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魔道具との出会い

いやいやいやいや、どこ?ここ、本当にどこ?路地ってこんなに迷うものなの?迷宮☆ラビリンスなの?引き返せば良いやーと思っていた時期が私にもありました。


はあ、ここはGoogle Mapを……なんてありませんよね!!すっかりタブレットがあるし〜なんとかなる〜とか思い込んでました!あらやだ、慣れって怖い!

貰った地図見ても、細い道は書いてないし、困ったなあ。


あっちへフラフラ、こっちへフラフラしていると、迷いながらも裁縫道具が売っている手芸屋さんを見つけた。絶対店員のお姉さんが教えてくれた場所じゃないと思うけど。でもこの機会を失うと、またいつ手芸屋さんがあるか分からない。刺繍糸と針さえ買えればいいんだし、この際入ってしまおう。


外から店内を窺うと、店内はやや薄暗く、お客さんは1人もいなかった。一声かけてから入るか。


「すみませーん……」


リタの声で、店の奥からヒョイっと顔を出したのは年寄りのおばあさんだった。目が赤いので魔族かもしれない。


「珍しいねえ。いらっしゃい。」


せっかく話しかけて貰ったし、お客さんもいないことだからちょっと聞いてみよう。


「あの、針と刺繍糸を探していまして……」


「ほーん、で?お嬢さんは何さね?本当は誰かを呪えるとか聞いてやって来たんだろう?」


「え?!いや、なんで???違います!」


「ふんっ。じゃあ何だね。糸に魔力を乗せて絞め殺す方法でも知りたいのかい」


「はああああ????そんな物騒なことはしません!!」


「じゃあ、何しに来たんさね!あーはいはい、分かった、アレだろ。冷やかしだろ。へん!お前さんが欲しい物はここには売ってないよ。帰んな、帰んな。」


老婆がさっさと奥に戻ろうとする背中を見ると、戸棚の上に針山があり、一本だけ刺さっている針を見つけた。


「針あるじゃないですか!これ!これで良いんです!これ下さい!」


バッといきなり老婆が振り返ると、


「その針は特殊だよ。」


ときつめの口調で言ってきた。


「え?何が特殊なんですか?ただの刺繍用の針ではないんですか?」


「それは一応魔道具なんだよ。上手く使えば色々出来るさね。ただの妖精族には無理さ、魔力が足らんよ。」


「羽、4枚あるんですけど!それでも無理ですか?」


「何だって!!あんた公爵家かね?!」


「いえいえいえ、ただの妖精族ですが!」


「こんな裏路地に来ちゃダメじゃないか!抜け出しでもしてきたのかい!」


「本当にただの妖精族ですってば!ちょっとばかし魔力値が高いだけなんですって!」


「ふーん?そういうことにしておいてやろう。なんだ、お前面白いじゃないか。まあ良い。売ってやろう。」


「え?本当ですか?やったー!あ、あと糸も欲しいんです!」


「はっはっは!糸もねえ?うちにある糸もちょーっとばかし特殊だよ。針も糸も、膨大な魔力を消費する。お嬢ちゃんならまぁ使えないこともないだろう。」


「へー?すごいですねー!」


リタは適当な相槌を返した。だってよく分からないもん。


「なんだ、疑ってるのかね!確かにうちの道具は人を選ぶけど、魔力さえあれば最高級の逸品さね!」


「いえいえ、疑ってなんていません!見るからに素晴らしい針と糸だと思っていました!」


「ふん!当然さね!特別にこの糸もつけてやろう。針と刺繍糸3種類で銀貨30枚さね。」


銀貨30枚ってことは、三万円?!


「たっか!え?マジ?たっか!」


たかが針と糸のくせに!


「確かにあの事件があってからうちの評判は落ちたが、腕は落ちちゃいないよ!いらないなら売らないから良いさね!」


「あ、いえ!魔道具って高いんだなと思って、ちょっとびっくりしただけです払います、払います!」


カードを鞄から出して懸命に渡すそぶりをする。


フン!と言いながらも老婆は照合機を出してくれたので、サッと支払いを済ませた。


「あのー……この魔道具の使い方、一応教えてもらえませんか?ほら、普通の魔道具とはちょっと違うらしいじゃないですか!使いこなせるか心配で……」


「針と糸も使ったことないだなんてとんだお嬢ちゃんさね。とは言え、最初から教えるつもりだったよ。手を貸しな。」


言われるがままに手を見せると、購入したばかりの針を握らされた。そして老婆がお店の棚に置かれていた糸に向かって人差し指をクイッと内側へ向けると、老婆の元へふわっと糸が降り立った。


顔の前で人差し指を横切らせるとすっと針に糸が通った。


「何か縫えるものはあったさねえ」と店内をキョロキョロ見渡し始めた老婆に、


「私ちょうど今日買ったハンカチがあります!友人のイニシャルを刺繍しようと思って……」と申し出た。


「そいつが呪い殺したい相手さね?」


「違います!ハンカチをもらったので、そのお礼にお返ししようと思って買ったんです!」


「なんだい!あんた良い子じゃないか!」


「最初から呪いたいんじゃないって言ってますよね!」


「そういうことならあんたにこの針を売って良かったと思うさね。この針は想いを強固に紡ぐ。あんたの魔力だったら魔力を込めた分、思ったとおりのことが起こるさね。使い方には充分気をつけるさね。」


「そんな危ない針なんで普通に売ってるんですか?!」


「何を言ってるさね。この針は普通のやつには使えないんだよ。ほら手を貸しな。魔力の動きを教えてやる。」


老婆の手がリタの手に触れた瞬間、自分の手がカッと熱くなった。針を摘んでいる指先がムズムズする。


「この感覚を強めたり、弱めたりして縫うんさね。」


「この針、魔力が高かったら使えてしまうんですよね?」


「でも私が信用に値すると判断したものにしか売らないし、そいつにしか使えないよう魔力登録もしてもらうよ。」


老婆がそう言った瞬間、手の中の針を奪われ、ぐさっと手のひらを刺された。


「いったーーーーーい!!!!何すんのよーーー!!!」


「特殊な魔道具ほど、特殊な魔力登録の方法があるさね。こいつは不意打ちで使用者の血をあたえてやらにゃならんのさ。」


なんて物騒な……


「ほれ、これはもうお前さんの針だ。返すよ。」


「ありがとうございます……」


刺された手のひらを見ると、ちょっと血が出ていた。


「さっきの感覚でハンカチを縫ってみな。もう使えるはずさね。」


手のひらが少し痛むが、とりあえず教えられた通りの方法でハンカチにプスっと針を通す。一針、一針と進めるたびにグングン魔力が吸い取られているのがわかった。


「なんかすっごく疲れるんですけどー!!」


「お前さんならすぐ慣れて、疲れることも無くなるだろう。その糸もやるよ、持っていきな。このままじゃ危ないから小さめの箱にハンカチごと入れるけど、いいさね?」


「糸、おまけしてくれるんですか?!やったー!ありがとうございます!うふふふ〜」


指輪が入っていそうな箱に刺繍糸を4種類と針とハンカチを一緒に入れられた。


「この店はたまにしかやっていないからね。店に来ても閉まっていることがほとんどだが、わからないことがあったら根気よく立ち寄るさね。」


「はーい!じゃあ、ありがとうございました!」


店を出る時にポシェットからインベントリを取り出し、小箱を収納した。


もう時刻はお昼過ぎになっていた。意外と良い人だったな。用事も終わったし、来た道を戻ろうと10分ほど歩いたが、徐々に道が狭くなり、気がつけば、もうどこにいるのか分からないようになってきていた。


長いこと立ち話もしてしまっていたことで、足が痛む。ピンヒール履くんじゃなかったなあー。とりあえずカフェにでも入ってちょっと休も……


ドン!!!


「いってえなああお嬢ちゃんよ〜???」


うわ!ぶつかってしまった!キョロキョロしてたせいだ……。


「あ、すみません。」


「おおおー???別嬪だな、こりゃ!!ヒャッハー!!」


え、なに?世紀末なの?そうなの?


最悪だ。黙ってさっさと立ち去ろう。


「おっと、待てよ!妖精族か!どおりで綺麗なわけだ!良いねえ、可愛いねえ?ちょっとお茶しようぜ。な!」


思った以上に狭い路地に入り込んでしまっており、立ち塞がられてしまった。クルッと後ろを向いて去ろうとすると肩を掴まれた。


「いいじゃん、ちょっとだけ、お茶しようぜ〜〜いいなあ妖精族!妖精族って皆君みたいに可愛いの〜?」


うわ、こいつ酒が入ってる!

ここは、相手を刺激しないように穏便に立ち去らなければ!


「ありがとうございます!急いでるので!ごめんね?」


「いやいや、この路地何もないの知ってるだろ?暇なんだろ〜」


失敗したなあー。何もない路地に来たのか。そりゃ暇だろってことになるよな。


「おっモブオじゃーん!可愛い子掴んで何してんのー?」


「モブツー!いやそれがさ、暇ならお茶しようぜって誘ってたところなんだけど来てくれなくてさー。」


「ふーん?じゃあほっとけば〜?」


神降臨か!!!!!


「あれ?よく見たら妖精族じゃん!珍しいなあ!うわっ!すげー美人じゃん!!!流石妖精!!」


あれ?邪神でしたか。そうでしたか。


「だろだろ!!!もうこれは絶対3人でお茶するしかないでしょ!」


どんだけお茶飲みたいんだよ!!他に娯楽はないのか?!異世界2日目でこっちはまだ人と積極的に関わる心の準備ができていないんですが!!


「おう!モブオ、モブツーがいるぜ!今から遊びに行く感じぃだぜ?!」


「イェーイ!!!モブスリーじゃあん。奇遇だなあ?!ヒャッハー!」


しかも増えたんですけどお!!リタの心の中では絶賛大雨が降っている真っ最中だ。


ここはこいつらの縄張りなのか……そうなのか……。


「お兄さん方になんか悪いので、これで失礼しますねっ。」


「俺ら暇なんだよねー。ちょっと妖精族にも興味あるしさ。ほら行こう。」


強引にモブツーにまで肩を掴まれた。もう逃げられそうにない。


「そうだぜ!行くぜ!」


来たばかりのモブスリーまで行く気満々だ。


こんな時に飛べたら……あっ!私羽あるじゃん!イメージだ、イメージ!飛ぶイメージをするのだ、リタ!


こんなことなら練習しとくんだった。背中の羽は飾りかっつーの!こんなの今まで無かったから忘れてた。でも妖精族って飛べるの?いや、羽があるってことは飛ぶためでしょ!


気合だ!


重ねていた羽を大きく広げる。幸い、路地の幅には収まった。これで行けるはず!


「4枚の羽?お嬢ちゃん公爵家か?!スッゲー!!初めて見たー!!!」


モブオは素直に喜んでいるが、モブツーとモブスリーは違った。


「へえー。公爵家クラスの妖精族だとは思わなかったなあ?違う意味で興味持っちゃったな、俺。ねえ、モブスリー?」


「分かってるぜ?モブツー。」


「可愛い!ちょー可愛い!もう俺と付き合って!」


1人だけ頭がお花畑なのは分かった。だが他の男達は恐らく私を捕らえてどうにかしようと企んでいるはずだ。


「空中飛行!!!」


なんと詠唱すれば適切なのか分からなかったので、適当にイメージを口にした。


その瞬間、リタは一気に上空へ投げ出された。


「キャアアアアアアアアアア!!!」


「おおおお!流石妖精族だーー!イヤッフー!!」


「「チッ!逃したか!」」


よからぬ声が聞こえたが、あれはもう過去だ……。


既に人がゴミのようだ!!!ぐらいに遠のいたモブオたちが小さくなって、見えないぐらい上空高くへリタは舞い上がっていた。


初めての浮遊感に追いつけず、空中に出ることは成功したものの、それはリタの想像通りではなかった。


「こういう飛び方を望んでたんじゃなあーーい!!」


抱き抱えたポシェットを中心にクルクルと体が回り、高速で空中をでんぐり返ししている状態になってしまった。


「うげえええええええ気持ち悪くなっちゃうううう」


堪らず呻き声を上げた。しかし勢いは止まることなく、リタはクルクルと空高く舞い上がり、ボールの如く、街を外れて関所まで抜けてしまい、挙げ句の果てには森に向かって隕石のように突き進み始めた。


クルクルと回転しているリタは緑の集合体が何かわからない。


「ヤダヤダヤダー!!!あれなに?!緑のあれ何?!ぶつかるううううう!!!!まだ空中飛行解除してないのにいいい!なんで高度が落ちるんだよー!!」


もう訳もわからず好き放題叫ぶリタ。


せめて回転よ止まってくれええええ!!気持ちが悪くっうえっぷ。


するとなんと回転が止まったのだ。うえっぷ、と吐き気を催しながらもリタは空中でピタッと静止した。しかし、今度は真っ逆さまに森の中へ急降下し始めた。


「あああああああ!!!!!今解除するなよおおお!!!ばかーーー滅びの言葉は言ってないのにいいい!!でも止まる想像しちゃいましたあああああ!!!!それが原因かあああ!!!」


自分の想像力を呪いたい。


「うわああああああああ!!!!」



ドサドサドサ!!バキバキバキ!!!!



叫び声と共に、リタは勢いよく木に落下した。身を縮め固くなったお陰か、それとも幸いリタがぶつかったのが木の密集している地点で、葉っぱが生い茂っていたからか、ぶつかる瞬間、勢いが和らいだ。


ぶつかった時に折れた枝や葉っぱが髪に絡み付いて大変なことになっている。葉っぱや体についた木屑を簡単に払うと、リタは体を葉の中から起こした。


「これが不幸中の幸いってやつね……。」


やっぱり練習しておくんだった、と今更後悔しても仕方がない。


「どこよここー!もう一度、空中飛行!あれ?違うのかな?えっと、浮遊!んー??なんでだあー??」


するとポシェットがズシっと重くなった。しかもポシェットがはちきれそうになっている。


びっくりしてポシェットを開けてみると、インベントリに収納したはずの水筒などが入っていた。


「嘘!インベントリも消失させちゃったの?水筒がちょっと重いんだよなー。インベントリ!……あれ?インベントリ!!魔力袋!袋!」


色々試しに詠唱を試みたが、何一つ反応がなかった。そしてリタは気がついてしまった。


「うえーーーん!!!魔力がなくなっちゃったー!!魔力もない、飛べもしない、土地勘もないなんて妖精族どころか私なんて人族でもないじゃなーーい!!どうすんのよー!!」


辺りを見渡すが、木が高く、下の方は綺麗に枝が落とされているせいで、1人では下に降りれそうもない。


「しかも頭痛までしてきたし。さっきクルクル回りまくってたから無駄に魔力消費したとかなのかな?いや、その前の針のせいかも……気持ちも悪くなってきた……あれ?魔力って無くなったらどうなるんだっけ?」


などと呟いてからカクン、と気を失った。

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