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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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鍛錬


 自らを鍛え直した方が良い、そう考えてハクト達は翌日……演習を終えての休憩日にしようとしていた休日に、ブキャナンがかつて住んでいた森へとやってきていた。


 この森は一種の聖域であり魔力に満ちた場所であり、他人の目や迷惑を気にせず鍛錬出来る場所というのは中々存在しないものなのだが、その条件全てを満たしていて……その上、演習で小狡い手を使ったブキャナンには遠慮をする必要もないとあって、これ以上ない場所であったからだ。


 ジャージ姿で森へと向かい、到着したなら柔軟体操をし、魔力を練り上げ……練り上げたなら身体中に魔力をまとわせ、ゆっくりと体を動かしていく。


 舞踊のようにゆっくりと魔力を保持したままハクトは両手を、グリ子さんは両翼を広げ、全く同じ動きでタイミングで体を動かし……そうしながらどんどん魔力を高めていって。


 ハクトが片足を上げて体を斜めにしてすっと手を伸ばしたなら、グリ子さんも同じようなポーズをし、両足をしっかりと地面について腰を下ろして拳を突き出したならグリ子さんも……その丸い体で出来る限りの同じようなポーズをし。


 召喚者と幻獣はそうやって心を合わせて通わせて、連携するのが大事だからと体を動かしていって……そんなハクト達の様子を不思議そうに眺めていたジャージ姿のユウカが、ずっとそうする機会を待っていたのか、一息ついたところでハクト達に声をかけてくる。


「そう言えば先輩、グリ子さん、昨日の演習の後半で、私だけ特に何も無かったっていうか、皆さんみたいに不運に見舞われなかったんですけど、あれはなんでなんですか?

 あの後、参加者で開いた反省会でも皆さん不思議そうにしていたんですけど……聞かれても私、思い当たることがなくて……」


 そんな問いを受けてハクトが動きを止めて言葉を返そうとしていると、それよりも早く頭上の木の枝から落ちてきたかのように、逆さまな状態で落下してきた天狗姿のブキャナンが、逆さまのまま地面に頭を突いて立つという、不可思議かつ訳の分からないことをしながら答えを返してくる。


「そいつについてはあたくしがお答えしやしょう。


 と言っても、そんな大げさな話じゃねぇもんで……そもそもですね、風切のお嬢様はグリ子様の加護を得ていらっしゃる。

 そこにグリ子様が不幸にしてやろうと魔力を注いでも意味がねぇんですよ。

 力と力がぶつかりあった結果、打ち消し合ってしまうと言いますか……自分が与えた幸運と同じだけの不運を与えても何も変わらねぇと言いますか……。

 まぁ、加護の力を打ち消したって意味では無意味とも言えねぇかもしれませんが、同じような理由で加護の力でもってグリ子様を害することはできねぇので、あの場ではほぼほぼ無意味であったと言っても良いのでしょう。

 ちなみにですがあたくしにも同じくグリ子様の加護がありまして、あの演習で一番良い成績を残せたのはそのおかげ、という訳ですねぇ」


「え、あ、そっか、そういう感じなんですか……私は前からグリ子さんのこと知ってて仲良しだからグリ子さんの魔力が効かなかったと……。

 なーるほどー……それは盲点でした」


 ブキャナンの言葉にユウカがそう返すと、ブキャナンは首を傾げながら言葉を返す。


「んん? その理解では微妙に違うと言いますか、仲が良いのと加護があるってのは必ずしも同じ意味ではねぇと言いますか……」


「あれ? でもグリ子さんなら絶対に仲良くなった人、全員漏れなく加護をあげちゃいますよね? だから同じ意味になりませんか?」


「うぅーーーーん、あたくしもそう思うところがねぇでもねぇんですが、学生さん相手には出来るだけ正しい知識を与えたいと言いますか、間違った認識は正したくなると言いますか……。

 ……えぇい、黙ってねぇでハクトさん、アナタからも何かを言ってあげてくださいな」


 するとハクトは、ユウカ達が会話をしている中、続けていた舞踊のような鍛錬をやめて、魔力を体から抜きだし、空中に霧散させながらゆっくりと息を吐き出し、それから口を開く。


「ふぅー……まぁ、そうだな。

 グリ子さんは心優しい幻獣だからね、誰とでも仲良くしようとするだろうし、仲良くなった皆に加護を与えたいと思っているのだろうけど……流石にね、それだと魔力が足りな過ぎるからね。

 国民全員はもちろん無理だし、地域別でも無理、県民全てというのも市民、町民全てというのも無理で……特別親しくなった数人が限界というところだろう。

 ……いや、数人くらいは既にやってしまっているから、十数人といった所かな。

 そう考えると大僧正の言の方が正しいと言えて……そういう理解でいたほうが学業でも良い結果に繋がるはずだよ」


「へぇーー、そうなんですね、分かりました!

 ブキャナンさんもありがとうございます!」


 と、そう言ってユウカは笑みを浮かべて、それに対してブキャナンが微笑みながら頷く中、ハクトとグリ子さんは鍛錬を再開させる。


 今度は同じ動きをするのではなく相対するように……戦うべき相手が目の前にいるのだという想定でゆっくりと、魔力を練りながら動いていく。


 そうして手と翼が触れ合うと魔力が弾けて、光が散って……それを見ていたユウカは自分にも出来ないかと真似をし始める。


 魔力を練ることは出来る、それを身にまとわせることも、ハクト達程綺麗ではないが出来る。

 

 そのまま動くことも、普段やっていることも出来るのだが……そこから更に魔力を集め、大きくし、高めることが出来ず……ユウカは動きだけハクト達の真似をしながら首を傾げる。


「しばらくはそのまま真似をするで良いと思いやすよ。

 存分に真似をして……良い頃合いとなっても前に進めねぇようであれば、またあたくしの方で助言させていただきやす。

 なので今は愚直に真似を続けるがよろしいかと」


 そんなユウカに対しブキャナンがそう言って……ユウカはそれを素直に受け入れて、ハクト達の真似をしていく。


 そしてブキャナンはそれを見てからハッとした表情となって、何かに気付いて両手で自分の顔を覆う。


 正しい助言をしてユウカが強くなったとして……そしたらまた自分が手合わせさせられるのでは? 以前の手合わせの時よりも厳しい状況に置かれるのでは? と、そんなことを考えたブキャナンは……両手の奥の仮面の奥で何とも言えない表情をしてから、大きなため息を吐き出すのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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