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異世界転移で妖精になったので、針一本で厄介ごとを片っ端から解決していきます!  作者: 春夜くる佳
第二部 獣人族の国

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テイラー街にベスティアがいた理由

「着きましたよ、ベスティア」


ベアーノから公爵家に到着を告げられたベスティアは、テイラー街の仕立屋、ベロサルトで受け取ったパトラのドレスが魔力袋を収納した鞄に入っていることを確認した。



当初このドレスは仕立てる予定がなかったものだ。1ヶ月前になって突然、王宮に来客があるとのことで王太子としてリオンが挨拶することが決まったのだ。その際にパトラも同席することになった結果、新しくドレスを仕立てることになった。


もっと前から王様が挨拶する予定だったのが、急遽次期王となるものが顔見知りである必要があるのではないかとの話が浮上したらしい。それでパトラも同席が決まった。これでもう、婚約者としての立場は揺るぎないものとなった。


人気店であるベロサルトに1ヶ月前に発注しても出来上がることは稀だ。ディグレ公爵家の名前を使った所で、他にも上客の貴族を沢山抱えているベロサルトがすぐ対応するわけがない。


結局パトラはリオンに泣きついて、リオンがヨアフパロ王家の名前でベロサルトに発注することとなったのだ。それを手配するのも、取りに行くのももベスティアなのに……。


今までこう言ったことは何度か起きていて、やれ、あのパーティーにでるドレスがないだとか、出来上がったドレスの守護の刺繍が気に食わないだとか。それでいつもベスティアが振り回され、発注や受け取りの度にベロサルトへ足を運ばされた。


3暦前に侍女になったばかりの時もそうだった。


「ベスティア、お茶会に行く服がないの!どうしたらいい?」


「ベロサルトで仕立てるのがよろしいかと」


侍女になることを父親に命じられてからは、侍女らしい話し方をするように心がけていた。もうこれからは友人として気安く話しかけることは出来ない。


「なんで?ベロサルトってここから馬車で1週間はかかるんじゃないの?めんどくさい!」


「お言葉を……」


「あ、ごめん!気をつける、ですわ!ベスティア代わりに行ってきて下さいですわ!私この国のデザインとかよく分からないし!既製品をちょちょっとアレンジすれば良いですわ!」


「はあ……分かりました。行って参ります」


「あ、でも、あの守護の刺繍は嫌ですわ!この前リオンからバカでかい守護がかけられたローブを貰ったの!流石にあれはちょっとダサいですわ……」


「!!!!」


ベスティアはパトラの不敬な発言に絶句した。王太子であるリオンを呼び捨てにするのも納得がいかない。その上、王家の一員を表す、バカでかいとパトラが言った守護は、王宮魔術師が丹精込めて縫い込んだ一級品だ。それを貰えること自体が名誉であるのに、ましてやパトラはダサいなどと……!


ベスティアは怒りで体が震えるのをなんとか抑えた。たとえ遠縁の親族であろうとも、限度がある!

普段からお淑やかで優しい顔つきのベスティアが眉を顰めてフルフルと震えると、まるでパトラに怯えているようにも見える。


「ですが、あの守護は王家の一員を表すもの。パトラ様のお召しになられる物には今後、全てに縫い付けるのがよろしいかと……」


「どうしても縫い付ける必要があるの?でしたら見えない所の首元に縫い付けておくのがいいですわ。見て分かるところに守護を刺繍するだなんて、せっかくの美しいドレスが台無しですわ!そうだ!ブランドネームタグにしたらいいのですわ!いっぱい先にタグを作っておいて、後で縫い付ければ良いんだから。そうしましょ!」


「ブランドネームタグとはなんでしょうか?」


「んっとねえ、それはこんなかんじで〜」


ベスティアはパトラの発想に驚いた。むしろなぜ誰も今まで思いつかなかったのだろうか?


確かに中には守護の刺繍が見えるのを嫌がる者もいたが、胸元や服の裾についたワンポイントから出自を推測できることもあったので仕方がなく見えるところに縫い付けられていた。それに、守護が刺繍されていると言うことは比較的高貴であることを示す。卑しい出自ではないことを表すことに一役買っていた。

だが、パトラの説明したそれは画期的だと思った。ベスティアはパトラを少し見直した。


昔知り合った魔族の友人にも話してみたら、是非広めるべきだわ、と賛同してもらえた。案外、パトラに仕えるのも悪くはないかもしれないと思った。ベスティアは魔族の友人に相談しながら、ブランドネームタグをパトラ発祥とは伏せて広めることにした。


ちょうどベロサルトからも同じような相談を受けていた。守護の刺繍を目立たなく縫い付けられないか、とのことだったので、パトラのアイディアを提供した。


他の店にも応用したいと言われた時もベスティアが一人でブランドネームタグを複数縫い上げ、サンプルとして提供した。一つ、また一つ、と縫い上げると、ベスティアに対する嫉妬や不満も消えていくようで、とても捗った。魔族の友人がそれを見たいというので先にサンプルを全て送ると称賛してくれて、それがより自信に繋がった。もちろん、ブランドネームタグを卸す前にパトラにも見せた。気になる所があったので、直したとも言っていたが、何をどうしたのかは分からなかった。ベスティアは魔力感知にも疎い。


パトラに言わせると、そんなものは誰でも思いつく、との事だった。だからわざわざパトラに許可を取らなくても、ベスティアの判断で好きにすれば良いと任され、嬉しくなった。


流行の出所は自分ではないにしろ、それを広めるのは楽しかったからだ。魔族の友人にも相談し、広めて見るとの協力を得られたので、魔力伝令の手紙でやりとりしながら広報活動を進めた。


パトラはどこか浮世離れした所がある。ベロサルトに行くのにも1週間はかかる、と言うと、ベスティアならすぐ取りに行けるでしょ?というのが彼女の言い分だ。怪我をしても、回復すればいいじゃない。喉が渇いたなら水魔法で出せばいいじゃない。なんでもすぐに魔法が何とかしてくれる、と思っている節が彼女にはある。


獣人族は魔法を体に纏わせる以外できないので、人族の発明した魔法石や魔道具を介するしかないというのに、パトラはなんてことはないというように言う。ベロサルトに行く1週間の移動も自分は手間だから嫌だけど、良質なドレスは欲しい。そう言ったことは全てベスティアがやることになっていた。ベスティアなら分かるでしょ?と言われてリオンにも流石ベスティアだと言われると断れなかった。


ベロサルトから足を運んでくれたり、発送してくれたりするサービスはない。職人が職務に集中してお客様に満足いく物を作り上げるために、余分なサービスはしていないのだ。だからベスティアがパトラを採寸して、ベロサルトに伝えるという方法を取る必要があった。


基本的にドレスを仕立てる時は、自分の足で出向き、調整した方が効率は良い。その時に細かな自分好みのデザインも伝えられる。そしてそれが新たな流行を生み出す事だってあるのだ。しかしパトラは、ごく稀にフリル部分はこうして、などと誰もが思いつかないような斬新なデザインを言うことはあるものの、決してそれを自分が提案したとは言いふらさないのだ。

それでも、そうした新たな流行や新しい技術がパトラ発祥であることを上位貴族は知っている。パトラが最初に着用するのだから当然だ。それなのに、自分が、自分が、とパトラは言いふらさない。そんな奥ゆかしさを好んでいる者も多くいるのも事実だ。

そういうパトラの一面に、敵わないと思い知らされているようで、ベスティアはパトラへ次第に劣等感を抱くようになった。


とにかく、このようにしてパトラはデザインと縫製をベロサルトで行い、調整だけは別のヨアフパロ王国内の仕立屋に頼むという方法を取っている。なぜならパトラは次期王妃教育を受けるのに忙しいからだ。


普通の貴族令嬢であれば、当然として出来ることや知っている事がパトラには欠けている。ベスティアはリオンから、パトラは幼少期からずっと人族の国で暮らしていたと聞いている。きっとそれが理由なのだろう。


今回のドレスも来客が来る日程のギリギリで仕上がったことで、ベスティアが急いで取りに行ったのだ。


でも次期王太子妃であるパトラにまで関わらせなければならないほど重要な人物とはどういうことだろうか?


最初はそう思っていた。だが、ベロサルトで4枚羽のリタを見て、おや?と思った。そして乗り合いの馬車に乗れず、リタ達の馬車に同乗したことで、リタ達こそが来客であると知った。これほど高貴な方とご一緒するなんて、とベスティアは何度も躊躇したが、最後には言い含められて同乗することになった。


その4枚羽の妖精族の公爵家たるリタ達をベスティアの薬の作用に巻き込んだのだ。パトラからはどんな罰が言い渡されるのだろうか。


ベスティアは肩を落としてディグレ公爵家の中へと恐る恐る入っていった。

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