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リタの起床でイルは治療

歓迎パーティーの当日、早朝にリタは目を覚ました。今まで防御壁に包まれた際は1週間で目を覚ましていたが、今回は流石に時間がかかった。目覚めるまで2週間も要したのだ。


まだ起きたばかりだが、リタの目覚めは快調だった。


「リタ様?お目覚めになられましたか?」


リタが起きたことにイルは気がつき、声をかける。


「うーん!よく寝た気がする!」


「もう2週間もお眠りでしたから。起きられますか?どこか痛むところはありませんか?」


「ううん、スッキリしてるよ!まだちょっと節々が痛むけど……気にならないぐらいにはなってる」


「実はもう、今日パーティーの当日なのです。起きたばかりですし、欠席されたほうがいいかもしれません」


「ええ?!今日なの?いや、でも行きたいわ!だって最終日でしょう?今日、夜のパーティーが終わったら次の日に人族の国に帰るでしょう?」


「ですが、ドレスなどのご用意も出来ておりませんし、体調もまだ不安がございます……」


「ドレス?魔力で作るよ。すっごく体が軽いから出来ると思うよ?」


「魔法の発動具合を確かめるには良いかもしれませんね。羽も……だいぶお綺麗になられたようですね!まだ以前と同様とまでは行きませんが……」


「そうだね……早く羽生草を魔族の国へ取りに行かないといけないね。それよりイル、心配かけちゃったね。ごめんね」


傷んだ羽を見て悲しそうな顔をするイルに向かってリタは謝った。心なしか少しイルの顔がゲッソリして見える。


「いえ、とんでもありません。リタ様が目覚められて本当に良かったです」


ベッドのヘッドボードに体の上半身を預けているリタをイルは潤んだ瞳で見つめた。


そして体を起こして座っているリタに向かい合う形でリタの太ももの横に腰を掛ける。


ベッドの端に腰掛けたイルはリタの髪の毛を一筋取ると、俯いた。


「僕がいたのに……気がつかなくて……リタ様……」


髪から手を滑らし、震える手でリタの頬に触れる。


「イル、食物を取らなくても良いとは言え、流石にやつれ過ぎよ。休息は取っていたの?」


頬に置かれた手の上にリタは自分の手を重ね、寄りかかる。


「いえ、また活動を停止させている間にリタ様に何かあってはいけないと思い、ずっと見守っておりました」


「それじゃあダメよ?眠たくなる事はないのだから、意識的に活動停止をして休めなきゃ。今度はイルが倒れてしまうわ」


リタは頬から重ねていた右手を離し、その手を今度はイルの頬に添える。


「リタ様がいないこんな世界にいても仕方がありません。リタ様に何かがあったら僕は……」


「イル……そんな事を言わないで」


イルから溢れ落ちそうな涙を見てリタまで涙が出そうになった。心配をかけてしまったことに申し訳なく思う。


「リタ様に次に何かがあったら僕の魔力を全てお返しして、絶対に二度とこんなことにはさせません」


イルはリタの左手の指にはまる指輪に触れ、リタの手を口元に運んだ。


そっと口づけを落とすと、ふわっと白く発光した。


「今何をしたの?」


「リタ様に命を捧げる覚悟で忠誠を誓いました。リタ様、僕の想いを受け取って下さい」


「……イル!ありがとう。イルの気持ちは嬉しいわ。でも自分の事を大事にして。お願い……」


リタの言葉で胸がいっぱいになったイルはリタの顔を見ていられなくなった。心なしかより細くなったリタの腕を自分の腕で包み込んだ。


「うわっ!イル?」


正面からイルに抱きつかれたリタは驚いて声を上げた。


「リタ様、羽に防御はかけられていますか?」


リタの首筋に顔を埋めながらイルはリタに尋ねた。


「それが、起きた時にやって見てはいたの。だけど違和感がまだあって……多分上手く出来てないと思うわ。なんで?」


イルの背中を撫でながらリタはそう説明すると、イルがリタの羽に手を触れた。


「んっ……!」


「僕が触れると痛みますか?」


「うーん、ちょっと痛むかな……ひゃあ!」


「治癒術師から聞いた治療方法があるのです。僕の魔力を試しに流し込んで見てもよろしいでしょうか?」


イルはリタの羽を優しく撫でながら伺いを立てた。羽の先端を摘み、羽が生えている背中の中央につーっと指を上から下へ降してリタの反応を観察する。


「い、いいよっ……でも、イル、ダメ、くすぐったっ……んっ!」


「羽の魔力の流れを診るには触れませんと……」


イルはそう言ってリタの羽を手に取り、触れるか触れないかの距離で手を動かす。


「触れられているのは分かるから!ああ!」


びくっと体を仰け反らせるリタを観察しながら、イルは羽を触れていた指を今度はリタの耳元に添え、耳の輪郭を手でなぞった。


「妖精族は耳も種族の象徴でしたね?耳たぶは問題ありませんか?」


「大丈夫っ……でもくすぐったいよ、イル!」


体を捩らせイルの腕から逃げようとするが、ガッチリと抱きしめられていて身動きが取れない。


「ちょっと、イル、苦しいよっ……!」


リタの抵抗する声も虚しく、リタはされるがままになっている。それを良いことにイルは耳に触れていた手をリタの背中に回す。その手とは反対の手の親指を口に含むと、ガリッと歯を立てた。


「ああ!イル!何するの?!血がっ!」


イルはリタの制止にも構わず、血が付着した指をリタの羽に塗り込んだ。


「きゃああああ!!!!!」


羽から血液を通じてイルの魔力が注ぎ込まれ、リタは悲鳴を上げた。治療術師から回復のヒントとなるような話をイルは事前に聞かされていた。体液に直接魔力を流し込み、対象と混じり合えば回復を促せる事がリタの治療法を見て予想もつけていた。この場合、リタの汗とイルの血を混じり合わせれば譲渡まではいかずとも、回復は促せるのではないかとイルは治療を試みることにしたのだ。


「はあんっ……熱い、熱いようイルゥ!……」


「はまんしてくははい(我慢して下さい)」


親指の傷口を広げるように口に含みながらイルが言葉を発すると、またリタの羽に血を付着させる。その度にイルの魔力がリタに流れ込み、それが刺激になってリタは痛みで体をビクビクと震わせる。


「んっ!んっ!あっ!いやんっ!ん!はあん!」


「もうふほひのはまんへふから(もう少しの我慢ですから)」


「何、この感覚……くぅ……やめてえ、イルッ!ああ!」


リタは痛みと感じたことのない感覚に戸惑い、抵抗の声を上げる。


「……仕方がありませんね。後ろを向いて下さい」


リタの様子を見て羽から一旦口を離す。するとリタは力が抜けてふにゃふにゃとヘッドボードから体がずり落ち、ぽすんっと枕の上に頭を乗せる。仰向けでベッドに寝転がる体勢になり、イルはリタに覆い被さった。体の下敷きになって背中から少し見える羽をイルが優しく撫でると、リタはピクンと小さく体を震わせる。


「んっ……」


強張っていた体から力が抜けた隙に、ころん、とリタをうつ伏せにして、背中を天井と平行になる体勢にする。抵抗されないように、背後からリタの両腕を両手で押さえる。力が抜けきって紅潮する体には不要な処置だが、念のためだ。


その体勢のまま、所々破れて穴が開いている羽を埋めるようにイルは指の位置を変えていく。


「羽が熱いよう……イル……苦しいわ……ああっ」


「今日の夜会に向かうと仰るなら、羽をもう少し回復させておきましょう。この方法が確実なのです。僕にこうされるのは嫌かもしれませんが、どうかもう少しだけ……」


言い切るより前に、指に魔力を含ませて羽の穴を埋めるように点々と血の痕を残す。イルは必死に治療に当たった。


「私のために……こんな事までさせてっ……ああ……!ごめんね、イル……んっ!」


イルは無心で自分の魔力をリタに注ぎ込んだ。これも魔力がリタと似通っているから可能な方法だ。


虫食いのように羽に開いた穴は無数にある。イルが必死に塞ごうと魔力を注いだお陰で、貫通していた穴は薄らと膜を張り、少なくとも穴が目立たなくなってきた。


「太ももに怪我もされていましたよね?足は痛みませんか?」


イルはリタにワンピースの裾をスルッと捲り、傷痕に手を這わせる。


「うん……食いちぎられたから流石にまだ痛むよ……縫合してくれた後がちょっと引きつる感じがあるかなあ」


「こちらも治しておかなければ、長時間立っているのは難しいでしょう。……リタ様」


リタを後ろ向きにさせたまま、イルはリタの耳元で呟いた。


「すみません。我慢してくださいね」


耳元で囁かれた時にイルの唇が触れて自分の顔が、かあっと赤くなるのが分かった。そう言うや否やイルはリタの両手をリタの腰元で一つに重ね、イルは片手でリタの手首を押さえた。


「えっ?イル?」


後ろ手で縛られた状態になり、リタは戸惑った。


チラッとイルの表情を見ると顔を真っ赤にさせてすまなそうな顔をしている。何をする気だろう、と思いながら見ていると、空いている手でリタのワンピースの裾を上にズラし、食いちぎられた傷跡をあらわにした。


イルは手で何度か傷痕に触れると、血を付着させた手で患部をなぞる。


「ああああんっ!」


「もしかして、痛かったですか?」


上目遣いでリタを見つめ、返答を待つ間もリタの太ももにある傷を手で弄る。


「イルの意地悪……ちょっと痛い」


「ここが良いですか?それとも、内腿の方が痛みますか?」


息を上げて傷痕を触るイルは艶めかしく、2人の体温が上気して部屋を生暖かい空気が漂う。


「内腿は……怪我していませんっ!イル、もう治療は良いわ……はあん!」


「いえ、まだ塞がっていません。縫った後も残っています。僕の縫合した糸の魔力をリタ様に溶け込ませますので……そしたら傷痕は消えてなくなるはずです」


「だから、そんなっ、執拗に……んあっ……触れっ……るの?んっ!」


話している間に太ももの傷痕がだいぶ消え、イルの魔力がリタに馴染んだようだった。


「はい……抵抗なさって構いません。僕が無理矢理、リタ様を治療しているのですから……」


そう言うと、後ろを向かせたまま、今度はリタの肋骨に手を当てる。肋骨を治療するには、羽を出すために大きく開いた背中の生地をズラす必要がある。背中が開いているデザインのワンピースなので、背中の生地をちょっとお腹側にズラせば肋骨が露になってしまう。まずはホルターネックデザインワンピースのうなじのリボンを解く。スルリとリボンが解かれると、体重で押しつぶされた胸の形が体の横からチラリと見える。肋骨はその胸の下だ。


「確かに恥ずかしいけどっ!治療してくれてるんだよね……って、肋骨はくすぐったいよ!」


「不敬をどうかお許し下さい……」


「治療なら仕方ない……のは分かってっ!るっ……はあんっ……。大丈夫だから、あっ!治るまで続けてっ……んっ!」


「ええ、今日は夜会がございます。もう少しだけ頑張りましょう」

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