終わりの章(エピローグ)
カラオケ屋での騒動から、数日がたった日の、昼休み時間。場所は、一年二組の教室。
私は、リナルナ、カナちゃんと四人で、お弁当を広げていた。
「それにしてもさぁ」
私が、話を切り出す。窓から差し込む光の色が、夏の到来を告げていた。
「捕まった酒井さん、どうしてあんなこと起こしたんだろうねぇ」
リナが食事を一旦止め、ルナの顔を覗く。
「お兄ちゃんが警察から聞いた話ではね」
ルナが口の中でモグモグしていたミートボールを飲み込んで、話し出した。カナちゃんは優しい笑顔を浮かべながら、ひたすらに食べ物を口へと運んでいた。
「彼女の犯行動機は、いたって単純だったらしいわ。『いつも自分にまとわりつく男がうざいから、消しちゃおう。そして、自分を好きらしい別の男にその罪をなすり付けちゃえば、話は簡単。私のこと好きなんだから、そのくらい当然よ』ってな感じらしい」
「そんな簡単な動機で、人が殺せるものなのかしらね」
リナが少し考え込むように云った。
「さあね、私は良くわからないわ。あ、ところでさ、リナとルナはどの辺りから彼女が犯人じゃないかと思うようになったの?」
私の質問に、今度はリナが答えた。
「彼女が、『なんてことなの、ひどいじゃない』って云ったときよ。あれは、被害者が殺されてことへの怒りというより、自分が仕組んだストーリーが崩れてしまったことへの怒りの言葉に思えたのよ」
ルナが深く頷いて、同意する。
「そうね。あれ以来、私たちは彼女を疑うようになったわ。カナちゃんがあの部屋に紛れ込んだことが偶然とすれば、どうしてその彼女が毒付のダーツが入ったケースを持っていたのか?
それはつまり、元の持ち主を罠にはめるための犯人のトリックだったはずが、その偶然の出来事によって、予想外なことになってしまった結果なんじゃないのか? そうして考えていくと、腕の刺し傷もフェイクの可能性があるな、って」
(ふうん、なるほど)
私は、関心して双子の顔を眺めた。二人の肩くらいまで伸びた黒髪に日が当たり、私の目の前には、綺麗に二つ、天使の輪が並んでいた。
けれど隣に座るカナちゃんは、リナルナの話を聴いているのかいないのか、ただ、にこやかに食事を進めるのみであった。
「ちょっとカナちゃん、話、聴いてる? 二人のおかげでカナちゃんの疑いも晴れたんだからさあ――。
あ、そうそう、そういえば一つ気になってたことがあったんだよ……。あの日、カナちゃんが遅れた用事って何だったの?」
「ああ、そのこと? えへっ、実はね――」
カナちゃんは、ゆっくりとした口調で、楽しそうに話し始めた。
最近、捨て猫を学校の近くの空き地で見つけてしまったカナちゃんは、学校帰り、皆に隠れて餌を与えていた。警察の取り調べでも、そのことを詳しく話してしまうと猫の存在がバレてしまうので、はっきり返答ができなかった、というのだ。
「なんだあ、そんなことだったの? ま、本当は飼い主さんが見つかれば一番いいけど、それまで私も協力するよ! 今日の帰り、私も連れてってよ」
私がそう云うと、カナちゃんは嬉しそうに笑った。リナルナも部活で忙しいけど、時間があるときは行く、と約束した。
「それにしてもさあ、どうして女子高って男子がいないのかねぇ。もちろん、女子だけってのも楽しいんだけど、こう、張り合いがねぇ」
ため息交じりに話す、ルナ。
「そんなの、女子高だから当たり前じゃん――。でもさあ、もうすぐ学祭だよ。きっと周辺の高校の男子生徒も来るからさ、頑張ろうよ。で、ウチのクラス、何やるのかなぁ」
私がそう云うと、話はもうすぐ始まる学校祭のことで盛り上がった。
(きっと、楽しいお祭りになるよ)
私は、談笑する三人の顔を見ながら、幸せな気分でそう思った。
おわり