04 嫉妬の嵐は時にすがすがしい
この王立学校は全寮制である。王族といえどそれは変わらない。
ただ部屋は個室になるらしい。私はしがない男爵子息なので三人部屋である。
「ただいまー」
部屋に戻ると相部屋の二人が揃って勢いよく振り向いた。そして睨み付けてくる。何かした覚えはない。頭を傾けると、二人からは恨めしい声をもらった。
「おい、スヴェン。お前例のお茶会に行ってたのか?」
ティモ・タルナートが怒っているような声を出す。タルナート伯爵家の跡取りである彼は、少々私を下に見ている気がする。実際まあ、学年も上だし、私の身分は下なので逆らわないが。
「例の? ユッテたちとのお茶会のことですか? 行ってきましたけど?」
しかし例のってなんだろう。他の者だってお茶会とか何とかの会とかしているじゃないか。
「なんでお前みたいな凡庸なやつが呼ばれて俺は呼ばれないんだよ」
ドン、と机に拳を叩きつける。そこまで慟哭しなくてもいいじゃないか。
頭を傾けたままいると、もう一人の住人であるクスケ子爵の二男であるフェリクスが机に脚を乗せて椅子を揺らし始めた。行儀が悪い。彼も一学年上の先輩である。
「なんかわかってないね、イチゴ君」
「……まじか」
こんなところまで浸透しているとは、と密かにイチゴの威力に衝撃を受けていると、フェリクスは立ち上がって私の肩に手をまわしてきた。
「君、まだ入学して三か月だよ。入ったばかりだってのに、クリスタ嬢と親しいらしいじゃないか。知ってたか? クリスタ嬢は人気高いんだぞ」
自分だってお呼ばれしたい、とフェリクスはぼやく。確かにクリスタは美人だと思う。だが、例のってなんだ。そんなにあの集まりは目立つのだろうか。
「わかってないなあ。君、定期的にお呼ばれされてるよね。しかもよくよく聞いたら君以外は女の子ばっかりっていうじゃないか」
「……ええ、まあ」
ユッテとジビラのことか。
「ティモだけじゃなくて、僕もだけど。皆に羨まれているってわかってないよね?」
「え?」
「普通はね、なかなか女子の集まりに男子は呼んでもらえないよ。よっぽど親しいとか有名だとかじゃないと。それなのに後輩の君は早々に、しかも定期的に開かれてる会に呼ばれている。そりゃあ先輩方からは恨まれるさ。訊ねるといつもなんだかんだと逃げられてるけど、今日はもう用事はないんだろう? さあ、このやさしい先輩たちとお話しようか」
全然笑ってない目をして、私は椅子に無理やり座らせられた。
女子会(という名の転生会)は実は今回で三回目だ。最初はとりあえずお互いのことを知ろう、という名目で集まった。その時はクリスタが学校側に申請して部屋を借りてくれた。
ユッテがお菓子を持ち寄り、おずおずとジビラもやってきて、それぞれに前の自分と今の自分を簡単に紹介した。
それからまた日を改めて親交を深め、ついには定期的に開こうという話になった。その第一回目がこの三回目の女子会(定期)だ。場所は二回目からは女子寮に近いサロン棟の一室に決められた。
「一体何を話しているんだ」
興味津々で訊いてくるフェリクスに、ティモも視線を寄越してくる。だが素直に答えるわけにはいかない。
「主にお菓子とかあとはクラスのお話ですよ。幸い私はライナルト王子に好感をいただいてるみたいなんで」
嘘ではない。フェリクスは不審そうだが、ティモはなるほどと納得してくれた。
「つまりスヴェンはだしに使われてるのか」
「そういう面もあります」
「しかしならば他の男子でもよかろうに」
ティモとしては納得はするが、他の選択肢も提示したいようだ。主に自分とか。彼は見た目と言葉が強いので女子とはあまり縁がないのだろう。眉間に皺を寄せなければそれなりに格好よいと思うのだが。
「ティモもクリスタ嬢と仲良くなりたいんですか? 同部屋の誼で紹介くらいならしますよ?」
「ホントに! 是非一度ご挨拶させてほしい! いやいや持つべきものはかわいい後輩だね」
ぎゅっと手を握ってきたのはフェリクスだ。私はティモに聞いたつもりだったのだが、紹介くらいはそのうちしてもよいだろう。
「ティモは?」
応対のないティモを窺うと、顔が真っ赤になっている。
「そ、そう、そうだな! 是非!」
私の目が真ん丸になっているのに気づくと、すぐにそっぽを向いてしまった。この人、かわいい人だったんだな。
面倒見がよいのは気づいていたが。ユッテたちにはフェリクスよりもティモをお勧めしておこう。