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7「お前は!一体いつまで!ついてくる気なんだよ……エリア!!」

 絶対に壊れないという、カコリアの聖剣を手に入れる。それが当面の自分達の目標である。

 勿論、最終目標は充分な戦力を手に入れた上で、世界中のあらゆる未踏のダンジョンを冒険することにあるのだが――現状では、それ以前の問題であるからだ。流石に、魔力防御しても数回ぶん回しただけで武器が壊れるような状況はどうにかしなければいけない。実際、試験でロークが使った大剣は、イビル・スパイダーをぶっつぶすと同時に砕けてしまったのだから。

 勿論、そのたびに剣を買い直せば急場しのぎにはなる。なるのだが、元よりまともな大剣は高価なのでだ。毎度毎度バトルのたびに買い替えていたら、どんだけ稼いでも足らない。そもそも、新米冒険者であるロークとカナンにそんな予算があるはずもないのである。


「ていうか、俺達二人とも家も裕福ってわけじゃなかったしね」


 ギルドの受付で順番待ちをしながら、カナンがため息をつく。


「一応、最初の資金は親が援助してくれたけど……これは、できれば使わないでおきたいよね。むしろ、利子つけてちゃんと返さないと。家族を楽させたいっていうのもあって、俺達冒険者になったんだから」

「だよなあ。ひとまず、この間の試験の様子からして……フルパワーでぶっ叩かなければ一回で壊れることはない、か?」

「多分。しばらくは、五割くらいの力までセーブできるように頑張って。多分、大抵のモンスターは五割以下の力で充分対処できるから」

「おっけ」


 そもそも、剣をすぐ買い直せる環境とも限らない。それこそダンジョン探索中に武器が壊れたら、次を補充することもできないのである。そして、大剣は予備を持って歩くにはいくらなんでもかさばり過ぎる。

 勿論、もう少し軽い武器に持ち帰る選択肢もないというのだが。そんなの、冒険者試験前にいろいろ試しているのである。大剣よりも軽いロングソード系、レイピア系は魔力防御したところで即座に折れるのが関の山だった。その上で大した威力にならない。踏んだり蹴ったりである。それで結局、やっぱり大剣を振り回すしかねえ、というところに落ち着いたのだから。


「目的地は、カコリアの聖剣があるという白の遺跡、なんだけども」


 ちらり、とロークは後ろを振り返る。さっきから妙な視線を感じて仕方ない。理由はなんとなくわかってはいるのだが。


「……俺達の実力で、いきなり白の遺跡は無理だよな。しかもカコリアの聖剣って最下層、白竜が守ってる巣の近くで見つかるっていうだろ。今の俺らじゃすぐ返り討ちにされて終わりそうだ」

「さすが、前世で黒竜にワンパンされたローク君は言うことが違うね」

「うっせーわ!……というか、そんな上級ダンジョンに潜るためには装備もがっつり整えておかないといけねーのに、今の俺らはそれも足らない。装備整えるために金もない。というわけで……まずは初級ミッションで金稼ぎと実戦経験を積むってわけでいいか?」

「うんうん、ちゃんとわかってるようで何より」


 基本的に、冒険者は遺跡を探索して持ち帰ったものを国に買い取ってもらうことで生活しているわけだが。

 国や企業から“今はこれが欲しいです”というリクエストが出ていることも少なくない。そういう品は大抵急いでいるということもあり、基本的には一般の価格よりかなり高額で買い取ってもらうことができるのだ。ゆえに、リクエストミッションはこまめにチェックし、受注していった方が良いのである。そのリクエストの受注は、試験を受けた訓練ギルドでできることになっている。そしてギルドは各町にあるので、A町で受けた任務をB町で完了申請してもいいのだ。

 その場合は、持ち帰ったものはB町ギルドに預けることでミッション完了ということになる。各町のギルドは国の専門の宅配業者が頻繁に回っている。彼等がギルドに預けられた宝物を回収し、随時国に届けてくれるという仕組みになっているのだ。

 ちなみに、リクエストミッションとは関係ない宝物を持ち帰った場合も、同じくギルドに申請して預け、政府に送って貰うことができるようになっている。その場合は宝物の価値を国の研究機関が審査し、審査後にそれに見合ったお金が随時ギルドに開設した自分の口座に振り込まれるのだ。


「冒険者試験が終わった直後は、初心者向けのミッションはあっという間に定員になっちゃうから、急いで受注しないと。まずは近くの青の遺跡の低難易度ミッションかな。薬草集めから始めるのがベターなところ。難しい装備要らないし」

「だな。みんな同じこと考えるんだろうが」


 列が少しずつ短くなっていく。そのたびに、思わずロークはカナンと共に後ろを振り返るのだった。

 ちらり。また、ちらり。


「……やっぱり、アレ、だよな?」


 ロークがげんなりして言うと。カナンが呆れたように“だよねー”と笑ってみせたのだった。




 ***




 てくてくてくてく。

 てくてくてくてく。

 青の遺跡にて、薬草集めのリクエスト受注にどうにか成功したロークとカナン。定員はギリギリのギリギリだった。あと少し、列に並ぶのが遅かったら受注終了していたところだろう。

 青の遺跡は、自分達の故郷の村からさほど離れていない場所にある。徒歩で三十分も歩けば充分到着できる距離だ。よって、最低限の傷薬、防具、新しい大剣などだけ購入して出発したというわけだが。


「……あのさあ」


 てくてくてくてく。

 てくてくてくてく。


「いい加減しつこいんだけどさあ」


 てくてくてくてく。

 てくてくてくてく。


「お前は!一体いつまで!ついてくる気なんだよ……エリア!!」


 田舎道を歩いていく中。さっきから、足跡が一つ増えるという怪奇現象さながらの体験をしている。まあ、その現認はホラーではなく、自分達にずーとくっついてくる女のせいなのだが。


「はっ!?」


 ピンク髪のツインテ女は、慌てたように木陰に隠れた。いや、その派手なピンク頭、隠しきれてませんが。しかもツインテだし。呆れるロークに、そろーっと顔を出してこちらを伺ってくるエリア。


「あ、あんたやるわね……!この私の尾行を見破るなんて!」

「いや、バレバレだから!お前、試験直後からずーっと俺らのこと監視してるだろ。え、なに、ストーカーなの?そーなの?」

「うわあ、激しくキモいね!」

「誰がストーカーじゃ、誰が!そしてそっちの金髪、笑顔でキモいねとか言うんじゃないわよ!!」


 くわっ!と目を見開いて言うエリア。ロークは心底うんざりする。第一印象が第一印象だったので、この女の印象はお世辞にも良いものではない。人の努力を馬鹿にする人間、がロークにとっては一番嫌いな人種であったからだ。――昔の自分を思い出すから、という意味では同族嫌悪にも近いのだが。


「何の用だよ。お前、一人で試験に合格したんだろ。好きなように一人でミッションでもなんでもやればいーじゃん」


 確かに、顔だけ見ればそれなりに可愛いとは思う。思うが、ニンゲンとして好きな相手かどうかはまったくの別問題。

 いくら美人でも、性格最低女に付きまとわれて悦ぶほどドMではないのだ。


「そりゃ、一人で合格したやつが他の奴とチーム組んじゃいけないなんて規則はないけどさ。単純に俺がお前と組みたくないんで。じゃ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まるで私が、あんたらとチーム組みたくて仕方ないから付きまとってたみたいな言い方!」

「え、それ以外になんかあんの?」

「ないでしょ?それ以外に」

「あんたら息ぴったりか!」


 なお、チームで登録して合格した冒険者は、チームでミッションをこなすのが大前提ということになる。裏を返せば、いくらチームで喧嘩したところで簡単に解散させることはできないのだ。どうしても仲間割れして収拾がつかなくなった場合は、解散と同時に資格を新しいチームで取り直さなければいけなくなるのである。

 ゆえに、冒険者資格を取る時は個人で取る方が本当は融通が利く。チームの方が試験の難易度は下がるが、万が一仲間割れした時に厄介なことになるからだ。それでもロークがカナンと共にチームを組むと決めたのは、彼とならチーム解散の危機はまずないと思ったのと、一人で冒険することの限界を前世で感じていたからが大きいのである。


「わかってんじゃない、私は一人で合格したのよ。つまり!あんたらよりも凄いの、めっちゃ強いの!」


 ふふーん、と胸を張るピンク頭。


「しかも宝物使いとしてのスキルもすっごいんだから!あんたらが私の試験を見てなかったっていうのが残念で仕方ないわー」

「見てなかったことを知ってる時点で気持ち悪いよね!」

「い、いいでしょ別に!……だから、その!つよーい私が、あんたらのミッションを手伝ってあげようって言ってるの!あんた達みたいなザコな新人なんて、初心者向けミッションもこなせるかどうか怪しいんだから。感謝しなさいよね!!」

「ツンデレか!」


 それを見て、ロークはピーンと来た。多分、一番最初に自分に絡んで来た時は、本当にただちょっかいをかけたかっただけなのだろう。でも多分、今は。


「なるほど?」


 ジト目で彼女を見ながら、思わずストレートに言っていた。


「つまり、新人の中では俺達が役立ちそうだから利用してやろう、と。しかもその様子だと、列に並ぶのが遅くて薬草ミッションを受注できなかったから、俺らのチームに入って報酬のおこぼれをもらおうって魂胆だな?」

「ぎっくうう!!」

「……自分は凄い強いとか豪語するわりに、やることコスすぎね?」


 こいつ、実は結構ドジなのか。そーなのか。呆れ果てつつ、ロークはパッと片手を上げて告げた。


「結構です。俺、相棒いるんで。戦力には間に合ってるんで、要りません。貴女は一人で頑張ってください、それでは」

「はい、リーダーがそう言うので以下同文です。あなたの今後のご活躍をお祈りしております。以上!」

「何で敬語!?ちょっと、就職試験で落ちた時の書面みたいな言い方すんのやめてくれない!?」


 まだ何か言っているが、無視は無視である。冒険者としての初任務、さっさと終わらせて帰るに限る。こんな初心者任務に何日もかけてなどいられないのだから。

 くるっと踵をかえして、すたすたすたーっと歩き始めるロークとカナン。後ろから、エリアの喚く声が続いていた。


「ちょっと、待ちなさいよ!ちょっとおおおおおお!」


 なんともしつこい、というか諦めの悪い女である。

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