誰かの領地に来てしまいました
……キ……オ…イ…マエ……ロ……
何かが聞こえる。
起きろ。
んー、まだ眠い。
「……おい、お前!起きろ。……おい!!」
「うわ!」
「うわ、ってなんだよ人を汚物みたいに!失礼な奴だな!」
「えーっと。すみません。びっくりしただけです。」
下の方から声がする。
「いつまでそうして木に引っかかっているつもりだ。」
「ん?えええ?!」
確かにリタはまだ木の上にいた。
「勝手に人の敷地で寝てんじゃねーよ。一週間も居座りやがって。さっさと起きて帰れ。」
「1週間?!それはつまり1週間寝ていたと言うこと?!いやいやいや見てないでおろしてくださいよ!」
木の上でワタワタすると、ガサガサと木々が揺れた。辺りは真っ暗だ。
「あん?なんか光に包まれてて触ろうにも触れなかったんだろうが!死者どもがまたざわついているかと思って来てみたら、ついさっきやっと消えたんだよ!寝る前に防御魔法を張ったんだろ?」
「防御魔法を使った覚えはありませんね。ってか生意気な喋り方ですね。そんな奴には敬語は撤廃だ!」
「なんだと!お前は俺の敷地で1週間も眠りこけていやがったんだぞ!それを俺は優しいことに、そっと見守り続けてやったんだ。教会の神父を呼んで撤去してもよかったんだからな!事情があるのかと思ってほっといてやったんだよ!むしろ感謝されたいぐらいだね!」
「はっ!それはまことですか!なんと心優しきお方でしょう!ありがとうございました!!」
よく分からないが、気を使ってくれたのだということだけはわかった。
「わかればいいんだよ、わかれば。で?俺はお前を助けられないぞ。さっさと自分で降りてこいよ。お前妖精族だろ?」
実はかくかくしかじかで、と起こったことをありのままに説明した。但し、異世界から来たばかりであることは伏せ、魔道具が原因で魔力が安定しない事にした。
「というわけで、あまり魔力の使い方が上手くなくて……飛ぶのが怖いの……」
「はあああああ???お前妖精族の癖に飛べないのか?!」
「いえ、飛べることは飛べるのですが、吹っ飛んでしまうのですよ」
ごにょごにょと言い訳する。
「それ飛べるって言わねーだろ」
「へえ、面目ない……」
はああああ、と大きなため息を付くと男はボリボリと頭を掻いて仕方ねえなあ、と呟いた。
ボソッと男が何やら呟くと、土がゴボッと音を立てた。その音はリタがいる木を中心に、とめどなく鳴り響いた。
辺り一帯に土がゴボゴボと盛り上がる。
「おお!土魔法?が使えるんだね!でもさっき俺は助けに行けないって言ったよね?」
「ああ、言ったぞ。確かに俺はお前をその木の上まで迎えに行けない。」
「うん?」
「でもこいつらに梯子をやらせれば行ける。」
盛り上がっていた土の部分からズボッという音ともに、無数の手が飛び出してきた。
「えええ????キャアアアアアアアアアア!!!」
無数の手であることが分かると、驚いてリタは悲鳴を上げてしまった。
「何?お前ここがどこか知らないで来たの?」
リタの叫びを無視して無数の死体は折り重なり、梯子、いや、死体の階段を作り上げていく。
「ひええええええ!!!!何これーー!!」
死体は五階建てマンションの高さぐらいまで積み上がっている。
「ここは墓地だよ。俺は人族だけど、ネクロマンサーだ。死体や霊魂を操れる。見ての通り、こいつらは死体だ。」
「見たらわかるよーーー!!!うええええーーん」
「チッ。ちょっと死体をかき集めるのが面倒だから、ちょっと足りないけど、2メイルぐらいなら降りられるだろ?飛べ。」
メイルって何?あ、メートルの単位か!いや、それは今はどうでもよくて!
「無理だよーー!!怖いいいー!!」
「あーくそっ。手のかかる奴だな」
またもや、はあ、とため息を付くと、死体を踏んで男は死体の階段を登ってきた。
「ほら、手を貸せ。」
手を差し出されたものの、腰が引けて男の手が掴めない。すると、グイッと無理やり男から手を引っ張られ、男の胸に飛び込む形になってしまった。足元は死体だらけだ。
「えーーーん!!踏みたくないよーう!!無理だよ!!私には踏めない!!」
思わず男の首に両手を回し、抱きついた。
「なんだ気持ち悪いし汚いからか?こいつらはお前を助けてくれたんだぞ」
男は少し怒った口調でリタを嗜めた。
「違うよ!汚いなんて思ってないよ!ここ墓地なんでしょ?この人だって誰かが愛した誰かかもしれないじゃない!だから踏めないよ!」
それを聞いた男はフッと顔を緩めると、
「お前変なやつだな。」と一瞬嬉しそうな顔を見せた。
「こいつら、もう死んでて自我も痛覚もないのに」
そう言った顔があまりにも優しかったので、リタは思わず見惚れてしまった。
「なら抱き抱えて降りてやるからそのまま首に手回してろ」
「キャッ!」
男はサッとリタをお姫様抱っこにし、死体の階段を降りた。
なんて夢のような出来事だろうか!周りはグロだけど!よく見るとこの人かっこいいし!シチュエーションが墓地で色気のかけらもないけれど!
この世界はイケメンしかいないのかな?!とも思ったがモブオ達の顔を思い出し、そうでもないな、と思い直した。
無事地上に着くと、意外と優しく腕から下ろしてくれた。
またもや何かを小声で呟くと、折り重なっていた死体達は元いた土の中に一斉に潜り込んで行った。
「はい、じゃあさっさと帰れよ。死者達は抑えておくから。」
「はい!何から何までありがとうございました!助かりました!後日絶対お礼に来ます!」
「はいはい、期待せず待ってまーす」
「いやいや、ちゃんとお礼に来るからね?!」
「わかった、わかった。さっさと行け。」
口調とは裏腹に、顔は優しげだ。
男はくるっと後ろを向き、そのままヒラヒラと手を振って去っていった。
一週間も寝ていたなんて、魔力欠乏恐るべし。二度と起こらないように気を付けなくちゃ!
そう心に留め、リタは歩き出した。暫くして後ろをチラッと振り返ると、まだ小さな点で男の歩く姿がみえた。
ゴボッ
アイザックさんから一週間に一回は来るように言われていたのに、心配してないかな、と罪悪感が過ぎった。
ゴボゴボ
ハンカチもまだ刺繍できていないし、1日頑張れば出来上がるかな?
ゴボゴボッ!
ここ広いし、飛ぶ練習でもしながら帰ろっかな!
ゴボゴボゴボ
ん?さっきから何やら周りがザワザワしてるな。
ピタっと歩みを止め、耳を澄ますが墓地には静寂が広がっている。まあ、でもさっきの人が抑えておくって言ってたし、大丈夫でしょう!
ズボッ!!
「ん?」
ズボズボズボ!!!
「あああああああううううううがああああああああぐげええええ」
「キャーーーーー!!!!!」
ネクロマンサーの男の遠くで、悲鳴が聞こえた。さっきの妖精族の悲鳴か?敷地内に侵入者が!?いや、そんなはずはない。侵入者があれば必ず死者達が騒ぎ出すはずだ。
「くそ!またあいつか!大人しく帰れよ!」
「キャーー!!!」
遠くでまた悲鳴が上がっているが、徐々に悲鳴が遠ざかっている。何かから逃げているようだ。
「俺の敷地で悪さするとは、上等だな!」
死体が気配を感知しないほど高位な魔法は王族以外には使えないはずだが、まさか王族があいつを狙っているのか?確かにさっき後ろ姿を見たとき、上手く重ねてあり、見えづらかったが、確かに羽は4枚の公爵家クラスだった。
「王族だろうと、この土地は不可侵だ。死者の安寧を妨げるとは。絶対に許さん!!!」
男は走り出した。人族は飛べないが、飛ぶ方法はある。少し乱暴だが。
「答えよ霊魂!死者の王の命により告ぐ!『暴風』!!!」
男は死者と霊魂を操る魔法以外は使えない。その上、死者は生前の特技を死者になっても使えはするが、生きた物にだけに宿る魔力はない。しかし、霊魂は別だ。霊魂は生霊である。霊魂に魔法を使わせれば良い。
強い風が湧き上がり、男の体を巻き込んで一気に叫び声の元へと連れ去った。
「霊魂に王が告ぐ!『状態維持』!!」
これでリタのようにクルクル回って目を回すこともない。
「いやー!来ないでってばー!私美味しくないよー!きっと虫みたいなかんじだよー!」
声が近くなってきて、姿が見えてきた。
「虫って!ははは!あいつ馬鹿だなーってウケてる場合じゃないな。」
男はクックックとまだ込み上げる笑いを堪え、リタに向かって叫んだ。
「おい!!お前なんで死体を惹きつけてんだよ!」
「さっきの人?!来てくれたの?!お願い、助けてー!すっごい追いかけてくるー!」
「なんだ?妖精族はそういうもんなのか?いや、そんなの聞いたことないな。」
ブツブツと男は考察をしているが、リタは大ピンチだ。
「もう、走れない!」
足が絡まり、勢いよく地面に転がった。
リタが転けたのをみて、男は一旦風で連れ帰るか、とまた本日何回目かのため息をついた。
「霊魂に王が告ぐ。『暴風』でこいつを屋敷に連れて行け。」
そう呟いた瞬間、男が身に纏っていた風がリタに移る。
「キャ?!え?!いやー!またなのー?!」
クルクルとバレリーナのように風で運ばれていった。
「あ、状態維持すんの忘れてた。」
実際は忘れてなどいなかったのだが、ちょっとした八つ当たりで、状態維持をかけるのが遅れたのだった。
「行っちゃったし、まあ大丈夫だろ。」
結局リタに状態維持の魔法をかけることなく、そのままにしておいた。
男は自分も風で追いかけようか迷ったが、見回りがてら歩いて帰ることにしたのだった。




