↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/325

ヴァルミナ攻防戦⑦

<さらなる罠>


 マーリスは隊列の最後方付近で周囲を警戒しながら進軍していた。


 先頭ではレオン達が建物へ入り、潜んでいる弓兵を排除する。


 安全が確認されるたびに、リューン隊が騎馬のまま少しずつ前進する。


 その繰り返しだった。


 狭い路地には依然として障害物が残されていたが、一つずつ着実に突破している。


 あと少し。


 この隘路を抜ければ、一気に道が開ける。


「このまま押し切れそうですね」


 隣を進む兵が小さく呟いた。


 マーリスも静かに頷く。


「ええ……レオン様達のおかげです。」


 先頭では三人が次の建物へ向かっている姿が見える。


 その時だった。


 ――ドォンッ!!


 突如、大地を揺るがすような轟音が響いた。


 マーリスは反射的に顔を上げる。


「あ……」


 レオン達が入った三階建ての建物が、大きく傾いていた。


 柱が折れ、壁が崩れ、屋根がゆっくりと沈み込んでいく。


「レオン様!」


 叫ぶ間もなく。


 ゴゴゴゴゴッ――!!


 建物は巨大な土煙を巻き上げながら完全に崩壊した。


 砂煙が立ちこめ、中の様子はまったく見えない。


 マーリスは手綱を引いた。


「行かなくては!」


 駱駝を走らせようとした、その瞬間だった。


「おい! 崩れるぞ!!」


 左手から悲鳴のような叫び声が響く。


「えっ?」


 振り向く。


 通り沿いに建つ建物が、不自然に傾いていた。


「まさか――」


 次の瞬間。


 メリメリメリッ!!


 柱が折れ、建物全体がこちらへ倒れ始める。


「退避!」


 マーリスは咄嗟に叫んだ。


「離れて!」


 駱駝を後退させながら兵達へ手を振る。


 兵達も慌てて馬首を返す。


 直後。


 ドガァァァン!!


 建物が大地を揺らしながら崩れ落ちた。


 砕けた木材や瓦礫が辺りへ飛び散る。


 さらに。


 ボウッ――!


 崩れた建材の隙間から炎が吹き上がった。


「火……?」


 炎はあっという間に燃え広がる。


 油でも仕込まれていたのか、その勢いは異常だった。


 熱風が顔を叩く。


 燃え落ちた柱や瓦礫も重なり、巨大な炎の壁となって通路を塞いでしまった。


「これは……」


 マーリスは息を呑む。


 炎の向こう側。


 揺らめく熱気の先に、リューンの姿が見えた。


 リューンもまたこちらを見ている。


 互いに何が起きたのか、一瞬で理解した。


「分断……された?」


 その言葉を裏付けるように。


「うおおおおっ!!」


 炎の向こうから野盗達が一斉に姿を現した。


 隠れていた敵が、リューン隊へ雪崩れ込む。


 さらに。


「こっちにも敵だ!」


 背後から兵士の声。


 振り返れば、こちら側にも別働隊が現れていた。


 マーリスは歯を食いしばる。


(隘路へ誘い込み……退路を断って各個撃破する……。)


 建物の崩壊も。


 この炎も。


 すべて最初から仕組まれていた。


 サーレンは、この街そのものを罠に変えていたのだ。


「リューン殿!」


 マーリスは炎越しに叫ぶ。


 リューンは一度だけ目を閉じた。


 状況を整理するように。


 そしてすぐに目を見開く。


「白銀!」


 力強い声が炎を越えて届く。


「貴殿はそちらの兵を率いて一度下がれ!」


 マーリスは息を呑む。


「別の道を探せ!」


 迷いのない命令だった。


 リューンはすぐさま兵達へ向き直る。


「聞け!」


 その声だけで兵達の視線が集まる。


「我らの活路は前方のみ!」


 剣を高々と掲げた。


「雑兵を蹴散らし、この道を切り開くぞ!!」


「「おおおおおっ!!」」


 鬨の声が響く。


 兵達の士気が一気に燃え上がる。


 炎の向こうで、リューン隊はそのまま敵陣へ突撃していった。


 マーリスはその姿を見つめる。


 そして、崩れた建物の方へ視線を移した。


 土煙はまだ晴れない。


 レオン達の姿も見えない。


(レオン様……。)


 助けに行きたい。


 今すぐ駆けつけたい。


 だが。


 マーリスは静かに目を閉じた。


 一呼吸だけ置き、覚悟を決める。


 今、自分には守るべき兵達がいる。


 リューンから託された役目がある。


 ならば――。


 マーリスは駱駝の手綱を強く握った。


「我らは一度下がる!」


 兵達が一斉に振り向く。


「私に続け!」


「はっ!」


 返事が重なる。


 マーリスは乱れかけた隊列を素早く整え、兵達を先導する。


 焦る兵へ声を掛け、遅れる者を待ち、進路を示す。


 これまで幾度も積み重ねてきた実戦の経験が、自然と身体を動かしていた。


 炎の向こうでは、なおもリューン隊の雄叫びが響いている。


 一方で。


 レオン達が埋もれた建物からは、何の反応も返ってこなかった。


(どうか……。)


 マーリスは胸の中で静かに祈る。


(どうか、ご無事で。)


 その願いを胸にしまい込み、彼女は兵達を率いて別ルートを探すため、旧市街地へ駱駝を走らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。