第24話 原点
彼女の前で、ひとまず話を締めくくったそのはずだったのだが。俺は少しだけ視線を泳がせ、言葉を選ぶように口を開く。
「それでさ、アルシェリアとはどう仲良くなったらいいと思う?」
その言葉に、彼女は一瞬きょとんと目を丸くしすぐに「あ~」と小さく声を漏らした。そう言えば俺が友人作りを苦手としていることに……。
「そういえばレオって、意外と人見知りだよね。あんなに啖呵を切れるのに」
なんていいながら、納得したように頷く。肯定されるのは嬉しくないんだけどね……。
だって、仕方ないだろう。前世を含めても、「友人」と呼べる存在なんて、目の前の少女くらいのものだ。それだって、親同士の婚約話という"きっかけ"があったからこそ、話すことができたわけで……。
後ろに控える、彼女たちもまた、俺が一応は、主人という扱いになるからこそ、話しかけることが出来ている。そういったきっかけがあってこそ、話せるし……。なにより
「アルシェリアって反応が薄いから、なんに興味を持っているかもわからなくて。正直、どう話しかけたらいいのか困ってる」
男性の気持ちすら理解できないのだ。当然、女の子の気持ちを理解することは難しい。それでも、好きなことなら、少しは話せるかなと感じたのだ。
素直な気持ちを伝えると、彼女は少し目尻を下げて、優しく微笑む。
「うん。相変わらずレオはまず相手を知ろうとしてくれるんだね」
なんて嬉しそうな声で告げる。それが少し気恥ずかしい。
「アルシェリアさんは魔法に興味があるんだと思うよ。よく学校の図書館にいるし、授業も誰よりも真面目に受けている」
そう言われて、今日一日彼女と接したことを思い返す。そういえば、授業中もずっと前を見ていた。ノートの端には気になる考察などをまとめていて、実技でも先生に言われていた課題をこなした上で、アレンジまでしようとした。
でも、それを知っているということはセレフィもまた、アルシェリアを気にかけていた証拠で、少し嬉しい。思いやりに溢れるところが変わっていないから。少し安心もする。
セレフィは口角を上げながら続ける。
「彼女は凄いんだよ、どんどん実力が上がっていくの!」
楽しそうに声を弾ませながら、話す。
「クラスに入ってきた当初は、一番下だった。でも、でも今は違う。クラスでも上位に食い込むほどに、彼女は成長している。ほんと一年間ずっと自分のために鍛錬を積み重ねていたんじゃないかっていうほどにね」
セレフィ自身もまた、努力によって強くなってきた側の人間だ。最初は魔力があっても、上手く魔法を使えなくて、恥さらしだと言われたほどだった。そんな彼女は誰よりも努力して、今では同世代敵なしの存在へと強くなった。
そんな彼女だからこそ、アルシェリアの努力を肌で感じられて、共感できるからこそ、嬉しいんだろう。
そんな風に、誰かの気持ちを察することができて、努力家な君だからこそ、俺は好きなんだろうな。ふと、漏れた本心に自分でも驚く。今もなお、彼女が好きだという気持ちに。
彼女は少し視線を落としながら続ける。
「でもきっとそれは、誰かに認めてもらいたいからなんだよ。私も、ある人に認めてもらいたくて、努力してるんだもん」
真っすぐに前を力強く見つめる彼女は俺の目を捉えて離さなかった。だから、勘違いしそうになる。それが俺だったらいいのにって。でも違う。彼女が認めてもらいたかったのは両親だと、出会った時に知っているんだから。
おかげで今は、両親とも仲が良いと知っている。まぁ、外部から見ていた俺としては、虐げていた時期を知っているからこそ、少し複雑なんだけどね。
「それはきっと、両親とか、メイドなどの近しい存在なんじゃないかな」
彼女の両親や俺が母の様に慕うエレナの様に、アルシェリアにもまた、認めてもらいたい相手がいるんだろう。だとしたら、彼女に興味を持ってもらうなら。
「だとしたら、彼女に魔導書をプレゼントするとか?」
「ふふっ……それもあるけれど、一番適任なことがあるじゃん」
「……?」
思わず首を傾げると、彼女は手元に拳を持って来て、くすくすと笑う。
「レオが魔法を教えてあげればいいんだよ、私に教えてくれたようにね」
まぁ、少し妬けちゃうけど……なんて、セレフィは呟いていた。そんな言葉を耳の端で聞く中、思わず天啓が舞い降りたように前が輝いて見えた。
思えばそうだ、最初に彼女が興味を示してくれたのだって、魔法を使った時だ。次もそう、俺と王子の言い争いに一切反応をしないのに、魔法を使った時は興味を持ってくれた。
「ありがとう、セレフィ! それだよ!!」
思わず、興奮して、机に手を突いて、彼女に迫る。彼女の瞳に映る自分の姿は、爛々と目を輝かせて、こらえきれない程の笑みを浮かべていた。
セレフィは驚いたように目を瞬かせると、今度は恥ずかしがるように目を少し縮こま背る。胸のあたりに両手を汲んで、足もぎゅっと内側に閉める。おさまりが少し悪いのか、足の位置を探りながら入れ替え、太ももが擦り合わされる姿が確認される。
「ち……ちかいよ、レオ」
なんて頬を赤く染めて、上目遣いで見つめてくる。ソファに彼女を押し倒したような一場面が完成してしまい。なんというか、今にも俺が襲いかかっているような状況になってしまった。
セレフィの後ろに控えるメイドの視線が鋭くなる。目を細めて、スカートを弄っているのは、武器か何かを取り出そうとしているからだろう。その反応に俺も慌てて弁解する。
「ごめん! ちょっと興奮した」
「ほんとだよ、そういうのは……心臓に悪い」
か細くなる声に、俺自身も反省する。いくら友人関係とはいえ、迫られるのは怖いよなと、少し肩を落とす。
「ちがっ……悪い意味じゃなくて、むしろ、ドキドキしたっていうか……いや、違くて……その……」
なんてセレフィがどう言葉にするか迷っていた。だからかな、嫌われているとか、そういうわけじゃないと分かって、嬉しくなる。ほんと単純だな、俺も。なんて、思わず表情を緩める。
少女の焦る姿が可愛らしくて、微笑ましい。それが俺を傷つけないためだと分かって、嬉しい。
「いつも、ありがとう。セレフィ」
先程まで慌てふためいていた彼女も、驚いたように俺の方を目を瞬かせながら見つめる。
「……どうしたの、急に」
「ううん。いつも助けてくれるからそのお礼」
思えば俺が最初に求められている実感をくれたのも彼女だった。魔法が上手に使えるようになった時の、嬉しいそうな笑顔。太陽の様に眩しく、真っ白な歯を見せつけるようにニカッと笑う姿に俺は救われた。
そんな、誰かに感謝されて、必要とされたと思った。最初の出来事が彼女で、俺の原点だと思う。
「それを言うなら、私もだと思うな、あの時、レオが妹より魔法が不得手な私を婚約者に選んでくれた。だから、今があるんだよ。ありがと」
それに少し照れ臭くなると同時に、やはり罪悪感もある。俺は目の前の少女一人と寄り添う人生よりも、傍にいる二人のような少女たちを救うと決めたのだから。あの時に、雨に打たれながら、ひっそりと泣いていた姿を思い出し、少し唇を噛んでしまう。
セレフィはそんな俺の気持ちを察したのか、弾んだ声で告げる。
「レオが次にすることは彼女に魔法を教えて話しかけること、そして、笑顔にする。そうでしょ?」
俺の覚悟を再度問うような言葉に力強く頷く。
「うん!その通りだ」
互いに割り切って、今がある。今も俺と関わってくれている。だから、それに感謝して俺は前に進むのだ。そう決意を固める。




