グリフォン柱
大きかったり細かったり変な形に曲がっていたり。
様々な木々が並ぶ山道をハクト達が進んでいくと……人工的にそうしたのか、自然とそうなったのか、木々の姿がぐんと減った、見晴らしの良い一帯へとたどり着く。
小高い山の頂上でもあるそこらに、生えている草の高さは膝程の高さで、向こうの山までの広々とした空間を望むことが出来て……屋根付きの椅子や自販機などがある休憩所もあり、木々に遮られることなく吹いてくる風の爽やかさもあってか、一同の表情が柔らかいものとなる。
なんとも気分が良いというか、和むというか……ハイキングの真骨頂を味わったような気分にもなれて、そうしてハクト達は休憩所へと向かい……ハクトとユウカは椅子に、グリ子さんは休憩所の隅にある一画にちょこんと腰を下ろす。
そうして自販機で購入したお茶やジュースなどを飲み……無言ながら悪くないように思える時間を過ごしていると……目の良いユウカが何かを見つけたのか、隣の山の方を指差し、声を上げる。
「先輩、なんか鳥がいっぱいいるんですけど……あれ、何してるんでしょうね」
それを受けてハクトとグリ子さんがユウカが示す方向へと……隣の山の上の方へと視線をやると、そこらに何羽……何十羽もの鳥がいて、一体何をしているのか、その辺り一帯を旋回しているような様子が視界に入り込む。
「ああ……あれは確か渡り鳥柱とかタカ柱と呼ばれるもの、だったかな。
俺も実際に目にするのは初めてなのだが……ああやって上昇気流に乗って高度を稼ごうとしているらしい」
その光景を視界に入れるなりハクトがそう言って……まるでハクトの言葉に合わせているかのように空を舞い飛ぶ鳥達がぐんぐんと高度を上げていく。
「え、あれってタカなんですか?
……あ、でもそうか、結構な距離があるのにこんなにはっきり見えてるんだから、それなり大きい鳥な訳か。
えっと……高度を稼いで、それでタカ達はどうするつもりなんですか?」
そんなハクトの言葉にユウカがそう返すと、ハクトはこくりと頷いてから……鳥達のことをじぃっと見やりながら言葉を返していく。
「ああやって十分に高度を上げてから渡る……つまりは遠方に移動するのだよ。
自らの翼でそうするよりも、上昇気流に乗ってしまったほうが体力の消耗を抑えることが出来て……長旅となる渡りのための体力を温存しようとしての行動らしい。
渡り鳥が移動をするシーズンかつ、上昇気流が起きる地形や天気などの様々な条件が合わさって初めて見ることの出来るものだと聞いてはいたが……うぅむ、まさかここで見ることが出来るとはなぁ。
どうやら俺達は相当に運が良いらしいな」
「あ……あれって珍しい光景なんですねぇ。
そこら辺のことを知ってないとただたくさんの鳥が遊んでいるようにしか見えないというか……私はまた虫とかそういう、空中にいる餌を食べているのかと……」
「タカなどの猛禽類は基本的に地面にいる鼠とか蛇を食べるのではなかったかな……?」
「あ、そう言えばそうか」
なんて会話をハクトとユウカがしていると……ちょこんと座ったまま静かに空を見上げていたグリ子さんが、その体をぶるりと震わせる。
震わせて目を輝かせて……羨ましそうに、あるいは憧れるかのように空を舞い飛ぶタカ達を見やる。
「グリ子さん……?」
その様子に気がついたハクトがそう声をかけると、グリ子さんはすくっと立ち上がり「クキュン!」と一鳴きし……タッタカと歩き始める。
今ハクト達がいるのは頂上で、まっすぐに進めば山道は下り始めるのだが、歩くグリ子さんの視線は上を……空を向き続けていて、まるで空に向かって歩いていこうとしているグリ子さんのことをハクト達が心配そうに眺めていると……山の頂上を撫でるかのような、強い風が吹いてくる。
するとまずハクトとユウカの頭の上に鎮座していたミニグリ子さんがふんわりと浮かび飛んで風に乗り……次にグリ子さんの体を覆う羽毛が、ミニグリ子さん達が……まるでたんぽぽの綿毛かのように風に吹かれたことでグリ子さんから分離し、ふわふわと飛び上がっていく。
そうして飛び上がったミニグリ子さん達は、その風の先にあるらしい上昇気流に乗って渦の中を泳いでいるかのような仕草でもってどんどんと高度を上げていき……そしてそれを追いかけるかのように、グリ子さんまでがふんわりと空に浮かび上がる。
「飛んだ!?」
それを見てユウカが驚きの声を上げる。
グリ子さんがその体の弾力でもって跳びはねる様子は見たことがあったが、今回の飛び方はそれとは全く異質のもので……軽々とふわふわと、上昇気流に乗って飛ぶ様はまるで風船のような、鳥のようにも見えなくはないものだったからだ。
「ま、魔力の力で飛んでいる……のか!?」
続く声はハクトのものだった。
ハクトはグリ子さんの体重やその翼の持つ力のことをよく把握していて、あんな風に飛べないということもよく理解していて、だからこそその驚き様はユウカよりも大きいもので……。
そうしてハクトとユウカはどこまでも上昇していくグリ子さんとミニグリ子さん達のことを心配するが、肝心のグリ子さん達はとっても良い笑顔を浮かべていて、とても嬉しそうで……そうやって飛んでいることを純粋に楽しんでいるかのようで、そのどこまでも楽しそうな笑顔と姿が、ハクト達が抱えている不安を取り除いてくれる。
自ら飛び上がろうとしていた訳だし……何か問題があればあんな風に嬉しそうにはしないはずだし……きっとこれは問題の無いことなのだと、そう考えを切り替えたハクトとユウカが、額に手を当てて太陽の光を遮りながらグリ子さん達のことを見やると、グリ子さん達は更に更に高度を上げていって……そうしてタカ柱を作り出していたタカ達と合流し……会話でもしているのか、一緒になって空を飛び始める。
高く高く上昇していき、上昇したなら目指す方向へと進路をとって向かい始め……そうやって何処かへと渡っていくタカ達と共にしばらくの間、満面の笑みで空の旅を堪能したグリ子さんは……ある程度まで進んだ所で、かくんと進路を変えて、鳥には不可能と思えるような急角度でハクト達の方へと視線を向けて……そうしてから一直線に、凄まじい勢いでもって飛んでくる。
そんなグリ子さんに続いてミニグリ子さん達も真っ直ぐに飛んできて……それを受けてハクトは、全身の魔力を巡らせながら両手を大きく広げて、グリ子さんを受け止めるための構えを取り始め……その無謀とも言える態度に驚きながらユウカもまた魔力を練ってハクトのサポートをしようとする。
そうやって魔力を練り上げていく二人の元に、グリ子さんを始めとした毛玉達が……どうやっているのか体重のほとんどを失った状態で突っ込んできて……。
そうしてハクトとユウカは、上昇気流に温められ、爽やかな風にこれでもかと撫でられて、ふかふか羽毛となったグリ子さん達を受け止めたことにより……ふかふか毛玉まみれとなってしまうのだった。
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