第二十話 一人と独り
ーー鑑野鈴だ。
何故か一度職員室に行ったはずの鑑野先生が教室に戻ってきた。
俺を心配しに来たのか?
そんな期待を胸に、鑑野先生の方を見る。
ふと目が合った。やはり、俺の事をフォローするつもりだ。流石は教師。良いところもあるのかもしれない。
まぁ、フォローされた所でどうでもいいのだけれど。クラスの連中の事なんて正直、どうでもいい。
鑑野先生と、目が合いながら手招きされる。
まぁ、せっかくフォローしてくれるんだからありがたくその優しさを受け取っておこう。
ゆっくりと立ち上がり、気づいていないような不安そうな顔でゆっくりと鑑野先生の方へ歩みを進める。
目の前まで行くとーー
「高山。すまん、忘れてた」
何を忘れたのかと考え始めた瞬間に次の言葉が来た。
「これ、天道に届けて欲しいんだ」
と、渡されたのは今日の課題のプリント、そして今日のHRでのプリントであった。
「別に明日でも良いんじゃないですか?」
自分の事ではなく、他人の話だったため少しがっかりする。
俺がそう言うと鑑野先生は真剣な表情でーー
「明日来るかも分からないだろう。課題のプリントは提出に間に合わなければ評価が下がる恐れもある。HRのプリントはついでだ」
確かに一理ある。だが、欠席者に対してはそれなりの処置はあるだろう。HRのプリントも遠足についての一枚のみ。
正直、今日渡す理由が分からなかったが、自分の無力さが原動力となり承諾した。
「わかりました。でも家なんて知らないし遠ければ交通費とかもらえるんですか?」
「いや、家は近いから歩いてでも行けるぞ」
そう言われて地図を渡される。
「私は今日は、忙しいんだ。さっきのHRでの班や役割のプリントも作成しなければならんからな。じゃあ、よろしく」
そう言って、教室を後にした。
預かった書類と地図をとりあえず、自分の机に置いて席に座る。
とは言うものの、俺は自分の自尊心を保つために引き受けてしまったが、天道からしたら俺なんかが来たら迷惑するのではないか?
ましてや、昨日の一件もあるしーー
と、冷静になった所で相手側の立場を斟酌する。
まぁ、引き受けたからには届けるしかないのだが......
と、思って帰り支度をしているとーー
「高山くん」
と、近くで女の子の声が聞こえた。
顔を上げてみるとそこには宇治島実がこちらを不安げに見ていた。
「なに?」
と、まだ立ち直れていない手前、少し気だるそうに返してみた。
「大丈夫?さっきは皆に色々と言われてたけど」
心配してるつもりなのか、優しい声で問いかけてきた。
「本当に!あいつらも言い過ぎなんだよ。悪いやつらじゃないんだけどな」
そこで宇治島の後ろから加藤も心配して、フォローしにきたようだ。
だが俺はーー
「悪いやつらじゃない?それはお前が思ってるだけだろ。俺からしてみれば立派な悪いやつらだよ。人の気持ちが分からないくせに気安くフォローするんじゃねぇ」
と、言葉だけで実際に何も助けてくれなかった二人に対して、少しきつく当たってみせる。
「高山くん。加藤くんは高山くんのためを思って言ってるのよ」
宇治島にそう言われたのが余計腹立たしく思ってしまい、
「うるさい!だいたい宇治島だって去年、俺を仲間外れにしたくせによくもまぁぬけぬけと一緒の班になろうとか、俺のためをとか言えるな」
と、少し怒鳴るような口振りで言ってしまった。
宇治島は少しびっくりして落ち込んだような表情で、
「ご、ごめんなさい。あと、仲間外れになんかしてない」
「そうだよ。俺は別に何を言われてもいいが宇治島さんに対しては八つ当たりなんてするなよ」
宇治島に続いて加藤が言った事がさらに腹立たしく思えてしまいーー
「八つ当たり?誰が八つ当たりしてるんだよ。俺は正論を言ってるだけだ!なんで俺が悪いみたいになってんだよ。俺が何をしたんだ」
と、半ば自暴自棄になっていることに薄々気付く。
「もう、いい。帰ろ?」
と、加藤が宇治島に言って、二人は俺の前から姿を消した。
そして誰も居なくなったーー
俺は一人で荷物をまとめて教室を後にした。




