来訪者
前話に挿絵が追加されています、まだ見ていない方はそちらもチェックしてみてください
競技会が終わってから数日が経って……競技会の影響を受けてか、グリ子さんとユウカの間で、競技会を真似たちょっとした模擬戦のようなものがブームとなっていた。
模擬戦といっても本気でやり合うのではなく、攻撃は禁止とし、ユウカはグリ子さんにタッチ出来たら勝利、グリ子さんはユウカのことを抑え込めたら勝利という、お互いに怪我をしないさせないルールとなっていて……それは仕事や学校が終わっての夕方に、毎日のように繰り返されていた。
「今度こそ!!」
ハクトの家の、そこそこに広い庭でユウカがそう声を上げながらどっしりと構えるグリ子さんの方へと駆けていく。
するとグリ子さんはその丸い体をゴムボールをそうするかのように地面に押し付けて、潰れたかのようになり……その反動で持って大きく跳ね上がる。
だがしかしそれは、ユウカにとって既に見たことのある、予想できていた行動であり……ユウカもまた地面を蹴っての、驚く程の跳躍力でもって飛び上がっての追撃を仕掛けようとする……が、それを更に上回る形で読んでいたグリ子さんは、その小さな翼をパタパタと動かすことで、まさかの空中での方向転換を行い、ユウカの追撃を見事に回避してみせる。
そうしてユウカは地面にドスンッと落下することになり、方向転換をしたグリ子さんはハクトの家の二階ベランダにぶつかることになり……グリ子さんは更にそこで体を潰し、力を溜め込み……溜め込んだ力を一気に解放することで、着地直後の身動き出来ていないユウカへと襲いかかる。
「ちょっ!?」
それを受けてユウカは全身に力を込め直し、その場から飛び退いての回避を試みるが、すぐさまグリ子さんは地面にぶつかった反動を利用しての追撃を仕掛けてくる。
地面も家も庭を囲う塀も、グリ子さんにとっては味方であり、跳ね回るための足場であり……まるでピンボールが如く、戦場となった庭の中を跳ね回っていく。
「クキュキュン!」
なんて声を上げながら、そのつぶらな瞳で獲物たるユウカのことをしっかりと見やり、ユウカにカウンターをさせないためか、時に軌道を変え、変則的な動きもしながら跳ね回り……そうして回避に徹していたユウカの息が切れ、一瞬の隙が出来た所でユウカの背中にふにょんと柔らかいクッションのようなものが襲いかかる。
その柔らかい感触の正体はグリ子さんで、ゆっくりと怪我をさせないように地面へと押し倒し、まるで重さを感じさせない羽のような軽さで背中に乗り、そんな軽さだというのに一体何処からそこまでの力を発しているのか、ユウカのことを身じろぎ一つ出来ない程に完璧に抑え込んでしまう。
「クッキュン!」
そうして勝鬨の声を上げるグリ子さん。
それを受けてユウカは、グリ子さんに抑え込まれたまま、地面に倒れ込んだままの状態で縁側の方へと視線をやって……のんびりとお茶をすすりながら様子を見守っていたハクトへと声をかける。
「せんぱーい……グリ子さん、なんて言ってるんですかー……?」
「動きが甘い、目に頼りすぎ。
もっと耳や直感も駆使して、相手の攻撃が来るその前から回避行動を取るくらいでないと駄目だってさ。
それと風切君は、攻撃以外の部分での魔力の使い方があまり上手くないようだから、今後はその点についても―――」
「ちょ、ちょっとまってください!? それ本当にグリ子さんが言ってるんですか!? あんなに短い鳴き声で!?
っていうか、ここぞとばかりに先輩が言いたいことを言っちゃってませんか!?
「……まぁ、俺はグリ子さんの召喚者なんだから、俺の言葉もグリ子さんの言葉も一緒のようなものだろう」
「認めた!?」
そうしてハクトのお説教が始まる中、グリ子さんはゆっくりとユウカの背中から降りて……それを受けてユウカは立ち上がり、服についた草の破片などを手で払いながらハクトの言葉に耳を傾ける。
なんだかんだとハクトの言葉のほとんどはユウカのことを思ってのことだし、参考になる部分もあるし、グリ子さんに完敗してしまったことも事実であり……静かに耳を傾けながらユウカは、次こそは勝ってみせると、胸中で闘志をたぎらせる。
……と、その時。
まず真っ先にグリ子さんが何かに反応し上空を見上げる。
そのすぐ後にハクトもまた何かを感じ取って上空を見上げる。
グリ子さんとハクトが上空を見上げたのを見て、特に何かを感じ取った訳ではないが、釣られた形でユウカが空を見上げると……真っ赤に染まる夕暮れ空から、こちらへと降りてくる一つの黒い影が視界に入り込む。
バッサバッサと翼を大きく動かし、凄まじい魔力をその身体から迸らせ……挨拶のつもりなのか『ギュゥオン』と声を上げている黒い影。
光の加減か、その正体をはっきりと見ることが出来ず、ハクトとユウカが魔力を練りながら警戒を強める中……グリ子さんはなんとも呑気な態度で「クキュン」と声を返し、小さな翼をちょいちょいと動かし、自分の隣に来なさいと言わんばかりの態度を取る。
すると黒い影はその誘導に従い、グリ子さんの側に着地しようとする動きを見せながらゆっくりと降りてきて……そうして黒い影が大体ベランダ程の高さまで来た所で、ハクト達はようやくその影の正体がグリフォンであることに気付く。
しかもそのグリフォンは、競技会で活躍していたあのグリフォンとそっくりな外見をしていて……ハクトとユウカが目を丸くして驚く中、グリフォンはグリ子さんの側へと着地し……ゆっくりと頭を下げて、その頭というか額の辺りを地面につけて……『グリュゥオン』と声を上げる。
「クキュン、クッキュンキュン」
そんなグリフォンに対してグリ子さんは、笑顔でそんな言葉をかけて……小さな翼をちょいちょいと振るう。
「あ、あの先輩、グリ子さんはなんて……?」
グリフォンのことを警戒しながら縁側へと駆け寄ったユウカがそう問いかけると……ハクトはなんとも言えない強張った表情で言葉を返す。
「俺の勘違いでなければ『くるしゅうない面を上げよ』とそんなことを伝えようとしていたようだが……」
ハクトのその言葉にユウカが大口を開けて驚く中……グリ子さんと顔を上げたグリフォンは更に会話を続けていく。
『グリュゥゥ』
「クキュンクッキュン」
『グォウ……』
「クッキューン」
『ガァァァオォゥ』
「クッキュルン、クキュン、クキュキュン」
そんな会話のうち、ハクトが聞き取ることが出来るのはグリ子さんの言葉のみで……グリフォンが何を言わんとしているのか、どんな会話をしようとしているのかは、グリ子さんの言葉から予想することしか出来ない。
「恐らくだがグリフォンは何かの件に関しての感謝を述べようとしている……のだろう。
それに対しグリ子さんは大したことではないと返していて……何故か俺のことも話題にしているようだな。
……それと……お互いの状況というか近況についての情報交換などもしているようだ」
予想したことをそのまま口にして説明してくれるハクトだったが、あまりに断片過ぎて結局会話の内容はよく分からず……グリフォンがどうしてここに来たのか、召喚者は何処にいるのかなど、重要な情報については何一つとして明らかにならない。
召喚者の許可なしに幻獣単独でここまで来てしまったとしたらそれは結構な問題で、然るべき場所に通報すべき事態で……ハクトがそこら辺のことを確かめようと、サンダルを履いて縁側から庭へと出た所で……誰かがやってきたのか、玄関の呼び鈴が鳴らされる。
それを受けてハクトはグリフォンの方を先に処理するか、来客の方を先に処理するか一瞬の間ではあるが、悩みに悩んで……そうしてため息を吐き出してから、簡単に片付きそうな来客の対処を先にしようと決めて、そのまま玄関の方へと足を進める。
ユウカもまたハクトの後を追いかけていって……そうして二人が玄関へとたどり着くと、呼び鈴を再度押そうか悩んでいる、いかにもくたびれたサラリーマンといった様子の男性の姿が視界に入り込む。
その男性とグリフォンとの間にある魔力の繋がりを感じ取ったハクトは……苦笑しながらもその男性に声をかけるのだった。
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