表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/164

イルの容態

魔族とベスティアの気配が消えてからすぐに、濃霧の中からレイズとジルクの声が微かに聞こえた。ウマがいない所を見ると風魔法で駆けつけてくれたのだろう。


「リタ!」


「リタちゃん!」


「レイズ!ジルク!こっち!『疾風!』」


風魔法で霧を飛ばすとレイズとジルクの姿が遠くにいるのが見えた。


「イルはどうしたんだ?!倒れてるじゃないか!」ジルクがリタとイルを確認して走り寄って来た。書物伝令を読んで探し当ててくれたみたいだ。単語の羅列だけで良く見つけてくれたものだとリタはホッとする。


だが今は気を抜いている場合じゃない。


「助けて、レイズ、ジルク!イルが気を失ってしまったの!突然現れた魔族が魔力セッシュって詠唱をしたら、急に倒れたの!」


「え……?そんな事ってリタちゃん以外に出来る奴がいるの……?詠唱は違うけど、やってる事は一緒だよな」


ジルク訝しげな顔をして顎に手を添える。


「リタ、また羽を怪我しているじゃないか!大丈夫なのか?!」


リタの羽がまた欠損していることに気がついたレイズは顔を顰めてリタの羽を見つめる。


「ベスティアさんに千切られちゃって……先端をほんの少しだけだからなのか、体調に異常は感じないよ。ちょっと痛いけど……」


「パトラ嬢はなぜこちらにいらっしゃったのですか?今日の夜会には貴女も出席するのですよね?本件についてご説明願いたい」ジルクが騎士団の顔をしてパトラを問いただした。


弾き飛ばされ地面に落ちたナックルを拾い上げながらパトラは落ち込んだ表情で口を開いた。


「ベスティアもその魔族に連れて行かれたようですわ」


「一体何が起こったんだ?」レイズもパトラに説明を求めた。


「話は後だな。とにかくイルを先に王宮に運ぼう。息はあるようだな。早く治癒術師に診てもらおう」ジルクがイルをリタ達が乗ってきた馬車に運ぶと、意外にもパトラが御者席に座ると言った。


「リタは自分の従者を見てて良いわよ。レイズとジルクもリタから説明を聞くと良いわ。あ、呼び捨てとかそういうの気にする?緊急事態なんだから良いわよね」


「それは構わない。だが公爵家令嬢にそんな事をさせたと知られれば俺達が非難されるんだが!」レイズが至極まともな事を言うが、パトラは取り合わなかった。結局パトラが御者席の場所を譲らなかったので、揉めている時間も勿体ない、とそのまま進めることになった。

そして他の全員も馬車に乗り込み、王宮へと急いだ。


馬車の中でリタは起こったことをレイズとジルクに説明した。


「なるほど。魔族が絡んでいるのか……」レイズは考え込むようにして目を閉じる。


「うん。目が赤くて、中性的な声だった。ローブで体のラインも隠れていたから分かりづらかったけど、多分女性だと思う。ベスティアさんも一緒に消えちゃった」


「魔族なら一旦自分の国に帰っている可能性が高いな」


「どうしてそう思うの?」リタはレイズに尋ねた。それをジルクが代わりに答える。


「人族に留まる他種族は仕事で来ている事が多いんだよ。必要があって人族の国に留まっているんだ。魔族なら魔族側の動きに合わせて動いているんじゃないかな。プライドが高く、自分の種族が最も優れていると思っている種族だし。他の種族の為に動くとは思えないしなあー」


「何のためにこんなことを……」リタは膝に乗せたイルの頭を悲しそうに撫でた。レイズはもう一つの疑問を投げかけた。


「ベスティア嬢はリタの羽を狙っていたのか?」レイズはリタの羽がベスティアに千切られた理由を聞いた。


「2枚だけ頂戴って言われたの。攻撃は完全には避けられなくて、先端を千切られちゃった……瓶に入れてたから、何かに使うのかも」


「妖精族の羽を一体何に使うんだ?」


「なんだろうね?分からないや。でも逆に妖精族の羽が何かに使えると言うことは分かった」ジルクがそれに答え、うーん、と唸り声を上げる。


レイズはオークがリタの羽を食らって凶暴化した様子を思い出していた。妖精族の羽が魔力の塊である事はあの件があったことで全員が理解していた。それだけに嫌な予感が拭えない。


「魔族はイルの魔力を奪って、それをベスティアさんに譲渡した瞬間があったの。そしたらベスティアさんの様子が変わって、斑紋が体毛に現れたの。でも攻撃を連発していたら途中で元に戻っちゃって……。ひょっとしたら魔族は魔力について何が詳しい事を知っているんじゃないかしら」リタは自分の見解を述べるとレイズに目で訴えかけた。


「他者の魔力を摂取しても一時期的なものでしかない。だがそんな事のために魔族が動く事はないだろう。つまり、妖精族の羽を使って何かをすれば、永続的な力を授かる方法を知っているということか?俺の知りたい事の糸口が魔族にあるかもしれない、そういうことだな?」


コクリとリタは頷く。


「今日の所は私もドレスがドロドロだし、パーティーは欠席してイルを見ておくね。でも招かれている以上、皆欠席する訳にもいかないし、レイズとジルクは出席して」


「そんな事をしている場合じゃないだろう!獣人族の国に来てからリタもイルも負傷しているんだぞ?!安全からは程遠い!放って置けるか!」


レイズは声を荒らげて怒りを表した。ビクッとリタが体を震わせるのを見て、すまん……と一言謝った。車内に静寂が広がる。


「いや、レイズ。リタちゃんの言う通りだ。あっちも流石に今日はもう襲って来ないだろう。怪しい奴が王宮に入り込むのは難しい。特に今日は他にも貴族が来ている。騎士団が警戒をしているはずだ。オレ達だけで出席しておこう」


レイズは大きくため息を付くと、


「頭では分かっているんだ。感情がそれに追いつかないだけだ」気を失って横たわるイルを見つめると、不安げにリタに目線を移した。リタにまでまた何かあったら、今度こそレイズは死者を全て魔力袋から出し、私戦を始めるかもしれない。


レイズはその自分の思考にゾッとした。やろうと思えば出来てしまう私兵として使える死者をレイズは持っている。こういった事が起こらないよう、ネクロマンサーは日頃から感情を殺す事を学ばされる。ネクロマンサーとして領地を与えられてからは自分の領地から一歩も出ず、日々をひたすら死者の浄化に費やす。すると徐々に感情を殺す事を覚える。それほどまでに毎日やってくる死者の埋葬に追われるのだ。普通のネクロマンサーであれば私戦を起こそうと言う発想にもならない。起こすほどの対象もいなければ、そもそも生きている人間との関わりが殆どないので、起こす理由もない。


レイズは自分の思考を振り払い、リタに優しい目を向ける。


「リタが無事で良かった……」思わず目が潤みそうになるのを自分で感じた。リタは潤んだ瞳で見つめられ、胸がキュウッと苦しくなった。


「イルが先に馬車を降りて様子を見に行ってくれたの……イルが私を守ろうとしてくれて……でもイルがいつまで経っても帰ってこないから、馬車から降りてしまったの。そしたら戦闘状態にあって……」ずっと馬車の中にいれば、イルは魔力を奪われるようなことにはならなかったのではないかという考えが頭から拭えない。


「お前の所為じゃない。イルは従者として当然の事をやったんだ。主人を守れてイルだって誇らしいと思う事はあれど、お前を恨むような事は絶対にない」


レイズの慰めの言葉を聞いて、リタは少しだけ心が軽くなった。


あの魔族はなぜ魔力を奪う魔法が使えたのだろうか。魔力譲渡とは反対だ。一体どうやったのだろうか?リタの疑問は尽きない。


王宮に着いてからは慌ただしかった。全員でイルを治癒術師の元に運び、起こった事を説明する。イルの存在を詳しく説明する訳にも行かず、黙っておいたが、診療はスムーズに進んだ。


気を失っているだけで、特に問題はなさそうだと言われて全員でホッと胸を撫で下ろす。このままイルを部屋に運ぶ事になり、治癒術師を手伝う看護師が、運ぶ者を呼ぶといって医務室から出て行った。


「私もイルに付き添う事にする」リタがそういうと、レイズが俺もリタと一緒にイルを見ると言って駄々をこね始めた。するとジルクがムッとした顔をして、珍しくレイズはジルクに引き摺られてパーティーに向かった。


「終わったらすぐに行く」レイズはそう一言を残して去って行った。


一方パトラはリタの欠損した羽を見て、眉を顰め、長い睫毛を震わせた。


「ベスティアが……魔力を欲しがったのは決闘の為だったのかもしれないと思うと……ごめんね、リタ」


「ううん、起きてしまった事は仕方がないよ。それよりパトラは大丈夫なの?ベスティアさんに針を刺された後にナックルが吹き飛んでいたけど……」


「そうなの、急に装備できなくなって……」


「あ、そういえば私もそうだったよ。魔道具針の所有者になっちゃったんじゃない?」


「ベスティアもそんな事を言っていたわ。これからどうしたらいいのか……」


「所有権を手放す方法は人族だと教会だったかな?に行ってやる、みたいな事をレイズが言ってたような気がする。私も詳しいことは知らないんだけど……」


「まあ、何か方法はあるでしょう。とにかく、今日の事は本当にごめんなさい。それじゃあ、パーティーに行ってくるけど、これに懲りずにまた遊びに来てね。明日帰るんでしょう?」


「うん。明日帰る予定だよ。パトラも油断しないで。今後も何か動きがあるかもしれない」


「これからも同じ異世界人同士、仲良くしてくれると嬉しいわ」そう言ったパトラは間違いなく次期王太子妃に相応しい表情と雰囲気を纏っていた。これから輝かしい未来が待ち受けているパトラの今後を想像してリタは羨ましい気持ちになった。


「もちろんだよ、パトラ。行ってらっしゃい」


手を振ってパトラが医務室を去った後、扉が閉められた後ろで王宮に勤める侍女に、パトラ様お姿が……!と悲鳴を上げられているのが聞こえた。これからまた準備をするのだろうと思うと、わざわざ助けに来てくれたことをありがたく思った。


「サルヴァドール様、お待たせいたしました。イル様をお部屋まで運びましょう」


パトラと入れ替わりで入ってきた看護師が騎士を2人連れて、イルを乗せる担架を持ってやってきた。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


こうしてイルを部屋に運びベッドに寝かせると、一息着いたリタは疲れがどっと襲って来てそのままソファーで眠ってしまった。夜中近くになって、レイズとジルクがパーティーから戻って来たような音が意識の片隅で聞こえたような気がしたが、起こされることなく朝を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ