第73話 銀禍繚乱 獣ノ刻
だいぶ仕事が忙しくあまり更新できない状態でした‥
それではどうぞ!
「へぇ不思議。朔夜もそんな顔するんだな」
「失礼。今は頭がおかしいので俺」
「朔夜!」
「繰美沢先輩‥そうか‥呼んで来てくれたんすね翔真先輩」
朔夜が骸のパペットに回収され一階側の階段の入り口に寄せられる。その目に映ったのは息を切らし壁に寄りかかった翔真の姿だった。
「ぜぇぜぇ‥‥二つ返事で来てくれたのは良かったけど‥君ら部屋離れ過ぎなんだよ‥」
「朔夜、しっかりしろ!」
「司馬先輩‥ありがとうございます‥」
「随分と派手にやったな‥これでよく生きている‥流石ゼルリッチの魔子と言うべきか‥‥」
骸は耳に付けたインカムに手を伸ばし通信を下の竜次に繋げる。そのインカムからは剣戟の音が鳴り続けていた。
『骸! 朔夜は!?』
「重傷だ。魔力も切れて自動回復も出来なくなっている‥龍之介と翔真に魔力を分けて貰うことになるから戦闘には出せない‥」
『了解! 骸は朔夜の手当‥特に縫合はお前にしか出来ないから、そっちを頼んだ!』
「お前一人でやる気か!?」
『確かに一人だと二人は厳しいんだよなぁ‥‥一人なら』
ーーーーー
「呑気に話してる場合かァ!?」
「危なっ‥」
櫂の這わせた鉄によって槍のように鋭くなった右手の突きが襲い掛かるが、竜次は内側に入る前に左の刀でそれを弾く。
「逃がしませんよ、竜次!」
「いくらテメェと言えども俺たち二人を相手にすんのは厳しいんじゃねェかァ!? 何とか言ってみろよ銀竜!!!」
「ッ‥‥赫灼!」
竜次は右手に持った刀に火を纏わせて、その刀を振るう。高熱の斬撃は二人の接近を拒んだ。
「埒が明かないか‥」
「これで終わらせてやるよォ! 司ァ!」
「光乱視!」
竜次の刀が届かぬギリギリの位置。しかし竜次はその攻撃が自分に届かないことは知っていた。
「黒い閃光の剣!!」
「ぐあぁ!」
「ぐっ‥」
階段の遥か下から黒い斬撃が二人に向けて飛ばされる。直撃はしなかったものの、司の攻撃の軌道を逸らすには十分だった。
辛うじて着地に成功した竜次の隣ににその斬撃の主が現れる。
「お前、叶夢か!?」
「そうっすよ‥‥まさか先輩が助けに来てくれるとは」
「お前、大丈夫か? 身体大分ボロボロだけど‥」
「あー問題ないっす‥‥むしろこれぐらいは普通なんで‥」
「普通って‥その左手の指。ついさっき再生したのか?」
「え?‥あぁ、いつの間に」
叶夢は竜次に言われるまま自分の左手に生えたばかりの指を見る。
「叶夢、戦闘続きできついと思うけどまだやれそうか?」
「別に問題ないっすよ。ただ俺も奥の手使うんで手短に済ませてもらえれば」
「奥の手?」
「秘剣・絶命刃‥こいつのことっすよ」
叶夢の魔力が自らの身体に赤黒い線を刻む。傷は癒えるがほぼ意味は無いだろう。
「叶夢、行くぞ」
「先輩の動きに合わせるっす」
「俺の動きにか?」
「だから俺を気にせず魔法を使ってください。貴方の魔法が周りを気遣うなんて無理な話でしょう?」
「‥当たっても文句言うなよ!」
竜次はそう言うと上にいた櫂と司に向けて氷魔法で道を作り出し、その上を華麗に滑り出した。
「見え見えの道で自殺しに来たのかァ!?」
「ッ‥‥氷牙!」
司は青の刀を振り、無数の氷の矢を前方に放つが櫂の鋼の装甲に全て防がれた。
「逃がしませんよ!」
(司を狙おうとすれば櫂が立ちはだかる‥だがこれを処理してる間に司に邪魔をされる‥)
「白銀先輩!」
「がふっ‥」
竜次の思考を読み取ったかのように、櫂の前に跳躍してきた叶夢が現れ、櫂の顔面を掴み取る。
「先輩は司を! こいつは俺が!」
「笑わせんなよ! ボロボロのてめえに何が出来んだよ!!」
「さっきは朔夜とよろしくやってくれたみたいじゃねえか‥俺がもっと楽しませてやるよ!」
「悪いな‥あと頼んだぞ! 叶夢!」
叶夢は櫂の頭蓋を鷲掴みにしたまま、氷を踏み台にして加速しながら落下した。それを見届けた竜次も司に向けて動きを速くした。
「あなたが相手とは‥少々厄介ですね!」
「少々で‥その言葉訂正させてやるよ!」
右手の刀に炎を纏わせるとその刀を司に向けて突き立てる。司はそれを腰の短剣を飛ばすことで防いだ。
「竜次‥今のあなたでは私を倒すことはできない!」
「そうかよ!」
「貴方はそのような実力を持ちながら、自ら第5小隊に残り、挙句あの後輩に先を越された! 貴方はその強さに慢心して自分の可能性を閉じた!」
「そんな俺じゃお前は倒せないってか!」
「私は違う! 戦いに身を投じ、ついにこの力と共に更なる高みに!」
司の操る短剣が竜次の腕と太腿を貫き、大きく体勢を崩させた。
「言ってんだろうがァ! てめえ如きじゃ俺は止められねえんだよ!」
落下した階段の下段付近。時を同じくして叶夢と櫂が刃を交えていたが、その戦況は大きく櫂に向けて傾けられていた。
「‥せっかく治ったのにこのザマかよ俺‥」
「ほんと失敗作だなてめえら。サクリファイス様の言う通り‥なんでこんな雑魚いヤツらを俺が処分しなきゃいけないんだか」
「失敗作ねぇ‥言ったな櫂‥」
叶夢は額から流れた血液を拭って視界を確保する。叶夢自身、その闘志が死んでいるわけでは無かった。狂ったかのような視線は常に櫂に向けられ、何かを待つ。
「脈が無くなりかけてる‥いや丁度か‥」
「あぁ?」
「一人語りは朔夜が済ませたんだ‥俺がやるのは後片付け」
「何をブツブツ言ってんだよ‥」
「櫂、見せてやるよ。これが俺の本気」
叶夢の弱り行く心音とは裏腹に叶夢の身体は崩壊をとどめるために魔力を欲した。死の瀬戸際の業火。叶夢が傷をつけた理由が帰結する。
「死剣・絶狂刃!」
叶夢の身体に流れる魔力が濃度を増す。身体に入った黒い亀裂がさらに叶夢を蝕む。意識が逃げ出す程の痛みをさらなる痛みで逃げ道を潰し、押しとどめる。
「なんだァ?」
「構えろよ‥いやまぁ、構えても死ぬけどな」
叶夢から流れた魔力が全てその一振に注がれる。紅い刀身には黒い亀裂がさらに広がり、次第にそれは叶夢の顔の目の下にまで及んだ。
(なんだよ‥あの異形の姿‥‥朔夜の時とはまた違う‥)
櫂は魔法によってその身体をさらに鉄で覆い尽くす。既に朔夜との戦いで超魔族の強さを知った櫂が取った最前の行動であった。
「さぁ来いよ! 言っとくがてめェらゼルリッチの魔子の強さは見切った!」
「‥死ね」
死にかけの身体を前に進める。両手で握りしめた刀を目の前の敵に向けて振りかざす。身体から溢れ出した魔力が黒い瘴気となって叶夢の身体を覆い尽くす。
「来やがれええええ‥‥え?」
櫂が装甲を身体に張り巡らせ、密度を圧縮してその衝撃に備えた。それでもまだ足りない。持てる力を全て耐える事に魔力を注いだ。身体は世界に留まるためにその足を地につけた。それを使ってもまだ足りなかった。今の櫂では、その獣を止めることなど不可能だった。
「はぁ‥?」
理解が追いつかなかった。
黒い獣が赤い刀身を携えて通り過ぎた。
身体が動かなかった。櫂が反応した頃には既に首が身体の遥か上に飛ばされていた。
「反応が遅いんだよ。俺の絶狂刃は絶命刃の一分を十秒に圧縮した奥の手中の奥の手。簡単に言うなら人のまま超魔族の時以上の力をぶっ放せる技だ」
赤い蒸気と黒い粒子が溢れ出ていくのを横目に叶夢は話し続ける。
「今お前がくらったのは俺の全身全霊‥逆流させて圧縮した魔力による斬撃だ。つっても斬ったと言うよりは押し潰したの方が近いか‥」
宙を舞っていた櫂の首が叶夢のかざした手に収まる。櫂の耳に叶夢の説明はほとんど入っているはずもなかったの知っていた叶夢は櫂の目を離された胴体に向けさせた。
(あ、あ‥なんだよ‥この傷‥どんな攻撃受けりゃこんなことになるんだよ‥)
櫂の残された胴体は叶夢同様の黒いヒビが満遍なく広がり、黒い塵に還りつつあった。
「悲しいなぁ。それが代償だよ。生命力が多けりゃそれだけ死ぬまでの道も長くなる。お前の脳が再起不能になったことに気づくのはそこの身体が朽ち果てる頃だろうよ‥ぐっ‥」
叶夢の足がふらつき膝を着く。活性化させた魔力は同時に叶夢自身の身体を粉々に破壊し、虫の息のレベルにまで下げていた。
(まだ軽い方か‥体力も使った分、溜まってた魔力による損害も激しくない‥俺の意識があるうちにやることをやれ‥)
叶夢は残った魔力回路を使って神具を発動して櫂の頭を掴み取り、魔力を流し込む。
「何‥しやがる‥」
「てめえの記憶からサクリファイスの情報を抜き取ってんだよ‥俺の前で''知らない''とか''教えない''なんて選択肢が取れると思うなよ」
叶夢の瞼の裏に櫂の記憶が流れ込む。しばらくして記憶をある程度解析した叶夢は櫂の首を空に向けて放り投げた。
「白銀先輩! あとは頼みます!」
「叶夢‥‥そうか。わかった!」
白銀竜次は飛ばされた旧友の首を横目に両手の刀に魔力を流し込む。青い刀を足場の氷塊に突き刺し赤い刀を両手で構え直した。
「司‥お前を本気で止める。だから‥少し痛くても我慢しろよ!」
「来いッ!」
刀身から火の粉が舞い、焔がその刀身を飲み込み燃やし尽くす。
「熱っ‥‥」
叶夢のいる場所にまでその火の粉は届き、竜次の想いに木霊するように焔の熱が上がっていく。
「あばよ‥司」
光魔法の速さなど関係無い。全ての燃やし尽くす赫刀に竜次の全てが注がれた。
「炎龍斬!!」
司の身体が炎に飲まれ、その反乱に終止符が打たれた。




