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第11話②

「ここをこうして、こうで……こうだ!」

私が50億年以上生きてきて、最初に見た景色は、部屋いっぱいの機械の中で、楽しそうに作業をする博士の姿だった。背中を向けて横にある機械を、手元に集めて何かを作っているのだが、取り込まれていく機械の量がとても多い。ある程度作って材料が足りなかったのか、椅子から跳ねるように私の視界の外へときに、やっと手元が見えた。子供くらいの腕、脚、体がそれはそれは綺麗に出来上がっているのだ。

周りにある機械からこれが出来たのかと思うと、狐にでも化かされたのではないかと思うほどだ。

「ふふふふーーん♪」

鼻唄を歌いながら博士が帰ってきた。やはり顔がわからない。しかし、とても笑顔だったことは覚えている。

「もう少しでできるよぉーーっと!え、えぇっ!!!」

なぜ驚いたかというと、私が目を覚ましていたからなんだが。その驚きかたは今でも思い出す度に笑えるものだった。

「う、動いてる?」

顔が引っ付きそうなくらい近付いて、私の目を見る。少し動いて、目の動きを確認する。顔を離して、自分の頬を叩く。つねる。ついでに肘の柔らかい所をつねる。

「痛い」

最後のは置いておいて、ようやく夢ではないことを確認した博士は飛んで驚いた。

驚きすぎて落ちてきた周りの機械に埋まってしまったが関係ない。頭だけ出して、大笑いしていた。

これが、私の父親だ。

「さぁ、動いてごらん!」

そこからは本当にすぐだった。これまで以上に手を早めた博士は、私を組み立て、歩けるようにしてくれた。そこで私は、やっと自分の生まれた場所が研究施設であることを知り、博士の他にもたくさんの人がいることがわかった。

「ガイア、体の調子はどうだい?」

「はい、良好です」

そうかそうか!と笑う博士。この時はまだ口調も固くて、あまり感情もなかった。ただ、プログラムとは違う何かをずっと持っていた。

その後、私のお披露目会があった。普通に会話できるようになっていた私は、博士に言われて、わざと出来損ないみたいに動いた。そこに来ていた記者達のポカンとした顔を見て、終わった後に二人して笑った。その時はまだ、私の存在を秘密にしなければならなかったのだろう。博士の笑顔の裏に、私の知らない世界があることに気付いたのは、まだまだ先の事である。


そうして時が過ぎた。


「ガイア、ちょっといいか?」

「なんでしょう博士」

それから僕達は家を買って、博士も家で仕事をするようになった。そのお陰でずっと一緒に居られるし、色んな事も教えてもらえたんだ。博士が時々出張に行くときの資料を作ったり、博士がいない間の家事だって、もう主婦並みにできるようになった。

「弟ができた!」

「本当ですか!?」

僕のプログラムを基に、弟を創ってくれると言ったのが一年前。その間、全然手伝わせてくれないし、どこで創っているのかさえ教えてくれなかった。

「見に行きたい人っ!」

「はいっ!!」

もちろん見に行きたい。僕以外の心を持ったロボット。お兄ちゃんになることが、とても楽しみだった。

ウキウキ気分で車に乗って、着いたのは森の奥にある大きな倉庫だった。


あれ、こんな所だったっけ。と僕の記憶が喧嘩している気がした。


相当な距離を走ってきたけど、その間の博士の表情は覚えてない。家の周りはよく散歩したはずなのに、どの道を通ったのかもわからなかった。

どんよりした曇り空が、余計に倉庫を不気味に見せた。

「さぁ、こっちだ」

手招きをしている博士について中に入ると、布が掛けられた僕くらいの大きさの物があった。

「これが、ガイアの弟だ!」

「は、はい」

「どうした、緊張してるのか?」

「いえ。博士、ここは……」

「ここ?初めて来るだろう!私の秘密基地だ!」


そう、ここは、初めて来る……。そうだよねと自分を納得させた。


「さぁ、見てくれ。これがガイアの弟だ!!」

勢いよく捲られた布が埃っぽい倉庫の中を飛んでいった。

「こ、これ……」

そこにあったのは、人の形をしたロボットだった。真っ白の体。のっぺらぼうの顔。冷たい感じが周りの景色に溶け込んでいた。

「どうだ!格好いいだろう」

「あ、はい……」

「どうした、もっと喜んでくれよ!」

正直、全然格好よくない。これは機械だ。博士の目指すものじゃない。

「見てくれ、全身のありとあらゆる所に武装を付けたぞ。あと脚が無くなってもいいように、背中にキャタピラをつけて、いざって時に変形する。こんな素晴らしいものを作れるなんて、私は天才だ!どうだ、素晴らしいだろ!」

全く動かないそれを、声高々に自慢してくる。博士は自分の技術を自慢したりしない。武器なんてもってのほか、変形だって、何になるかわからないから楽しいんだ!って言ってた事を覚えている。だから、この人は博士じゃない。いや、変わってしまったんだろうか?

「ガイアも見てくれ!」

不意に手を掴まれた。僕は驚いて咄嗟に手を引っ込めてしまった。博士の事じゃない。僕自身に驚いたんだ。

目覚めたときに見た、あの綺麗な手じゃない。目の前にあるロボットと同じ、命とは程遠い冷たい手。

「どうしたんだガイア、故障か?」

「博士……じゃない。あなたは誰だ!!」

「誰って、お前を作った主人だよ」

「違う!あなたは博士じゃない!」

「俺は兵器を作るのが仕事。そしてお前は俺の最高傑作だ」

違う違う違う違う違う違う!!!

「お前はこれから兵器として働く。私が世界を支配するためにな!」

「違うっ!!!」

バンっ!!という音が倉庫中に広がった。

「えっ……」

僕の腕が博士に向けられていた。指からは煙が……。そして博士は……。

「あ、あぁあああああ!!!」

僕はその場から逃げた。家に帰ろうと思ったけど、帰り道がわからない。暗い道を訳もわからず走っていた。途中で人とすれ違った。コソコソと何か言われている。笑ってる人もいれば、怖がっている人もいる。僕が一人になっていくのがわかった。

どうしたら、いいんだ……。


「兄さんっ、兄さん!!」


目が覚めると、目の前にヘルメスが立っていた。そこでやっとそれまでの事がドラッグによる精神攻撃であることを思い出した。

「大丈夫!?」

「すまないヘルメス。大丈夫だ」

自分の手を見て安心した。どうやら私は、精神攻撃に耐えることができたようだ。目の前でヘルメスがドラッグと植物の攻撃を受けてくれている。

「もう大丈夫だヘルメス」

「オッケー、じゃあ行こう!」

「わかった。いくぞ烈っ!!」


……返事が聞こえなかった。

「どうした烈!?烈っ!」

聞こえていないのか?さっき無理に烈の意識を切り離したから、アースとの交信がうまくいってないのか?

「何言ってるの兄さん!早くあいつを倒さないと、人間達が調子に乗って反乱しちゃうよ!」

一瞬、ヘルメスが何を言ったのかわからなかった。それに、応戦するヘルメスの武器が弓とは違う。マシンガンのようなもので、弾を盛大に撒き散らしている

「どうしたんだヘルメス?人間達が……何だって?」

「もう、しっかりしてよ兄さん!やっと支配したこの星が、また人間なんかに取られてもいいの!?」

「ま、待ってくれヘルメスっ!何を言ってるんだ!」

「兄さんこそ何言ってるの!!ほら、そんなこと言ってるから。見てよあれ!」

ヘルメスが指差し方には、ドラッグを守るように町中の人が集まっていた。

(この侵略者!!)(人間に逆らうな!!)(機械なんかいらない!!)(人間の生活を返せ!!)

その中には烈や刀耶君、アースベースのみんなもいた。

「どういうことだ……?ここは、どこなんだ!?」

すると、それまで黙っていたドラッグが帽子の下で不気味に笑いながら言った。

「ここはあなたが作り変えた世界。人間の意思なんか関係なく、あなたのエゴが生み出した世界。そして今、それを人間達が気付いてしまった。さて、あなたは、どうしますか?」

「ここが……私のつくった世界……?」



ーーーーーーーーー



「ガイア!ガイア!」

俺は小さな緑の玉の中で、目の前のガイアを見ることしかできなかった。この玉はガイアが創ってくれたんだろう。そのお陰でドラッグの攻撃は受けずに済んだけど、目の前で傷付いていくガイアの姿を見るのが苦しくてたまらなかった。さっきから、声は出しているんだけど、届かないし。

「何をしたらいい……。なんとかしないとガイアが!!」

その時、フワリとした感触が俺の肩に乗った。驚いた俺がそちらを見ると、白衣を着た男の人が笑顔で立っていた。眼鏡をかけて、寝癖が少しついた髪、腕捲りをした姿が、少しだけ父さんに似ていた。

(君が赤兎烈君かな?)

声が聞こえた。

「は、はい!」

優しい声だった。

(私の名前は結城健太郎。ガイアの父親だ)

この人が、ガイアの……。

(あの子と仲良くしてくれてありがとう)

「あ、あの……!」

(少し待っててくれ。ちょっと話してくる)

そのまま俺の入っていた緑の玉を楽々出ていくとガイアのほうに歩いていった。

楽しそうに歩く姿が目の前の景色と全く合わない。なんなら少しスキップしている。

そんな結城さんは、周りを見て、あからさまに嫌な顔をしたと思ったら、指をパチンと鳴らした。

景色が歪んでいく。周りの景色がどんどん消えていって、最後にうずくまったガイアが残った。

ポンポン。

ガイアの肩を叩いた。ガイアは少しだけ顔をあげたかと思ったら、すぐに顔を隠してしまった。今度は反対の肩を叩く。今度は顔すらあげようとしない。

悩んだ結城さんは、こちらを見て手招きをした。俺はここから出られないことを手で表現した。

考え込んでいたが、不意に結城さんが、手の側面を眉に当て、俺のずっとずっと後ろを見る仕草をした。俺も釣られて見たけど、何も見えない。

すると突然、俺の後ろから大きな光の塊が、この場所を崩すのではないかという勢いでガイアの向こう側に突き抜けていった。

(さすがヘルメスだ!)

結城さんは、大きく頷きながら言った。そしてその光を引っ張って、小さくちぎると、何かを創り始めた。1つ2つ……。最終的に5つの人形を創った。

(完成だ!)

出来た1つは、ヘルメスみたいだったけど、あとは見たことがない。結城さんは、それをじっくりと見ては頷き、時には懐かしそうに笑って頭を撫でた。すると、人形達が動き出し、ガイアの背中に手を置いた。結城さんはガイアの目の前に座ると、優しい声で名前を呼んだ。

(ガイア)

頭を撫でると、やっとガイアが顔をあげた。



ーーーーーーーーーー



「ハハハハハハハハ!!!!!」

勝った!勝ったぞ!

今私の手の届くところに、あの機械人形がいる。下らない鎧の中から、記憶の中で薄っすら覚えているあの忌々しい機械人形が自分から現れたのだ。

「これで、私は英雄だ!!」

これであの島に帰れる。そして私はリガース様の右腕として、この世界をまたあの時と同じ姿に戻すのだ。アダムを顎で使い、ほかの奴らも私の手下として使う。気に食わなければ殺そう。謝ろうものなら少しだけ優しくして、すぐに殺そう。これからの事が楽しみで仕方がない。

「さて、ではこの鎧は要りませんね。おいっ!」

私は機械人形を適当に抱えると、可愛い豆の木ちゃんに飛び移り、残った機械人形の鎧を大きな蔓に投げ捨てさせた。そして私は葉っぱの上に機械人形を立たせた。

「さて、機械人形。誰の勝ちですか?」

「ドラッグサマノカチ」

「そうですねぇ!いい子ですよ!」

実に機械人形らしい声だ。私は頭が取れてもいいから、思い切り機械人形の首を揺らした。

「兄さんに触るな!」

「なんですか?もう勝負はついたでしょう?」

空を飛んでいる機械人形がほざいている。あなたは要らないんですけどね。

「それとも、あなたも一緒に来ますか?」

確か機械人形は全部で6体いると聞いたことがある。どうせ大したことはないと思ったが、土産が増えるのは良いことだ。

「お前なんかに兄さんは負けない」

弓を引き絞るハエ。私の顔に傷をつけたそれを、今は悔しそうに構えている。とても笑えた。

「今、この状況を見て何を言ってるんですか?バカですか?ほら機械人形、何か言ってやってください」

「ヘルメス、ワタシタチノマケダ」

「ほら、こう言ってますよ?」

「それ以上兄さんを汚すな!」

ハエは引き絞る力をもっと強めて怒っている。腹を抱えて笑いたい気持ちだ。

「怖い怖い!助けて機械人形ぉ」

「本気で撃つぞ!」

「えぇ、いいですよ。その時は、あなたの大事なお兄さまが粉々ですけどねぇ!!」

絶対に撃てない。撃つはずがない。この後ろに立っていれば、あのハエは何もできない。

「それに、人間どもがどうなってもいいんですか?」

私には操った人間達もいる。持久戦になれば、飛んでいるあいつが不利。燃料が切れた途端に人間を突っ込ませれば楽勝だ。

なんて完璧な計画なんだ。

「さて、では私は帰ります。あとは、この豆の木ちゃんとゆっくり戦ってください」

はやくリガース様に報告したい。私が、機械人形を倒したんですと。島の中でのうのうと過ごしている奴らと違って、自分で立てた計画をもとに機械人形を倒したのだと。これでリガース様が私を見てくれる。

突然顔の横に矢が刺さった。当たらないので驚きもしないが、一応放った犯人を見た。

「逃げるのか?」

安い挑発だった。

「帰るんですよ」

「僕が恐いんだろう?」

「ふんっ、笑わせないでください」

「次は当てる!」

笑いを通り越して、呆れてしまった。まぁ少しだけ付き合ってあげてもいいかなと思った。

「じゃあどうぞ?」

私は機械人形の体の影にすっぽり隠れた。これで当たるはずがない。もし矢が曲がっても、豆の木ちゃんが守ってくれる。2、3回受けたら帰ろう。

「さぁ、早いところやっちゃってください」

さて、どこから来るかな?上か下か右か左か。まあ関係ないんですけどね。

バシュン!!

本当に撃ってきた。バカですねぇ。さて、どこに……。

「はっ……?」

前方からの衝撃に、思わず後ろに吹き飛ばされてしまった。

「アァアアアアアアア!!!!」

今まで味わったことがないような痛みが胸を襲った。見ると、ハエが放った細くて小さな矢が、機械人形を巻き込んで、私を豆の木に張り付けにしていた。

「ナンデェ!!ナゼだぁあああ!!」

「今だ、いっけぇ!!」

今度はハエが背中からミサイルのようなものを空に向かって発射した。何かはわからないが、防がなければならない。

「私を守れぇええ!!」

豆の木は、大きな蔓で私の周りを繭のように取り囲んだ。これで攻撃を受けることはない。

さぁ来い!

私は痛みに耐えながら矢を引き抜く。機械人形ごと放り投げて、治療を開始する。

「……おかしい」

先ほどのミサイルが来ない。私ではなく、豆の木を狙っても衝撃は来るはずなのに、それが1つも来ない。

何故だ?と私は頭を回転させる。しかし、薬はとっくに切れていたので考える気力もない。

私は恐る恐る蔓の間から外を覗いた。


雨が、降っていた。


雨音とともに、足下が騒がしいことに気付いた。

「何故だ……!」

見ると、それまで豆の木の周りにいた人間達が、逃げていくのが見えた。私を追ってきた訳のわからない軍隊は避難を手伝っている。

「花粉はもう、通じないよ?」

ハエが向こうで笑っていた。さっきとは違う、ヘラヘラした話し方と動きで。

「何をした!!!」

「簡単だよ。最初に吹き出した花粉を調査して解毒薬を作った。そして、さっき発射したミサイルに解毒薬を入れて空に打ち上げて、雨と一緒に降らせた。ちょっと考えればわかることだよ?頭使って?あれ、このセリフさっきも聞いたような。あぁ、そういえば君が言ってたんだっけ?」

あのベラベラベラベラと口の減らないハエのせいで、私の堪忍袋はすでに破裂寸前だった。だが、まだ機械人形は私の手の内。まだ私が勝っている。

「それでどうする、降参する?」

その瞬間、視界に入った人間を殺そうと思った。何人か被害が出れば、あのハエも黙るはずだ。

私は右手に力をいれ、一番最初に見えた人間に狙いを定めた。

「死ねぇえええあ!!」

ガシッ!!

伸ばした指が、何者かにとめられてしまった。

「そこまでだドラッグ、私の勝ちだ!」

闇に落ちたはずの声が再び聞こえた。何故か眠る前より声に力があり、それが私を一層イライラさせた。

「機械人形ォオオオオオオ!!!!」

もう許さない。私の邪魔をするやつは、すべて地獄に送る!!


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