第74話 フロム・ヘル
現実の時間が忙しすぎて書く時間が無くなってる雨色です‥低ペースで申し訳ないです‥
それではどうぞ!
「むい‥‥かむい!」
(うるさい‥声が‥頭に響く‥)
「叶夢!」
「!‥‥ここは‥病室? それに‥千夜?」
「良かった‥叶夢!」
意識が覚醒して間もない叶夢に千夜が抱きつく。叶夢は優しく千夜を抱き返すと千夜の後ろに目を向ける。そこには額に包帯を巻いた豹助と、心配そうに目を向ける紫以奈と白鳩の姿があった。
「えーと‥白鳩、どこまで進んだ?」
「どこまで進んだ‥じゃないでしょ。先に説明してよ」
「あぁー。やっぱバレた? やばい魔法使ったの」
「魔力回路の損傷が酷かった。内側からズタズタにされてたみたいなんだけど‥絶命刃の傷じゃなかった」
「あれの少し酷いバージョン。死剣・絶狂刃だよ‥」
「ぜっきょうじん?」
「あぁ。絶命刃が一分間の魔力によるブーストだとすれば、絶狂刃はそれを十秒に圧縮することで、普通じゃありえない動きが可能になる。挙句痛覚も遮断されるオマケ付きだ」
叶夢の軽い口調からの説明とは裏腹に、白鳩と豹助の叶夢の見る目が鋭くなる。叶夢は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて目を逸らす。
「‥‥使うつもりはなかった。だがこうでもしなきゃ止められなかったんだ」
「止められなかったじゃねえだろにゃ!」
「豹ちゃんやめて!」
叶夢に近づこうとしたら豹助の前に割って入るように紫以奈が前に出る。
「お前がぐっすり寝てる間クソほど心配させやがって‥目の前の成果に気とられすぎなんだにゃお前は!」
「‥悪い」
「‥は?」
叶夢は豹助の怒りに逆上すること無く、謝罪の言葉を呟いた。予想外の反応に豹助から呆気に取られた声が漏れる。
「今の怪我の状況は他でもない俺が招いた結果だ。自分一人が勝てば良いなんて言うふざけた論理が俺の中にあったんだ」
「お前何言ってんだにゃ‥」
「それって、司との戦いの時に名乗ってた‥『怠惰』のことかい?」
「あぁ。司の時の戦い方。あれがゼルリッチの魔子時代の俺の戦い方だ。敵の行動を読むことなく、ただ俺の行動をごり押す。戦いと言うよりはただ虫潰す作業だ‥」
「確かにあの時のお前‥『反転する眼』を使ってなかったにゃ‥」
「あんな戦い方してたらこっちの精神が擦り切れちまう‥だからずっと封じてたんだ‥」
「叶夢‥お前‥」
豹助の振りかざした手が降りる。
「おいおい、どういう風の吹き回しだ? 叶夢が自分から謝ってるとは‥」
「‥支部長、どうしたんだにゃ?」
「病室から怒鳴り声聞こえたら誰だって駆け込むだろ‥」
病室のドアを開けて、神座 頼光が叶夢の元を訪れる。
「頼光、あの後どうなった?」
「その経緯も説明に来た。お前らにもそれを知る義務があるからな‥ったく何やってんだか」
神座は首の裏を手で掻きながら、口を開いた。
ー18時間前・征魔連合軍 日本支部 地下階段ー
巨大な魔法の衝突の後。残ったのは裏切り者となり、虫の息となった司と首を飛ばされた櫂の遺体。そして辛うじて勝利を収めた竜次と叶夢の姿だった。
「ぐっ‥身体が動きませんか‥‥まさか、貴方に殺られるとは‥」
「司‥」
「櫂は‥もう既に事切れていますか‥首を飛ばされてるのなら当然ですね‥」
「お前ももう‥」
「わかっていますよ‥‥ですが情報を吐くつもりはありません‥げほっ」
吐血をしながら息も絶え絶えに司は口を開く。
「お前‥なんでそこまでして‥」
「私は力が欲しかった‥‥誰もが認める力が‥」
「お前は第2小隊の座に着いただろ‥これ以上、強さを求める必要なんて」
「あなたには分からないでしょうね‥自らの意思でそこに座り続けているのと、しがみついているのでは話が違う‥んです‥」
「それでも‥仲間を殺してまでお前は何を欲したんだよ‥」
「私が‥欲したものは‥‥がっ」
司の言葉を遮るように、叶夢が司の頭を掴む。そこから赤い線のようなものが司の頭に伸び、深く根を張った。
「‥てめぇが喋らなくても、俺が勝手に漁るだけだ」
「‥ぐああ‥なるほど、その強さは本物であったようだ。ゼルリッチの魔子『怠惰』‥」
司は右手の人差し指立てるとそのまま自分の首に向けた。
「待て!」
「‥あなた達はこの戦いに負ける‥サクリファイス様は誰にも倒せない‥雷霆すらも‥飲み込む‥」
司はそう言ってニヤリと笑うと、自らの首に光線を撃って焼き切った。司の首はゆっくりと切断面を剥き出しにしながらゆっくりと地面に落ちた。
「‥‥くそっ。記憶が見れねえ‥こいつ、俺の神具の抜け道まで知ってやがったか‥」
「今、何をした?」
「記憶の読み取りです。俺の神具は色んなやつの頭を見ることができます‥強引な進化ですけど」
「なるほど‥‥目の色が違うと思ったらそういうことか」
「せっかく情報を抜き取れると思ったのに‥」
「読めなくなったのか?」
「こいつ‥頭を光魔法で焼き切ってるんです‥脳の損傷があまりにも酷すぎて見れなくなりました‥‥うっ」
「叶夢!」
叶夢の視界が歪み、ゆっくりと壁に倒れ込む。血液、心音、呼吸。生命に必要な要素が悉く抜け落ちた叶夢にとって、意識を持って意思疎通を図れていること自体奇跡に等しかった。
それを悟った竜次は叶夢に駆け寄る。
「しっかりしろ! おい!」
「無理っす‥めちゃくちゃ疲れてます‥‥」
「なんか言葉の節々に余裕が感じられるのは気のせいか?」
「傷はすぐ治りますよ‥‥ただだいぶ寝るので後始末お願いします‥」
「は、はぁ!? ‥寝やがった‥」
「竜次ー!」
竜次が叶夢に気を取られているうちに、地上へと続く螺旋階段から慌てた状態で骸と龍之介が降りてきた。
「竜次! ここは‥」
「‥心配無い。戦闘は終わったよ‥龍之介」
「司は‥櫂は!」
「‥俺が殺した‥」
「‥ッ」
竜次の発した言葉に、龍之介と骸には返す言葉がなかった。
「竜次、奴らは私たちへ最後になにか言っていたか?」
「骸‥」
「いや何も‥挙句、最後まで情報を吐くことなく倒れて行ったよ‥」
「あいつら‥一体なんで‥」
「今考えても仕方ない‥ともかく、龍之介と骸は負傷者の手当を頼む」
「わかったわ‥竜次は」
「遺体の処理だ‥首も飛ばされてるからな‥っと‥」
竜次の足元がふらつく。自分の中で張りつめていた糸が一気に切れたように、身体の力が一気に抜けていく感覚に陥った。一歩踏み出すことなく、その身体がゆっくりと前に倒れる。
「よっと‥‥だいぶ無茶したな。竜次」
「頼光司令‥すいません」
「お前はよく頑張ったよ‥‥叶夢のやつ、死体にしたってことはちゃんと情報抜き取ったんだろうな‥」
「彼は‥一体何なんですか‥」
「はっきり言ってイレギュラーだよ‥だがこれからには確実に必要になる奴だ」
「貴方にそこまで言わせますか‥」
「まぁな‥‥お前も休め。こんな所でくたばるな」
「事後処理‥任せますよ‥‥」
「はいはい‥任せされたっと」
頼光の腕の中で竜次はゆっくりとその意識を手放した。
ーーー
「以上がお前が寝てる間に起こったこと。あとは俺がお前らの保護。医務室で治療して、お前が一番のお寝坊さんって訳だ」
「あぁ‥納得いった‥‥あいつらの遺体は?」
「‥残ってなかった。何か知らないか?」
「だろうな‥‥簡易施術をあの頻度で使ったら遺体も今頃風の塵だ」
叶夢は少し寂しそうに窓の外を見る。
「どういうことだにゃ?」
「あれの実用化に至れなかったのはもう一つ理由がある。一つは持続時間の短さ。もう一つは無理に適正のない魔法がねじ込まれた時に、施術者本人が消滅するってことさ」
「そんなことって‥」
「まぁ俺が殺したから結果は変わらなかったけどな‥‥」
「んで頭も冴えてきただろうから本題に入るぞ」
頼光は叶夢のベッドの隣の椅子に腰を下ろし、叶夢の目を見る。
「モンテ・クリストから何が視えた?」
「残念ながら司は脳みそを魔法で損傷させてたので詳しいことは読み取れませんでした」
「司は‥か」
「櫂の方は別ですけどね‥奴の姿は知ることが出来ました」
「マジかよ‥どんな気色悪い姿だった?」
「よく気色悪いって言うのわかりましたね。千夜、メモ帳使って書いてくれるか?」
「え、いいですけど‥叶夢が書けば良くないですか?」
「俺絵心ないからパース。じゃ、特徴だけ言ってくわ」
「わかりました‥」
千夜は叶夢の言われるままにその特徴を文字から絵に写す。数分経ち、その紙に描かれた姿にその部屋にいた全てのものが息を呑んだ。
「なんですか‥これ」
「へ、へぇ‥魔族の親玉らしいデザインしてるじゃねえかにゃ」
そこに描かれていたのは、赤い歯茎がむき出しになった黒い人間の頭蓋骨を透明なバイザーのような物で覆った顔面。筋肉質の白い身体の上に白いフードを羽織っており、胸部には巨大な人の目玉が覗いている異形の姿であった。
「ここまで異形とはな‥説明してた自分でもびっくりだわ」
「というか叶夢くんも姿知らなかったの? ゼルリッチの関係者だったのに?」
「こいつが大きく動いたのはゼルリッチが死んでからだ。だが‥人ベースの魔族でここまで異形化出来るものなのか‥」
「頼光さんの言う通り‥こいつは明らかに異常だ」
「となるとさっさと位置を割り出して攻めに出るしかないか‥」
「え、位置ってロシアって割り出したんじゃないのかにゃ?」
「アホか。ロシアの国土の広さ舐めんな。国の何処にいるかわからなきゃわかんないのと一緒だ。間違った方向に兵動かしてるのがバレたらその隙にやつは逃げる。そうなりゃまた振り出しだ」
「確かに‥叶夢の言う通りだな」
「じゃあどうすればいいんでしょうか‥」
「はぁ‥」
全員が視線を落とし思考に耽ける中、叶夢は焦ることなく溜め息混じりにその口を開いた。
「まだ詰んでねえよ」
「しかし隊長。位置がわからないんじゃ‥」
「俺の話はまだ終わってない。司の記憶の話をしていないからな」
「詳しく知れなかったんじゃないかにゃ?」
「あぁ、櫂の情報に比べたらな‥唯一読み取ったのは司がサクリファイスから届いた手紙を見ているところだ」
「手紙?」
「だいぶ最近の記憶だ。ただそこにはこう書かれていた。
『ツングースカにて待つ』ってな」
「ツングースカ‥って何処だにゃ?」
「ロシアの真ん中。クラスノヤルスク地方に位置する場所‥んでもって約100年前。隕石が落ちて辺り一体が更地になった場所だ」
頼光がすかさず説明を入れる。
「今はちゃんと街にはなっているがな‥」
「でもなんでわざわざそんな場所に居るんだにゃ‥」
「元々あそこはその隕石の衝突もあって、魔力が濃い場所になってるんだ。ある意味潜伏しながら魔力を蓄えられる。絶好の場所でしょうね‥」
「白鳩の言う通りだ。確かにそこなら‥‥」
「頼光。俺の怪我が治り次第直ぐにロシア支部に向かう」
叶夢のシーツを握る手が強まる。どれだけ身体がボロボロになっていても、その紅い目には必ず倒すという執念が宿っていた。
それを見た頼光は呆れのため息を漏らしながらも叶夢に目を合わせる。
「ったく‥どうせ移動中には治るから大丈夫ってか?」
「時間が無いってだけだ。それに俺の抱えてる問題はサクリファイスだけじゃねえ‥」
「‥あぁーそう言うことか。いいぜ。お前らには予定より早めだがそのままロシアに向かってもらう」
「なんでだにゃ?」
「過去からの因縁ってやつだよ。甚だ不本意だが、こいつを越えなきゃサクリファイスに辿り着くなんて無理だ」
「因縁‥ですか‥」
千夜はその言葉で全てを察する。
「‥居るんだろ‥ゼノン」
叶夢はそう呟くと病室の外に目を向ける。旧友に向けられる視線とは掛け離れた、敵意に満ちた目で。
ーーー
「はァ‥はァ‥‥ンだよ‥この程度かよ!」
同時刻、ロシア 森林地帯。とある赤い髪の青年が魔族の死体の道を歩いていた。その足に泥を踏んだかのような不快感があろうと、あえて踏み付ける。それが自分には許される。冒涜も。死体蹴りも。
「こんなんじゃウォーミングアップにもなりゃしねェ‥‥あぁ、ムシャクシャするぜ!」
青年は自らの武器である赤い刀身の大鎌を地面に突き立てる。それに呼び起こされるように、青年の周りにあった魔族の死体から炎が噴き出す。人々が誰しも一度は想像する地獄絵図。高熱と死臭に包まれた現実とは思えない世界でただ一人、それらを嗤う者が居た。
「叶夢ィ‥早く来い‥直ぐに殺してやるからよォ!! アーッハッハッハッハ!!」
青年は嗤い続ける。火山のように爆発する炎の中で殺戮の果てを歩み続ける。
その青年の名は
ゼノン・マクスウェル。
元 ゼルリッチの魔子 暴食を名乗った男。




