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どなたかの屋敷に連れられて来ました

「うぐへえ!」


バンッ!と屋敷の扉が開いたかと思うと、風にぽいっと玄関に置いて行かれ、勢い良く床に叩きつけられた。


しかしリタには体を打ちつけた痛みよりも、気持ち悪さが勝っていた。


「うげえええええ気持ち悪いー……」


この世界で飛ぶとは、クルクル回ることを言うのだろうか?


フラフラした頭を抱え、何とか周りを見渡してみる。豪華な屋敷だ。


リタが座っている玄関の床は大理石で敷き詰められており、ここだけでも20畳ぐらいある。大理石が途切れた先からは重厚感のある絨毯で敷き詰められている。天井は高く、頭上にはシャンデリアがぶら下がっていた。


階段が玄関の前に広がっており、その階段を守るかのように二体の天使の像が飾ってある。階段に行き着く前に左右に廊下がのびている。廊下の壁にランプが埋め込まれ、どことなく怪しげな雰囲気が漂っている。


「おい、お前、これはどう言うことだ。」


リタが観察してフラつきが治るのを待っている間に、男が開け放たれた玄関の扉に立っていた。


さっきは暗闇で見えなかったが、今はシャンデリアの光に当てられ、艶々と黒髪が光っている。さらさら動くそれはとても爽やかに見える。意思の強そうな青い目は強い光を宿していた。


服装は白いシャツに深いブルーのクラヴァットで首元が飾られていた。黒いベストとスラックスという出立の上、さらに黒い膝まである軍人のようなコートも羽織っていた。手には皮手袋をしている。暑くないのかな?と少し心配になった。


男の容貌に追いやられていた意識を前に戻すと、質問を聞かれていたのにはっとし、なんのことやら、と首を傾げた。


「え?なにが?」


「なにがじゃねえよ!説明しろ!俺は間違いなく敷地内の死者を全て王の命令で眠るよう抑えつけたはずだった!なのになんで起きたんだ?それを説明しろ!」


「説明しろって言われても、私も分かんないよ!なんで私襲われたの??あなたが抑えつけておくって言ったよね?」


「俺は俺の仕事をちゃんとこなした!間違いない!嘘なんてつかねーよ!それにお前を襲った所で俺になんの利益がある!あー、お前公爵家だから俺を疑ってやがるな?何に追われてんのか知らねえけど、普通お前を売るつもりなら、寝てる間にとっくに闇神父を呼んで売っ払ってるだろ!」


「え?私は別に公爵家じゃないよ?」


「は?じゃあその羽はなんなんだ。」


「んーちょっと魔力値が高いだけど?」


「ちょっとどころじゃねーだろ!4枚だぞ!今妖精族の公爵家の中でも4枚ある奴なんて殆どいないのは周知の事実だ!馬鹿でかい魔力をすっからかんにしちまうぐらい消費する追手だったんだよな?でも王族から逃げてたわけじゃないんだろ?意味わかんねー。なんで俺の命令を死者が無視できる?お前は本当に何者だ?」


「えーっと、んー!妖精族です!」


「お前がただの妖精族なわけねーだろ!それはお前の羽が証明してるって今話してたところだろーが。本当は何から逃げてるんだ!なんで俺の魔法が死者に効かないんだ!お前は何者だ!さあ!答えろ!」


「そう言われても、私も嘘は言ってないんだけどなー」


隠してることはあるけど。


「お前さ、ここは墓地だ。ここは俺の領土だ!これは言いたくなかったが、ここでは俺がルールだ。全部吐いてもらうぞ。手荒な真似はしたくない。お前が喋る気になるまでずっとこうやって問い詰めるからな。どうせお前は1人でここを出られないし?まあ、飛んで帰れるなら帰ってみれば?」


「そんな言い方ないでしょ!私だって嘘は言ってないのに……。男3人組に羽が4枚あるって知られて、そしたら捕まえられそうになったの。まだ上手く飛べないけどなんとか逃げ切ったんだよ。でもその時吹っ飛んじゃって、気がついたらさっきの木の上にいて、多分寝ちゃって。それであなたにさっき起こされたの。私だって訳がわからないよ。お家に帰りたいよーう。うわあああああん!!!」


こんな世界に来たくて来たんじゃない、と言う言葉が出かかったが、異世界人だとバレたら余計ややこしいことになるかもしれない。異世界人と思ったあたりで、前世で関係のあった人たちの顔が次々と思い浮かんだ。もう駄目だった。涙が止めどなく溢れ、

「帰りたいよう……」と言えば、ああもう帰れないのだったと思い出し、また涙がでてくる。


えぐえぐととめどなく泣くリタを見て、男は頭を乱暴にガシガシと掻き毟ると、


「あーー俺が言い過ぎた。悪かった。お前は嘘は言っていない、そうだよな。分かってる。八つ当たりだった、すまない。」と謝り、小声で、だから泣くな、と付け加えた。


「今更優しくしないでよーーー!うえーん」


様々な感情が溢れ出て来て、もう簡単に涙が止まりそうになかった。


「うがーーー!あーもう!ちょっとそのままそこで泣いてろ!」


そう言って家の奥に消えていった。


男が去って行くと、リタはまだ泣きながら先ほどの事を振り返っていた。


リタにだって、なぜ自分に死者が襲って来たのか、死者を起こすはめになってしまったのか、見当もつかなかった。


「それより、お腹減った……。」


当然だ。一週間も寝ていたのだ。光に包まれていたとさっき言われたが、そのお陰で飲まず食わずで一週間生きていられたのだろう。その間は状態維持になっていたのなら、リタのお腹はまだ昼過ぎである。魔力欠乏も相まって、泣いて少し気分がすっきりしたことで、空腹を感じ始めたのだった。


カチャカチャという音が聞こえ、そちらを見やると、男が廊下の先にある部屋から戻ってくる所だった。お盆を両手に、それぞれポットと軽食が乗っているのを運んで来たのが見えた。


「腹減ってないか?この時間が俺にとっての晩飯時だから、適当に飯持ってきた。お前も食え。」


玄関にある大きな置き時計を見ると、夜中の12時だった。


床に座り込んでいるリタの前にお盆を一つ起き、リタの目の前にどかっとあぐらをかいて男も座った。


確かにお腹は減っていたので、遠慮なくいただくことにした。


「えっと、祝福を」


小声で呟くリタをチラッと一瞥し、男の方は黙って紅茶を飲み始めた。


お盆にはスコーンとスクランブルエッグとベーコンが乗っている。端にはコロンとフォークが一個転がっていた。朝ごはんみたいだが、起きたばかりのリタにはちょうど良い。男にも同じものが乗っかっている。リタは黙々と食べることにした。


「お前、名前は?」


「リタ・サルヴァドール……17歳です。」


「家出か?」


「ううん、両親はいない。ギルド長が後見人になってくれてる。」


口にはしなかったが、男の顔には、ああ、訳ありか。とありありと書いてある。


しばらく無言で2人は食べ続けると、リタはフォークを置いた。


「感謝を。」


「全部食ったか。口にあったか?」


「うん、美味しかった。ありがとう。お腹が減っていたから、助かった。」


「なら良かった。紅茶も気分が落ち着く香り高いものを選んできた。それも飲むと良い。体が休まるぞ。」


こくりと頷くと、ありがたくいただいた。


「俺はレイズ・クロリア、26だ。ここの領地を任されている、伯爵だ。」


伯爵と言われても、本で読んだ知識はあれども、どのように接するのが適切なのか、あまりピンとこない。


「あ、はい。」


だから返事だけしておいた。


「なんだ、妖精族の公爵家様は下々に興味がないって?」


「いやいや、だから私こうしゃ……っ?」


クラっとまた頭がふらついて、紅茶のカップを落としかけた。幸い飲み干していたので、中身がこぼれるような事はなかった。落とすのは嫌だったので、お盆の上にカップをなんとか置いた。


「じゃあもう一度聞く。お前は誰だ。」


ドクドクと心臓が脈打つのが分かる。酔っぱらった時のように体がフワフワする。飲み過ぎたように酸素を体が取り込もうと息を何度も吸って吐き、両腕を床につけ、懸命にリタは息をする。顔もお酒が入っている時のように熱くなるのを感じ、目がうるんでレイズの顔がよく見えない。


「リタ……うぐっ!酷い。何か入れたの?」


「ただの自白剤だ。飯の中にちょっとな。」


レイズのプレートを見てみたが、完食してあった。プレートをじっと見つめるリタに気がついたレイズはなんでもないことのように言った。


「なんだ?ああ、交換しようと言われたときのために俺のほうもちゃんと入ってるぞ。けどネクロマンサーに毒物は一切無効だ。」


毒物が一切無効になる?職業による特殊な能力があるのだろうか?


「特にこの土地なら俺の魔力が効きやすくなるから、何でもしゃべっちまうぜ。名前は嘘ついてないんだな。」


リタがハクハクと息を一生懸命吸い込もうとしている様子を観察しながら、レイズは言葉を続けた。


「公爵家にリタっていたっけか?お前公爵家だろ?」


「ちがっ!ううう……魔力が高いだけなの」


「なるほど?公爵家の血が混じっているわけでもない?王族でもない?」


「混じって……ない!!王族じゃない!」


はあはあ、と喋るたびに苦しく、息切れする。


「親がいないと言っていたな。お前が知らないだけで混じってるんじゃないのか?」


「親は、この、世界に!……いない!」


「両親がいないと言うのも本当だったのか。死んだだけで、親の事は知ってるということか。」


よかった上手く勘違いしてくれた。


「じゃあ、なぜ魔力値が高い?」


「ぐはっ……!!!うぐぐぐぐ!!!くっ!!苦しっ!!息が!!!」


それ聞かれたら、あれを言うしかないんじゃないの?!でも、伏せておいた方がいいって言われてるし、と頭をグルグルと思考が巡った。


徐々に首が締まるような感覚があり、思わず首に手を当てた。


「ゲホッ!!うぐっ!!!」


「よっぽど言いたくねーんだな?ほらほら。喋れよ。俺の言うことを聞かないと首が締まる仕様だ。死にたくなかったら言え。普通の妖精族の家柄で4枚の羽は絶対に生まれない。2枚や3枚がちょっと頑張ったところで4枚には絶対届かない。突然変異なんて都合の良いものはないことを俺でも知っている。言い逃れはできないぞ。言え。なぜ魔力値がそれほど高いんだ。」


苦しい!!!もうダメ、死んじゃう!!!


「っく!!うぐっ……異世界人だから……!」


ついに言ってしまった。いや、言わされた。これ言って良かったんだろうか?異世界人に恨みがある人じゃないといいけど。酸素が足りないフラつく頭でなんとか思考を巡らせる。


「ゲホッゲホッ!!はあ、はあ」


問いに答えた瞬間、首の圧が消え、一気に酸素がなだれ込んできた。


酸素!酸素だ!!ふうふうと音を立てリタは懸命に息をした。首がまだ痛い。


それを聞いたレイズはポカンとした。


「異世界人だと?そんな、嘘だろ。」


「嘘じゃない……!」


「改めてお前がここに来るまでに起こったことを話せ。隠し事はなしだ。全てだ。」


結局リタは起こったことをすべて話した。


「お前があそこに寝ていたのは、恐らくその魔道具と、初めて飛行を経験したことによる魔力欠乏症だな。行使したこともない魔法の魔力消費は大きいからな。」


話を聞き終わったレイズはリタに向かって距離を詰め、マジマジとリタの顔を見つめた。


「しかし、本当のようだな……ふむ、まだ自白剤は効いているな。俺の魔力を感じる。嘘は言っていないな。」


「うん……」


ああ、ツライ。苦しい。体が火照る。


「歴史で読んだ事はあっても、半信半疑だった。異世界人って、本当にいるんだな!これは驚きだ。」


レイズはリタの顎に手を添え、クイッと顔を自分に向けさせた。真正面から互いを見つめ合う形になっているが、体に力が入らず、リタは抵抗できない。するとどうだろう。


ドクン!!


レイズの胸が大きく鼓動を打った。


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