30 静かに始まり静かに終わる、それが戦い
本日は生憎の雨模様。
そして雨の中、私は走っている。
今回から爺先生の講義は始まった瞬間から戦いだ。私たちは騎士のみのチームと対戦するためにまず動くことになった。ガスト先輩の情報によって彼らのスタート地点は割れている。しかし他のチームも何らかの方法で情報を得ているのだろう。ざわざわしている気配がする。
私たちのスタート地点は玄関ホール。狙う騎士のみのチームは校舎二階の空き教室。普通に校舎の中を駆け上がっても良いが、途中に妨害があるのは必至。なので玄関ホールから外に回っている。
実技用校舎の空き教室と校庭は使用してよいと許可が出ている。カールが頭上に風を高速で吹かせているらしく、雨粒は降ってこない。しかし足下はどうしても跳ねた雨の滴で濡れた。階段の踊り場がある付近に着くと、カールは私に上を指さす。頷いて応じれば彼は足下に風を起こし、そのまま二階と一階との踊り場に跳んだ。私は風の魔法が使えないから、壁を蹴って踊り場の窓まで駆け上がった。
窓を開けると騎士チームが二階から一階へ降りていくのが見えた。雨に濡れていたせいか、少しだけ着地音が響くかも知れない。だがカールが私の足下に風を飛ばすと、音も鳴く降り立つことができた。たださすがに気配で気づいたのか後方の二人が振り返った。
「お……!」
叫ぼうとした一人に無言でカールが魔法を掛ける。顔の周囲に風を発生させて、そのまま軌道をずらして階段下に傾ける。気づいたもう一人を引っかけて一階へ転がっていく。
見事に一階へ落ちていく騎士チーム。
「カール、すごいな」
チーム全員がこんがらがっている。魔法を掛けたのは一人にだけなのに。
階下で体勢を立て直そうとしているところに更にカールは全員の真上から強風をかぶせる。見ているだけでもあれはつらい。風圧が強すぎて立ち上がれなくなっている。
しかしこのままどう決着をつければいいんだろう。
「審判!」
カールが叫ぶと階下からひょこっと教官の一人が顔を出す。ニコッと笑うと私たちに手のひらを向けてくれる。
「七番チームの勝利。三番チームは敗北。さて、二人ともこっちおいで」
書き付けをしながら、私たちを手招く。カールが騎士チームへの魔法を解いた。
今回のチーム戦は敷地の数カ所に教官が配置されていて、彼らに勝敗を確認してもらえばよいのだという。
「これはどっちが考えたの? 君?」
「いえ、えーと二人で考えました」
私が手を挙げると、カールも頷く。
「二人?」
「攻撃はフィッシャー教官しか出来ないルールでしたので、先制攻撃をする方がいいと思いました。そのためにはどうしたらよいか、考えました」
何も考えずに外を走ったりはしない。校舎内を走れば必ず他のチームに見つかるのは目に見えていたし、そうなると面倒だった。それぞれに目当てのチームがいるだろうが、鉢合わせをしてしまったら戦わないわけにはいかなくなる。
「ふむふむ。外のチームもいたんだけど、君らすぐ動いちゃったからね。スピードの勝利だったね」
パチパチと審判の教官は拍手をしてくれて、今度は騎士チームの子たちに尋ねる。
「君たちはどのチームを狙っていたの?」
「……彼らです。魔法師は教官ですが、一人だけでしたから」
ため息を吐きながら堪えるのはチームリーダーだろう。
「ごり押しで勝てると思ってました」
「作戦は?」
「玄関ホールが指定位置なのは知ってましたから、二階からすぐに降りれば捕まえられると思ったんです。戦闘が始まってしまえば魔法を使う余裕なんてないだろうと」
ふんふんと審判の教官は頷く。
「確かに力で押し込めるのもありだ。ただ君たちは彼らが移動しないと思っていたのかい? 物を相手にしているんじゃないよ。彼らは動くのだから、きちんとどうしたら捕まえられるかを考えないとね」
ため息と共に騎士チームががっくりと首を振る。
「じゃあ、君らはそこで反省。十分したらまた講義に戻っていいけど、今度はきちんと考えるんだよ。ごり押しだけじゃどのチームにも勝てないよ?」
そう言って彼らを端に移動させて、土で線を引く。そこで休憩しろということだろう。わかりやすくタイマーも置かれた。
「カール君とホルトハウスは怪我はないね。じゃあ、講義に戻っていいよ。これで単位は取得出来ても、まだ今期続くからね。逃げるのも手だよ。じゃあね」
去って行く教官を見送ると、騎士チームに睨まれながら私たちもその場を去る。どうやらまた挑まれそうな気配だ。
しかし負けたのが丸わかりの状態なのは、口惜しいだろう。しかも他のチームに見つかると何か恥ずかしい。恨まれたくはないが、つい生ぬるい目で見てしまう。
「よし、行くか」
気にせずカールが階段を上る。
三階まで上がったところでどこに行くのか訊ねると、逃げようと返ってきた。
「逃げるのは賛成だけど、隠れる場所なんてある?」
「さっきあっただろ。窓の外だよ。戦わないなら他の属性も使っていいだろ」
窓枠をひょいと超えるカールに慌てると、そこには土魔法で固められた地面がある。器用に校舎の壁に引っ付けている。ついでに屋根もつけられて、雨も避けられている。
「これはなかなかいい隠れ場所」
「だろう」
時間が終わるまで私とカールは逃げ切った。ちなみに校舎内では騎士チームの雄叫びと、他のチームの怒号が何度か響いていた。
わああ、すごい時間空いてしまった。お待たせしてすみません。
またのんびり書いていきたいと思います。




