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第1章 「始まりの鐘は三度鳴る」 第9話

「これより任命式を執り行いますが、その前に現行のエーデルを紹介しましょう」


ミリーの穏やかな声が響いた直後、理事長室のドアが静かに開かれた。


ドロシーに連れられて入ってきたのは、4人の美しい少女たちだった。


「みなさん、自己紹介を」


理事長の言葉に4人はそれぞれ一歩前に出て、堂々と名乗った。



最初に口を開いたのは、女子である翼でさえ思わず「イケメン」と呟いてしまいそうな端正な顔立ちの少女。


「フラウ・フォイヤー(火の君)、八重・バートンです」



後輩からの信頼も厚く、いつも明るく翼の側にいてくれる幼馴染。


「フラウ・ヴィンド(風の君)、鎌田二乃」



その隣に立っていたのは、いかにもお嬢様らしい気品と、少し気怠げな雰囲気を持つ少女。


「フラウ・ボーデン(地の君)、香取砂月ですわ」



そして最後に、黒髪を後ろで結び、強い眼差しで翼をまっすぐに見つめる、まるで戦士のような凛々しい少女。


「フラウ・ヴァッサー(水の君)、張哪吒」



彼女たちこそが、エーデル。



この百合々咲音楽学院の最高位の称号を持ち、誰もが認める実力者たちだった。


あまりの存在感と迫力に、翼は思わず息を呑んだ。


(この人たちと同じ……エーデルに、私が……)


胸の奥で、喜びと同時に大きなプレッシャーが押し寄せてくる。


ミリー、5人全員を見渡しながら静かに告げた。


「これよりあなたたちは、第105代目エーデルとして、この学院の生徒たちの手本にならなければなりません。名誉と誇り、そして責任を胸に刻んでください。この名を汚すことは、決して許されません」


5人は一斉に理事長の方へ向き直り、厳粛に言葉を聞いた。


ミリーの声には、学院の長としてふさわしい威厳が満ちていた。


やがて、ミリーは少し表情を和らげて続けた。


「せっかくエーデルが揃っているのですから、今年の学園祭『エンドレス・ワルツ』で上演する演目を、発表してもよろしいでしょうか?」


エンドレスワルツは毎年12月25日に開催される百合々咲1番の大舞台。


大帝都劇場で行われる公演は学院内外問わず人気であり、大手メディアも注目する程。


全員が静かに耳を傾ける。


「今年やる演目は……SNOW WHITEです」


その瞬間、翼の瞳が大きく輝いた。


(嘘……本当に?SNOW WHITEが……できるの?)


夢にまで見た、あの伝説の舞台。


12年前に「過ぎ去りし流星たち」が演じた、誰もが憧れるあの物語がついに――。


しかし、他の4人の表情は違っていた。


どこか暗く、複雑な影が落ちている。


哪吒が静かに口を開いた。


「お言葉ですが、SNOW WHITEはもうやらないのでは?」


「あら、誰がそんなことを言いました? あなたたちならできると踏んで、この演目にしました」


4人には返す言葉がなかった。


まさか、本当にSNOW WHITEを上演することになるとは……。


ミリーは、穏やかでありながら確かな声で続けた。


「主役・白雪姫は、飛彩翼さん。あなたに任せます」


その発言に、その場の全員が息を呑んだ。


当然、翼本人も。


(私が……SNOW WHITEの、主演に……?)


夢かと思ったが、これは紛れもない現実だった。


翼の長い夢が、ついに叶おうとしていた。


「が、頑張ります!」


精一杯の声で答えた翼の顔には、嬉しさが溢れ、隠しきれていなかった。


しかし、嬉しがっているのは翼だけだった。


「……翼」


二乃が小さく呟いたその声は、興奮でいっぱいの翼には届かなかった。


「では、みなさん。新たなエーデルの任命式です。お行きなさい」


理事長室から退出する5人を見送りながら、ミリーはドロシーに視線を移した。


「何か言いたいことがあるのですか?ドロシー」


ドロシーは少し迷った様子で口を開いた。


「SNOW WHITEをやることに異論はありませんが……なぜ飛彩を白雪姫役に? 実力を考えれば、張やバートンが妥当かと思いますが」


ミリーは静かに微笑んだ。


「それはね、ドロシー」





その日、百合々咲大講堂では、エーデルの任命式が盛大に執り行われた。


全校生徒が見守る中、壇上に立った翼は、理事長から正式に「フラウ・ヒンメル(空の君)」の称号を与えられた。


理事長の手から渡された、エーデルの証である輝くピンバッチを、翼は制服の襟元に丁寧につけた。


その重みを、翼は確かに感じていた。


大講堂が大きな拍手で包まれる中、ドロシーはまだ引っかかっていた。


ついさっき理事長室で交わされた会話が、頭から離れない。





「それはね、ドロシー。賭けです」


「賭け……?」


「歴代のフラウ・ヒンメルは、どんな逆境でも乗り越える力を持っていました。 飛彩翼さんも、きっとできると思います。それに……あの子の目に似ていたと思いませんか?」


「あの子?」


「過ぎ去りし流星たちのひとり、元・フラウ・ヒンメル……雪叢李梨奈に」


ミリーは、窓の外に広がる果てしなく澄み渡った青い空を見上げた。


その日の空は、まるで新たな物語の幕開けを祝福するかのように、


限りなく澄んで輝いていた。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。そして……






夢を叶える物語である。


第1章 「始まりの鐘は三度鳴る」 完

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