表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/164

リオンと魔族の商談

3暦前、パトラが落ちてくる数日前のこと。リオンは王太子妃を決めるよう、周囲からの圧力を受けていた。


「リオン様、まだ決まりませぬか?」


国王の執務を補佐する宰相がリオンに尋ねた。宰相は5大公爵家の最も権力を有するティグレ公爵が任に就いている。残念ながら自分の家には女児がいないため、推薦できる者がおらずに歯痒く思っていた。しかしそこは宰相だ。私情は伏せて、とにかく王太子に身を固めるよう急かす。


「高等部に入ってから決めようと考えています」


「早急に決めて下さい。魔力値の高い者から優先的にお選び下さい」


「分かっています。ですが、今最も有力なのはキャット候爵家のベスティア嬢なのです」


「ああ、あの魔力値の低い娘ですか?」


「だがそれを補う魔力操作の技術と知識や品性を彼女は備えています。それに彼女の魔力値が低くとも、隔世遺伝はありえます」


「隔世遺伝に期待するより、上か下の学年に在籍している他の公爵令嬢からお選びになる方がまだ確実かと?」


「接点がありませんから……」


「接点など王太子の貴方であればいくらでも作れます。それより王家の魔力が弱まっている事の方が重要です。お分かりでしょう?」


王家の魔力値は年々下がってきている。原因は不明だが、これは獣人族に限った事ではない。妖精族も、魔族も同様だ。まず、妖精族の王族から4枚羽が生まれる確率が極端に減った。少なくとも今は公爵家にいるという噂も聞かない。妖精族は静かな生活を好むため、情報があまり入ってこないだけの可能性もあるが……。元から争いを好まない種族なのでさほど問題はないようだったが、強力な薬を調合したり、魔力を投入する必要のある素材の扱いには苦労する。


次に魔族だが、魔族の王家は皆大きな角や長い爪を持っている。爪は収納可能なので一見すると分からないが、戦闘時や興奮すると顕著になる。その立派な角も年々縮小し、それに伴って魔力も弱まったようだった。


これは恐らく人族が魔道具を生み出し、強力な魔術によって魔法陣を展開できるようになったのを境に起こり始めたのではないかと考えられている。確証は誰にもない。


人族でも元から魔力を弱くはあるが、放出できた者はいた。魔道具によって強化されただけにすぎず、それが年々の魔力低下にどう関係があるのか、繋がりは未だ調査と研究が行われている。


獣人族においては、公爵家に優れた魔力値を持つ次世代が生まれなくなって来ていた。


獣人族は毛を持つ魔獣に似た特徴からおおよその強さが測れる。例えば王族又はそれに連なる者はたてがみを持ったシシと呼ばれる魔獣の特徴を持っている。シシは魔獣の中でも随一の強さを誇る魔獣だ。太く毛深腕に攻撃が掠るだけでも肉が抉り取られる危険性がある。


また、凶暴性の高い黄色と黒の縞模様のトラと呼ばれる魔獣もいる。こちらもシシに匹敵するほどの強さを持っており、獣人族の中ではティグレ公爵家がその特徴を持っている。パトラも異世界人ではあるが、その魔力値の高さからこのトラと同じ特徴を持っている。


その他の獣人族は似たり寄ったりだ。例えばキャット候爵はネコという魔獣の特徴を持っている。一般的な獣人族の貴族と魔力値も変わらないが、ベスティアは残念ながらそれを少し劣る。


また、決して魔獣から派生した種族ではないが、獣人族の方が身体能力に優れているので魔獣の扱いが上手いという特徴もある。


「しかしまだ高等部に入学してもいないので、時間はまだあるはずです。必ず高等部にいる間には決めるので、それまで他の貴族を抑えていてくれると助かります」


「はあ……なんとか抑えますが、キャット候爵も自分の娘をと言ってきていますし、ベスティア嬢にするならするで、早めに発表して下さい。大変なんですよ?色んな貴族から俺の娘はどうだとか私が言われるんですからね!王太子にどうか口添えを〜って!」


「分かっています……いつもありがとうございます」


こうしたやりとりがあった数日後。獣人族の異世界人が落ちてきた、とリオンの父である国王に人族のギルド長から連絡が入った。宰相であるティグレ公爵にはリオンが知る前に共有され、無事パトラは公爵家に養女として迎えられた。


今まで娘がいなかったティグレ公爵家は、リオンに初めてこう言った。


「うちの娘は如何ですかな、リオン様」


「とうとうお前も他の貴族と同じ事を言うようになったか。まさか養女でも迎えたのか?」


「ええ、そのまさかです。あれ?国王からは聞いておられませんか?とうとう獣人族の異世界人が落ちてきたのですよ!」


「それは本当か?!」国王から聞かされていなかったので、リオンは驚きを隠せなかった。きっとティグレ公爵から言わせて驚かそうとでも思ったのだろう。後で問い詰めなければ……とリオンは思った。


「しかもティグレの名を持って落ちてきたのです。その上、うちのトラ模様を持っているのですよ。これは世界がもたらした奇跡に違いありません。と言う事で、淑女教育は全く出来ていない子なのですが、明るくて元気な可愛い子なので、お茶会をしましょう」


「その言い方では決定事項じゃないか」


「3日後です。では」


「拒否権がないじゃないかー!ティグレ公爵うううう」


その後国王に問い詰めたリオンは、公爵家の言った事が本当であると知った。その時に早く王太子妃候補を固めろとも言われたので国王の命はもう長くないのかもしれない。


こんな具合で出会ったものの、リオンは満更でもなかった。教育はこれから施せば良いし、場合によっては有能な侍女を付けて対応させることもできる。


異世界人の魔力値とティグレの名があって異を唱える者は1人もいないだろうが、万が一反論があれば異世界人だとバラしてしまえばいい。王妃になったときに有権者が王妃は異世界人だと知れば箔も付く。魔力が高ければ誰でも良いという気持ちはないが、あるに越した事はない。


お茶会で交流して数回でリオンは既にパトラを婚約者として迎えるつもりになっていた。パトラも無事入学を終え、推薦するまでもなくベスティアを侍女にした事は流石異世界人、お目が高い、と心の中で褒めた。


リオンは出来れば早く婚約者候補の問題は片付けて置きたかったのだ。リオンの抱えている問題は婚約者候補の件だけではなかった。このとき既にリオンは獣人族の武器が問題になっているという話を聞いていた。ベスティアを侍女に迎えてからしばらく後のことだった。


更にヴァンピーロと名乗る魔族側の使者が突然現れ、王族に相談を持ちかけてきた。国王は既にかなりの歳を召している。獣人族も魔族も寿命は300歳前後だ。それもあって、執務の殆どはリオンが代行していた。このヴァンピーロは今は人族のギルド長に仕えているらしいが、人族における異世界人の調査としてギルド長に仕えている。そういった取り決めを人族王と魔族の王でしていると国王から聞いた事はあった。


どうやら獣人族の輸出した防具に悪意のこもった刺繍がされていたらしい。なんでも魔族の老婆が製作した針が使われたものであるとのことだった。


それが影響して、徐々に武器や魔道具のほか、生活道具などの道具類を多く人族に輸出している魔族は経済的な打撃を受けることになった。


人族が輸入量を減らし始めたのだ。怪しくも何ともない製品にまでいちゃもんをつけ始め、値切るようにもなった。


獣人族の防具が原因で刺繍に使用した魔道具針までとばっちりを食った、と魔族の使者、ヴァンピーロは言う。獣人族がこの件を解決しなければ、今後3種族間の悪化は免れない、という主張だった。


妖精族は中立の立場にあるが、今後状況が改善しなければ移動の制限や自粛が進められる。そうなったら観光業と薬関係の輸出で成り立っている妖精族も無関係ではいられない。3種族間どころか、最悪のケース、全4種族間の関係悪化も予想される。早急に獣人族は本件に関して解明をするべし、と言うのが表向きの話だった。


平均して魔力値の高い魔族は魔道具などの武器製作に長けている。妖精族は豊富な資源を使った薬の調合に長けている。他の種族にそれを輸出して分け与えることで重宝されていた。獣人族は優れた身体能力のお陰で魔獣と対峙するのが得意な事を生かした防具の製作。人族は非力な身体を補った知力を持って、全ての種族は持ちつ持たれつな関係を築いていた。


しかし強欲で狡猾な人族は魔道具を使った魔法陣を生み出してから、次第に勢力を伸ばしていった。非力ですぐ死ぬ人族だったはずが、今ではコロンバス連合世界中で最も栄えた街を抱えるようになり、発言力も増していった。


しかしこの状態が長引けば、経済的な打撃はあろうとも、身体不調によってニチアメリ王国の発展が停滞するのは間違いない。


「つまり、何が言いたいのですか?」


「いえ、大した事ではありません。あなた方は検閲を厳重にするなど、やるべき事はされたらよろしいのです。でもご存知でしょう?極寒の土地しかもたない魔族は地底都市を築き上げているが、それでも十分な資源が確保できているとは言えない」


「つまり、現状を維持しろと仰りたいのですか?」まるで魔族が人族が弱ったら戦争を仕掛けると言っているように聞こえる。


「そうは一言も申しておりません」だがヴァンピーロはそれを否定した。それはそうだ、ここで肯定する発言をして万が一リオンがそれを人族に漏らした場合、本当に戦争が起こりかねない。


「そう言っているようにも聞こえるがな」リオンはヴァンピーロに向かって睨みをきかせる。戦争するなら勝手にやれ、こちらを巻き込むなと言ってやりたかったが、怖気付いたと思われるのもしゃくだったので黙っておいた。


「それより今日は商談を持ってきたのですよ。獣人族は今まで人族を経由して魔道具を購入していらっしゃいましたでしょう?こうなった今、もう人族を通す義理は魔族にはない。人族はいらないらしいので、魔道具を今後は直接獣人族にお渡しするというのは如何ですか?今までより安く済みますよ」


「なるほど、こちらにも利はあるという事か。悪くない話ですね」


魔力を身体能力にしか回せない獣人族の生活に魔道具が活用されているのも事実だ。しかし製作は魔族ではあるとは言え、それを開発し、販売する権利は人族にある。魔族は下請けの外注先に過ぎない。従って、購入の際は必ず人族を通す必要があった。それが今後は直接購入できるとあれば、人族に輸出していた分の利益は減ったものの、輸入する支出は削減できる。


「ええ、防具の件はこちらも調査しますが、解明には時間がかかりそうです。そう思いませんか?」


暗にこれで取引は成立したか、とヴァンピーロはリオンに問うた。


「ああ、こちらも調査と対策を引き続き行う。しかし時間はかかりそうだ」


「人族とは既に話が付いています。魔族の製作する魔道具は危険らしいのでね。上手く使っていただける獣人族であれば活用していただけますでしょう。利益配分など詳しい話は宰相とでよろしいでしょうか?」


「それで良い。宰相とは先に話をしておく。今日は客室を用意するので、また決まり次第呼びに行かせよう」


「ありがとうございます。では、これで失礼いたします」


人族の不調は様々な事が重なって起きた不運な出来事だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ