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ご挨拶

ベスティアが公爵家に向かっている頃、ジルクは朝になってリタの様子を眺めていた。


「リタちゃん!」


リタの目が震え、一瞬開いたように見えたので、ジルクはリタに声をかけた。


「ジ……ルク?」


「良かった!目を覚ましたんだね!」


「うん……ここは?」


虚ろな目でリタは周囲を目だけでキョロキョロ確認する。ジルクはリタの体を起こす手伝いをしてやった。


「獣人族の国、ヨアフパロ王国だよ。王宮の一室を貸して貰っているんだ」


「いった……!」

あばらを押さえてリタは痛みの声を上げた。


「まだ動けないね。ほら、お水を飲んで」


リタはジルクから手渡されたコップを受け取り、喉を潤した。


「オレ、医務室に行って治癒術師を呼んでくる!イルも呼ぶからここで待ってて!」


リタは朦朧としていたら、ジルクと入れ替わりでイルが部屋に入ってきた。


「リタ様!お目覚めになったのですね!良かった、本当に良かった……。洗面所へ行きますか?肩をお貸します」


「ありがとう、イル」




身支度を整えて洗面所から出るとちょうどジルクが治癒術師を連れて戻ってきた所だった。


治癒術師の診療結果では、抜糸後、暫くは絶対安静とのことだった。抜糸がいつになるかはリタの回復次第だ。治療術師は回復が早くなるという薬を置いて、また頃合いを見て来ると言って出て行った。


「体はまだ動かすのは危険です。回復するまで予定通り、しばらくはこの国で過ごしましょう」


イルの言葉にリタは頷くと、また眠気が襲ってきた。


「私がここからはリタ様をお世話いたします。ジルク様は今のうちに少しでも調査を進めて下さい」


「分かった。まずは獣人族の王宮騎士団内を調査してくる。それに手続きもあるから、済ましてくる。レイズはどうしてるか知ってるか?」


「レイズ様は先に埋葬業者へ挨拶に行って来るとのことでした。リタ様がお目覚めになられる頃合が分からなかったので、先にレイズ様をご案内されたようでした。ベスティア様とは違う侍女が呼びに来たみたいですよ。今日はベスティア様は公爵家にいるらしいです。レイズ様はリタ様をよろしく、と朝出かけて行かれましたよ」


「そっか、わかった。じゃあ、オレも行ってくる」


「かしこまりました。それでは後のことはお任せ下さい」


ジルクが部屋を出て行き、リタと2人っきりになったイルは眠そうなリタをベッドに横たえた。リタはすぐ目を瞑り、眠りに落ちた。その隣でイルは針を取り出し、レイズから今朝聞いた方法を練習する。


魔力回復薬を糸状にして、リタの体を巡らせるのだ。リタに投与する前に何度か自分の体で試すと、効果がありそうなことがわかったので、リタにも投与した。


それからリタは王様との面会の日まで、ずっと眠ったり起きたりを繰り返し、まともに動くことはなかった。




王様との面会日まで、ジルクとレイズは個々の業務に追われて、忙しく過ごしていた。


そして迎えた王族との面会日。

リタは約1週間でだいぶ回復の兆しを見せていた。少なくとも、歩けるようにはなっていた。


「リタ様、延期を申し出ても良いのですよ?」


イルは心配して延期の提案をしたが、リタにそれは却下される。


「いいの、いいの!それに今日はその後羽の抜糸だから!面会ぐらいはちゃちゃっとこなさなきゃ!」


「無理だけはなさらないでくださいね。エスコートは私がいたします」


レイズとジルクは王族との面会の後、各自行く場所があるとのことだったので、イルがエスコートをすることに異論を言う者はいなかった。ころころエスコート相手が変わるのもリタの負担になることを危惧してのことだ。


ベスティアの案内で王様が待つ場に全員は向かった。


「入室して下さい」


扉の左右に立つ筋骨隆々とした騎士らしき男性2人がリタ達を見て言った。扉はすでに開かれている。洞窟の入り口のような部屋を所々に設置された松明が周囲を照らしている。


目線を下げて、静々とイルにエスコートされてリタが先に足を踏み入れた。それにジルクとレイズが続く。


「リタ・サルヴァドール、よくぞ参った」


部屋の奥から重厚な椅子に腰をかけた男のやや若めの声が部屋に響いた。


リタは王様と思われる者の前でカーテシーを行い、自己紹介した。他の3人は騎士の礼でもって同様に自己紹介した。


「面をあげよ」


ようやく目線を上にしてみたのは、自分とそれほど歳が変わらない男性と、横にあるもう一つ椅子には女性が座っている。


「あ」と最初に気がついたのはジルクだ。


「パトラ様」


イルも気がついたようだ。リタは王宮に着いた当初気を失っていたので知らないが、他の3人はティグレ公爵家令嬢であるパトラと面識がある。


リタが3人に誰?と聞く前に目の前の椅子に座る男が口を開いた。


「本来ならばヨアフパロ王国の王が異世界人の歓迎をする所、王太子である私が代理で対応することとなった。リオン・ヨアフパロである。こちらは私の婚約者、パトラ・ティグレ公爵令嬢だ。君と同じ異世界人だよ」


「あなたが獣人族の異世界人!と言うことは、元いた世界から、獣人族の国に落ちてきたんですか?」


パトラは非常に美しいワンピースを纏っていて、見るからに高級品であることが分かる。デザインも街では見かけない、斬新なデザインだった。オフショルダーのツルツルしたシルクのような生地で、配色にはピンクを使っている。この国では許容されているのか、パトラの胸元付近まで大胆にパックリと開いているが、魔獣の羽根が縁にあしらわれているので、胸の谷間が見えるほどではない。ワンピースの裾にも同じ羽根が縫い付けられており、ふわふわとした様子が愛らしさを強調している。ブロンドの髪と金色の目にとてもよく似合っていた。


リタのドレスへの視線に気が付き、自慢げな顔をした。


「いいえ、人族の国に最初は落ちましたの。ギルド長のアイザックに対応いただきましたわ。同じ異世界人であれば何かと協力出来ることもあるはずですわ!それで次期王であるリオンと同じ異世界人であるわたくしが対応することとなったのですわ」


「いつ頃落ちて来たんですか?」


「3暦前ですわ。15歳の時に落ちてきて、今は18ですの」


3暦前と言えば、ちょうど獣人族から人族に輸入される防具の不備が見つかり始めた頃だ。異世界人が落ちてきたことと何か関係があるのかも知れない。


アイザックと知り合いだったのなら、アイザックからも何か聞き出せないか探ってみよう。パトラと獣人族の国で会ったと言えば、話せることもあるはず。


流石に探りを入れようにも、今聞くとあからさまになってしまう。仮にも公爵令嬢となっているパトラだ。公爵家の者を疑っていると思われて面倒ごとに巻き込まれるのは避けたい。詳細を聞き出すのはタイミングを見計った方が良さそうだ。


「そうでしたか。ご存知かとは思いますが、こちらには調査を兼ねて参りました。何かとご協力頂けますと幸いです」


このぐらい言う分には大丈夫だろう。パトラはその発言に対して顔色を変えず、ぜひに、とだけ言った。


「それと、パトラの侍女が不手際で大変申し訳ないことをしたようだね、サルヴァドール嬢」


「いえ、パトラさんだけの所為ではありませんから……私の不注意で瓶を割ってしまったことも原因です。しばらく部屋をお借りして療養させていただけたら十分ですから……」


一方、パトラは予想外にベスティアの件には反応を示し、目が泳ぎ出した。リタが溢したあの薬品には何かがありそうだ、と頭の片隅に留めておく。


「いつかこのお詫びはなんらかの形で必ずお返し致しますわ。だからどうか、ベスティアを責めないでやって頂戴」


未だにソワソワした様子で弁解の言葉を並べているあたり、腹芸は得意ではないようだ。3暦前に落ちてきたとはいえ、言葉は修正出来ていてもまだ貴族流のやり取りには不慣れなのだろう。あの薬品が何だったのか、調べる必要がありそうだ。


「それは大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます」


「それはそうと、皆様の歓迎と今後の発展に向けて、旅立たれる最終週にパーティーを開催する予定をしている。サルヴァドール嬢もご無理のない範囲で参加いただければと思う」


「かしこまりました」


「人族へ輸出している防具の件はこちらも頭を悩ませている。4種族の関係が改善することを私も望んでいる。協力は惜しまない。埋葬業に関してもクロリア伯爵が動きやすいように手筈は整っている。どちらの件も、好きに動いていただいて構わない。この王国での滞在を王太子として歓迎しよう」


「ありがとうございます」


リタがカーテシーをすると、3人も貴族の礼で答える。


「話は以上だ」


リオンのその言葉で退室することになり、無事面会は終わった。


「はあああ!緊張したねえ!それより、ねえ、皆」


王太子への挨拶の感想を言うと、リタは3人の目を見て声をさらに落とした。


「パトラさんの反応、気がついた?」


ジルクも小声でリタに確かめる。


「ベスティア嬢の話になった時の反応のこと?」


リタはコクリと頷きを返した。


「薬品のことでソワソワし出したのかな?何であんな反応をしたのか見当がつかないが、パトラ嬢とベスティア嬢の間には何かがありそうだな。オレはその辺りも探ってみるよ。レイズもこれからやる事があるから、リタちゃんはイルに付き添って貰って、医務室で抜糸しておいで」


「うん、行ってらっしゃい!気をつけてね……」


ベスティアが意図して招いた出来事ではない気がするが、何かがキナ臭い。レイズとジルクも、調査で危険な目に遭わないと良いな、とリタは祈った。2人の姿が見えなくなったので、リタは気を取り直してイルに案内を頼んだ。


「イル、医務室まで連れて行ってくれる?」

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