幻獣災害について
「そういえば先輩、幻獣災害ってどうして起きるんですか?
以前確か……不法な召喚とか召喚失敗とか言ってたような気がするんですけど、それって具体的にどうして起きるんですか?
それと他の理由があったりするんですか?」
話が一段落したのを受けてか、ユウカがそんな問いを投げかけてくる。
それを受けてブラッシング道具を片付け、抜けた羽毛などをほうきで掃き集めていたハクトは、その作業を一段落させてから道具を片付け洗面所で手洗いを済ませて……自分とユウカとブキャナンと、それとグリ子さんの飲み物を用意してから、リビングテーブルの席につき、言葉を返す。
「そうだな……ではまずは、不法召喚についてから説明していこう。
幻獣召喚は国家資格……学院や専門大学などを卒業することで取得出来る資格が必須となっている。
理由としては凄まじい力を持つ幻獣の力を犯罪などに利用されたら大惨事になるからで……銃刀法などとは比べ物にならない程の厳格さで資格運用がされているんだ。
召喚の許可を取るにはかなりの手間が必要で、召喚陣を用意するだけでも恐ろしいまでの手続きが必要で……そこら辺の手続き全てをやってくれる、学院などの管理下で召喚するのが一般的だ。
他にも各都道府県庁や、四聖獣鎮所などでも召喚出来るが……まぁ、こちらは特例中の特例でしか利用出来ないと思った方が良い。
そうした資格を持たない者による、正式な手続きを経ない召喚が不法召喚で……そんなことをする連中の主な目的は幻獣の力を犯罪に利用するためとなっている」
そう言ってからハクトはリモコンを手に取り、テレビの方へと向けながら言葉を続ける。
「何度も言うけど幻獣の力は凄まじい、俺達の生活を支える様々なインフラにまで使われている程だ。
たとえばこのテレビの電波、テレビをつけるための電力、水道やガス……道路やトンネルなどのインフラ工事などにも幻獣の力が使われている。
単純に戦闘能力だけを見ても、人類が所有する兵器よりも高い訳で……その力を使えば大体の犯罪が出来てしまうだろう。
そしてそんな犯罪を目論むような連中が召喚した幻獣は……ほとんどの場合で、召喚者の言うことを聞かないんだ。
召喚者の心を反映するのが幻獣だからね……どうしたって邪悪で凶悪な幻獣が呼ばれてしまうし、そもそも召喚者が未熟だとか召喚陣が不完全だとかという問題もあるし……召喚主が幻獣を虐待し、怒らせてしまって……なんてパターンもある。
召喚を失敗してしまった場合でも同じような理由での災害が起きてしまう訳で……そうした失敗を無くすために学院では厳しい教育を施しているという訳だ」
学院では毎年のように、成績不良や人格の問題や、重篤な病気にかかってしまったなど、様々な理由での留年処分や退学処分がかなりの数、下されている。
どちらも卒業を許さない……つまりは召喚資格を与えるに値しないという処分であり、留年にしても退学にしてもその処分が撤回されることはあり得ない。
留年には『一年の猶予をやるからありがたく思え』退学には『二度と幻獣に関わるな』という意図が込められていて……仮にハクトがそうした処分を下されたとして、父親が山のような金を積み上げても、コネを使って多数の政治家を動かしても、暴力による脅迫をしても、学院は絶対に処分を撤回しないだろう。
「学院を卒業し召喚を無事に終えたとしても、幻獣を虐待したとか……あるいは召喚主が血迷って災害を起こすように命令しただとか、事故や病気などで召喚主が意識を失い幻獣が暴走した、なんて理由で災害が起こることもある。
グリ子さんのように優しく、理知的で、こちらの世界に親しみを持ってくれている幻獣であれば暴走するなんていう心配はまず無いのだが……全ての幻獣がそうではないからね、そういった意味でも召喚主は様々なことに気をつける必要があるんだ。
他にも召喚ではない方法で世界を移動してきた幻獣や、大僧正のような古来より住み着いている幻獣が暴れるなんてこともあるが……まぁ、これは稀有な例だろうね」
と、ハクトがそう言った直後、ブキャナンがコホンと咳払いをし、自分へと注目を集めてから口を開く。
「それと自然な形で幻獣がこちらの世界に生まれる、発生するという例もありえなくはないですねぇ。
幻獣と呼んで特別な生き物のように扱ってはいますが、元々は他の世界に存在する……その世界で自然に生まれ出た獣や魚や虫や……人種の一種である訳ですから、当然こちらの世界にある日突然、幻獣に相当する生物が生まれ出るということもあり得る訳です。
……他にもまぁ、幻獣が幻獣を召喚する、あるいは生み出すなんていう例もありまして……例の虫型幻獣なんかは、自分の分体を生み出していたようなので、後者に分類されまして……あたくしの小僧天狗、グリ子さんのミニグリ子さんも同じ分類と言えますねぇ。
あとは稀有過ぎる例ではありますが、幻獣とこちらの生物が番となり、新たな生物……新種の幻獣を生み出すこともあります。
かつて京の都で活躍した安倍さんちのハルアキさんなんかは、幻獣と人との間に生まれた、幻獣と呼んで差し支えのない存在で、彼自身幻獣を召喚して使役しておりましたので、幻獣が産んだ幻獣が幻獣を召喚していたという大変ややこしい例となっておりますねぇ」
そう言ってからブキャナンはハクトへと意味深な視線を送る。
その視線には、ハクトでは説明しにくかっただろう、変な遠慮をして説明しなかっただろう、そんな説明を自分がわざわざしてあげたんですから、感謝しなさいと、そんな意味が込められているようで……ハクトは不承不承といった様子で頷き、小さなため息を吐き出し、そうしてから声を上げる。
「概ねは大僧正の言う通りだ。
安倍某については俺からは何とも言えないが……まぁ、大僧正ならその目で見て知っているということもあるのかもしれないね。
……そして風切君、この辺りの教育に関しては学院も当然のように力を入れていて……試験がある度出題されるような内容だと思うのだけど、全ての説明に対し初めて聞いたような顔で頷いていたのはどういうことなのかな?」
そんなハクトの問いかけに対してユウカは、露骨に目を反らしながら首を大きく傾げ、
「さ、さぁ~~?」
と、そんなどうしようもない返事を返すのだった。
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