第1章幕間 15.5話 1つしかない選択肢
時は更に遡るーーーー。
「なあ。ちょっとした賭けをしてみないか?」
俺は、向かい側に座って髪に飽きたのか今はさっき頼んだコーヒー、ここの世界はヒーコだったか、それを飲んでいる藤崎花菜に投げ掛けてみた。
「賭けって、なに?」
「まあ、賭けって言うべきなのかお願いと言うべきかなんだけど…」
「なんだよ。つまんない。」
話の途中で藤崎花菜は興味が失せたのか、また髪をいじり出した。
人の話を最後まで聞けオラ。
俺のクソ上司か。全く、これだから近頃の若者は…おっと同じ年だったな、そういや。
まあいい。話を続けようとしよう。
「そう言うなよ。まず、俺はお前を王にする。そして、お前が王になったら、その王の力で俺を元の世界に戻してくれ!」
俺が、いつここ、異世界に行きたい!このままずっとここに居たいとか言った?
いいや、俺は言ってない!
俺は『はあ、いっそのこと異世界転生とかしないかな』と思っていただけだ!
あれだ。あれと同じだ。「何でもしますから(何でもするとは言ってない。)」と同じだ。
正直、明日の9時提出の書類の作りかけを今すぐにでもしたいのが本音だ。
仕事は終わったとおもっていたが、残念ながら思い出してしまった。この書類を作らないと上司にキレられて、また殺されかけられるからね?
だから、資料を早くつくりたいのだ。
「それはいいけど、どうして王になったら戻れるってわかるわけ?」
「それは簡単だ。あの国王は王の力で召喚させているんだ。なら、逆のこともするのも可能が道理だろ?」
「まあ…確かに。」
確信が無いためここはハッタリをついてそれなりに説得させるのに成功した。
「てかさ、あんた。私を王にできるわけ?」
不信感しかないその疑問に俺は即答で答える。
「できる。」
「根拠は?」
根拠はいくらでもある。
だが、どれが藤崎花咲に効果的なのか。まあ、こいつはあの腐った世界にいたからこの理由が一番効果的か。
あまり、人に言いたくはないが。
「根拠は、俺が前いた世界でやっていた事だ。」
「なにそれ?社畜がなにいってんの?」
おっと。さっそく毒気を吐きやがったな。
だか、こんな煽りでキレてしまっては先に進まない。ここは我慢だ。ぐっと我慢だ俺。
「社畜はどうでもいいだろ。それより……だ。」
「えっ…。えーー!!!」
俺は藤崎花咲に真実を話した。案の定、天と地がひっくり返ったように驚いている。
「ほ、ホントなの!?」
「ああ…。」
「証拠!証拠見せてよ!」
俺は右手に嵌めている小さな指輪を見せた。
「ほ…本物…。本当だ…。」
「詳しいんだな。」
ただ、俺は指輪を見せただけなのに。
「いや、この指輪を知らない人は日本に、いや世界いないのが普通。だって、日本でも小、中、高と教科書に絶対出ているんだよ。」
「そんな情報はどうでもいい。それより、根拠はよかったか?」
「よかったもなにもここまで証明させられたら、根拠もいらないし、私はあんたを信じる。」
手のひらをくるっと返したようにさっきまでの不信感はどこに行ったのやら。
「で、私は何をすればいいの?」
何かを決めたようにとてもよい表情になった藤崎花咲。
やはりこいつには素質があるなと思いつつ俺は話した。
「今から起こる事を話す。俺が言った通りの行動をしてくれ。」
「なるほど。王女が私を捕らえに来るわけね。」
俺は今後起きることを全て話した。
リュシルが本気になって藤崎花咲を捕らえようとしていること。
ユユに藤崎花咲を助けるようにしていること。盗賊と絡むことも、共同して盗賊を追い払うことも。
「同じことをユユに話してある。」
「ちなみに聞くけどさ、そのユユって子は信じていいの?」
とても真剣な藤崎花咲。その姿は失礼だが、似合っていない。
だけど、真剣に俺の話を聞いて理解しようとしている。決して、笑ったりすることはできない。
「ああ…。リュシルよりは信じていいぞ。」
「了解。じゃあ私は国家防衛軍にわざと見つかり、あんたが来るまで、そのリュシルという王女の攻撃を避けまくって、ユユという女の子に助けて貰えばいいのね。」
「ああ…。その後は突発的な事が起きると思うが、そこはこちらで対処する。とりあえず手筈通り頼む。」
「わかったわ。」
とても力強くて、心強い返事。こいつは必ずやり遂げる。裏切る心配は必要なさそうだ。
「じゃあぼちぼち、私は行くとするよ。」
「ああ…。捕まらないでくれよ。」
「あんたが早く来てくれればね。」
と、言って舌を出しながら、からかうように藤崎花咲は店をあとにした。
それを距離を置いて、聞き耳を立てていたマスターが笑っていた。俺は気づいていたがあえて、スルーした。そして、その数十分後に俺もこの酒場を後にした。




