし」


賢者二番が遮った。


「亡者の魔力は、古竜を超えている可能性があります。七賢院の計測術師が観測した際、計器の上限を振り切ったという報告が来ています。段階の概念を超えた力を持つとすれば——竜への対処が隙になるどころか、逆に力を全解放する口実を与えるだけになりかねない」


沈黙。


「それに」賢者二番は続けた。「枢機卿は今日、南方への支援隊を率いて出発したと聞いています。王都を離れた。これは——亡者も同時に動く、ということではないですか」


「どういう意味だ」


「もし二人が同じ体であるなら——枢機卿が南方にいる間、亡者は北方に現れる。竜への対処を、亡者が一人でやり遂げる。その圧倒的な力を見せつけながら」


会議室が静まり返った。


賢者一番はしばらく何も言わなかった。


「……それでも、竜は動かす」


やがて言った。


「陽動に使えなければ、別の使い方がある。竜が王都に迫ることで、民の恐怖が高まる。恐怖の中では、人は判断を誤る。王も、騎士団も。その混乱の隙に——」


「証拠の消去作業を進める」


賢者三番が言った。


「そうだ。枢機卿が王都にいない隙に、王宮内の残りの拠点を整理する。証拠の帳簿を処分し、接触記録を消す。法廷に出せる証拠を減らす」


「しかし」


賢者四番が慎重に言った。「枢機卿の参謀——シルヴィアが王都に残っています。あの女は優秀です。証拠の保全に動いている可能性がある」


「シルヴィアを排除する手を考えろ」


賢者三番が低く頷いた。


会議室に暗い決意が満ちた。


七賢院は追い詰められつつある——それは、この室内にいる四人全員が分かっていた。


しかし——まだ動ける。

まだ手がある。

まだ取り返しがつく。


そう信じることを賢者一番はやめなかった。


五十年かけて作り上げた組織だ。

たった一人の枢機卿とたった一人の亡者に、崩される道理はない。


「以上だ」


賢者一番は立ち上がった。


「それぞれの持ち場に戻れ。次の会議は三日後。その時までに、シルヴィアの件の案を持ってこい」


三人が退室した。


最後に一人残った賢者一番は、暗い会議室の中に立ったまま、しばらく動かなかった。


枢機卿が南方へ向かった。

亡者は北方へ向かうだろう。


二人が同じ夜に別の方向へ動く。


——本当に同じ体なのか。


その問いが五十年の経験を持つ老人の頭の中で静かに渦を巻いていた。


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