ミニグリ子さん出撃
ミニグリ子さんが現地へと飛んでいって……本体のグリ子さんは、役所の待合スペースで静かに鎮座して。
そんなグリ子さんのことをハクトと課長が静かに見守る中……ユウカだけが一人、なんとも落ち着かない様子でソワソワとし始める。
グリ子さんを見て、現地の方角を見て、またグリ子さんを見て……まるで現地に行きたいと、ミニグリ子さんの活躍をその目で見たいと言わんばかりの態度を示すユウカに、ハクトはため息交じりの半目を送る。
その半目での視線は大人しくしていなさいとの、決着がつくまではここにいなさいとの思いを込めてのものだったのだが、ユウカはそのことを理解することなくソワソワとし続けて……そして我慢の限界に至り、なんとも元気な声を弾けさせる。
「先輩っ! 私、ミニグリ子さんの活躍見に行きたいです!
三駅くらいなら走っていけばすぐですし、行ってきて良いですか!」
「駄目だ、大人しくしていなさい」
元気なユウカに対し、至って冷静な態度でハクトが即答し……あまりにも容赦なくバッサリと切り捨てられてしまったがために、ユウカは一気に勢いを失ってしょげかえる。
「いや、まぁ、見学くらいならば良いのではないですか?
今から走って到着する頃にはそれなりの結果も出ているでしょうし……連中も人を襲う訳ではないので、安全は安全ですから」
そんなユウカを見て同情してしまったのか、幻獣課の課長が余計な一言を口にしてしまい……それを受けて輝きと勢いを取り戻したユウカは、キラキラと光を放つ笑顔をハクトに向けて……それを見たハクトが諦めのため息を吐き出した瞬間、それを了承の合図として受け取り、ぐっと足を踏み込んで凄まじい勢いで駆け出す。
役場の中ということも最初は自重して……そして建物を出た瞬間に、自重をするのをやめて本気になって駆けていって。
一瞬、あっという間に見えなくなったユウカが巻き起こした砂埃を見やり……まさかの光景に唖然とした課長が、震える声を吐き出す。
「さ、最近の女の子は元気なんですねぇ……いや、あれは元気と言いますか、エネルギッシュと言いますか、なんだか別次元な気もしますけども……」
そんな課長の声にハクトは何か言葉を返す訳でもなくもう一度ため息を吐き出し……そうしてからグリ子さんの下へと近寄り、その体を優しく一撫でし……グリ子さんへと声をかける。
「風切君が怪我をしないよう、よろしく頼むよ」
するとグリ子さんは、目を細めての笑顔となって、任せておけと言わんばかりの態度で「クキュンッ!」となんとも良い声での返事をするのだった。
一方その頃。
駆除作戦が続く獅子之子町では、多種多様な幻獣とその召喚主が数を増やし続ける虫型幻獣を出来るだけの省エネで、消耗を避ける形での攻撃を繰り返し……その増殖の勢いを出来る限り緩めようという、なんとも消極的な戦いを展開していた。
そうやって勢いを緩めていればいずれは食料が尽きるはず、増殖をやめるはず。
獅子之子町の中に虫型幻獣を閉じ込めるための……獅子之子町以外に被害を広げないための結界はすでに構築済みで、獅子之子町内の食料、植物が食い尽くされてしまえばそれ以上は数を増やせずに決着となるはずで……。
それは獅子之子町内の被害を最大限に拡大させてしまう、かなりの問題がある手段なのだと、その場にいる誰もが理解をしていたのだが……他に効果的な手が無い以上はそうせざるを得なかったのだ。
そんな状況の中にある召喚主達の下にまず届いたのは、本部で指揮を執るタダシからの連絡だった。
『丸く小さく、毛玉のような……グリフォンのように見えなくもない使い魔が援軍としてそちらに向かっている。
それらの使い魔達は虫型幻獣を狩ってその魔力を吸うことで数を増やすことが可能で……虫型幻獣と違って召喚主の支配下にあるので一切の危険性のない存在である。
間違って攻撃しないよう気をつけてもらいたい』
そんな連絡を受けて召喚主と幻獣達は、そんな都合の良い幻獣がいるものかと、なんとも眉唾な話だとの否定的な反応を見せていたが……どうあれ援軍が来てくれること自体はありがたく、幻獣達に向けて毛玉を攻撃するなとの指示を出し始める。
そうして全ての幻獣達に指示が行き渡ると……まるでそれを待っていたかのように現場にいくつもの毛玉が、連絡にあった使い魔らしい存在が降り注いでくる。
それは一瞬隕石が振ってきたかと思うような光景だった。
まん丸でふかふかでそして何故か笑顔で。
毛玉としか表現出来ない姿の使い魔達がいくつも降り注いできて……道路や民家の屋根、路駐されている車などにぶち当たり……ぽふんっとのなんとも軽い音を立てて跳ね上がる。
まるでゴムボールかゴム毬か……そうやって跳ね上がった毛玉達は、笑顔を浮かべたままその小さな翼をパタパタと振るうことで姿勢制御に成功し……ゆらりと空中に舞い上がったかと思ったら、目の前で食料を貪る虫型幻獣へと向かって、ギュゥンッとの音を立てながらの高速移動を仕掛ける。
「は、はぁ!?」
その光景を見ていた者は誰もがそんな声を上げることになった。
恐ろしく速く、驚く程に鋭く。
高速移動からのそのクチバシでもっての一撃で、自分達が散々苦戦していた虫型幻獣にあっさりとトドメを刺してみせて……その体内に残る魔力を吸い上げていく。
全ての魔力を吸い上げたならつい先程まで虫型幻獣だったものを……残骸をペッと吐き出して、そうしてからまた移動しての攻撃を仕掛けるか、その場でふるふると震えて分裂し、数を増やしてから攻撃を仕掛けるかのどちらかで。
そうやってあっという間に数を増やし、あっという間に虫型幻獣を駆逐していく、なんとも凄まじい光景に、駆除に駆り出されていた一同が唖然としてしまっていると……道路を踏み砕かんばかりの勢いで何者かが駆けてきて……ズザザザザと靴底を凄まじい勢いですり減らしながら速度を緩めていって……何故だか道路の真ん中に仁王立ちとなる。
「いやー……グリ子さん早いなー!
そして強いなー! あんなに硬そうな殻を一撃でやっちゃうなんて!」
仁王立ちになって腰に両手を当てながらそんなことを言った、毛玉の関係者と思われる少女は、凄まじい勢いで駆けてきたにも関わらず、息を乱すこともなく至って落ち着いた様子で周囲を見回し……そして道路の隅に散らばっていた虫型幻獣の残骸を拾い上げる。
そうして残骸を握りしめた少女は「ふんっ」との声を上げて気合を入れて、その手の中でバキャリと砕き……ゆっくりとその手を開いて砕いた残骸をパラパラと道路の上に舞い散らせる。
「……あれ? 思ったよりも柔らかい?
これならまぁ、私でもなんとかできちゃうかも?」
少女がそんな声を上げると、周囲にいた召喚主達はその内心でもって、
(なんとか出来てたまるか!?)
(この少女も幻獣なのか!?)
(化け物が化け物を召喚しやがったのか!?)
なんて声を上げるが、当然内心のことなのでユウカに届くことはなく……そうしてユウカが再び駆け出し、この場を立ち去るまでの間、召喚主達は驚きと恐怖の中で硬直し続けるのだった。
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