第47話 雷槍の影に死神は踊る
豹助がスパイダーデビルとの戦闘に入った同時刻。叶夢は地下フロアから警察官の死体を背負って運んでいた。
(この人が言っていた魔族‥‥アラクネで間違い無いだろう。となると厄介だな‥)
叶夢は頭の中で情報を整理していた。しかしその思考はある音によって揉み消される。
「?‥‥この音‥千夜達の部屋か? やっぱ地下にも残ってやがったのか‥急いで死体を運び出さなきゃな」
叶夢は一階へ続く階段に足をかける。ふと足元を見ると叶夢は自分の足元に一匹の小さな蜘蛛を見つけた。
「ったく‥このタイミングで一番見たくない虫が‥‥こいつ何処から沸いたんだ?」
叶夢は顔を上げて天井を確認したが、そこには何もいなかった。
「考え過ぎか‥‥」
自分にそう言い聞かせた叶夢の視線が床に落ちる。
「?‥‥蜘蛛が増えてる?」
違和感を覚えた叶夢が体制を低くして下を見続ける。二匹だった蜘蛛の中に、三匹目の蜘蛛が視界の端から落ちてきた。叶夢は唾を飲み、ゆっくりと蜘蛛の尻の糸を目で辿る。
「‥‥!?」
叶夢の目に映ったのは、背中の警官の死体の目や口から糸を垂らした蜘蛛の姿だった。
「くそっ!」
叶夢はあまりのおぞましさに死体を勢いよく後ろに突き放した。腰の刀に手をかけ、突き飛ばした死体に敵意を向ける。
「‥‥カカカ」
動くはずのない死体が、なるはずの無い喉を鳴らす。警官の死体はブリッジの体勢でゆっくり立ち上がる。
「なるほど‥あの毒から生まれたわけか‥‥せっかく休みを貰った警官を地獄から引き戻すとか、魔族にまで日本人のブラック企業精神が身についちまったか‥あっははは‥‥あー笑えねえ」
叶夢は自らの刀を抜く。まだ一度も使われてないにも関わらず、その刀身は暗い紅に染まっていた。
「あーいやだね‥‥試し斬りが人間だなんて」
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
そんな叶夢を嘲笑うように、蜘蛛は死体の声帯を鳴らす。
「気色悪い声で笑いやがって、その身体はお前のモノじゃないんだよ。さっさと出ていけ!」
叶夢は大きく踏み込み、死体の上に向けてジャンプをする。手に持った刀の切っ先を真下の死体に向け、体重をそのまま刀に乗せた。
「悪いな」
刀は死体の喉に突き刺さる。動脈の血液が静かにこぼれるのを見て、叶夢はそれがもう生きていないものだと悟る。しかし、死体が動きを止めることは無い。
「ーーーー!」
「この程度じゃ止まってくれねえよな‥」
叶夢は刀を引き抜き、距離をとる。叶夢が開けた穴は白い糸のようなもので塞がっていた。
(物理攻撃でこれを止めるのは無理そうだな。何度斬っても本体が虫だと、多分バラバラにしても動く)
「死体の原型を留めて中の蜘蛛だけ殺す? あー無理だわ。俺にそんな芸当できたらもっと命救えてるし‥‥‥」
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「あんま調子に乗ってんなよ蜘蛛野郎‥‥仕方ない。こいつを使うか」
叶夢は自らの刀を見る。目を閉じ魔力を込めると、その刀が脈打つのを感じた。
「じゃあな‥‥くたばってくれ!」
「アッハハハハハハ!!」
死体はブリッジの状態で叶夢に向けて飛び掛る。叶夢も刀を横に振るが、死体はそのまま天井に張り付き、口から野球ボールサイズの繭玉を吐き飛ばした。
「うわ汚っ!」
叶夢は刀でその繭玉を斬り、着弾を避けた。しかしその行動のうちに死体は叶夢の視界から消えていた。
「ちっ‥暗がりに逃げたか! 何処だ!」
叶夢の怒鳴り声が闇に虚しく消える。叶夢ができることは刀を構え、ただそれが来るのを待つことだった。
(落ち着け‥考えるだけ無駄だ。音で反応して刀を振れ!)
構えて数秒後、叶夢に迫る乱雑な足音を聞く。叶夢がその方向を見ると死体が壁を足場に地面と平行に走っているのが見えた。叶夢は刀の切っ先を死体に向け、間合いに入った瞬間にそのまま突きの攻撃を行った。
「そこだ!」
「アッハ!」
しかしそれすら遅い。死体は向かいの壁に飛び映り顔面に切っ先で傷をつけられながら、その攻撃を無に帰す。すかさず無防備になった叶夢の左側に飛び込み、その口を大きく開ける。
「嘘だろ!?‥‥ぐっ!」
その口は叶夢の左腕に喰らいつく。骨を砕かれるような痛みに叶夢は苦悶の表情を浮かべる。さらに噛まれた皮膚からは血の他に紫色の液体が見えた。
「毒かよ! 早く離さねえと! くそっ! 離れねえ!」
叶夢は死体ごと左腕を壁に叩きつけて離そうとするが、その顎が離れることは無い。じわじわと毒が腕から体内に入っていく感覚だけが痛みと共に叶夢に迫ってきていた。
「仕方ねえ‥これで終わりだ!」
叶夢は右手に持った刀を逆手に持ち替えて、死体を壁ごと突き刺した。その状態になっても尚死体は左腕を手放さない。それを知っていた叶夢は刀に魔力を通し、魔法を解放する。
「黒い閃光の剣!」
瞬間、死体の身体の中を叶夢の放った魔法が駆け巡る。中に住み着いた子蜘蛛を筋繊維ごと焼き尽くし、死体の表面に魔法によって出来たヒビのような傷が現れた。それが顔まで達した時、叶夢は刀を引き抜く。
死体はさっきまでの活発な動きが嘘のように、ピクリとも動かず倒れた。
「はぁはぁ‥‥思ったよりもやばいなこの刀‥」
「叶夢くん! 大丈夫!?」
「白鳩か‥」
「これって‥」
騒ぎを聞いて駆けつけた白鳩がその惨状に絶句する。
「というか叶夢くん、その傷は!」
「正直やばい‥この死体に寄生したスパイダーデビルの幼体からの毒だ」
「死体に‥‥寄生?」
「第四位魔族のスパイダーデビルには、子供を増やすために生物の死体に卵を産み付ける傾向があるからな‥‥白鳩、傷の治療だけ頼めるか」
「あぁ、わかった‥」
白鳩は叶夢の腕に回復魔法を掛ける。歯形を中心に叶夢の傷が消える。
「これからどうするの?」
「白鳩、お前だけ死体を持って外に出ろ」
「まさかその傷で魔族を狩るつもり?」
「それもある‥‥だが今回ばかりはお前が頼りだ。毒魔法使いならこいつの毒から解毒薬を作れるだろ?」
「なるほど‥‥わかった。だったらすぐに出ていく。豹助くんにも早く出てくるように言っておいて」
「あいつになんかあったのか?」
「さっきの部屋でスパイダーデビルと交戦して毒を入れられた。矢岬ちゃんも応援に向かってる」
「二人分なら尚更だな‥‥後は頼んだ、行ってくる!」
叶夢はそのまま走り去り、白鳩はその背を静かにみていた。
「待ってて‥‥すぐに作ってみせる」
白鳩は叶夢の姿が見えなくなると、死体を肩に担ぎ身体強化をつけた足で一気に地下の出口まで走っていった。
ーーーーー
「豹助!」
叶夢は死体を見つけた部屋のドアを蹴破る。そこには交戦の後は見えたものの、豹助達の姿は無かった。
「もう地上に出たか‥‥いや、すれ違いもしなかったしそれは無いな‥となると、紫以奈の場所に」
「叶夢ですか?」
「うおっ!‥‥なんだ千夜か‥」
叶夢は後ろから聞こえた千夜の声に情けない声を上げる。
「なんだって、何ですか‥」
「ちょうど良かった‥豹助は?」
「紫以奈の場所に向かっています。私が案内に来ました」
「わかった案内頼む」
「了解です!」
叶夢は千夜の後ろを走りながら、一つの疑問を投げかけた。
「そういや千夜。何で俺があそこに向かったって分かったんだ? 普通なら反対の入り口側に行くはずだろ?」
「さっきの豹助さんの方でも戦闘があったのはご存知ですか?」
「あぁ、白鳩から聞いた」
「あそこだけに魔族が潜んでいたとも考えづらくて‥そしたら案の定戦ってる最中に入口付近で音。だったら叶夢が戦ってるって考えるのが普通でしょう?」
「確かに‥」
「呼びに行く時点では音が止まってましたし、入口での先頭が終わったのを悟った私は、叶夢くんが心配になって部屋に戻ってくるということを考えて」
「そこまで読めるとかなんなの。俺のストーカーか何かかよ」
「それくらいやれなきゃ、叶夢の彼女なんて言えませんよ」
「俺の彼女ハードル高すぎだわ!」
「着きました。ここです」
千夜はある部屋の前に止まる。叶夢は千夜のプロファイリング能力に悪寒を隠せずにいた。
「紫以奈〜、叶夢連れてきましたよ〜」
「千夜おつかれ」
千夜に続き、叶夢が部屋に入る。部屋の中には交戦の後は無く、紫以奈が豹助の看病をしていた。
「豹助は?」
「時間停滞で毒の周りを遅くしてるんですが‥‥」
「随分とやられたな豹助」
「うるせ‥‥笑いたきゃ笑うにゃ」
「腹抱えて笑いたいところだが、俺も毒打たれたから人のこと言えねえし」
「お前が? 珍しいにゃ」
「ちょっと道徳心逆撫でされてな‥‥」
「それより隊長。これからどうします?」
「地下の魔族狩りに入ろうかと思ったが、豹助と俺がこれじゃ無理そうだ。外出るぞ‥‥ん?」
叶夢が部屋から出ようとすると、無線に連絡が入る。
「なんだよベロニカ」
『叶夢、魔族がどこから来てるのかが分かったわ』
「そんな俺も知ってる。外からだろ?」
『外からもだけど、多くの魔族が地下から侵入していたのよ』
「地下から? どういうことだ?」
『外で説明するから戻ってきて』
「分かった」
叶夢は通信を切り、ため息を吐く。
「ベロニカ隊長からですか‥」
「あぁ、魔族の発生源がこのフロアだそうだ」
「ならこのまま殲滅に‥ぐっ」
「豹助、あんま無茶すんな。肩借すからさっさと出るぞ」
「やだよ気持ち悪いにゃ。紫以奈〜 肩〜」
「はいはい‥‥すいません隊長」
「いつも通りだ‥‥むしろ謝るとなんか俺が負けた気がするからやめてくれ」
「負けた気が?‥‥まさか叶夢、そっちもイケ」
「よし行くぞ。千夜、囮な」
叶夢は紫以奈を先に部屋から出し、自分が出ると同時にわざとドアを閉めた。
「あーー! なんて酷いことを! てことは図星なんですね! 図星なんですね!」
「紫以奈。千夜に別れの言葉を言っとけ」
「えーと! 頑張れ!」
「投げやり!?」
千夜はドアノブに手をかけるが、外側から押さえつけられてそのドアが開くことは無かった。
「ほんと外道ですね! もういいです! 本気でどかします! 地を這う吹雪!」
千夜はドアを氷漬けにすると、背中の太刀でドアを真っ二つに斬り捨てる。廊下に出ようと斬り捨てたドアを踏むと、千夜はその下に違和感を感じた。
「ざまぁ無いですね。私もやる時はやるんですよ」
「誰に向かって話してんだよ」
「へ? 叶夢? じゃあ下にいるのは?」
千夜が下を見ると、ドアの下から巨大な蜘蛛の足がはみ出ており、千夜はそれが何なのかを悟る。
「スパイダーデビルぅ!?」
「おい! 部屋に戻れ!」
「わかりました!」
千夜が後ろに跳躍すると、スパイダーデビルがドアを持ち上げ襲い掛かる。しかしその手は千夜に届くことなく、叶夢の刀によって首を落とされた。
「「あ、危なかった‥‥」」
千夜と叶夢が全く同じ言葉を吐く。叶夢は刀を収めると千夜の手を引き、部屋から走り去った。
「悪かったな」
「ほんとに置いていくなんて酷いです」
「反省してます‥‥」
「なんでそんなに凹んでるんですか‥‥」
「いや、俺の悪ふざけのせいでお前に何かあったら‥‥」
「そんなテンションになるなら最初からやらないでくれます!?」
千夜が声を荒あげる。
「ほんと気をつけます‥」
「あーはいはい。分かればいいんですよ‥‥」
「今度は俺が対処できる範囲で嫌がらせします」
「絶対反省してませんよね!?」
そんな会話をしているうちに叶夢と千夜は紫以奈と豹助に追いつく。
「ようおかえりだにゃ」
「もう少しで出口です!」
「ただその前に‥後ろに何体かいるな」
「なら私が‥」
「聞こえてるかベロニカ? 外で話す前にこっち手伝え‥‥千夜、もどってこい! 上からビッチが落ちてくるぞ!」
『誰がアバズレよ!』
その言葉が通信機から爆音で聞こえると同時に天井が崩れる。瓦礫を踏みつけ現れたのはその声の主、ベロニカだった。
「三人は行って。叶夢には少し仕事があるの」
「お前ふざけんなよ。俺だって毒くらって満身創痍に」
「あんたが消えたら、ソフィアとの淡いエピソードを」
「まだやれる! 魔族+ワンビッチ狩るぐらいにはな!」
「わかりました! 叶夢! 帰ってきたら沢山聞かせてもらいますからね!」
千夜は豹助と紫以奈を連れて、一階に続く階段を上がって行った。叶夢はそれを見届けると、再び視点を敵に向ける。
「全く‥一階片付けた後に地下もやるとか、ほんとブラック」
「朔夜も呼んでるからすこしは楽になるだろ‥‥」
『二階が片付いたらな!』
「あ、ちゃんと来てはくれるのね」
『仕方ねえだろ! 地下から沸いてんなら二階から飛び降りるぐらいしか避難ルートが無いんだからな!』
朔夜の声は通信機からだけでなく、上からうっすら剣戟に混じって聞こえた。ベロニカはナイフを逆手に構え、目の前の敵を見る。
「私はここから動かないから、あんた行ってきてよ」
「光がここしかないもんな‥‥安心しろ。すぐに戻ってきてやる」
「は? 今なんて」
ベロニカの応えを待たずに叶夢は魔族に向かって走る。その目に映るのは4体のスパイダーデビル。
「追っ手がこれだけな訳無いよなァ!」
叶夢は4体の魔族を無視して走り去り、分かれ道で立ち止まった。
「良かったなベロニカ‥」
『はぁ? 何がよ』
「合計21体‥三人で7体ずつ分け合えるからな! 前面4体対処頼んだ!」
『はぁ!? あんたそれ本気で言ってるの!?』
「死にたくないなら、アレ使えばいいだろ? 俺はもうとっくに使って」
ベロニカは怒りのまま無線機の電源を切る。
スパイダーデビルの鳴き声がその心を更にイラつかせる。
「あいつ‥‥暴走したら止めなさいよ!」
ベロニカがナイフを空に掲げた瞬間、ベロニカの目が網膜を残し漆黒に染まった。
「捕まえた」
ベロニカの影は光の下に入った2体の魔族の影と交わる。そこから首の部分の影が伸び、別の影に繋がった。
「影首吊り」
ベロニカがその魔法を使った瞬間。影が繋がった魔族が何かクレーンのようなものに吊り下げられたかのように浮き始めた。浮いた魔族は苦しそうに首を掻き切るしぐさをしたが、それが無駄な行為だということに気づかなった。
「どうしたの? 後ろの奴らも来なさいよ」
ベロニカは声色を一切変えず、ナイフを日陰にいた2体の魔族に投擲した。
「!?」
「ほらほら。早く仲間の元に送ってあげるから!」
ベロニカが投げたナイフにはワイヤーが取り付けられていた。ベロニカはそれを引き、魔族を日向に引きずり出した。運命を悟った魔族は地面に縋るが、ベロニカはそれを許さない。下半身が日向に出た時点でそれはベロニカの伸びた影に繋がってしまった。
「ほーら暴れるから、もっと苦しくなるわよ? 首を断つ影の刃」
ベロニカの魔法によって自らの影から現れた黒刃に魔族の上半身と下半身が切り離される。
『二階終了! そのまま地下に向かう!』
「そのまま?‥‥危なっ!」
ベロニカはこのあとの展開を予想し、後ろに大きく跳躍する。
『ベロニカ! 後ろに下がれ!』
「もう下がってるわよ!」
『なら問題ないな!』
『こっちも引きつけた! やれ! 朔夜!』
叶夢の号令と共に、天井から眩い光と轟音が響く。ベロニカはあまりの眩しさに目を腕で隠した。
「雷衣・龍魂乱舞!」
闇に包まれていた地下を照らすどころか、切り裂くような光に魔族たちが包まれる。ベロニカが目を開くと自分が処理した魔族の死体すら残らず、朔夜が通った後には微かに青い電流が残っていた。
「はぁはぁ‥‥まだ2体‥足りねえぞ!」
朔夜が仕留めた魔族は15体。あの雷の体当たりでも朔夜は仕留めた魔族を認識していた。
「落ち着けよ朔夜」
「あぁ!?」
叶夢は朔夜の目を見る。朔夜の目はベロニカと同じように檸檬色の網膜を残して、漆黒に染まっていた。
「久々に使ったせいであんまコントロール出来てないみたいだな」
「うるせえなぁ‥残りはどこだよ?」
「あぁ、それなら」
叶夢は突然自らの後ろに刀を振る。生々しい崩壊音と共に鮮血が壁に飛び散った。
「今仕留めた」
「ッ‥‥なんだよつまんねえ」
朔夜は槍を収める。それと同時に目も通常の白に戻り、いつもの落ち着いた雰囲気を取り戻した。
「良かった‥これで全部よね?」
「ほぼ俺の手柄だがな」
「「朔夜、うるさい」」
「うす」
ベロニカが二人に駆け寄る。天狗になっていた朔夜の鼻をへし折ると、安堵の息を漏らした。
「さぁ、さっさと撤退するわよ」
「その前にだ。二人とも、ちょっと着いてきてくれないか?」
「なんだよ‥なんか見つけたのか?」
「あぁ、なかなかに興味深いヤツを」
叶夢はある部屋に二人を連れて入る。そこに入った二人は全く同じものに視線を釘付けにされた。
「これって‥」
「割れた繭玉? なんでこんなもんが‥」
「豹助が仕留めたやつから出てきたやつだろう‥‥中身の子蜘蛛がどこに行ったのかは知らんが」
「‥‥アラクネへの伝令に使われたか」
「朔夜ならそう考えるか‥‥となると」
「帰ってすぐに報告会ね‥この戦い、長期戦になりそうだもの」
「関係ねえ。何びき束になっても所詮は虫だろ? 俺らが勝て無い道理はねえ」
叶夢は刀の返り血を払い、鞘に収めてへやを出た。繭の殻が踏みつけられ、プラスチックが砕けるような音が誰もいない部屋に響いた。




