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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第三章 サトエニア共和国編
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32. 旅の始まり

 僕たち一行は、まずサトエニア共和国の首都モナッコを目指していた。  外国へ行く正式ルートを使うための査証パスポートを取得するためだ。  コインロード王国はサトエニア共和国の友好国であり査証発行自体は問題ないだろう。  この国へくるために山超えで不法入国している僕とアスナなのだが、フィリアさんが僕達の保証人になり自国民として扱ってもらえるだろう。 


 再度不法な山越えでコインロード国へ行く手段も考えないでもなかったが、色々と不都合があった。 

 まず第一に危険性の問題だ。 どうやら僕らは運が良かったらしい。 大物の魔物に遭遇する可能性もあったようだ。

 第二に人数の問題だ。 空間倉庫の存在を隠したままでの山越えは必要物資運搬の関係でほぼ無理と言わざるを得ない。 フィリアさんだけならば知っているので問題ないが、少人数での山越えは危ないので戦力的にある程度の人数が必要となる。 すると物資もかなり必要となり、さらにそれを運ぶ人員を確保しなければならなくて更に人数が増える。 結果かなりの大人数となってしまい、不法入国には適さない目立つ一行となってしまうのだ。

 第三にコインロード王国ではフィリアさん達が不法入国者になってしまうことだ。 バレなければ問題ないが、バレた場合のデメリットが大きすぎる。 フィリアさんは仮にもサトエニア共和国の冒険者組織のサブマスターなのだ。 友好国間とはいえ国際問題になりかねない。



 二時間ほど移動したところで一旦休息し、僕らは本格的に自己紹介を行った。 


「自己紹介しましょう~。 まずは私からね。 私の名前はフィリア、治療師でレベル123よ。 交渉事とかは任せて頂戴ね。 あと年齢とかは秘密だから聞いたら駄目だからね。 聞いたら漏れなくお仕置きだから気を付けてね。 あと冒険者ランクはBだからね」


「次は、俺スティンガだ。 アタッカーの位階レベル52で武器は剣と棒だ。 冒険者ランクはDだ。 まぁ冒険者としては中堅といったところだな。 STRが強いからとりあえず人力車を引いているが、疲れるから少し手分けをお願いしたいな」


「俺の番だな、俺はヴァイタリだよ。 ディフェンダー位階レベル53で、スティンガと行動をともにすることが多いな。 装備が重い関係とスティンガよりSTRが低いから人力車を引くのは少ししかできねえかな。 冒険者ランクはDだ」


 まぁわかる。 人力車なんて引きたくないよね。 強面(こわもて)なスティンガさんも、凄みのあるヴァイタリさんも、自己紹介は普通だったな。 最初の印象とは違って思ったよりも常識的な人達なのかもしれない。


「次はアスナちゃんお願いね」


「はい。 わたしはアスナですぅ 7才です。 本を読むのが好きで、何時もカイン兄さんに(いじ)められていますぅ。 みなさん助けてくださいね~」


 僕はスティンガさんとヴァイタリさんにちょっと睨まれてしまった。 フィリアさんはニヨニヨしている。

 こ、こいつ猫かぶりやがって! 僕をさらっとディスってやがる。 

 アスナお前、ある程度長い期間一緒に行動するんだから、絶対に本性バレるぞ! 

 無駄なことをするなよな!


「最後は、腹黒いカインちゃんね」


「はい。 腹黒いカ… 僕って腹黒くないです。 えっとカイン9才です。 スティンガさんやヴァイタリさんにもギルドで一度絡まれたことがあります。 よろしくお願いします」


「ちょっと貴方達、よりによってギルドの中でカインちゃんに絡んだの? 相変わらずしょうもないって言うか、度胸あるわねっ!」


「お、お前 カイン! 俺たちが何時絡んだって言うんだよ。 フィリアさんを刺激するようなこと言うんじゃね~」


「え? だって僕が最初にギルドへ入ったとき、スティンガさんがいきなり牛飯を注文して行ってこいって言ったじゃないですか、それからすぐにヴァイタリさんがこっちへ来いって洗濯場?へ引っ張られたじゃないですか。 お蔭てフィリアさんに捕まって大変だったんですよ」


「お、俺たちはそんなこと知らね~ぞ。 いい加減なこと言うなよな。 フィリアさん違うからな。 いえ違いますよ」


「そ、そうですよ 違いますよ。 誤解です。 こいつの言いがかりです。 俺たちは無罪です」


「そういえば、なんか絡まれて複雑になったから逃げるって言っていたような。 ……それならカインと会えたのは貴方たちのお陰だったのね。 そうだったの~。 スティンガ、ヴァイタリありがとうね助かったわ」


「はい! 俺たちがカインを引き留めてフィリアさんと合わせたのです。 お役に立ててよかったです」


「……貴方たち、カインちゃんに絡んでいたじゃないの。 まったくもう、しょうがないわね、カインに謝りなさい」


「 「すみませんでした!」 」



 スティンガさんとヴァイタリさんの声がハモった。 そして、僕を睨みつけていた。

 これは一応フォローしておかねばならない。 このままでは恨まれてしまう。


「いや、フィリアさん一番絡んだのはフィリアさんだからね、 いきなり採用って言われて、奥へ連れ込まれて、 ”ショタコンっていうな~~~” って凄まれたじゃないですか」


「コラ! カイン、何言ってんだコノやろう。 ふざけんじゃね~~~!」


 フィリアさんは全く思い通りにキレた反応をしてくれるな。 扱いやすいけど、今後のことを考えるとちょっと教育が必要かもしれない。


「フィリアさん、こんなベタな挑発で一々キレちゃダメでしょ。 思った通りに反応するなんて、いい加減にその癖を直さなくさなきゃダメですよ」


「 「 「 「  ええっ?? 」 」 」 」


「……」


「カインちゃん。 それは。 つまり、今のはワザとなの?」


「当たり前ですよ。 僕を何だと思ってるですか。 フィリアさん、貴方にはちょっと教育が必要ですかね~」


「ふぅ。 なんとうことなの。 ……カインちゃんの言う通り、今後気を付けなきゃいけないわね」


「ハイハイ、今後気を付けてくださいね。 僕がフォローできる時はいいんですが、やりすぎると状況が複雑になっちゃうからね。  ……それでは皆さん今後もよろしくお願いします」



 このようにして自己紹介が終わったのだが、スティンガさんとヴァイタリさんの僕を見る目が変わってしまった。  怯えるような感じと言って良いだろう。 まぁこれは仕方がない。 雇用者とはいえ、一行の中でヒエラルヒー的に最下位になるより、上にいた方が今後楽なのだ。 

 現時点でのパーティーのヒエラルヒーは僕とアスナとフィリアさんが三竦み状態。 スティンガさん達がその下といったところじゃないだろうか。 

 それにしてもスティンガさんたちが人力車引くのは可哀そうに思えて来たな。 次には人力車を引くプロの人を雇った方がいいかもしれない。


 その日僕たちは近隣の村に宿泊した。  その村で人力車を売って定期巡行馬車へと乗り換えた。 

 人力車自体は天下の回りものなので、多少のロスだけで売れるのだ。 ここから首都へは2週間強といったところだ。 馬車は人力車よりも大分ゆっくりな進行となってしまうが、スティンガさんたちは快適なようだ。 快適すぎて暇を持て余してしまったので、カードゲームで遊ぶことにした。


 DEXが異常に高い人がいなければカードゲームは楽しい。 数回遊んだ後のカードゲームの勝率は、アスナがダントツで強く、僕は2番目だった。 

 僕は<記録ボード>を封印していたし、修練をしながらだったので、かなりのハンデを背負っていたのだ。 この結果は順当な所だと思っていたが、納得できないでいたのは大人達だった。


「なんでお前らそんなに強いんだよぉ~。 あり得ないだろ~」


「そうよね、カインちゃんはともかく、アスナちゃんが強いだなんて、ちょっとお姉さんショックだわ」


「いえ、お姉様。 私はカイン兄さんを懲らしめてやろうと頑張っただけで、普段は弱いですぅ」


「いやいや、頑張って強ければそれが実力でしょう」


「ふっふっふ。 もうカイン兄ちゃんなんてゴミだわね。 カスだわね」


「おいぃ~アスナ。 僕が本気だったとか言わないだろうな? もちろんアスナにハンデをつけてやってたのさ」


「またまた~。 カイン兄ちゃんのハッタリなんか私に通じないね。 どんなハンデだったのか言えないでしょ? 嘘つきはいけないことなのよ?」


「そこまで言うなら教えてやろう。 カードゲームで勝つには場に出たカードを覚えることが有効だな? 今回は効率良い覚え方を封印して、さらに他のことを考えながら、っていうハンデをな負ってみたのさ。 そうでなければ、僕がミス連発するわけないだろ?」


「効率のよい覚え方とか、……まさか、文字き……」


「おっと、それ以上は言ってはいけないな。 僕たちの家の極秘技術だぞ」


「効率良い覚え方って何よ? 私たちにも教えくれない?」


「……エットですね。 僕らは生まれつき記憶力が非常に良い家系でして、幼いころから本を死ぬほど覚えてたんですよ。 家の修行としてね。 それで効率の良い覚え方を習得できるんですが、その方法はかなり難しくて普通の人は返って非効率になってしまう可能性が高いんです」


「それでもいいから教えてよ お姉さんもカードゲーム強くなりたい」


「無理だと思うんですが、簡単に言ってしまえば、数字みたいな記号に置き換えて覚えるんです」


「そんなのもっと難しいじゃない」


「慣れればその方が楽なんですよ。 まあこれが秘密の概要で、僕らしかできない事でもあるんです。 これは極秘なんで漏らさないようにお願いしますね」



 <記録ボード>の存在を教える必要はないし、取り合えずもっともらしい説明で誤魔化しておいた。 これで僕らが異常に記憶力が良いことを納得してもらえたに違いない。 今後異常な記憶力を発揮しても疑われることは無いし、今持っている知識量についても納得がいくだろう。



「カイン兄ちゃん、もう一つのハンデって?」


「ああ~、それね。 数をかぞえていたのさ。 0から始まって15までを繰り返してね。 そうでもしないとちょっと僕は強すぎるんだよ。 このパーティだからここまで話せるけど、他だったら面倒に巻き込まれるから気を付けてよ」


「カイン兄、本気でハンデなしでやってくれる? ちょっと信じられなかも」


「じゃちょっとだけだぞ」



 勝負は僅差で僕の勝ちとなった。 他の3名は全く歯が立たない状況だった。


「はぁ~もうね、今後貴方たちとはカードゲームはやりたくないわ。 次元が違いすぎるのよ」


「お姉さん、ハンデあげるから、もっとやろ~よ~」


「なんかね、ハンデ貰っても負けそうで、というか勝てる気がしないのが辛いのよ」


「まぁ~、これは仕方がないな、アスナが最初からこっそりと手抜きしていれば、分からなかったかもだけど、本気になったアスナが悪いな」


「カインちゃん。 貴方の方がもっと罪深いわ。 真実は知らない方が幸せってこともあるのよ」


「そんなもんですかね~」


「そういうものなのよ」


「ね~ね~。 じゃ~、なぞなぞ合戦しない?」


「アスナ、それはもっとダメだろ。 どうしても勝てる勝負がしたいのかね~。 アスナは子供だな~」


「それじゃアスナに不利でもいいから何か勝負しようよ~?」


「う~ん、アスナが不得意といったら、数学の問題かな~」


「 「 「 「 それは、ダメ 」 」 」 」


「そうだろ~な。 そんなのは僕も嫌だし。 ……後は運で決まるようなゲームか完全な思考ゲーム。 例えば囲碁将棋チェスなんかかな」


「うん? お兄ちゃん ”いごしょうぎちぇす”って何?」


 しまった。 僕としたことが完全に油断してしまった。 これは完全にNGワードだ。



「え、えっとですね。 古~い古い書物に記載してあったゲ~ムだよ。 ほぼ禁書に近い本だったような気がするな。 どっちにしても、そのゲームするための道具がないし、こんなに揺れる馬車の中じゃ残念ながら無理だね」


「どういうのか教えてもらえない? 私でもアスナちゃんに勝てるかな?」


「勝てるかどうかは、分からないですが、 カードゲームとかよりはマシだと思いますよ。 それでもやり込めばパタンを覚えてしまうので、僕達が有利になって差は出て来るかもですけどね」


「アスナもやってみた~い。 お兄ちゃん何とかならない?」


「どうしようかな。 職人に作ってもらえれば磁石を使った囲碁か将棋ならできそうなんだけど。 でもそれの製作には時間がかかるかもだな」


「いいから作ってよ~ お金ならだすからさ~」


「いや、時間がな~。 尋ね人に会うのが遅れるだろ?」


「その位いいじゃない。 今が大事なの!」


「アスナって結構白状な奴なんだな。 いつか僕も捨てられるんじゃ?」


「作ってくれないなら、今捨ててあげるわ」



 アスナはやはりまだ子供だ。 目先の遊びが重要でその時の感情が表に出てしまう。 でもまぁ、そこまで言うなら、製作に時間を取ることにしよう。  それなら次の宿泊地で作成しくれる職人を探さねばならない。 問題は材料の磁石で、盤か駒のどちらかを磁石にしてもう一方を鉄のような金属にする必要がある。


 僕らは次の宿泊地の町へと入ると同時に行動に移した。 磁石は簡単に手に入ったが、希少品でお高いので、盤が大きく駒数が多い囲碁は諦めた。 チェスは駒を作らないと面白くないので、駒を作るのが簡単な将棋に絞ることにした。

 職人はすぐに見つかったので、製作に2日ほど要したが3セット程作成してもらった。 その2日間を利用して町の図書館へ行ったりもした。 

 この町で食料も調達しておいた。 首都まではあと2週間と言ったところだったが、これから先は1週間程度かかる森を抜けることになるため野宿も必要になる見込みなのだ。

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