鍵?
15.鍵?
古びた倉庫の中。
蒸し風呂さながらの暑さの中で、僕たちはアレックスの用意した『荷物』を車に積み込む作業を開始した。
まず、アレックスが木箱を開け、中身を確認しながら大型のダッフルバッグに中身を移し替えた。
分隊支援火器はベルギーFN社のミニミ軽機関銃。短い銃身に格納式銃床の付いた空挺隊仕様だ。その他、散弾銃のイサカM37とその弾薬、プラスティック爆薬をふたつのバッグに分けた。
「こっちは金髪のお人形さんの荷物か」
アレックスはナターリャのハードケースを開けた。
大きなオレンジ色のケースを開けると、分厚いウレタンの中に小型の自動小銃、ルガーAC556、45口径の小型自動拳銃とその弾薬が詰め込まれていた。
スプリングフィールドのモデル1911ウルトラ・コンパクトV10。
銃把の根元にレーザー照準器がついている。
ドイツで見たやつだ。
「狩猟用か、殺る気まんまんだな……」
アレックスは45口径の実包、が入った黒とオレンジ色の小箱を持ち上げ、にやりと笑った。
殺傷能力の高いフェデラル社のホローポイント弾、ハイドラショックだ。
ナターリャのトートバッグには別の45口径小型自動拳銃と消音器が入っていた。
こちらもスプリングフィールドのウルトラ・コンパクト。
銃口に消音器を装着できるように改造してある。
僕の家とコンビニで暗殺者を屠った銃だ。
「あの人はこうなることを判っていたんだろうか……」
僕は自分のバックパック開け、中から昨日母から届いた宅配便の箱を取り出した
「少年、それはまた珍しい…… 本物なのか?」
箱の中に入っていたのは旧式のアメリカ製、S&Wの自動拳銃だった。
「本物、みたいですね」
あの人が僕に玩具を贈るとは考えられない。
手に取ってみる。
最近流行のプラスティックや軽合金を使った銃とは違い、黒光りする鉄の重さがずしり手に伝わった。
「どこでそんな物を?」
「母からのプレゼントですよ」
「な……」
僕の言葉にアレックは一瞬、言葉に詰まった。
しかし、すぐに母の出自を思い出したようで、大声で笑った。
「あたしのウィンチェスターもパーパからのプレゼントけん。レプリカやのうてオリジナルたい」
ジャンナは得意げに金色のレバーアクション・ライフル、ウインチェスターM66を掲げた。
「モデル44か。これは…… 銃体もスチールか、しかも、モデル52のパーツを使ってカスタマイズされている。なかなかセンスのいい母上だ」
モデル44はS&W社が戦後開発した軍・警察向け自動拳銃モデル39の競技用バリエーションだ。
多くはコンバージョンキットによってモデル39から改造された物で、完成品として販売されたのは僅か10挺と言われる超マイナー銃だ。
アレックスは僕から銃を受け取ると、事も無げに遊底を分解し、内部を確認した。
「古い銃だがよく手入れが行き届いている」
銃を元通り組み立てると、僕に手渡した。
そして真剣な眼差しでこう付け加えた。
「少年。こいつを持つということは、もしかしたら二度と元の世界に戻れないかもしれないということだぞ。その覚悟はあるのか?」
僕は鋼鉄の重さを感じながら答えた。
「判ってます。 ……今は彩姉とナターリャを助けることだけを考えています」
僕は弾倉に9ミリ弾を込め、銃に装填した。
「軍用弾か、人道的でよろしい」
アレックスは実包の入った白い箱を見て言った。
「よし、少年。こいつを撃ってみろ」
5メートルほど離れた場所に高さ1.5メートルほどのスチール棚があった。
アレックスはその上に空のオイル缶やビール缶、コーヒー缶など5個の的を、向かって左から順に小さくなるように並べていた。
「左から順に5発。当てられるか?」
「ここで撃つんですか?」
「周りは工場ばかりだから多少の騒音は大丈夫だ」
「騒音、ね」
僕は拳銃の遊底を引き薬室に第1弾を装填した。
「こいつを使え」
アレックスから小さくて黄色いスポンジをふたつ手渡された。
耳栓か……
僕は耳栓を両耳に差し込むと銃を構えた。
おそらく腕の良いガンスミスによってカスタマイズされたのあろうモデル44の引き金は滑らかで、しかも激発のタイミングが判りやすく安定した射撃ができた。
「全弾命中。なかなかやるな、少年」
アレックスは満足げな顔で空き缶を片付けようとした。
「あたしも撃ってみるけん」
ジャンナがウィンチェスター・ライフルを抱えて僕の横に立った。
「判った。じゃあ同じく5発」
アレックスは僕のときと同じように5個の空き缶をスチール棚の上に並べた。
「行くで」
ジャンナはそう言うと、ライフルを肩で構えず、腰だめのままレバーを素早く操作し、まるで機関銃のような連射で一瞬のうちに5個の空き缶すべてに命中させた。
「マカロニ・ウエスタンかよ」
低く口笛を吹いた後でアレックス苦笑混じりに言った。
「少年。これを使え。4インチ用だから入るはずだ」
空き缶とスチール棚を片付けた後、アレックスが放り投げてよこしたのは茶色の革製インサイドパンツホルスターだった。僕は自分の銃から弾倉を抜き出すと新たに5発の9ミリ弾を込めた。そして遊底を引いて薬室から実包を抜くと、これも弾倉に込めた。
弾倉を戻す前に確かめておきたいことがあった。
スライドの安全装置を下ろしてみた。
何も起こらなかった。
「ハンマーリリースは殺してあるんだ……」
安全装置を戻し、引き金を引いてみた。
撃鉄が倒れた。
「マガジンセフティも殺してるのか。つまり旧式のシングルアクション・オートと同じに扱えということか」
僕は弾倉を銃に戻し、それををホルスターに入れると、ジーンズの後ろに押し込んだ。
「?」
銃の入っていた箱の底に、銀色に光る金属片を見つけた。
「鍵?」
それはレトロなデザインの鍵だった。
ハンドルの部分に何かの紋章とアルファベットの飾り文字が彫刻されていた。
「LGL? 昨夜の賊の目的はこれだったのか……」
僕はその鍵を自分のキーホルダーにセットすると、ジーンズの後ろポケットに入れた。
「新井の居場所だが…… こうなったら関係者を虱潰しに当たっていくしかないか」
『荷物』をすべてハイラックスの荷台に積み込み終わるとアレックスが言った。
「そうだ、これがあった」
僕は後藤の部屋がら持ち出したスマホを取り出した。
「少年、それは?」
アレックスが訊いた。
「後藤のです」
「ロックは解除できたのか?」
「はい、アウディのナンバーと同じでした」
「でかした」
「電話帳…… これじゃ何だか判らないな」
スマホの電話帳を開いてみた。
電話帳には100数10件ほど登録されていた。
しかし、登録されている名前はすべてイニシャルらしきアルファベットと数字になっていて第三者には誰だか判らないようになっていた。
次にメールボックスを開いた。
「これは……」
『清楚系JD入荷しました』
メールを開いてみると、彩姉の写真が表示された。




