施設の実態
貴賓室に足を踏み入れるなり職員さんによる貴賓室内の施設の説明が始まる。
まずはトイレと洗面所、台所にある流し台などの各設備。
内風呂と露天風呂もしっかりと説明が行われ……最後に居間の各種の説明。
緑に溢れる広い庭園を望むことの出来る居間には、いくつもの座椅子が置かれていて、立派なテーブルがおいてあって……大きなテレビがあり、そのテレビの置かれた台にはビデオデッキがあり……テレビの横には大きな棚が置かれていて、そこには無数のビデオテープが保管されていて。
テレビはもちろんビデオデッキもテープも自由に使ってよく、台所や各種風呂に関しても同様で……台所と居間にある冷蔵庫の中身も自由にして良い。
それらは全て料金に含まれているのだそうで……寝室にある本棚に収められた本も自由に読んで良いそうだ。
部屋があまりにも広く様々な物が置かれているということもあり、そうした説明は10分という結構な時間を要することになり……その10分の間にこれでもかと驚くことになったユウカは、説明を終えて部屋から去っていく職員さんを、ぼんやりを眺め続ける。
まさかこんな部屋だったとは、こんな部屋に泊まることになるとは。
自分で予約しておきながら予想外の高級さ、贅沢さに度肝を抜かれ、全くの異世界に来たような気分となってしまったユウカは、中々冷静さを取り戻すことが出来ず、しばらくの間ぼんやりとし続けることになり……そうしてどうにかユウカが冷静さを取り戻すと、ユウカがそうしている間に行動を開始していたハクトが声を上げてくる。
「なるほど、幻獣召喚者の保養施設というのは伊達ではないようだな」
そんなことを言いながらハクトが確認をしていたのはテレビ横にある棚のビデオテープで……あのハクトがそんな風に、感心しているようなことを言っていることに猛烈な嫌な予感を抱いたユウカは慌ててハクトの側へと駆け寄る。
「げっ!?」
そうして棚のラインナップを見た瞬間、ユウカの口からそんな声が漏れる。
てっきりその棚には映画やアニメ、ドラマなどのテープが入っているものと思っていたのだが、実際に入っていたのは召喚や幻獣に関することや、文化歴史に関するドキュメンタリー的なものばかりで……学校や図書館で見るようなそのラインナップに、ユウカは思わずめまいを覚えてしまう。
「先程確認したが寝室の本も似たようなものだったな。
これらで足りない場合は、図書館にいけば望みのものを用意してくれるそうだ。
運動場も中々立派なものとなっているようだし……夏休み等の長期休暇の際には合宿などが行われるらしいが、それも納得の悪くない施設のようだな」
ユウカがめまいを覚える中、ハクトがそんなことを言ってきて……まさかそんな場だったとはと驚きながらユウカは、心の声をそのまま口に出してしまう。
「折角のお出かけ旅行なのに、なんでこんな学院みたいな感じになっちゃってるんですか!?」
「それは……公の仕事についている課長さんが、学院の生徒である風切君に紹介した保養施設なのだから当然のことではないか?
真面目でお硬い施設だからこそ、今回のような突然のことでも泊まれる訳で……更に言うとそちらのご両親の許可が出たのも真面目でお硬い『ここ』だからなのだろう。
恐らくだがご両親もここのことはご存知だったのではないかな? これだけ立派な施設ならば研究職の方なんかは当然縁があるのだろうし……」
「……え!? あー……あーーー!!
お、お母さんがずっと生暖かい視線を私に送ってたのってそう言う理由だからなんですか!?
ここのこと知ってて、どんな感じか分かってたから、こうして行かせてくれたってことですか!?
私はてっきりグリ子さんがいるから許してくれたものとばかり……!
……で、でも先輩、そうなると先輩は逆にどうしてここのことを知らなかったんですか? 先輩くらいの人ならここに泊まれる機会もあったんじゃ……」
「学院が所有している学院専用の合宿施設があるからな……機会があったとしてもわざわざこちらに来る理由は無かったのさ。
風切君も今年の夏休みにはそこを利用することになるはずだよ……外界から完全に孤立した、勉強と勉強と勉強しかない、学院生専用の合宿施設での日々は中々良い経験となるから楽しみにしておくと良い」
「ぎゃぁぁぁーー!?
何ですかその恐怖の館!? 折角の夏休みにそんな所行きたくないいーーーー!!」
と、そんな悲鳴を上げたユウカは、テレビ側に置かれていたこの施設のパンフレットを手に取る。
そこには施設内の各所についての説明があり……朝昼晩の食事や、部屋に運んでくれるフード・ドリンクメニューなんかもあり……そのラインナップからもなんとなくこの施設の在り方を察することが出来る。
ここに来るまでに何人もの大人の存在を見ていた。
だというのにアルコール類がメニューに書かれていない。
幻獣の中にもアルコール類を好む種がいるというのに、幻獣用メニューにすら書かれていない。
食事もよく見てみれば妙に魚ばかりのメニューとなっていて……そんなメニューの脇にはDHAなる栄養素の含有量だとか、ごく最近発表されたDHAの学習機能への作用についての論文についての紹介が書かれていて……ユウカは思わず、
「しょ、食事でまで勉強のことを考えちゃうんですか……」
なんて声を漏らし、がくりと肩を落とす。
「まぁ、保養施設というのは体を休める目的だけでなく、研修やレクリエーションを目的としている施設だからな……こういうこともあるのだろう。
というか入り口の案内図の時点で『図書館』なるものがあったのだから、そこで察する事が出来たはずだぞ……?
……そうかといって体を休めるという方も疎かにはしていないようで、各部屋についている浴室以外にも、大浴場があり、岩盤浴やサウナが楽しめて、整体マッサージなどなど、サービスも充実しているようだ。
普段体を酷使している風切君には悪くない休暇となるはずだ。
運動場の方の設備も充実していて、体を鍛えたければそちらに行くのも良いかもしれない、そこらのスポーツジム顔負けの設備が揃っているようだ」
ハクトなりの慰めの言葉なのだろうが、そんな言葉ではまさかの事実に驚き、荒みかけているユウカの心は全く癒やされない。
そんなユウカを見て、グリ子さんとユウカの頭の上と、ハクトの頭の上のミニグリ子さんがじぃーっと、ハクトへと生ぬるい視線を送ってきて……もっとしっかり慰めろと言わんばかりのその視線を受けて、ハクトはやれやれと内心でため息を吐き出しながら、ユウカに更なる言葉をかける。
「確かにこの施設はお硬い施設かもしれないが、外に出てしまえば話は別だ。
この辺りは海と山が近い……こんな保養施設が建てられる程の観光地だ、外に出て少し移動したなら様々な観光施設があるだろう。
アルコール類がなくても大人たちが文句を言わないのにはそういった周囲の施設があるから、というのもあるのかもしれない。
昼間はそういう施設を歩いて楽しみ……夜はこの施設で、ゆっくりと体と心を休める。
そういう使い方ならば、風切君が期待していた楽しみ方が出来るのではないかな」
そう言われてユウカはハッとして……電車の中からずっと手に持っていた小冊子を改めて見やる。
それはこの辺りの観光地やレジャー施設の場所や内容を掲載しているもので……ユウカが行ってみたいと思うような魅力満載の各所を紹介しているもので。
昼間はそれらを楽しみ、夜はここでゆっくりする。
アルコール類がないからこそ、ここで騒ぐ大人はいないのだろうし、ビデオの内容がアレでもテレビは普通に見られる訳で……静かで豪華なこの部屋で、自分たちだけの時間を過ごすというのは……中々悪くないように思える。
そんなことを考えていつも通りの元気を取り戻したユウカは、改めて貴賓室の中を見てまわり……一通りの設備全てに手を伸ばし、とりあえず一度全部を使ったり起動させてみたりしてから……その顔をキラキラと輝かせて、なんとも良い笑顔になって、そうしてハクトとグリ子さんの元へと駆け戻ってくるのだった。
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