少女オークション
16.少女オークション
『19歳の女子大生緊急入荷しました。オークション開始は本日24時から』
オークションだって?
他のメールも開いてみた。
オークションは月に数回の割合で行われていた。
皆10代の少女ばかりで、中には外国人と思われる女性もいた。
発信元は新井で、後藤のように売春の元締めをしている連中に一斉送信されていた。
「人身売買のオークションか。思ったより大がかりな組織だな」
アレックスもスマホを見て眉をひそめた。
「こいつらは人間を何だと思ってるんだ!」
怒りで手が震える。
彩姉の写真は3枚が添付されていた。今朝、連れ去られたときのままの服装で、怯えた表情をしているものの、乱暴されたような形跡はなかった。
「彩姉……」
「どこのホテルかの」
突然後ろで声がした。
ジャンナだった。
いつの間にか僕の後ろからスマホを覗き込んでいた。
「ホテル?」
彩姉の姿に気を取られ、背景を確認する余裕がなかった。言われてみれば確かに、ベッドや調度品、絨毯やカーテンの雰囲気から、普通の住宅ではなく、高級ホテルのスウィートルームのように見えた。
「8時20分か。横浜市内にいる可能性が高いな」
メールの送信時刻は午前8時20分だった。彩姉たちがホテルから連れ去られたのは午前7時頃だったから、彩姉が監禁されている場所はそれから車で1時間くらいのところのはずだ。
すぐに自分のスマホを取り出し、ブラウザを立ち上げた。とりあえず横浜市内で、高級ホテルをリストアップし、画像検索をかけた。
「ここでもないのか……」
ネットの画像検索では少なくとも横浜市内のホテルには、彩姉が監禁されていると思われる部屋は見つけることができなかった。
「もう少し範囲を広げてみるか……」
検索範囲を横浜から川崎、鎌倉辺りまで広げてみる。
「少年。そのスマホ、GPSは切ってあるか?」
突然、アレックスが訊いた。
「え? GPS?」
後藤のスマホにインストールされているアプリを調べた。
「これか……」
追跡アプリが入っていた。
「持ち主が死んでるから大丈夫じゃないんですか」
アレックスは無言で僕を倉庫の大型扉まで連れて行き、隙間から外を覗くように促した。
「!」
外には数台のメルセデス・ベンツが駐まっており、10数人もの銃を持った男たちが倉庫を取り囲んでいた。
「あの部屋にいた女か、いや……」
-あいつは誰も信用してないんだ-
後藤の最後の言葉を思い出した。
新井は部下のスマホに本人の知らないうちに追跡アプリを入れ、行動を監視していたのだろうか?
メニューを操作し、GPSの作動を止めた。
「すぐに脱出するぞ、荷物は全部積み終わったな」
アレックスは言いながら白い塊を手に取った。
脱出って、どうやって?
外は銃を持った男たちが待ち伏せている。このまま出て行っても蜂の巣だ。
「お嬢さん、すまないがもう一度運転を頼む。扉を爆破して向こう側へ倒すから、何も考えずまっすぐ走ってくれ」
爆破、って、簡単に言いすぎだろ。
「了解たい」
ジャンナは嬉々として運転席に乗り込んだ。
「あの、俺は……」
「少年は後ろの席で頭を低くしていればいい」
アレックスは扉の蝶番の部分にプラスティック爆薬と信管を仕掛けていた。
作業が終わると軽機関銃を抱え、ハイラックスの荷台に登った。
「よし、爆破するぞ」
凄まじい爆音が轟き、同時にハイラックスが大きく揺れた。
爆発の圧力が締め切った車の中にも襲いかかり耳に痛みが走った。
予告通り、倉庫の扉は外側へ吹っ飛んだ。
「よし行け!」
アレックスが車の屋根を叩いた。
「ジェロニモ!」
ジャンナがアクセルを踏み込むと、直列6気筒3000ccエンジンが咆哮を上げ、オレンジ色のハイラックス・ダブルキャブが猛然と飛び出した。
突然の爆発で、倉庫の外は大混乱に陥っていた。
正面に駐まっていたメルセデスは突然倒れてきた巨大な鉄の扉に押し潰されていた。
ジャンナは躊躇わず加速。
その扉をジャンプ台にしてさらに2台のメルセデスを飛び越えた。
「最高!」
アレックスは荷台から軽機関銃を撃つ。
狙いは人ではなく車。
曳光弾がガソリンタンクを貫き、メルセデスが次々に爆発炎上する。
「ブラーヴォ!」
ハイラックスは工場の敷地を飛び出し、裏通りに出た。
「よくやったシニョリーナ。運転を替わろう」
国道に出ようと信号待ちをしているとき、アレックスが荷台から降りてきて言った。
「ああ楽しかったと」
助手席側に移動しながらジャンナが言った。
「見事なジャンプだった。どこでそんなテクニック覚えたんだ?」
アレックスが訊いた。
「『Poliziotto sprint(フェラーリの鷹)』見て覚えたんばい」
映画かよ!
「振り切れなかったようだな」
アレックスがバックミラーを見ながら舌打ちした。
国道を横浜駅方面に向かっているハイラックス。
東神奈川付近で追跡する漆黒の大型外国車に気づいた。
マイバッハ?
メルセデス・ベンツの最上位ブランド、超高級車だ。
「やめとけ。こんな町中で発砲したらどういうことになるか」
僕が腰のホルスターに手を伸ばしたのに気づいたのか、アレックスが言った。
「ばってん、あっちはやる気とよ」
ジャンナがバックミラーを見て言った。
後部窓から見ると、マイバッハの後部座席の屋根が開き、銃を構えた人影が現れた。
ランドレーかよ! 1億5000万の車だぞ。
「プラチナブロンド?」
顔は大型の消音器を備えた自動小銃に隠れ、よく見えない。しかし、プラチナブロンドのロングヘアーが風で後ろに大きく棚引いていた。
「こんなところで仕掛けるのか!」
アレックスが左に大きくステアリングを切った。
急激な横G。
ボディに金属音。
同時に急ブレーキのスキール音と激しいホーンの応酬。
「おいおい、ここは本当に日本か? メキシコじゃねえんだから…… 防弾仕様用意しときゃよかったか」
アレックスは一般車両の間を縫うように、強引な運転でジグザグ走行を続けていた。
激しく鳴らされるホーン。
「頭を上げるな!」
アレックスが怒鳴った。
後方を見ようと窓に顔を近づいたときだった。
「あの車……」
マイバッハの後方からシャンパンゴールドのスポーツカーが迫るのが見えた。
「マセラティ…… ボーラ?」
楔形の低い車体は大昔のスーパーカー、マセラティ・ボーラだった。
ボーラは強引にマイバッハの右側に回り込んだ。
真横で併走するボーラの運転席側窓から白い腕が伸びた。
女の腕。
何か合図を送っているようだ。
スピードを落とすマイバッハ。
「よし、今だ!」
アレックスは目の前の交差点を、走行車線から強引に右折し国道を抜けた。




