第59話 綴られて
「これはまた、いきなり名指しとは」
「私だって信じたくはなかった。ですが、集めた情報は悲しいことにあなたを示した」
「では見せてもらおうじゃないか。その証拠ってヤツを」
「ではしばしお時間を頂きます」
司は自分の携帯端末を操作して、数個のファイルを部屋の全員に送信した。
「まず翔真、貴方はサクリファイスの情報をどうやって手に入れていたのですか?」
「それは知り合いの情報屋にさ」
「その人の名前を言えますか?」
司の翔真を見る目が鋭くなる。
「そりゃプライバシー的にノーコメント。彼ともその約束だからね」
「では当ててみせましょう」
司は再び端末を操作して、ある人物のデータを送る。
「この人が翔真の利用していた情報屋。本名不明、情報屋の界隈では『ブラック』という名前で通っていた人物です」
「こいつって‥」
龍之介が声を震わせる。
「なんだ、知ってるのか?」
「知ってるも何も‥‥翔真、お前この間の任務の時、この人と会ってたよな!?」
「あら、見られてた?」
翔真はいつもと変わらない素振りで反応する。司はその様子を見ても、表情を変えずに質問を続けた。
「それで、その対価は?」
「僕のお金だけど?‥まさか、それに僕が情報を売ってたとでも?」
「ええ」
「随分な言いがかりだねー! 第一、そんな証拠何処にあるのさ?」
「今、この場にいない彼ら。第4、第6、第7には現在調査を頼んでいます」
「調査って、何の?」
「征魔連合軍・日本支部の流出した情報ですよ。貴方本人の口から漏れてなくても、ブラック伝いに他の情報屋に漏れてそこからサクリファイスに伝わった可能性もある」
「おい待て司」
司の言葉を遮ったのは、ようやく落ち着きを取り戻した繰実沢 骸 だった。
「どうかしましたか、骸」
「その意見で行くと、結局悪いのはブラックになるんじゃないか? 確かにそんな奴に私達の情報を渡した翔真も悪いが‥」
「あ、そこは否定してくれないのね。悲しいわぁ‥」
「あくまで可能性の話をしているだけですよ。まぁ、もし民間の征魔士に私たちの戦力がバレてるようなら、おそらくそれ伝いでサクリファイスにもバレた。ということになりますね‥‥で、これで認めてくれますか?」
「うーん。その程度で僕を犯人扱いは悲しいなぁ‥もっと無いの? 僕を追い詰める決定打見たいなのとかはさ?」
「おいおい‥自分の立場分かってのかよ‥」
狂気にも等しい翔真の態度に対して、櫂は苦笑いをしながらその話し合いを見ていた。
「‥‥櫂、あの映像を」
「あぁ、わかったよ」
司は静かに目を閉じて、櫂に指示を出す。櫂はその指示を受け取り、真ん中のモニターである映像を再生した。
「これは三日前の夜、とある裏路地の防犯カメラの映像です」
「‥!!?」
「嘘だろ?」
「‥‥あら」
誰もが絶句した。その映像には、腹から血を出して倒れている人物と、血塗れのナイフを持ち、頬に返り血をつけてそれを静かに見つめる見慣れた後ろの姿が映っていた。その人物がカメラの方を見て自らの顔を晒す。
「翔真‥じゃないか!」
その人物の正体は金丸 翔真その人だった。翔真はカメラに向かって不気味な笑みを浮かべるとそのカメラ目掛けてナイフを投げつけた。カメラは破壊されあとは砂嵐が続くだけだった。
「‥捏造された痕跡は無いな‥」
「支部長‥でもそんなのって」
「‥なるほど、中々に嫌な真似してくれるね」
翔真は少し諦めがついた様な表情で、めを閉じる。
「認めるのか?」
「そりゃ、こんな証拠出されちゃ流石の僕も反論できませんよ」
「‥‥そうか」
神座はしばらく翔真を静かに見つめていた。
「お前の処遇は一週間後に決める。それまでは軟禁室で過ごしてもらう」
「了解です」
「今回の会議の内容も一週間後に公表する。それまでは全員、この事を黙秘しておくこと。以上で会議を終了する!」
唖然とした骸達を置いて、会議は終わった。神座は翔真に駆け寄り、翔真の腕を掴んで共に部屋の外に出る。
「待て翔真!」
「?」
入口に近づいたところで骸が席から立ち上がり、翔真に向かって叫ぶ。翔真は平然とした顔で骸の方を見る。
「お前‥なんで‥」
「‥‥」
翔真は黙って骸に申し訳なさそうに苦笑いを返す。そしてそのまま翔真は朔夜の方に顔を向けた。
「 」
「え?」
翔真は口パクで何かを朔夜に伝えると、神座と共に部屋を出ていった。
「では私たちもこれで‥」
「ッ‥‥待て司!」
司は悲しげな目を骸に向ける。
「文句があるなら受け付けますよ。こうなることは予想ついてましたから」
「だったらもっとマシなやり方が」
「落ち着け骸」
骸を止めに入ったのは竜次だった。続いて司の後ろにいた櫂も骸の前に出た。
「俺達だってつれえよ。でも誰かがやんなきゃ行けなかったことを司はやったんだ。その言い方は無いんじゃねえの?」
「いいんですよ櫂。覚悟はしていましたから‥‥では私達はここら辺で。失礼します」
司と櫂も部屋を出ていく。骸はその後ろ姿を悔しい表情でしか見ることができなかった。
「翔真‥なんで‥」
「‥‥あの先輩、くそ面倒な仕事押し付けやがって! 何が『あとは頼んだよ』だよ!」
突如として黙り込んでいた朔夜が振り上げた拳で机を叩く。
「さ、朔夜?」
「‥‥すいません。取り乱しました」
「どういうことだ? あとは頼んだ? 誰から‥」
「詳しい話は後でします。いくぞアレックス」
「はいはーい。それじゃまた後で」
アレックスは自分のPCに向けてそう呟くと、PCを閉じて朔夜の後を小走りで着いていって部屋を出ていった。
「なんだよあいつら‥意味がわからない‥」
骸は落ち着きを取り戻し頭を抱えた。
「アレックス‥今、誰に向かって挨拶したんだろう」
「え、私達じゃないのか?」
「いや、アレックスの目線は確実にPCに固定されてた‥まるで誰かと通話してるみたいに‥」
骸、竜次、龍之介の三人はそれぞれの疑問を抱きながら部屋を後にした。
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「叶夢〜、入りますよ〜」
同時刻。会議の内容を知る由もない叶夢達第31小隊はそれぞれの日常を過ごしていた。
その中で千夜は部屋に引きこもっていた叶夢に朝食を持ってきているところだった。
「あー、またゲーム漬けの生活して‥‥」
千夜は叶夢からヘッドホンを取る。頭のヘッドホンが無くなったことによりようやく叶夢は千夜の存在を認知した。
「おはようございます」
「おそよう千夜」
「ホントですよ‥今回は何時間だったんですか?」
「ご生憎様、今回はゲームじゃない。いや見方を変えればゲームかな」
「?」
「ったく、本当にダルい案件持ち込んできやがったな‥せっかく休めると思ったのに」
叶夢はバレッタで止めていた前髪を下ろして、ハンガーにかけてある赤いフードに肩を通す。
「出掛けるんですか?」
「いや、ゲームのお誘いだ。もちろんお前らも一緒にな」
「どういうことですか? 話が掴めないんですが」
叶夢は千夜の持ってきた二つのサンドイッチの1つを手に取り口に頬張ると、もう1つを千夜に差し出す。
「なあに、ただの人狼ゲームさ」




