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18 黒江教団with綺羅星ロケッツ☆①

【忍】

 講堂を後にした私と真紀ちゃんはその足で音楽室を目指しました。

 最後に演奏した美少女先輩たちはどうやら軽音楽部ではないようなのですが、団体の名前も碌にわからず、他に手がかりもないので、ひとまず軽音楽部で話を聞くことにしたのです。

「失礼しまーす。」

 真紀ちゃんは3回ノックをしてから返事を待たずに部室のドアを開きました。

 入り口に立つ私たちの姿を見止めた、先輩の女子生徒が駆け寄ってくれました。

「入部希望の新入生ですね。これかr・・・」

 それは突然でした。

 何かが爆発したかのような大きな音がして、ビクッと背中が跳ね上がりました。

 横目で真紀ちゃんの様子を盗み見ると平然とした顔、先輩に至ってはなぜか顔を顰めていました。

(驚いてるの私だけ?ちょっと恥ずかしい・・・)

 少しだけ頬に火照りを感じて、バツが悪かった私は二人から顔を逸らしました。奇しくも、向いた先には事態の元凶である、ドラムを叩いている男子生徒がいました。

(私にとっては痴態の元凶でしょうか・・・ってやかましいわ!というか、あれは田中先輩?ギターだけでなくドラムもできるんですね。)

 なんとはなしにドラムを眺めていた私でしたが、不意に袖が引かれました。振り返ると先輩が手招きをして私たちを廊下に出るように促していました。

「ごめんなさい。あれじゃ話もできないわよね。」

 部室のドアを後ろ手に閉めた先輩は開口一番そう口にしました。申し訳なさそうな先輩に私たちは各々問題ない旨を伝えて首を振りました。

「先輩、新歓ステージのドラム格好よかったです。」

 私たちのいた場所からステージはかなり遠かったはずですが、真紀ちゃんは先輩の顔がわかるようです。

「ふふ。ありがとう。ちなみに・・・」

(可愛い人・・・)

 目と眉毛の間で一直線に揃えられた前髪、肩甲骨ほどまで伸びた髪はからすば色。目元はきりっとしています。そして話し方や姿勢の良さなどから真面目な印象を受けました。

 こうして先輩の顔を観察しているのは私の趣味などではありません。もっと違う理由があります。

(な、何言ってるのか全然聞こえない・・・)

 先ほどよりだいぶマシとはいえ、廊下まで鳴り響くドラムの音でふたりの会話は部分的にしか聞こえませんでした。

(でも先輩がステージに出ていたことはわかった。もしかしたら、美少女先輩のこと何か知っているかも。)

 私はドラムの大音量に苦戦しつつ、会話の切れ間を窺いましたが、どうにもうまくいきませんでした。そうして二の足を踏んでいるうちに話は終わり、私は促されるまま音楽室に入りました。

(知らない間に軽音楽部の説明を聞くことになってる・・・)

 染み付いた習慣とは恐ろしく、私は異を唱えることができず、流されるままふたりの後を追っていました。

 案内されたのは多くの新入生が座る席の一角。用意された席は私たちが入った時点でほとんどが埋まっており、残る席もほどなくして埋まりました。

 音楽室に用意された席はその広さに対して1/3程度。音楽室は普通教室の2倍程の大きさなので、大体30人弱といったところでしょうか。前方の教壇を臨む形で席が作られています。

 私たちが席に着くころにはドラムの音は止み、私でも会話が聞こえるようになりました。

 周りの声に耳を傾けてみると、「ステージの演奏格好良かったから来た」とか「ギター触ったことないけどできるかな」など初心者も多いようで、なんだか少しほっとしました。

(ここにいる全員が入部しないとしても、先輩部員と合わせるとかなりの人数になるよね。)

 こと先輩たちはというと、部屋の後方で楽器の準備をしています。座っておしゃべりしている人もいますし、大所帯の部活のようです。

「ではこれより入部希望者へのオリエンテーションを始めます。私は部長の佐藤です。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。では、はじめに・・・」

 ほどなくして先ほど案内してくれた先輩が教壇に立ちました。どうやら部長さんだったようです。

 部長さんの話は見た目の印象と違わず、理路整然と進められました。入部希望者たちは静かに耳を傾けています。

(ところで、オリエンテーションとオリエンテーリングって似すぎじゃない?中学のとき、オリエンテーションと聞いて「じゃあ着替えなくちゃね」ってトモちゃんに言って白い目を向けられたのを思い出す・・・トモちゃん、ズッ友って言ってくれたけど今頃何してるのかな・・・)

 部長さんの淡々とした声だけが響く中、つい妄想の海に沈みそうになりました。

 私は小さく頭を振って妄想を打ち切り、代わりに周りの様子を窺ってみました。

 流石にスマホをいじっている人はいませんでしたが、配られた資料にお絵かきをしている人や夢の国に旅立っている人はちらほら見受けられました。

(ま、前の人、あからさまにカツラだってわかるピンク色・・・なんだか落ち着かない様子だしどうしたんだろう。隣の人は部長さんがお話してるのにずっと本読んでる。もう片方の隣の人は船漕いでる・・・って寝てるのは真紀ちゃんだよ!)

「ほら真紀ちゃん、起きて・・・」

 肩をゆすりつつ小声で声をかけましたが、真紀ちゃんは一向に起きる気配がありませんでした。

 それでも諦めずに続けているところに、しかしてそれは起きました。

「では続いて軽音楽部の歴史について・・・」

「はーい!」

 それは突然でした。

 目の前で挙手しているひとりの女子生徒。鈴のような声とともに立ち上がったその生徒の髪はピンク色でした。

 その声はそれほど大きくなかったと思います。ですが、お通夜のような雰囲k・・・厳かに進行していたオリエンテーションの中ではとてもよく聞こえました。

 いえ、たとえ雑多な街の中ででもよく聞こえたに違いありません。それはとても澄んでいてよく通る声でした。

 あまりの突然のことに、真紀ちゃんが飛び起きて寝ぼけながら拍手していました。しかしそんなことより、私の神経は挙手をしている目の前のピンク髪の子に囚われていました。

「・・・・・・軽音楽部の歴史は古く、この学校で長く続く部活のひとつです。」

(む、無視した!?)

 無視です。部長さんは椅子に座る集団の中で異質に直立するピンク髪の子に一瞥を向けたきり、話に戻ってしまいました。

 ピンク髪の子はそれでもめげずに「おーい」と声を上げたり、ぴょんぴょんと飛び跳ねたりして猛アピールしています。

 ついには部長さんの目の前まで移動して顔の前で手を振りだす始末。手のひらが顔の前を通過する度に部長さんの表情が険しくなっていくようでした。

 それでも無視して説明を続けていた部長さんですが、チラチラと横切る挙手についに耐えかねたのか、その手を振り払ってピンク髪の子に向き直りました。

「黒江!人が真面目にやろうと思ってるのに何なの!」

「よかったー。アナザーの世界線かと思ったよー。」

 憤慨する部長さんに対してピンク髪の子はカラカラと笑っています。

 ようやく見えたその横顔には見覚えがありました。それは美少女先輩でした。

(美少女先輩はクロエさんって名前なんだ。フランス人かな・・・?)

 以前私に対してもそうであったように、フレンドリーに接しているその姿は、凡そ私の記憶にある日本人像とはかけ離れていました。あながち間違いでもないのかもしれません。

「アナザー?何のこと?」

「え、わからない?まあいいや。それより、これは何?まるでお通夜じゃん。坊主のお経でももっとメリハリあるでしょ。あ、メリハリってなんかラップっぽくない?」

 それまで突然起きた事態を訝しむ、張り詰めた空気が蔓延していた音楽室に少しだけ弛緩した空気が流れました。

 見やればピンク髪のクロエ先輩は「坊主が上手に屏風に坊主の絵を描いたっ!」とラップ調に唱えており、その空気を加速させていました。

(それはラップと言っていいのでしょうか・・・?)

「意味がわからないわ!いきなり何なの!」

「えーほんとに私が言いたいことの意味がわからない?」

「こんなところで問答をするつもりはないわ!」

 なおも続く出来事に、私を含め音楽室にいるそのほとんどの人は成すすべなくその行方を見守っていました。

 唯一と言ってもいいだろう例外はお隣の読書少女。こんな異常事態にも関わらず、一瞥すら向けず、本を読み耽っているその姿勢からは確たる意志を感じました。

「しょうがないなーじゃあ教えてあげるよ。みんな、軽音部の歴史なんかよりもっと別のこと知りたいんじゃない?」

「そ、それは・・・」

 言い淀む部長さんの視線は音楽室の後方に向けられています。

 一見、誰かに助けを求めているようにも見えますが、部長さんの性格を考えるとそれはなんとなく違う気がしました。

 そんな部長さんを知ってか知らずか、ピンク髪のクロエ先輩は話を続けました。

「そういえばよく私だと分かったね?」

「鏡見てものを言いなさい!それに、たとえ変装して見た目で分からなくなっていたとしても、こんなことするのはあなたしかいないでしょう!」

「それはつまり私のことよくわかってくれてるってことだね!そうです私です!」

 明らかにカツラだとわかるそのピンク色の下からは色素の薄い茶髪が現れました。

 カツラを被るためにまとめていただろう髪は、しかして一切の絡まりがなく、ふわりと舞うその様は甘い花の香りを伴っている気がしました。

 豪快に抱きつくクロエ先輩を押し除けている部長さんでしたが、本気で嫌がっているようには見えませんでした。

「くっつかないでうっとうしい!はあ・・・で、本当の目的は何?私に説教するためじゃないでしょ?」

「そうだった!ふっふっふ・・・私は新入生を奪いにきたのだよ!」

「・・・は?」

「・・・は?」

 思わず口をついたその言葉は期せずして部長さんと同じものでした。きっとこの場にいるほとんどの人は私と同じ気持ちに違いありません。

 音楽室には再び静寂が広がり、唯一聞こえたのは本のページを捲る音だけでした。

20230525サブタイトルの附番を変更しました。

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