序章 「少女たちが見た流星」
大帝都劇場の客席は、深い闇に沈んでいた。
天井の高いドーム状の空間に、わずかな息遣いさえも吸い込まれそうな静寂が満ちている。
観客たちはみな、息を潜め、期待と緊張に身を硬くしていた。
やがて、ゆっくりと、低く甘いブザーの音が響き始めた。
その音が劇場全体を優しく包み込むと同時に、舞台の緞帳がゆっくりと上がり始めた。
次の瞬間、舞台は一斉に煌びやかな照明に包まれた。
無数のスポットライトが金色と銀色の光の粒を撒き散らし、まるで夜空から星々が降り注いでいるかのように輝く。
床板に敷かれた特殊な鏡面が光を反射し、舞台全体が幻想的な水面のように揺らめいた。
客席のひとつに、ひときわ小さな身体をした少女
飛彩翼は、目を大きく見開いてその光景を見つめていた。
まだ5歳に満たない少女の小さな肩が、興奮と畏怖でわずかに震えていた。
翼の大きな瞳は、舞台の光をそのまま飲み込んだように、きらきらと星を映したかのごとく輝いている。
胸の奥で、何か熱いものが渦を巻いていた。
これまで感じたことのない、甘く疼くような感情。
魂が呼びかけられているような感覚だった。
翼は無意識に両手をぎゅっと握りしめていた。
指先が白くなるほど力を込めながら、
舞台から目を離せない。
まるで、この瞬間が自分の人生を永遠に変えてしまう予感がしたかのように。
やがて、舞台の奥深い闇の中から、5人の若き役者たちが静かに姿を現した。
彼女らは皆、それぞれが違う色合いの衣装を纏い、しかしどこか調和した美しさを持っている。
まるで、夜空に輝く流星を身に纏っているかの様に。
そして、その5人の中心に立つのは――
雪のように白く、透き通った美しさを持つ一人の少女。
歌姫の異名を持つ
雪叢李梨奈。
李梨奈の長く美しい金色の髪が、舞台の光を受けて青みがかった光沢を帯びていた。
彼女の瞳は、深い湖の底のように静かで、しかし底知れぬ情熱を秘めている。
李梨奈はゆっくりと前へ進み出ると、柔らかく微笑んだ。
その微笑みは、冷たい雪ではなく、春の陽だまりのような温かさがあった。
彼女は静かに手を差し伸べた。
白く細い指先が、まるで翼をこの世のすべての輝きへ誘うかのように、まっすぐに伸びる。
「行こう……あの舞台へ」
翼の耳に李梨奈が響く。澄んでいて、甘くて、しかし芯の強い銀の鈴のような響きだった。
翼は無意識に李梨奈に向かって手を伸ばしていた。
李梨奈の輝きをその手に掴むかのように。
「あなただけの舞台を、創りに……」
翼の胸が、大きく高鳴った。
言葉の意味はまだよくわからなかった。
けれど、その声に呼ばれた瞬間、翼の心の奥底で何かが目覚めたような気がした。
李梨奈の瞳が、優しく、しかし確かに、翼の小さな魂まで見透かしているようだった。
「さぁ、始めよう」
彼女は少し声を低くして、けれど力強く、言葉を紡いだ。
「あなたたちの――PRELUDEを。」
その瞬間、劇場の空気が変わった。
照明が一瞬、柔らかく脈動したように感じられた。
五人の役者たちが、ロンドを奏でる。
まだ誰も知らない物語が、今、静かに幕を開けようとしていた。
小さな少女・飛彩翼の運命を、輝かしい舞台の光が優しく、しかし容赦なく照らし始めていた。
ここから、すべてが始まる。少女たちの、輝くPRELUDEが。
大帝都劇場の夜は、まだ始まったばかりだった。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
夢を叶える物語である。
序章 「少女たちが見た流星」 完




