第三十三話「理由」
祭ちゃん、リュウ、ミケちゃんにはしっかりとお礼を言って送還した。
そして、“山羊座”に牛車を引っ張ってもらいながら、急いで悪路王さんたちと合流する。
悪路王さんたちの後に続き、歩いていると……徐々にしっかりとした門が見えてきた。
遠目で見ても頑丈そうだったけど……近付くにつれて、そう見えた理由が分かった。
この門、鉄が使用されてるね。総鉄製ではないみたいだけど……木製の門を鉄で補強してあるみたい。さすがは鍛冶が得意な鬼人族だね。
多分、里の近くに鉱山があるのかな?この世界は伊邪那美命様が創った世界だからか、あちこちに有用な植物も多かったし、ここにも都合のいい鉱物を産出する鉱山があるんだろうなぁ……
紅葉さんが、門番の人に声をかける。
「おぅ、戻ったぞ。この人達は、あたいたちの客人――火力を取り戻してくれた恩人様って言った方が分かりやすいか?通らせてもらうぞ」
「姉御、兄貴、お疲れ様です!そして恩人殿!歓迎いたします。ようこそ、鬼人族の里“鉄火”へ!」
「兄貴は止めてよ……ご苦労さま」
「おぅ、お疲れ。あと姉御は止めろ」
二人は敬称が不服なのか、文句を言いつつ門を抜けていく。私たちも続いて通ろうとすると――
「恩人様、遠目でだけど見てましたぜ。あのお二人相手に善戦するとは、すげぇじゃないですかい!それと……火車様の件、ありがとうごぜぇやした!」
門番さんから声をかけられ、握手を求められたので、握手する。
「あはは……悪路王さんも紅葉さんも手加減してくれてましたし……それに、火車ちゃんの件はどういたしまして。お役に立てたようで良かったです」
鍛冶が得意な種族なのに、紅葉さんは素手、悪路王さんは木刀で戦ってたからね……武器的な意味では、しっかり手加減してくれていたはず。
軽く頭を下げ、門を潜る。
すると目に入ってきたのは、間の宿と同様、急勾配の茅葺き屋根が目立つ、合掌造りの家々。
薄暗くなってきた景色が、その家々から漏れる明かりによって、ぼんやりと照らされていて――その明かりが空から舞い落ちる雪に反射して、ちらちらと光る風景はひどく幻想的だ。
そして、この里は山の麓に作られた里のようだ。
奥に進むにつれ、段々と土地が高くなっていて……私たちの進行方向には、山の上に続く石段が見えている。石段の上方に目を向けると真っ赤な鳥居が見えた。もしかしたら、あそこが神託巫女が座している社なのかもしれない。
あそこが目的地だったら……牛車はどうすれば良いんだろうか……
「もしかして、あの石段の上が目的地ですか?」
「おぅ、そうだぞ。よく分かったな。まぁ、どこの里でも神託巫女は社に住んでるからね……分かりやすいか」
「そうですね。あそこで、僕たちの娘である“巴”が待っています。ミコト様と似たような年齢ですから、是非仲良くしていただきたい」
巴?聞いていた神託巫女の名前と違うような……
「すみません、神託巫女は“鈴鹿”って人が務めているってお聞きしていたのですが……代替わりされたんですか?」
「あぁ、この里の神託巫女は襲名制なんですよ。 “鈴鹿”は、鬼人が発生した最初の世代にいた女性の名で……神通力を持っていたと言われています。その女性に率いられて生き残った妖怪なので、この里の中で最も強い女性であり――神託巫女でもある者が、尊敬も込めて代々“鈴鹿”を襲名するかたちとなっているのです」
「へぇ、そうだったんですね!」
そういう歴史があったんだ。
「ちなみに、先代“鈴鹿”があたいだね。今は巴にその名を譲って、禰宜として巴を鍛えているところさ。“鈴鹿”を譲りはしたけど……でも、負けてらんねぇ」
「紅葉は負けず嫌いだもんね。おっと……すみません、言葉遣いが乱れました」
悪路王さんの喋り方はそっちが、素なのかな?
「別に今の喋り方でも問題ありませんよ。喋りやすい方でお願いします!」
お二人とも見た目は若いけど、だいぶ歳上だろうからね。
そして……色々とお話しているうちに、石段の前に辿り着いていた。
「それなら……普通に喋らせてもらおうかな?」
「えぇ、それでお願いします。それと……牛車はどうしましょう?さすがに、上までは持っていけないので……」
というか、雪の降る地域でそこら辺に置いておくのは無理だよね。
マジでどうしよう……
「あぁ、それならあたいが上まで担いで行ってやるよ。社周りは神域に近い状態になっているから、雪の心配もねぇしな。何故か、社周りは雪が積もらねぇんだ」
「え!?牛車って担げるものなんですか!?」
しかも……牛車を担ぎながら、この急な石段を登れるの!?
「あはは、これは紅葉だからこそ、だよ。僕は無理だね」
「ったく……悪路もやろうと思えばやれるだろ」
「いやいや、僕は力はほどほどにしか鍛えなかったからね。ここは紅葉に譲るよ」
悪路王さんは飄々とした態度で、重労働を紅葉さんに押し付けていた。まぁ……鬼人族は女性の方が膂力が強い種族らしいからね……。
紅葉さんが牛車の下に潜り込んだので、ヘレネには“山羊座”を解除してもらった。
牛車の中にいたシロが、こちらに避難してきたので、すかさず抱っこする。暖かい。
「まぁ、良いけどよ……よっとぉ!」
……すごいな紅葉さん……普通に担いでいる……
私だったら、ぺっちゃんこ、というか持ち上げることすらできないか。
「すみません、ありがとうございます!」
「良いって良いって。さぁ、行くよ」
「紅葉、頑張れー!」
「オマエ喧嘩売ってるだろ、悪路よぉ」
仲良いな、この二人。
二人は和気藹々としながら、雪が所々に積もった急な石段を普通に登っていってる……
私の運動神経で行けるか?これ。どこかで滑落する可能性大だぞ!
「……ヘレネちゃん、手を繋ごうか。ちょっと手が冷たくて、寒さが身に染みてね。先導してくれたら助かる」
「素直に滑り落ちそうだから手を引いて欲しいと言いなさい」
「まぁ、それが正解だと思うにゃ。正直、ミコトが一人で登っているとハラハラするにゃ……」
「きゅきゅっ」
シロまで頷いてるし……
一人で階段登るだけでハラハラされるとか、赤ちゃんなのかな?私は。
その扱いには若干納得がいかないけど……手を引いてもらえるのは正直助かる。
ヘレネに介助されながら、私たちはゆっくり石段を登って行った。
*
石段を登りきった。百段以上あったっぽくて思いのほか体力を消耗した……
それと、意外とどこかで滑ることもなく登れてしまった。ヘレネちゃんに手を引いてもらったから、というのもあるけど、一番の理由は草履だ。
巫女服と同様、この草履もイザナミ様からの賜り物だからね。多分、歩きにくい道とかも普通に歩けるようになる機能がついているっぽい。大変助かる。
石段を登りきった先は石畳になっていて、それが社まで続いている。
そして、紅葉さんの言うとおり、不思議とここには雪が積もっていない。気温は変わらないように感じるのにね。
「……とりあえず、社の脇辺りにでも置いておくよ、っと」
紅葉さんはそう言って、牛車を下ろした。
息ひとつ乱していない様子をみるに、牛車を担ぐことは全く問題ではなかったみたい。
鬼人族ってすごい。素直にそう思った。
「じゃあ、遠慮なく上がって。紅葉もご苦労さま」
「はぁ……まぁ良いか。ミコト様、こっちだよ。ついてきてくれ」
入り口で履物を脱ぎ、にゃっぴーとシロの足を布で拭ってからお邪魔する。
やっぱり、ここでも神託巫女は奥の間にいるみたい。悪路王さん達についてどんどん奥の方に進んで行く。
「ここだ。巴、帰ったぞ」
「巴、ただいま。客人をお連れしたよ。……説明をお願い。このままだと僕たちは、客人に急に襲いかかった野蛮な種族だと思われるから……」
それはそう。
いや、イザナミ様が要らないこと言ったんだろうけど。
奥の間に入ると……十代後半から二十代前半くらいの見た目の女性が正座で待ち構えていた。
二本の細い角が生えているのは他の女性鬼人と同様。
髪色は紅葉さん譲りの鮮やかな紅色で、一房だけメッシュのように黒色が差している。黒色は悪路王さん譲りの部分かな。髪の長さはロングで頭の高いところで結っているポニーテール。
顔は悪路王さんに似たのか大変顔面偏差値が高く、穏やかそうな顔付き。座っているから分かりづらいけど、身長は百七十センチメートルくらいかな?
服装は当然、巫女服。
「お母様、お父様、ありがとうございました。そちらが……ミコト様、ですね?」
私に真っ直ぐな視線が向けられる。
「どうも、初めまして。“比良坂 命”です。ミコトと呼んでください」
そのまま続けて、にゃっぴー、ヘレネ、シロを順に紹介する。
「皆様、よろしくお願いいたします。わたくしは巴……いえ、当代“鈴鹿”と申します。如何様にもお呼びくださいませ」
「うん、じゃあ歳も近いみたいだし……巴ちゃんで。よろしく!私もミコトちゃんで大丈夫だよ!」
歳が近いということもあって、何となく仲良くなれそうだったので、早速距離を詰めてみた。
巴ちゃんは目を白黒させている。
……急すぎたかな?
「ふふっ……さすがに神様がお招きになった方をちゃん付けは難しいです。ですが、わたくしのことは巴ちゃんで大丈夫ですの」
「えぇ〜別にちゃん付けで構わないのに……まぁ、慣れてきたら、ちゃん付けで大丈夫ってことで!ところで巴ちゃん、めちゃくちゃ綺麗なお顔だけど、お化粧とかしてる?してるならお化粧道具をお借りしたいなーって」
「……どういう距離の詰め方してるにゃ……」
「ミコト、恥ずかしいから止めなさい。それと、化粧より先に聞かなければならないことがあるでしょう」
……お化粧のことも大事なんだけどね?切実に。
何故なら……霧凪地方で結構な紫外線を浴びたみたいで、日焼けしちゃったから。昼間はなるべく外に出ないようにしてたのに……!
なんで異世界には日焼け止めがないんだ!
「ミコト様は楽しいお方のようですね。ちなみにお化粧はしておりませんが……比較的、“秋瑞”と近い位置に里がある関係で、少量ですがお化粧品も入ってきますよ」
その綺麗なお顔でお化粧なし……
私は一瞬愕然としたけど……この里、というか“秋瑞”はお化粧が盛んなのか。ようやくベースメイクにもありつけるんだ。良かった……!
「では、改めまして……ミコト様、母と父が失礼いたしました。何故、そういった次第になったのか結論からお話いたしましょう。
伊邪那美命様からのご依頼で、ミコト様たちの戦闘能力を測らせていただくため、だったのです。
もちろん模擬戦で、ということも可能ではありましたが……いきなり襲われる、という実戦形式の方が、本来の力を測ることができるから、と神様が仰いまして……
そして、何故急にミコト様たちの戦闘能力を測る必要があったかというと……とうとう、五行妖怪で“土”を司っておられる“土蜘蛛”様が凶暴化なさいました。今までは何とか正気を保っておられましたが、“澱み”に耐えられず……。ですので、ミコト様方が凶暴化した土蜘蛛様と対峙なさる前に、戦闘能力を測っておきたいとのことで……」
五行妖怪が!?
水を司るリュウが、海全体の水を掻き回すほどの力を見せてくれたのは、記憶に新しい。
そんな規格外の力を持った妖怪が凶暴化……。
思わず喉を鳴らしてしまう。
「それは……大丈夫なの?早く“澱み”を祓わないと大変なことになるんじゃ……!」
のんびりしている場合ではない。
早く、向かわないと!
思わず私が立ち上がろうとすると……
「ミコト様、落ち着いてくださいませ。土蜘蛛様は特殊な経歴を持っておられるので、“自身の縄張りの外には関心が向かうことはないだろう”と、神託が下りました。わたくしも詳しくは存じ上げないのですが……土蜘蛛様は元々は人間で、土地を追われた者である、と伺ったことがあります。ですので、現在お住まいになられている土地に執着を持っていらっしゃるのかと……おそらくそういった理由から、縄張りに侵入しない限りは実害がでない、と推測されます」
そういうこと……それがイザナミ様の見立てであれば、ひとまず安心、なのかな……。
巴ちゃんはそのまま言葉を続けた。
「そして、これが最も有力な、問題が無いと思われる理由なのですが……そもそも周りに被害を及ぼす考えになっておられるのなら、既にわたくしたちが立っているこの“陸地の全て”に、何かしらの被害が出ているはずです。例えば、全ての“土”に影響が出て……草木は枯れ、作物も実らず、大地が腐り果てる……そういう死の大地になっている可能性も……」
そこまで聞いて、背筋に冷たいものが走った。
それは……最終的に、陸地に住んでいる全ての生物が死に絶えるってことだ。
「それからもう一つ、問題がないであろう理由がございます。もし、土蜘蛛様がそういった凶行に及ぼうとされたら……“玉藻”様が動かれます。そうなると、土蜘蛛様が殺されてしまうので……色々と問題も起こってくるのですが……」
玉藻?確か、妖狐族の神託巫女の名前だったはず……だけど――五行妖怪を殺せる?
「ねぇ、巴ちゃん。少し良いかな?私、少し前にリュウ――蛟の凄さを目の当たりにする機会があったんだ。海全体の水を掻き回す、っていうね。そんなことができる力を持った五行妖怪を殺すなんて……玉藻さんって何者なの?」
「玉藻様は、“九尾の狐”という数千年は生きておられる大妖怪です。その格は上位“半神級”。ダイダラボッチ様と同格である、と」
九尾の狐!?妖怪とかに詳しくない人でも知ってる伝説の妖怪じゃん!そして、ダイダラボッチと同等の格。上位半神級……か。
「巴ちゃん、質問ばっかりで申し訳ないのだけど……上位半神級ってなに?例えば五行妖怪にも、そういう何かしらの格があったりするの?」
「そういえば、ミコト様はこちらの出身ではございませんでしたね。この箱庭世界といいますか、妖怪の間では強さの階級、存在としての格というものに、だいたいの目安があります。上から順に神級、半神級、精霊級、妖魔級、妖怪級と言います。また、各階級には上位と下位があり……神級のみ最上位に位置する主神級という格が存在します。ちなみに伊邪那美命様は主神級です。そして、ミコト様の質問にあった五行妖怪様方は、上位精霊級となっています」
あれだけの能力を持っていても……格的には真ん中辺りなのか……
その時、何故か巴ちゃんが目を瞬かせ、「はい……かしこまりました……お伝えいたします」と呟いた。どうしたんだろ?神託でも下りたのかな?
「……神託が下りました。わたくしたちやミコト様方の階級も参考のために伝えよ、とのことです。
では、まずわたくしたちから。母の紅葉とわたくしは上位妖魔級、父の悪路王も格的には上位妖魔級ですが、戦闘能力は下位精霊級です。
次にミコト様方。にゃっぴー様、ヘレネ様は上位妖魔級、祭様も父と同じく格は上位妖魔級でありながら、戦闘能力は下位精霊級、そして、ミコト様は……はい……いえ、しかし……」
「祭ちゃん、そんな強かったんにゃ……」
「悪路王さんと互角に戦っていましたからね」
やっぱり現実にも効果を及ぼす幻術使いってなると、そのくらいの格になるのかもね。
それから、今のでにゃっぴーの能力“猫にもなれば虎にもなる”でいう“虎級”の目安も分かった。上位妖魔級以上は全て“虎級”換算みたいだね。
そして、また神託が下りてるっぽい。
まぁ、言われずとも私は大体この辺だろうな、ってのは分かってるんだ。
下位妖怪級かな?良くて上位妖怪級くらい?
「ミコト様は……あの……たった今、神様が新設された階級に、いらっしゃるようで……」
「新設」
サモニャーで色んな階級の子を召喚できるもんね……確かに階級を判断しづらいか……
「その……ミコト様の戦闘力は……妖怪級のさらに下、猫級……それも、下位猫級である、と……」
「下位猫級!?」
私は思わず目をむいてしまった。
なんだ猫級って!しかも下位ってどういうことだ!
「……それは例えるのなら、どのくらいの強さなの……?」
「……そこらにいる野良猫さんと本気で戦って……相討ちになる程度、だそうです……」
「猫さんと相討ち」
それは果たして……成人女性の戦闘能力として正常なのだろうか?どれだけ体重差があると思ってるんだ!
ふと、にゃっぴーたちを見ると……俯いて肩を震わせていた。
おい、何がおかしい。
大変なのは護衛するにゃっぴーたちなんだぞ!
「ミコト様、気を落とすことはありませんの!ミコト様のサモニャーとしての格は上位妖魔級であるみたいです。ただ……戦闘能力だけを見ると、下位猫級……らしいです。基本的には格と戦闘能力は比例しており、多少の差がある場合もあるのですが……なんでそこまで差がありますの?」
巴ちゃんは首を傾げた。
……多分、それがサモニャーということなんだろう。本人自体の戦闘能力は低いままで、召喚できる子達次第で格は上がっていく、と。
理屈は何となく分かった。納得しよう。
そこで巴ちゃんが「んんっ!」と咳払いを一つ。
「……では話を戻しましょう。格だけで見ると、ミコト様方は土蜘蛛様と対峙するのは厳しいですが……ミコト様は五行妖怪様方を召喚できます。お母様、お父様、実際に戦われてみて、如何でしたか?」
「そうだなぁ……ミコト様の召喚能力まで含めると、おそらく対処は可能だとは思う。だけど……要となる三人、ミコト様、にゃっぴーさん、ヘレネさんは、もう少し戦いを学んだ方が良いと思うぞ。戦いに慣れていないのが丸分かりだったからな。簡単に分断できたし」
「そうだね。紅葉の言う通り“おそらく”と言わざるを得ないところがあるね。その“おそらく”の部分をどうにかするため、ミコト様たちには少しの間“鉄火”に留まっていただいて……修行をしていただきたいと思ってる」
「……身体を持ったのも、戦闘を経験したのも、この世界が初めてだったからにゃ……甘いと言われればその通りだと思うにゃ……」
「身体操作や咄嗟の時の判断も含めて、経験不足は否めませんね……」
にゃっぴーにヘレネちゃんもだけど……平和な日本で“戦う方法”とか検索してもらったことはないからね。そういった情報はインプットされていなかったはずだ。
それに……私自身もそういった経験がないからね。
だから、修行……か。多分、悪路王さんたちに鍛えてもらえるってことだよね?
だけど……
「でも、ダイダラボッチの再封印が解けるまでの猶予はそんなになかったよね……?それが気になって、ここまで早足で旅をしてきたんだ」
「ミコト様、そこに関してですが……神様の見立てで持って一年、とのことでした。少し余裕をみて十ヶ月を目処にしたとして……再封印から現在まで、どのくらいの月日が経っておりますでしょうか?」
うん……?確か……私が意識不明になった日には、祭ちゃんによる幻術結界が使われて……そこから近日中には、妖狐族から派遣された禰宜職によって、より強固な封印が完成したって感じだったよね?そこから、私が目覚めるまで三十一日でしょ?
それから――
「二ヶ月と少し、くらいだね……」
「ミコト様はたった二ヶ月――いえ、意識が戻られてから一ヶ月半ほどで、五行妖怪様二人の“澱み”を祓い、さらにはここ“鉄火”に辿り着き、三人目の五行妖怪様をも目前にしておられるのです。ミコト様が急いでくださったおかげで、十分な時間があるのです。それと、これは神託によって明らかになったのですが……さらに封印期間に猶予が生まれているとのことです」
「え?なんで……?」
誰か新しい対策を思いついたとか?
「無自覚なところもミコト様らしいですの。ダイダラボッチ様の次に“澱み”を受け止めていたのは、どなたでしたでしょうか?」
「誰って……五行妖怪――」
あっ――!!
「そうですの。蛟様と火車様が復帰なされたことで、“澱み”を受け止めることができる存在が増えております。それによって、ダイダラボッチ様に流れ込む“澱み”の総量も減っておりまして……封印期間に猶予が生まれているのです。それに伴って蛟様と火車様には再び“澱み”が溜まってしまう危険性もありますが……ミコト様方なら、召喚して再浄化も可能でしょう?」
そうだ……仮に“リュウ”と“ミケ”ちゃんに再び“澱み”が溜まり過ぎたとしても――今なら召喚して、その場での浄化が可能だ。今のところはそういった予兆は見られないけど……もし何かあれば、念話で伝えてくれるはず。
「そっか……私たちのやってきたことは――しっかりと実を結んでいたんだね……」
「ミコト様。確かに時間に制限は存在しておりますが……ミコト様方のおかげで、さらなる余裕が生まれているのです。この世界のために尽力していただき、大変有り難く存じますが……もう少し、ご自分を労わってくださいませ」
そうだね……少しは休息も必要か……。
私の急ぐ気持ちに付き合わせてしまった、にゃっぴーやヘレネちゃんにも相当な負担がかかっていたよね……。
それに……戦いの経験が不足してたのが原因で、にゃっぴーやヘレネちゃん、シロを失う可能性だってあるんだ。
休息や修業も含めて、“鉄火”でお世話になろう。
「うん、分かったよ。にゃっぴー、ヘレネちゃん、シロ。少しの間、“鉄火”に留まろうと思う。私が急ぎ過ぎていたよね……ここまで無理をさせて、ごめんなさい……」
「僕は、そこまで無理なペースだとは感じてなかったけどにゃ……改めて聞くと、そうだったのかもにゃ……一旦、“鉄火”に留まるにゃ」
「……そう、ですね。私もそこまで無理は感じていませんでしたが……これ以上無理をして、どこかで“詰む”わけにはいきません。ここでお世話になりましょう」
「きゅー……きゅきゅっ!」
にゃっぴーとヘレネちゃんにシロも同意してくれた。
改めて、みんなで巴ちゃんに向き合う。
「そういうことになったので、よろしくお願いします!」
「よろしくにゃ」
「よろしくお願いいたします」
「きゅきゅーきゅ」
しっかり頭を下げてお願いすると……巴ちゃんが慌てだした。
「ミコト様!頭をお上げくださいませ!こちらこそ、わたくしたちの世界のために尽力していただき、ありがとうございますの!」
「そうだぞ、ミコト様。本当なら、あたいたちだけで解決するのが筋ってもんだ!それを手伝うどころか、ほぼ独力で解決してもらってるんだ」
「ミコト様、頭を下げなければならないのは僕たちの方だから。……とはいえ、修行は甘くしないからね。そこは覚悟してもらうよ?」
うん……そこは……頑張ってみる、所存です。
「よし!話もまとまったな!いきなり戦って、重い話もあって疲れただろう?この社の中にも温泉があるんだ。飯の前に入りに行くよ!」
「温泉があるんですか!?」
「なんだい、他の里で聞いてなかったのかい?温泉で暖まる文化があったから、暖房が多少弱まってもそこまで問題にならなかったんだよ」
そう、紅葉さんが続けた。
そうか……そういう理由もあったんだ。
温泉……これは“鉄火”に留まらなければならない理由が増えたな!
私が興奮していると、いつも通り、にゃっぴーとヘレネちゃんがこそこそと話し合っていた。
「修業ってことで若干落ちていたミコトのテンションが、温泉って聞いて爆上げになったにゃ。ミコトのモチベ維持的に大変助かるにゃ」
「えぇ、本当に。……ミコトのモチベ維持が一番大変ですからね……」
おい、なんだその子どもに勉強させるために悩んでいる親みたいな反応は。
私は少し納得がいかなかったけど、すぐに温泉に意識を持っていかれた。
あぁ〜……楽しみだなぁ。どんな泉質なんだろう?
美肌で!美肌効果でお願いします!
私はどうでもいいことを神様に祈った――




