因縁の対決?
27.因縁の対決?
どこからか拍手が聞こえた。
「なかなか面白い見世物だった」
気が付くとオレーグのボディガードが銃を構えてこちらを狙っていた。
ボディガードが持っているのは突撃銃。
「どうやら味方の応援は期待できそうにないか……」
オレーグが言うとボディガードが突撃銃で威嚇。
僕とジャンナは銃を涼子は刀を手放した。
「それでは皆さんとはここでサヨナラです」
オレーグはナターリャの腕を掴み、引き寄せた。
「おまえにはまだ利用価値があるからな…… ユリアもだ」
「いや! 私は行かない!」
ナターリャが抵抗する。
「解った、おとなしく付いて来れば友達は殺さない」
「……」
ボディガードは突撃銃をこちらに向けながら道を空けるように指図する。
「く……」
ボディガードは気絶しているユリアに近づいた。
担いで運ぼうというのか。
「!」
ボディガードの突撃銃が何かに弾かれた。
一瞬遅れて銃声。
「う……」
ボディガードは手を押さえて蹲る。
狙撃か?
どこから?
「!」
オレーグの銃が弾かれた。
「ひっ!」
誰だ?
「うゎ!」
ナターリャがオレーグの右腕を抱えて一本背負い。
床に叩きつけられるオレーグ。
「逃がすか!」
僕はボディガードの鳩尾に正拳突き。
屈んだ首筋に手刀を叩き込み、昏倒させた。
「やめろ! ナターリャ!」
ナターリャは自分の銃を拾い上げると、床に横たわっているオレーグに狙いをつけた。
「そいつを殺しても何もならない!」
ナターリャは銃を両手で構え、微動だにしない。
アイスグリーンの瞳が怒りに燃える。
「ナターリャ……」
「た、助けてくれ……」
命乞いをするオレーグ。
「……」
「?」
空から爆音。
ヘリコプターか?
見上げるとすぐ上にヘリコプター。
吹き下ろす風。
ドアが開いて身を乗り出す人影。
母?
ヘリが二メートルくらいまで降りてきたところで母が飛び降りた。
肩にはスコープのついた小振りの自動小銃を提げている。
FG42かよ。
ナチス時代の古い銃だ。
どこの博物館から盗んできたんだ?
「おまたせ♡」
アラフォーが台詞にハートマークつけるな!
「化粧なげーよ……」
母を降ろしたヘリコプターは一旦上昇して西側のヘリポートへ向かった。
「だめよナターリャ。そいつを殺しちゃ」
母はオレーグに向けて銃を構えているナターリャに言った。
はっとして銃を下ろすナターリャ。
「どんな理由があっても人を殺せば心が壊れていくわ。それに、そいつにはまだ利用価値があるから」
母は妖艶に笑った。
絶対、悪いこと考えている顔だ。
「うー…… ……ん」
「ユリア?」
ユリアが意識を回復した。
「ユリア!」
半身を起こしたユリアにナターリャが抱きつく。
目からは大粒の涙。
「? ナターリャ?」
ユリアは不思議そうに辺りを見回している。
洗脳が解けたのか?
「ユリアちゃんも気が付いたようね。あの子、γ-ヒドロキシ酪酸飲まされて洗脳されたの。でも日本に来てからは中身を栄養剤にすり替えておいたから、ちょうど薬が切れる頃だったのね」
「ソフィア、いきなり飛び降りるなんて……」
ヘリコプターがヘリポートに着陸し、中からミケランジェロと 若いイタリア人男性が降りてきた。
「なかなかドラマチックだったでしょう? 映画みたいで」
「あのねえ……」
呆れ顔のミケランジェロ。
「こいつを例の場所へ。それとこのふたりも」
母はナターリャとユリアを指さした。
ミケランジェロはオレーグに手錠をかけると無理矢理引っ立てた。
「こっちはどうするんですか?」
まだ床に転がっているオレーグのボディガードを指さす。
「雑魚は日本の警察に任せましょ。ほっときなさい」
「シチリア・マフィアが警察の手先になるとはな…… なんて世の中だ」
オレーグが呟く。
「これも生き残るための処世術ってことで許してね。あなたにはこれから死ぬより辛い現実が待ってるのよ」
母がウインク。
「それから、警察が来る前に銃も片付けなくちゃね」
母の指示でナターリャと僕の拳銃、ユリアの短機関銃は大型のボストンバッグへ、ジャンナのライフルと母の自動小銃はゴルフバッグへ入れヘリに乗せられた。
最後にミケランジェロの部下だろうか、若いイタリア人がユリアを抱え上げた。
「ユリアには薬物中毒専門の病院を予約してあるの。ヘリポートには救急車も待ってるわ。ナターリャも一緒に行ってちょうだい、たったひとりの家族でしょう」
「ありがとう、ソフィア……」
ナターリャがユリアを気遣いながらイタリア人男性の後に続く。
「忘れないでね。復讐の仕上げは、あなたたちが幸せになることなのよ」
ナターリャが振り返り、ぎこちない笑顔で答えた。
「さてと、私たちも撤収しましょうか」
オレーグ、ナターリャ、ユリアとミケランジェロたちを乗せたヘリコプターを見送った後、母が言った。
「木更津方面も閉鎖されているぞ。どこへ逃げようってんだ」
いきなり襟首を掴まれた。
「え?」
振り返ると仁王立ちの風祭刑事。
相変わらずブランド物のスーツ。
今日はプラダか?
その背後に眼鏡をかけた男と、手錠をかけられ項垂れている後藤が見えた。
後藤は殴られたのか、顔がボコボコに腫れ上がっている。
「逃げるな!」
逃げようとした僕の腕を風祭刑事が掴み、引き戻すと足払いをかけた。
僕はバランスを崩して床に尻餅をついた。
「そこへ座ってろ。おまえなあ、車の修理代、いくらかかると思ってるんだ」
僕がガラスを割ったインフィニティーか。
「あ、すいません…… でも経費で落ちないんですか?」
「できるか! 何枚、始末書書かなきゃならんと思ってるんだ。それに、正確に経緯を報告したら銃刀法違反でおまえの逮捕状も請求しなくちゃならなくなるんだぞ」
「あ……」
「あ、じゃない!」
「いて!」
頭をグーで殴られた。
「あーら冬香ちゃん、久しぶり」
母が言った。
冬香ちゃん?
知り合いなのか?
「冬香ちゃん言うな!」
風祭刑事の頬が紅潮する。
「冬香ちゃん、今日はいつになく若作りね」
「うるさい、私はまだ20代だ」
「四捨五入すれば30じゃないの」
「勝手に四捨五入するな!」
「現実を見なさい。現実を」
さっきと言ってることが違うぞ。
「ソフィア・ラマツォッティ。おまえには逮捕状が出ている」
風祭刑事は母を指さしていった。
「あら、大変」
「人ごとみたいに言うな!」
「いてっ」
また殴られた。
「何で俺を殴る」
「あいつの代わりだ」
ひでえ。
「おかしいわねえ、国際刑事警察機構の手配書って、既に撤回されてるはずだけど」
「知るか! ごたくは取調室で聞いてやる」
「まあ怖い。さすが公安のメデューサ、美女で野獣、鋼鉄の処女膜」
「鋼鉄の…… って、最後のはおまえが作っただろ!」
我が母親ながら酷い言い様。
「いて!」
また殴られた。
「笑うな」
「笑ってねーよ……」
「だめよレオ君、この人美人だけど男が寄りつかなそう、なんて言っちゃ」
と母。
「言うかよ!」
頼むから挑発しないでくれ。
「えー? 三十路で処女? だっさ……」
彩姉が笑いながら……
「うるさい! 私はまだ20代だ。 ……母親がマフィアの娘、金髪のヒットマン、残念な女子大生、日本かぶれのシチリア娘、零細ヤクザの娘か…… おまえ、女運悪いって言われるだろ」
風祭刑事が周りを見回して言った。
いや、あなたに言われたくなかった……
「零細って言うな!」
涼子が叫ぶ。
「おまえのその刀。銃刀法違反じゃないのか?」
「大丈夫よ、高校の居合い部の帰りで登録証もあるから」
そのためのセーラー服だった。
「ふーん、おまえ浜共だろ。いつからスニーカーOKになったんだ? それにスカートも短すぎないか? まあいい、今日はそこの女狐に用がある」
「うう……」
涼子が睨みつけた。
「冬香ちゃんまだ怒ってるの? 初恋は成就しないって、昔から言うじゃない」
「うっ」
え?
初恋?
誰が?
「冬香ちゃんって、猛さんに片思いしてたのよね」
猛さん、て、親父かよ!
「いてっ、また殴ったな!」
八つ当たりかよ。
「初恋の人取られたの未だに根に持ってるの? 中学のときの家庭教師だったのよね。猛さん。それで、猛さんと同じ大学、同じ役所に入ったんだけど、私が先に結婚しちゃったのよねえ。仕事に個人的感情を持ち込むのは良くないわよ」」
うわあ……
これは風祭刑事に同情したくなる……
「う、うるさい、黙れ……」




