第七十八話 思わぬ所で話が進むと思っていた
朝一の学校から俺はクラスの女子生徒戸倉と親睦を深め、晴れてギリ彼氏となった。
(とはいうものの、ギリ彼氏ってなんだ?)そんな疑問が浮上したため彼女にいやっ、ギリ彼女に聞いてみることにした。
「なぁ、ていうかギリ彼氏って何をすればいいの?」
「えっ......?そ、それは......」
彼女は困った様子で考え込んでいる。
「えーっと......、彼氏っぽいこと!」
そう言って、困りながら笑顔でどや顔をしていた。
なんとまぁ、複雑な表情が出来るものやら。
と、呑気に言ってる場合ではない。俺はギリ彼氏として役目をしっかりと果たさなければいけないのだ。
「とりあえず、やっぱり名前呼びにしよっ!」
「えぇー!?さっき名字でって言ってたのに」
俺はそう言うと、笑顔でこう返された。
「彼氏からは名前で呼ばれたいもん!」
さっき名字でも良いと言ったそばから、名前呼びを所望してきたギリ彼女。早速、わがままに振り回されてしまっていた。
「それに、名字で呼んでたら怪しまれるじゃん?だから完璧に恋人のフリをするために必要なのよ。名前呼び」
説得するように彼女は言う。
「わ、わかったよ......。呼べばいいんだろ」
俺は完全に諦めていた。それはもうギリ彼氏になった瞬間諦めざるを得なかったことである。
「やったー!じゃあ、早速呼んでみて?」
「うん......って、えっ、いきなり!?」
笑顔で期待の眼差しを向けてくる彼女。
「......。」
黙ったまま俺の言葉を待っているようだ。これはもう俺が呼ぶまで話が進まないようだ。
(仕方ない......。呼ぶしかないか)と、意思を固める。
「ま......、まゆ......」
彼女は笑顔で頷きながら、羨望の眼差しを向けてじっとこちらを見ている。
「まゆ......」
あと一文字がなかなか出てこない俺。それに反して、今か今かと待ち望んでいる彼女。
「ま、まゆ......」
俺は限界だった。
「げ」
そう言って、上手く呼吸できなかった少しの間の呼吸を取り戻すかのように、大きく呼吸をしてみせる。
「......は?」
彼女の方を見るまでもなく、機嫌を損ねていることが認識できた。
「今なんて言ったの?」
彼女は捲し立てるように俺に問い詰める。
「え、いやその......」
俺は怒られると思ったのか、咄嗟に言い訳を考える。
「なに?」
先程とは打って変わってのこの冷酷な態度。
(女の子って怖い......。)と、思いながら言い訳を述べる。
「なにって、ちゃんと麻由美って言ったよ?」
我ながらバレバレの嘘だとは思っていたが、こう言うしかなかったのである。
そうすると、意外な反応が彼女から返ってきた。
「ありがと......。」
「へっ?」
咄嗟に俺は間抜けな返答をしてしまった。
(一体、何がありがとうなのだろう)そう思うばかりである。
だが、次の彼女の言葉でありがとうの正解がわかった。
「今、名前呼んでくれた」
記憶にない出来事を彼女は言っていた。
「えっ、戸倉さんってまゆげって名前だっけ?」
俺は正解が分かっても、事実に基づいていない出来事なので理解はしていなかった。
「ばかっ!違うわよ!!あんたバカにしてるでしょ!?」
彼女はまた不機嫌に俺の肩を軽く手のひらで叩いた。
「えっ、じゃあ、まゆだけで良かったってこと!?」
そう聞くと、
「いや、まあ仲良しの友達にはそう呼ばれりするけど、ちゃんと麻由美って言ってくれてたでしょ?さっき」
俺はフラッシュバックを自ら望んでしてみた。
するとーー『なにって、ちゃんと麻由美って言ったよ?』
ーー思い出した。会話の中に自然と紛れ込んでいた。
そう、何を隠そう俺はちゃんと彼女の名前を名前呼びできてたのである。
「ほんとだ!言ってた!」
そう言うと彼女は笑いながらーー
「何よそれ!ちょっと、しっかりしてよね!ってことで、これから麻由美でよろしくー!」
そう言って、『じゃっ、行こっ!』とだけ俺に言い放ち、二人で教室に戻るのであった。




