第11話① 勇者の弱点
突然の警報に、私は直ぐ様GAーXに乗り込み、アクセルを踏んだ。一先ずグラントレーラーの整備は完了したから、いつでもグライガイアに合体ができる。
私は車を操り、少し大きめの通路に入った。ここはアースベースと地上を繋ぐ通路で、前世の魂達が町中のどこに現れてもいいようにいくつか設置されている。しかし、ここ最近は何故か同じ通路を通るように誘導される。
刀耶君に薬を渡した男性が現れる位置が限定的なのは、さっきの会議で聞いた。その男性が植物を出しているのだとしたら、同じ場所でも不思議はない。だが、それだけなのだろうか?少しだけ嫌な予感がしている。
「待たせたな!」
烈がアースの中に入ったようだ。
「烈、少し嫌な予感がするんだ」
「どうしたんだよ。曇りだから少し弱気なのか?」
外へ出ると、雨は降ってはいなかったが、どんよりと雲が低い所に浮かんでいた。
「兄さんお待たせー!!」
ヘルメスも来たようだ。
「ヘルメス、刀耶君は連れてきていないだろうな?」
「散々怒られたからね……。でも、見えてる筈だよ!」
「ヘルメス、あんまり動かないでね。酔っちゃうから」
流石に生身の刀耶君を連れていくのは無謀すぎるため、VR技術を使って、刀耶君とヘルメスの視線をリンクさせていた。
これなら、ヘルメスが無茶苦茶に動かない限り、刀耶君はヘルメスのサポートをすることができる。
私と烈のように、意識を合わせられればいいんだが……。
「兄さん、現場はまたあそこなんだよね?」
「あぁ」
ここ最近あの付近に現れているのは、前世の魂が入っていない、ただの植物だ。もしかしたら、前世の魂が入っている個体は少ないのかもしれない。
「見えてきた!」
烈の声に前を見ると、ビルの間に大きな植物が見えた。その場所は、巨大植物が現れた影響から、周辺に建物は無く、綺麗な更地となっていた。
そして今、童話で見たジャックと豆の木のような大きな植物が地面を割り、生えてきていた。太い茎が空に向かって延び、それを支えるように細い蔓がぐるぐると巻き付いていた。今まで見たなかで一番大きかった。
「まだ暴れてないみたいだね!」
「あぁ!倒すなら今のうちだ。いくぞ烈、合体だ!」
「おう!」
「グラントレーラー!!!」
私の叫びに応え、大地を揺らしながら彼はやってきた。みんなと修理し、さらに強くなった力を、私は使う。
「「グランフォーメーション!!!」」
グラントレーラーは、私を積み込むと変形していく。
「グラーーイ、ガーーイアーーー!!!」
見た目は変わっていないが、パワードの戦いから得られたデータから、不要なものを取り除き、軽量化を行ったため、以前の10%は動きやすくなった。
「ガイアソード!!!」
「行けー兄さん!!」
地面を割って現れた剣を握り、私は植物に向かい走り出した。ふと、何かがおかしいと感じた。
…このまま植物を斬って終わりなのか?
青山さん達が探してくれているあの男性は、今どうしているのだろう?あの男性が今まで植物を出していたんだとしたら、何故この植物を、今ここで出したのだろう?
私は剣を振りかぶり、目の前の太い茎目掛けて降りおろした……。
「駄目ですよぉ?」
茎に当たる直前。磁石が反発するように剣が止められた。何かが邪魔をしている。
「慌てないでください機械人形……」
切っ先の方から声が聞こえたと思ったら、強い力で押し戻されてしまった。
「あ、あの人!」
私を剣ごと弾き飛ばしたのは、全身が黒色の服で包まれた痩せ型で背の高い男性だった。それは、会議のなかで見た、刀耶君や今も病院で治療を受けている人達に薬を渡した張本人だった。
「はじめまして。私の名前はドラッグ。あなたを倒しに来ました」
丁寧に挨拶をしたドラッグに、突然上から矢が降ってきた。しかし、男性は避けることなく、代わりに植物の葉が屋根のように攻撃を受けた。
「挨拶もできない馬鹿がいるようですね?」
「ごめんねー。今までコソコソ隠れてた奴の顔を見られて嬉しくてさ!」
ドラッグの顔がピクリと動いたのがわかった。
「私はガイア。あなたもあの島からきたのか?」
「その通りです。リガース様の右腕である私が、直々にやって来たのです」
「その割には、出てくるのが早くない?」
ヘルメスの言葉にまた、ドラッグの顔が動いた。
「パワードが倒されたからか?」
「あれで倒したと思っているんですか?」
「どういう意味だ」
「あいつならピンピンしてますよ。リガース様のお力もあってね。アダムがいらない事をしなければ死んでいたんですがね……」
まさか、倒せていなかったとは……。
「リガースとはいったい何者なんだ」
「様をつけてください。まぁ教えてあげましょう。リガース様は、あなたが封印しようとした人類の意思そのもの。そして、あの時の地球を取り戻すために立ち上がった救世主なのです」
「あなたやパワードは……」
「私達はリガース様から生み出された存在。以前の地球で罪と呼ばれたもの達の魂が具現化した姿」
「しかし、あの世界を生きたものなら、あの時の地球がどんな状態かわかっているはずだ」
「わかりませんねぇ。少なくとも私は、幸せに暮らしていましたよ?薬を売り、人々を快楽へと誘う。人助けをしていたんですよ」
「兄さん、こいつらと話しても無駄だよ!それより、後ろのやつを見て!」
話に気をとられていたが、ドラッグの後ろの植物が先程から大きくなっていた。
「勘のいいロボットは嫌いですよ?」
「残念!僕も兄さんと同じ、正義の心を持った命だから、悪党のやることには敏感なんだよね」
ここで初めてドラッグが嫌な顔をした。
「いちいち五月蝿いハエですね……!!」
ドラッグがヘルメスのほうに指を向けた。
「落ちてなさい!」
すると、指が一瞬のうちにヘルメスの方へと向かっていき、足に絡み付いたと思ったら、地面に叩きつけていた。
「ヘルメス!!」
「さて、これで外野は消えましたね」
すると今度は、光の矢が後ろから飛んできて、ドラッグの頬をかすめた。
「誰が外野だって?僕を舐めないでもらえる?」
頬から流れたのは緑色の血だった。ドラッグはそれを親指で丁寧に拭いとり、ペロリと舐めた。
「あぁ、イライラしますねぇ……。せっかくリガース様からもらった薬が、流れてしまうじゃないですか……」
「あの薬なら、もう解毒薬を作ったから、もう配っても無駄だよ!」
「……そろそろ本気で殺しますよ?」
「やってみれば?」
ヘルメスは私にドラッグの隙を突いて欲しいのだろう。ガイアソードを止められた感触は、パワードと同じか、それ以上にも感じられた。それをヘルメスも感じ取ったのだろう。
「では、死んでくださいっ!!」
「今だ兄さん!」
「うぉおおおお!!!」
ドラッグが腕を伸ばした瞬間、私は立ち上がり剣を横凪ぎに払った。ドラッグは反応できないはずだ。
ザクッと植物を斬る感覚が伝わってきた。あとは振り切るだけだった。
「……なんだとっ!」
剣がそれ以上通らない。まるで鋼を切っているような感じがする。そして、横からドラッグの声が聞こえた。
「機械人形ぉ?駄目ですねぇ不意打ちなんて。でも、踏み込みが足りてませんよぉ。さっきくらいなら斬れていましたけどねぇ?」
不適に笑うドラッグは、小さな手で私の腕を掴むと、軽々と体を吹き飛ばした。
「兄さん!」
「大丈夫だ……!!」
「ハハハハハ!!!無様ですねぇ機械人形!!ついでに上を見てください?」
視線を上に移すと、植物の先に、大きな蕾が出来ているのが見えた。
「あれ、どうなるんでしょうね?」
今まで以上に上がった口角に、私の嫌な予感が警報を鳴らした。
「ヘルメス、いくぞ!!」
「わかった!」
私は地面を走り、ヘルメスは空を飛び、植物に向かった。ヘルメスが大量の矢を放つ。それをドラッグは虫でも払うかのように軽く手を振って弾いた。それでもヘルメスは矢を放ち続ける。私の攻撃をサポートするために。
「はぁああああ!!!」
「同じ攻撃しかできないんですか?」
私の攻撃は、またもドラッグに止められてしまった。しかも今度は鋼鉄を叩いたように、こちらの腕が震えるような感覚があった。
「頭を使ってください……」
再び私は吹き飛ばされてしまう、その直前のヘルメスの攻撃も止められていた。
「もう終わりですか?では、ゆっくり見ていてください。あの花が咲く様子を!」
突然地面が揺れ始めた。今の地球で地震が起こるのは珍しいのに。
ドラッグの顔に笑みが見えた。
「さぁ、咲くのです!そしてこの世界をまた、快楽の溢れる世界に戻しましょう!」
大きな蕾が、中に入っていた花粉を周囲に撒き散らしながら、どんよりとした黒い空に赤い傘を開いた。揺れも強さを増していく。
「さぁ動きなさい!」
植物は、地割れとともに根が這い出てきいて、大きく横に揺れながら地上に自立した。そして、空を見上げていた花をゆっくりとこちらに向けてきた。
「さぁ、どうしますか機械人形?うーーんいい匂いだ!」
ドラッグは舞い降りる花粉を息一杯吸い込んでいた。
「こうなったら……!」
ヘルメスが空中で何かを操作している。
「ヘルメス、何かあるのか!?」
「うん。でも少し時間が掛かるんだ!それまで時間を稼がないと!」
「わかった!」
さすがヘルメス。それに比べて私は何もできていないじゃないか。兄として、弟の手本になるような存在になれと、いつも博士から言われていたのに。
「聞いたな烈、いくぞ!」
「おう!」
「刀耶のサポートよろしくね!」
「わかった!」
そして私が動き出そうとしたとき、不意に視界の端に影が見えた。烈も気付いたようで、私の体を少し引っ張ってくれた。
「ガイア!」
「ありがとう烈。私も確認した」
そこには逃げ遅れた人達が、こちらに向かって走ってきていた。
「まずは、人々の避難が最優先だ!青山さん、お願いします!」
すると、今度は建物の間から、アースベースの隊員達が現れた。これで人々の避難は進むだろう。
「さぁ、いくぞ!」
「兄さん待って、下!!」
ヘルメスが言ってくれなければ大変なことになっていた。有ろう事か、避難してきた人達が私の足にしがみついていたのだ。
「やめてください、早く避難を!!」
見ると、アースベースの隊員達も私の足にしがみついている。何かがおかしい。
「ハハハハハ!!!効いてきた効いてきた!!」
向こうでドラッグが高笑いをしていた。
「みんなに何をした!」
「簡単ですよ。この花粉です」
私の体にも、黄色いものが付着していた。
「この花粉は特製でしてね。意識に入り込んで、体の自由を奪うんです。そして私がこの植物を使って操っているんですねぇ。ハハハハハ!!」
「卑怯な!」
「何が卑怯なものですか?頭を使ったと言って欲しいですね。それに、これを防げなかったのは、あなた達のせいなんですよ?」
ドラッグの言う通りだ。私にもっと人々を守れる力があれば。
「いい様ですねぇ?」
いつの間にかドラッグが目の前まで来ていた。
「兄さんから離れろ!」
弓をつがえたヘルメスに、ドラッグは下を指差した。
「いいんですか?外せば人間に当たりますよ?」
「くっ!!」
「分かればいいんですよ。ハエより進化しましたね。さて、機械人形。どうですか?人間に裏切られた気分は?」
ドラッグは、私の目をじっと見て言った。
「さっきあなたは、この人たちを操っていると言った。だったらこれは、この人たちの意思ではない」
「本当にそうでしょうか?この人間達は今、夢を見ているんです。とびっきりの悪夢を。そして、あなたにすがり付いているのです」
「私に助けを求めているんだ」
「いいえ。あなたを恨んでいるんです。どうしてこんな事になってるんだ。どうして自分がこんな目に合わなければならないんだと夢の中で思っているんです。人間は嫌なことが起きると、必ず犯人を探す。他人を悪く言って、自分が被害者であると証明したがる。そして今、あなたはこの人間達に犯人にされ、罪を償えと言われているのです」
「そんな筈はない」
そう。獅子神長官やアースベースのみんなも言ってくれた。私がやったことは正しかったと。そして、今の地球で生きる人類が、例え私のやった事をわかっていなかったとしても、今まで平和に暮らしてきた事が、私に対しての答えだと思っていたい!
「では、あなたにも人間達の気持ちを体験してもらいましょう。これからあなたには、この人間達よりキツイ花粉を浴びてもらいます。今の花粉は効かないみたいですしね。それに勝てたら、私は帰ります。負けたら私の勝ち。粉々にして、リガース様のもとに連れていきます」
「わかった」
「兄さん!!」
「大丈夫だ。私の心には、ヘルメスや博士の思いのほかに、アースベースのみんなの気持ちがあるんだ。絶対に屈したりしない。それよりヘルメスは、足下にいる人達の洗脳を解いて、避難させる方法を考えてくれ」
「おぉ、余裕ですねぇ?」
「私の心はそんな簡単には砕けない!」
「その威勢もいつまで保つやら。では、いきますよぉ」
ドラッグが私の顔の前に立った。
「お休みなさい機械人形。もう目覚めることはないでしょうが、その時は夢の中でいつまでも平和ボケした地球で遊んでいてください!!」
植物が上の方で私の体全体を包むように、花粉を落としてきた。花粉は瞬く間に体の隙間に入り、GAーXの格納庫に侵入。そして、私の体へと入り込んできた。
「ガイア!」
レプリカの体だと言っても、だんだんと意識が遠くなるのがわかった。烈の意識は寸前で切り離すことに成功したから大丈夫だ。あとは、私自身が、この花粉に耐えるだけだ。大丈夫。私にはみんなと築いてきた思い出があるんだから。
そして私は、暗い夢の中に落ちていった。




